中学校で授業アドバイス

中学校で授業アドバイスをおこなってきました。初任者の研究授業と1、2年生の道徳や特別活動の授業を中心に参観しました。

道徳の授業で気になったのが、ワークシートの使い方でした。多くの学級でワークシートを利用していますが、ワークシートを書くことが活動の中心になっています。自分の気持ちを発表しやすいように考えてのことだと思いますが、互いの気持ちや考えを聞き合うことで、より深く考えてもらうことが大切です。そのための時間を確保することを意識してほしいと思います。友だちの考えを聞いて、もう一度自分の考えをまとめさせる。全体で意見を聞きながら、「なるほどと思う人」「自分ちょっと違うという人」とつなぎながら、考えを深めさせる。こういうことに時間をかけたいものです。そのために、前半ではきちんとワークシートに作文させるのではなく、考えを整理する程度にして、最後の振り返りの方に時間をかけるとよいと思います。
また、同じ学年でも学級ごとに教材が異なっていたことが印象的でした。学級ごとに課題も違うので、これはこれでよいのですが、経験の少ない先生は道徳の授業の進め方がまだよくわかっていないように思いました。学年で、月に1度くらいは共通のものを行ってもよいのではないかと思います。指導案を数人でつくって学年に提案し、検討するのです。時間の確保は大変かもしれませんが、学年全体で充実した道徳の授業を実施するためには必要なことだと思います。

また、エンカウンターに取り組んでいる学級もいくつか目にしました。共通して感じたのが、活動の説明の時間が長いことです。丁寧に話すのですが、子どもはずっと受け身です。また、活動に対する期待感が感じられません。そのことは、活動開始で子どもたちの動きが鈍いことでわかります。一方的に話すのではなく、「今日はみんなに・・・をやってもらうおうと思う。どう、できそう?難しそう?」とちょっと挑発的に問いかける。「ちょっと○○さん出て来て、やってみてくれるかな」と子どもを前に出させてやらせる。こういった工夫が必要です。これはエンカウンターに限ったことではありません。課題の説明では、わかりやすく伝えることと同時に、子どもたちの興味・関心を持たせることが大切です。たとえ説明すべきことがたくさんあっても、子どもたちとのやり取りをできるだけ行い、一方的にならないようにしてほしいと思います。

初任者の研究授業は、2年生の国語「走れメロス」の最後の時間でした。
授業の最初は、漢字の間違い探しでした。「婿」の「疋」を「正」とした誤字、「排出」を「拝出」とした間違いなどを子どもに見つけさせるものです。子どもは数人しか手を挙げませんが、すぐに指名します。ほんの30秒くらいでいいので、まわりと相談させるだけで随分違うのではないかと思いました。というのは、指名された子どもが、「婿」の間違いを「正の横棒をこうはねて、下のところをこう斜めに」と手ぶりを交えて説明してもうまく伝えられないのを見て、先ほど挙手しなかった子どもたちが口を挟みたそうにしていたからです。友だちが指摘した間違いを聞いて、自信を持ったからでしょう。わかっていてもちょっと不安だったのです。ちょっと相談すれば自信を持てたということです。
授業者は子どもの発言を引き取って説明しました。「助けてくれる」と声をかければ、きっと子どもたちは反応してくれたはずです。子どもを活躍させることができる場面だったのに、ちょっと残念でした。

続いて前時の復習でしたが、子どもに挙手をさせます。ノートに書いてあるのでそれを見ればわかります。積極的に反応する子どもと、挙手もせずノートも見ない子どもがいます。はっきりと分かれていました。参加しない子どもに参加を促すか、挙手に頼らずどんどん指名するかしたいところです。
これまではメロスの心情が中心だったが、この日は「王の目線」で考えることを伝え、課題を板書します。板書しながら「王になりきって感謝の」と手を止め、次に続く言葉を考えさせます。何人かの子どもが「気持ち」「言葉」とそれに反応します。「手紙を書こう」と続けると「あぁ」と納得して板書を写します。子どもを引き付ける小技を使えるようになっていました。

