国語の授業撮影

10月12日におこなわれる教師力アップセミナーで野口芳宏先生にご指導いただく授業ビデオの撮影に出かけてきました。中学校2年の国語の授業です。

授業は主人公が発した言葉に注目して、なぜその言葉を言ったのかを本文を根拠に考えるというものでした。
子どもたちに授業の準備をするように指示をします。まだ何人もごそごそしているうちに授業者が話し始めます。時間がないので早く進めたい気持ちはわかりますが、もしそうなら素早い行動をうながし、全員準備ができてから話すべきでしょう。日ごろか意識してしつけるようにすれば、特に指示しなくても素早い行動ができるようになります。

授業は登場人物の確認から始まりました。生徒の挙手は6人ほどです。6人しか答えられないはずはありません。登場人物を一人答えるごとに相互指名させていきます。多くの子どもたちは、この間に集中力を失くしていきます。非常にムダな時間です。全体で教師が確認する。挙手に頼らず、列で次々に指名して答えさせるなどすれば、1分とかからないはずです。
隣同士で本文を「まる読み」させました。一文ずつを「。」で区切って交互に読むものです。この意図がわかりませんでした。授業者に聞いたところ、会話文が多いので誰の発言か意識しながら読めるようにということでした。しかし、その意図は子どもたちには伝わっていません。ただ自分のパートを読むことに意識が集中していました。相手の言葉を聞こうという意識があまり感じられません。向き合わずに体が前を向いたまま読み合っているペアがほとんどなのです。ペアやグループでの活動はその目標やゴールが子どもたちに十分理解できていることが大切です。授業者が全員の活動を評価することはできません。だからこそ、自己評価できることを常に意識してほしいのです。

「できた人、視線をください」と、終わった子どもたちの確認と集中をうながすことをしました。よい指示なのですが、これも全員が顔を上げないままに進んでいきました。ちょっとしたことですが、こういう指示の徹底は大切にしたいものです。
本時の課題、「『えんびフライ』と言った主人公の気持ちを、本文を根拠に考える」が提示されました。この場面に強い違和感を覚えました。なぜこの言葉から主人公の気持ちを考える必要があるのかその必然性が全く伝わらなかったからです。前時まででこの一文がクローズアップさせていたのかもしれません。そうであっても、再度確認する必要があるように思いました。
子どもたちはワークシートに向かって作業を始めました。子どもたちが作業している途中で授業者が終わった子どもへの次の指示をだします。当然、授業者を見て聞く子どもはいません。予測されることなら予め指示しておかなければいけません。追加の指示は黒板の決まったところに書くようにして、終わった子どもはそこを見ればいいようにしておくとよいでしょう。
子どもたちに対する助言で「文章の中に根拠が隠れている」という言葉がありました。これもとても気になりました。与えられた問題を解くときの発想です。つまり、問題として聞くからには文章の中に根拠があるはずだと言っているのです。文章を読み解く発想ではありません。「筆者の伝えたいことは必ず本文に書かれている」「筆者がこだわっている表現があるはずだ」といった、文章を間に挟んで筆者と向かい合う姿勢を求めてほしいのです。授業者には明確にその意思はないと思いますが、課題の提示も含めて、試験問題を解くことを目的としている塾的なものを感じずにはいられませんでした。

6人グループで、意見を交換して気持ちを画用紙に書くという課題が出されました。理由は書かなくていいので、出たものを列挙するようにという指示です。グループ内ではその根拠を含めて話し合うことを期待しているのですが、活動のゴールと根拠を元に話し合うということが乖離しているので子どもの活動は期待とずれてしまいました。
根拠を含めて話し合っているグループでは、どれが正しいのだろうと自分たちで整理してまとめようとしていたようです。いろいろな意見を出すことではなくまとめる方向に動いたのです。授業者が列挙してほしいといったのは、面白い意見がまとめる段階で消えてしまわないように考えてです。しかし、根拠を含めて考えが話し合われれば当然白黒をつけたくなるものです。全体での発表で、結論を聞くのではなくその過程を問うことをすれば、この問題は解決できるのではないかと思います。
一方、私の目の前のグループは、画用紙を回しだしました。列挙するならその方が効率的です。ある子が画用紙に書いている間、反対側の3人が何か話をしていました。6人でもうまくかかわり合っているグループもありましたが、人数が多いとこのようなことも起こりやすいものです。授業者に6人グループにした理由を訊ねたところ、グループ数が増えると各グループでの話し合いの内容を把握しきれないからということでした。授業者の気持ちはよくわかりますが、グループの話し合いの内容を把握しすぎることには弊害もあります。
たとえば、全体での進め方のシナリオをつくってしまい、その通りに勧めようとします。後で考えや意見が変わったりして、予定した言葉が子どもから出ないこともあります。無理に引き出そうとすると、子どもは教師が何を求めているのかを意識して発言するようになってしまいます。いわゆる、「教師の求める答探し」です。また、授業者は子どもの発言する内容を予め予想できているので、言葉足らずでも理解できます。他の子どもは初めて聞くのでよくわかりません。発言者に言葉を足すようにうながせばいいのですが、ともすると教師が代わりに説明してしまいます。それよりも全体を見ていて、「○○さんのグループは熱心に話していたけれど、どんなことを話していたのかみんなに聞かせてくれる」と、どんな話をしていたのか気になるグループに発表させて、他の子どもと一緒に聞けばよいと思います。

