予定外の形になったミニ講演(長文)

前回の日記の続きです(若手からもベテランからも刺激を受けた1日(長文)参照)。この日は授業参観の後、「授業力向上のために」と題したミニ講演をおこなう予定でした。しかし、終日授業参観に同行していただいた教務主任から、授業を見ていて課題だと感じたこと、私の話を聞いてもう少し聞きたいと思ったことについて、講演の代わりに質問に答えてほしいとのリクエストがありました。事前の予定を変えるように学校側から要請されることはめったにありません。自校の授業を見て教務主任に思うところがたくさんあったということです。これはとても素晴らしいことです。ともすると、講師に依頼した段階で自分の仕事は終わりという方もいらっしゃる中、自校の先生方の授業力向上を自分の役割として強く意識されていることがよくわかります。私としても、質問に答える形で進めることはとてもやりやすいので、喜んでお引き受けしました。せっかくなので、机の配置もコの字型にすることをお願いしました。

用意された質問は9つありました。それらに一つずつ答える形で話を進めました。

1.授業中に子どもたちを集中させるには?
先生方に、子どもが集中しているかはどこでわかるかをたずねました。別に正解を求めているわけではありませんし、またあるわけでもありません。先生方の発言から話を進めたかったのです。「子どもと目があった時」という答が返ってきました。確かにそうです。子どもと目があうためには、教師が子どもを見なければいけません。目をあわせようとしなければいけません。まずそこから始めることが大切だとお伝えしました。目の他にも子どもの姿勢からもわかります。体が前かがみになっている時が、集中力が高いときです。子どもが教師の話を聞いているが、体が後ろに反っていることがあります。これはどういうことかというと、聞き流している状態です。友だちの発言であればその後教師がまとめるからそれを聞けばいい。教師の説明であれば、その後必ず板書するからそれを写せばいい。そういうことなのです。子どもの発言を教師がまとめない。子どもの発言が終わるまでは、板書しない。子どもたちで、まとめさせる。板書したければ子どもにまとめを発表させて、それを書く。子どもたちが参加する必然性のある活動にすることが大切です。

2.手を挙げる子どもが増えるためには?
ノートを見るとちゃんと答が書いてあるのに、子どもが挙手しないことがたくさんあります。その理由を質問しました。「自信がない」「間違えたら恥ずかしい」という答が返ってきました。確かにその通りだと思います。では、どうすればいいのでしょうか。多くの場合、自信を持たせるという発想になります。そのために○をつけるというのもよい方法ですが、○をつけても挙手してくれないこともあります。隣同士で確認しあうことで、自信を持たせたり、答を修正する機会を与えたりすることができます。この後挙手させると明らかに挙手が増えます。しかし、発想を変えて、間違えても恥ずかしくない、安心して間違えることができる雰囲気を学級につくるという方法もあります。
そのためには、子どもが「否定されない保証が必要」です。正解、不正解を教師や友だちに判断されないようにする。自分で間違いに気づかせ、自分で修正して最後は正解を発表して終わるようにするのです。教師はどんな発言でも必ずポジティブに評価する姿勢を持たなければいけません。教師が子どもの悪いところを見つけようとするチェックする目ではなく、よいところを見つけて伸ばそうとする育てる目で見ることが大切です。また、わかった人と聞けば、わかった子どもしか参加できません。「困ったことない」「どんなことを試してみた」「今の説明聞いてどう、なるほどと思った?」というように、わからない子ども、聞いている子どもが参加できるような問いかけが必要です。

3.「発問」で一問一答を脱するには?
教師が「正解」と言えばそれで終わってしまいます。一問一答では、指名されなければ自分の活躍の機会はなくなります。これでは、ほとんどの子どもは傍観者になってしまいます。
まずは「なるほど」と受け止めて、何人も指名すればいいのです。子どもの答がぶれなければ最後に全員に確認して次に進めていきます。子どもの意見が分かれても、多くの場合正解に収束していきます。この時、間違えていた子どもに再度、「あなたと違う答の人がいるけど、どう?」と問いかけることで、修正する機会を与えることが大切です。修正すれば、「友だちの説明を聞いて、考えを修正したんだね、偉いね」そのことをほめることも忘れません。もし、意見が分かれて収束しなければ、一度まわりと相談して、再度仕切り直せばいいのです。
復習の場面であれば、必ず教科書やノートに正解があるはずです。もし、教科書やノートをめくっている子どもがあれば、「ノート見ている子どもがいるね」とほめて、他の子どもにも行動をうながします。「ノート見ていない人はばっちりわかっているんだね」と動かない子どもにはプレッシャーをかけます。すぐに答を聞くのではなく、教科書であれば「どこに書いてある?」、ノートであれば「いつ学習したっけ?」と問いかけることで、見つからない子どもも見つけられるようにします。最後の方に見つけた子どもを指名して、「なんて書いてあった」とたずねればいいのです。あきらめずに参加すれば評価されることで、低位の子どもにも参加意欲を与えます。ここで、何も見ずに最初に手を挙げた子どもに、「何も見ずにすぐに手を挙げてくれたけれど、さっきの答でいい?」と確認をします。最初に手を挙げた子どもの役割をつくることで、「せっかくすぐに手を挙げたのに」と彼らの意欲が低下しないようにしておくのです。

