どの子どもも参加できたグループ活動

昨日の日記の続きです。

研究授業は若手の英語の授業です。1年生の代名詞の使い方の練習の授業でした。
子どもたちはとてもよい表情で授業に参加します。授業者と子どもたち、子ども同士が、日ごろからとてもよい関係であることを感じさせます。
前回訪問時に私がお話したことを自分なりにアレンジして実行しています。主語を表わす絵カード、述部を表わす絵カードを準備して、その組み合わせで ”I play tennis.” “He plays tennis.”と文を作って全体で言わせます。授業者の言ったことをそのまま言うのでも、カードに書かれた文字を読むのでもありません。子どもが絵の表わしていることを表現しようと英文を作るのです。当然要求レベルは上がります。子どもたちは考えて声に出すのですが、自信のない子もいます。ついていけなくて口が開かない子どももいます。問題はここではありません。この後、すぐに次の文を作らせていたことが問題なのです。1回だけでは、わからない子は全く参加できません。全員の口が開くまで、何度も言わせてほしいのです。同じ文を、みんなの声がそろうまで何度も言わせるのです。友だちの声を聞くことで理解することを経験させるのです。大切なのは活動ではなく、全員が身につけることです。
この場面で、最初から代名詞を使って表現させたことが引っかかりました。”Ms.○○ plays tennis.” ”She plays tennis.”というように、最初は固有名詞で表現して、それを代名詞で言い換えさせると英語における代名詞の使い方をより理解させることができます。そういう ”situation” を大切にしてほしいと思います。

グループでの最初の活動は、グループごとに用意されたカードをめくって、そのカードが表す動詞を使って全員が英文を作るものです。何人か苦しい子どもがいます。他の子どもたちは辛抱強く待ってくれますが、なかなか声を出すことができません。まわりの子どもの言葉をまねして何とか進んでいきましたが、自分から助けを求めることはできません。表情もさえません。とは言え、全体的には子どもたちは頭を寄せ合いながらよい表情で取り組みます。カードを机の真ん中に積んでいることも、子どもたちの体が近づくことに影響しているかもしれません。
活動終了後、どのグループが頑張っていたか、No.1はどこと授業者が評価します。一部のグループだけを評価するのかと思ったのですが、数グループに順位をつけた後、残りのグループも「じっくり取り組んでいた」「助け合っていた」というように、具体的によいところを評価しました。丁寧な対応です。子どもたちをしっかり見ていることが伝わります。子どもたちの表情がよい理由がわかった気がしました。

次に芸能人の写真を見せて、”Who is this? Do you know her?” と知っているかどうか挙手で聞きます。子どもたちの手が挙がりません。手の挙がらない子どもを指して、”He doesn’t know her.” ”She doesn’t know her.” と全体に対して伝えます。こういったやり取りを何人かの芸能人の写真で行い、 “she” と “her”、”he” と “him” の関係を理解させます。やり方としてはよいのですが、この関係を理解するのに必要のない、だれがだれの妹であるといった情報も簡単な英語で授業者が伝えます。確かに英語のコミュニケーションとしては意味があるのですが、この場面で押さえるべきこととしては、ノイズになってしまいます。シンプルな例で、ねらいとなるものをきちんと理解し、身につけさせることが大切です。テンポを上げて、すぐに口から出てくるようになるまで、何度も練習することが大切です。活動の密度がちょっと薄いのが気になりました。

ここで、初めての試みとして、バディを利用したグループ活動を行いました。前回の私のアドバイスをヒントに、授業者と英語科、研修部が知恵を絞って考えた新しい活動です。子どもたちがどのような姿を見せてくれるか、とても楽しみです。
具体的には、ペアで相手の持っている情報を英語でたずねて、その情報をもとにその人が誰かを当てるという活動です。それぞれにバディ(相棒)がいます。バディは、困った時に助ける役です。質問側のバディは質問の答も記録します。バディとの対話は日本語を使うことが許されます。答える側の情報は用意された封筒に入っていて、それにもとづいて答えます。最後に、対話を聞いていてよかったところをそれぞれのバディがメモします。