授業者はグループを回りながら、時々グループの一部の人とかなりの時間話をしていました。かかわりを否定するのではありませんが、アドバイスをした後は、すみやかに子ども同士の話し合いをうながして、その場を立ち去るほうがよいと思います。せっかくグループにしているのですから、子どもが教師を頼らずに自分たちで考えるようにさせたいのです。
作業が終わったグループから画用紙を黒板に貼りました。私の見ていたグループは、画用紙を貼り終わったあと、どのような内容かは別にして、話し合いを始めました。この課題がかえって子どもたちの自由な話し合いを妨げていた可能性もあります。

全体追求では、書かれた考えを見て、理由を聞きたいものを一つ選ぶように指示をしました。授業者は友だちの意見の理由を考えさせたいので、理由を書かせなかったようです。何人か指名するのですが、すぐに答えられない子どももいます。理由を知ることが子どもたちにとって必然性のある課題になっていないのです。ストレートに子どもに根拠を聞いていってもよかったように思います。その意見を聞いて納得したかどうかを聞きながら、子どもたちで結論を出していくのです。
聞きたいと言われた考えを書いた子どもに理由を聞きます。この時間のねらいである、「本文を根拠に」の本文がなかなか出てきません。時間のこともあったのでしょうが、子どもが発表した後、子ども同士をつながずに授業者が解説してしまいます。子どもの発言に対しての評価も少なく感じました。子どもの外化に対しては常にポジティブな評価をすること意識してほしいと思います。
子どもから「うっかり」「しゃくりあげそうになった」など、本文の言葉が出た時も、全員に本文を確認させ、自身で根拠として妥当かを考えさせることはしませんでした。すぐに授業者が説明します。これでは子どもが友だちの話を聞く必然性がありません。発言の後の教師の説明を待っていればいいのです。多くの子どもたちにとっては、説明を聞いて納得することがこの時間の活動になっています。大切なのは、根拠となる言葉にどのようにして注目するか、見つけるかというメタな知識です。この日の課題の答を理解しても、他の文章できちんと読み取る力がついたわけではありません。本文をどのように読むと、根拠となる文を見つけることができるのかが問題なのです。

授業者は主人公の「本当の気持ち」はなんだったか、もう一度個人でまとめさせました。突然「本当の気持ち」が出てきましたが、今までの意見と「本当の気持ち」の違いは何なのでしょうか。恣意的な言葉の使い方です。
最後の3人を指名して、前で発表させました。どのような気持ちかは語られますが、この時間のねらいだったはずの「本文を根拠に」した説明はありません。「なぜ先生がこの3人を選んだかわかる」とたずねます。共通のことが2つあるというのです。自分の考えを書いてくれればいいけれど、この2つを入れるようにというまとめでした。まるで試験の採点基準の提示です。結局、これでは教師の求める答探しです。子どもたちが話し合う中で、全員が納得する答を「本文を根拠に」つくり上げるべきです。そこを避けて、教師の都合のよい答を例示して、子どもの口を借りて教師の考える正解を伝えていたのです。

ちょっと厳しいことを書きましたが、終業式の前日にこのような授業を引き受けてくれる意欲的な先生です。落ち着いた雰囲気で授業が進んでいきました。基本的なことはできているのです。だからこそ、いろいろなことに気づけるのです。私自身も、この授業を通じてとても多くのことを学ぶことができました。
教師力アップセミナー当日、野口先生からどのようなお話が聞けるでしょうか。私が気づけなかったようなことをたくさん教えていただけることと思います。授業者にとっても参加者にとっても多くのことを学べる機会だと思います。
無理な願いを快く聞いて授業を公開してくれた授業者とこの授業をプロデュースしてくださった学校長に感謝です。
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