4.教材研究のポイントは?
小学校では、ほとんど全教科、毎日異なった教材を扱います。教材研究の負担はとても大きいと思います。できるだけ負担が少ない方法である必要があります。そのためには、まず教科書を活用することです。最近の教科書はとてもよく考えて作られています。指導書を頼るより、教科書を読み込むことの方が有効だと思います。たとえば算数でいえば、なぜこれを例にしているのか、なぜこの数値を使うのか、2つの問いの違いは何かといったことを考えるのです。教科書作成者の意図を理解しようとして読むことで、何を大切にすればいいかが見えてきます。
また、教科ごとにスタイルを持つことで、教材研究がスムーズに進みます。教材をスタイルにあてはめようとすることで、どういう流れにすればいいか、どういう発問をすればよいかが見えてきます。たとえば国語であれば、物語を読むときは主人公の気持ちが変わったのはどの場面かを問う、どのように変わったかを問う、どこに書いてあるかを問うといったものです。私がいろいろな教科の授業アドバイスをすることができるのも、教科ごとの基本のスタイルを持っているからです。

5.ペア学習・グループ学習のポイントは?
ペア学習は1対1の関係ですから、逃げられないものです。自我が芽生えてくる中・高学年では人間関係ができていない学級では苦しいことがあります。人間関係をつくることとあわせて考える必要があります。そのためには受け側の活動を意識することが大切です。たとえば、ペアで音読であれば、読み手が意識すべきことを明確にし、それを受け手がチェックする。行や段落単位で、できていればOKサインを出す。読めない文字があったり、詰まったりしたら助ける。また、活動終了後、上手く読めていれば、受け手の子どもが挙手をする。受け手が助けてくれたり、自分を評価したりしてくれるので、人間関係もよくなります。
一方グループ学習は、全員と関係がつくれなくても、かかわり合うことができます。直接関係をつくれない子ども同士を別の子どもが間にはいってつないでくれることもあります。グループ学習では話し合うように指示すると子どもは自分が話し終わると役割が終わったと集中力を失くしてしまうことがよくあります。「聞き合おう」と聞くことを意識させると、常に活動しなければいけないので集中力が持続します。また、一部の子どもがすぐにできるような課題でグループ活動をおこなうと、できた子どもが先生役となって一方的に説明してしまったりします。グループで活動する必然性のある課題であることが求められます。一人ではなかなか解決できないようなジャンプの課題。友だちの助けが必要になる、たくさん探すというような、数を問う課題。こういった課題を工夫する必要があります。
このような課題とは別に、作業のグループ化という発想もあります。グループの形になって、個人作業をおこない、もしわからなければ聞いてもいい、友だちの答を写してもいいとするのです。ただし、友だちに聞かれないのに教えない、聞かれたらわかるまで責任を持って教えることがルールです。手がつかないままで時間が経つのを待っているより、聞いたり写したりでも活動する方がよほどましです。個人で解くことにこだわりすぎないことが大切です。

6.道徳の授業の基本形は?
資料を使った道徳では、資料の読み取りに時間をかけるのはナンセンスです。できるだけ早く資料の世界に子どもが入れるように、時には教師が解説することも必要になります。大切なのは自分の問題としてとらえ、自分ならどうするか素直に言えるようにすることです。万引きを犯罪と知らない子どもはいません。問題は知っていてもやってしまうことです。ルールを教えることよりも、ルールを守れる子どもに育てることです。これは、いくら口で言っても仕方がありません。教師が建前を振りかざしても子どもの心には届きません。たとえモラル的に低い考えでも、教師がそれはよくないと判断したりせずに、受け止めることが大切です。多様な考えに触れ、子どもが自分自身としっかり対話することを積み重ねていって初めて、心は育っていくものだと思います。

7.算数の文章題の指導のポイントは?
教師が一方的に説明してもなかなか解けるようにはなりません。先ほどのグループ学習でも述べましたが、互いの考えを聞き合い、自分たちで解いていくことが大切です。教師の説明は無批判で受け入れなければいけません。友だちの説明は正しいかどうかわかりません。まずは自ら理解し、正しいかどうか判断しようとすることで、力がついてくるのです。わからなければ友だちに聞ける子どもに育てておくことが前提です。

8.子どもたちが授業に意欲的に取り組むためには?
「2.手を挙げることどもを増やす」と基本的には同じことです。子どもたちが安心して授業に参加できる雰囲気づくりが大切です。どんな発言でも、周りから否定されない。教師からポジティブな評価をされる。わからなくても参加できる。こういったことが大切です。

9.前にノートを持ってこさせて○をつけるな、のは?
○つけを教師が前でしている場面をかなり目にしました。前で○つけをしていると、教師は学級全体を把握でなくなります。順番を待っている子どもはすることがないのでまだできていない子どもに余計なちょっかいをかけたりします。学級がざわつく原因です。
また、できない子どもはいつまでもほったらかしのままです。同じ○をつけるのであれば、出前方式で子どもたちのところへ行って、全員にきちんと○をつけるようにしたいものです。

時間の関係もあり、詳しく答えられないものもありましたが、とても楽しく話をすることができました。多くの先生が質問に答えてくれたり、反応したりしてくださいました。予想以上によい雰囲気です。校長も授業にこだわる方で、その日見た授業について本音で話をすることができました。
あと1回訪問の予定があります。子どもたちと先生がどのような姿で私を迎えてくれるのかとても楽しみです。この日もたくさんのことが学べたことを感謝します。
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