子どもたちに情報の入った封筒を渡します。授業者は、“Don’t open.” 「まだ、開けちゃダメ」とすぐに日本語で言い直します。せっかく英語を使っているのですから、すぐに日本語にせずに、何度かジェスチャを交えて子どもに少しでも自力で理解させたいところです。
子どもたちは、とても楽しそうに課題に取り組みます。英語でのグループ活動が楽しいものになっていることがよくわかります。先ほど気になった子どもの様子はどうでしょうか。答える側になった時、どうしていいかわかりません。そこで、助けを求めるようにバディの子を見るのです。バディやペアの組み合わせはすべて男女です。バディの子はそれまでぼうっとしていたのですが、そのことに気づいて何とか助けようとします。苦しいながらもなんとか進んでいきます。表情が笑顔になっていきます。自分のバディが答える時には、助けてあげることはできません。しかし、体をバディの方に傾けて手元をずっと覗いています。対話の内容を知ろうとしているのです。
もう一人の気になる子どもは、バディが優秀なのでしょう。つきっきりで、一言一言どういえばいいのか伝えてもらっています。たどたどしながらも、教えてもらうことで、なんとかクリアしていました。
最初のグループ活動と比べても、どのグループも集中度が高いことが印象的です。最初のグループ活動は、友だちが話す時は正しいかどうかちゃんと聞いているのですが、役割としては ”one of them” です。自分でなければいけないということはないので、他の友だちに任せておけばいいという気持ちもあります。今回のグループ活動は、それぞれに明確な役割があるので、集中度が高いのです。
子どもたちの、対話を聞いていると ”his” と “him” が混乱する間違いがかなりあります。三人称単数現在の ”s” もよく落ちています。しかし、それを自分たちでなかなか修正できていません。英語の活動としては、ここは何とかしなければいけないところです。1回終わったところで止めて、どんなことを助けてもらったかを聞いて、間違いを共有する方法があります。教師が「こんな間違いがあったから気をつけよう」とはっきり指摘してもよいかもしれません。
役割を交代する時、課題の入った封筒をもらいます。その時少しテンションが上がります。緊張から解放されているのかもしれません。しかし、活動が始まればすぐに落ち着きます。とてもよい状態でした。
よいところを伝え合う場面でも、子どもたちはとてもうれしそうにしています。どの子どもも参加できたグループ活動でした。

最後に答える役の子どもを前に一人出して、全体で取り組みます。挙手によって質問して、答えるのですが、一部の子どもしか参加できません。こういう場面はもう少し工夫をする必要があります。”His favorite animal is cats.” といった、質問の答に対して全員で “Oh, I see. His favorite animal is cats.” と答える。授業者が ”Is his favorite animal dogs?” “What is his favorite animal?” といったことを、全体に問いかけて答えさせる。このような、友だちの発言を聞くことが参加につながる活動を入れ込むことが必要でしょう。

授業検討会は子どもたちの事実について多くのことが語られるよいものでした。自信がない子どもが参加できていたこと、子ども同士がかかわれていたことがたくさん報告されました。先生方が評価に困っていたのが、できない子どもは助けてもらいながらやっていたが、バディが言った単語をそのまま繰り返しているだけだった。これで学力がつくのかということです。確かにその通りです。これで学力がつくとは言えません。では、他にどのような方法があるのでしょうか。できない子どもが参加して学力がつく方法があるのならそれをぜひ共有して、みんなで実践すればいいのです。このことを先生方にお話ししました。彼らが、授業に参加することさえできない状況から、一歩進んで授業に参加できた。このことをまず評価してほしいと思います。佐藤学氏がよく使われる、有名な「一人ひとりの背伸びとジャンプ」という言葉があります。今回は、授業に参加するという「背伸び」ができたと評価したいところです。できる子たちも、友だちに教えることでいつも以上に多くのことを学べたと思います。
もう一つ話題になったのが、子どもたちが間違えたままそれを修正できずに進んでいたグループがあったことです。このことの原因の一つが、代名詞の使い方が定着していなかったことです。この活動で必要とする使い方を、もっと全体で練習しておく必要があったと思います。この活動は定着というより、活用です。密度の濃い、定着のための訓練も必要だったということです。

今回も非常に挑戦的な授業研究でした。私自身たくさんのことを学ばせていただきました。毎回、授業者と教科、研修部それぞれが力を合わせて授業をつくり上げています。研究とはこうありたいと思います。授業研究で互いに学んだことがどう全体に広がっていくか、次回がとても楽しみです。

この日は懇親会を催していただき、楽しい時間を過ごすことができました。たくさんの先生とお話することができました。授業に前向きな方がたくさんいらっしゃいます。授業談義に花が咲きます。素直に自分の授業を振り返って、改善しようという意欲を見せてくれます。このような学校とかかわらせていただくことで、私も多くのことを学ぶことができ、元気をいただくことができます。皆さんに感謝です。
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