王の気持ちになって書けるように、王の心境の変化がわかる個所を抜き出させます。指示の後、子どもは素早く作業に入りました。日ごろからこのような活動していることがよくわかります。子どもは集中していたのですが、授業者は「心が揺れたところを書く」と追加の説明をしました。子どもの集中を切らすだけで、「心境の変化」という指示に追加するほどのことではないように思います。子どもの活動をじっと観察するのはなかなか難しいようです。
指名して発表させますが、教科書の一部分を読むだけです。読むことよりも、何ページの何行目かを言わせた方がよく伝わります。1人目の発表はよく聞いていたのですが、発表後授業者が板書するので、2人目以降は明らかに聞かなくなりました。板書するとわかればそれを見ればよいからです。場所の確認はしますが、どう変化したかは問いません。この抜き出した部分が適切であるかどうかの判断の根拠がないまま進んでいきます。
抜き出す作業にかなりの時間が使われましたが、正しく心情の変化を読み取ることの方が大切です。ここで、手紙を書かせるねらいがわからなくなりました。手紙を書くことで「読み取らせる」のか、読み取ったことをもとに「書かせる」のかどちらだったのでしょうか。
前者であれば、早く手紙を書かせてどう読み取ったかを問うべきですが、一人ひとりの手紙をもとに読み取りを話し合うのはなかなか難しそうに思います。また、「王になりきって」という指示は、客観的に読み取ることから遠ざけてしまいます。
後者であれば、もっと心情の変化を押さえておかなければ、書くための足場がないまま書くことになります。どう伝えるかという「書き方」の学習の以前の段階でつまずいてしまいます。
いずれにしてもねらいと活動がうまく一致していません。授業の構成そのものを見直す必要があるように思いました。

続いてワークシートに感謝の手紙を書かせます。ここで、どう書いていいかわからない子どものために、文章例を提示します。
・あいさつ
・私は今まで・・・という気持ちだった。
・○○の・・・行動で、・・・ということに気づいた。
・お礼
これをいきなり提示する意味もよくわかりません。中心の部分はきっかけとなったこととその前後の心情の変化を書くということです。やはり読み取りなのでしょうか。書くことを重視するのであれば、この文章例は教師が提示するのではなく、子どもとのやり取りの中で、どういう要素が必要かを整理したいところです。

手紙を書く作業に入りましたが、子どもの動きがよくありません。すると、「あて名は誰でもいいの?」と1人の子どもが授業者に問いかけました。ここで、授業者は一旦全員に作業を止めさせ、あて名は誰でもいいことを全体に伝えました。この後は、子どもたちはすぐに集中して取りかかりました。指示が上手く伝わっていなかったのです。質問をした子どもに対して答えるのではなく、全体で共有したのはとてもよい判断でした。作業中の子どもからの質問に対して、全体で共有すべきかの判断をしっかりしていると感じました(もちろん、質問が出ないようにきちんと指示が出すことの方が大切ですが)。

書き終えた手紙をペアで読み合うのですが、この手紙の評価の観点が明確ではありませんでした。作業の途中で、きっかけとなったこととその前後の心情の変化を明確に書くことを視点として与えましたが、「王になりきって」という指示とのつながりがよくわかりません。王になりきるというのは「主観的」ですが、心情の変化の根拠を明確にするのは、「客観的」です。このずれが気になります。前者であれば、感謝の気持ちが伝わることが評価として大切ですし、後者あれば、心情の変化がその理由と共に伝わることが大切です。授業のねらいと活動の関係がはっきりしないまま終わりました。

授業者は緊張しながらも、笑顔を絶やさずに進めました。日ごろから笑顔を意識しているからできることです。子どもたちの発言をしっかりと受け止めることができています。教室の雰囲気も明るく、笑顔もたくさん見ることができました。以前と比べて確実に進歩しています。しかし、子どもの発言をつなぐことはまだまだこれからです。課題として意識してほしいと思います。
来年はおそらく担任を持つことになるでしょう。授業以外のことにより多くのエネルギーを取られます。今年度残された時間で、少しでも授業力をつけておいてほしいと思います。

授業後、教科による授業検討会が行われました。事前に教科指導員の指導を受けていたおかげもあったのでしょう。授業者はこの授業の問題点をよく理解していました。印象に残ったのは教務主任の質問でした。「この1時間の授業で子どもたちにどうなってほしかったのか」「子どもたちがどのような活動をすれば、そうなるのか」というものです。授業づくりの基本となることで、当たり前の質問と言われればその通りなのですが、このことが明確でなかったために、授業者がねらいとしたかったことと、活動がずれてしまっていたのです。とても的確な質問だと思いました。検討会は自然と「何をねらう授業だったのか」「そのためにどうすればよかったのか」という、教務主任の問いかけにそったことが多く話されました。よい学びができました。しかし、国語科の先生で参加していない方が何人もいたのが残念でした。自主的なものとは言え、学び合うことにもっと積極的であってほしいと思いました。この学校における課題の1つに思います。

次回訪問時には、この1年間で感じたことを全体に話させていただきます。この学校のよい点を活かすためにも、いくつかの課題をクリアする必要があります。このことをできるだけコンパクトにお伝えできればと思っています。
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