田尻悟郎先生から大いに学ぶ

先週末は中学校の授業研究に参加しました。田尻悟郎先生を特別講師にむかえての英語の研究です。「教科書を活かす」をテーマに4人の先生のふだんの授業を参観して、検討をおこないました。

TTの英語でのやり取りを聞きその内容を理解する場面でのことです。子どもたちは集中して聞いていましたが、内容に関する質問にはあまり手が挙がりません。正解に対して教師が説明しますが、子どもたちが本当に理解できているか確認されませんでした。そこで、田尻先生がとび込みで授業を始められました。師範授業はしないがとび込み授業はするという噂どおりです。
まず英文のsituationを絵で表現させます。その後ペアで互いの絵をもとに元の英文を言わせます。主語などの代名詞が指示するものを明確にしておかないと、きちんと再現できません。situationが理解できているかがよくわかります。
次のステップは、漫才の相方のように相手の言ったことをそのまま繰り返します。当然 "I went to …." であれば "You went to …." と言い換えなければなりません。単なる復唱ではなく、言葉を再構成しなければなりません。
これができれば今度は第三者に向かって繰り返します。"Mr.○○ went to …."と言い換えるわけです。子どもたちは一生懸命取り組んでいました。単に「耳から口」ではなく、頭をきちんと使うやり方です。私が、GDMなどの実践から学んだやり方と本質的には似ていると思いました。

田尻先生の素晴らしさは、この日のテーマである教科書を活かして子どもが考えることを実現していることでした。
英語は技能教科であるとよく言われます。トレーニング・活動量が大切であると言われる所以です。しかし、技能教科だからこそ、考えることが必要なのです。体育で考えればよくわかると思います。ただ「走れ」だけでは速く走れるようにはなりません。いろいろなことを意識して走らなければ上達はしないのです。

授業検討会では、田尻先生の考える授業の作り方・見方のポイントを、資料をもとにお教えいただきました。
授業が終わった時に子どもに何ができるようになってほしいか、生徒が主体となる授業づくり、知的なおもしろさを求めるなど、私が日ごろ伝えたいと思っていることと共通のことがたくさんあり、意を強くしました。
授業を見る観点を教科指導・全教科共通の授業技術・生徒指導の3つに分け、具体的項目をあげた資料は大変参考になるものでした。

全体の場でほめるときの注意点として、ほめられなかった子のことを考えるという指摘には考えさせられました。例として、ある子の発音を全体の場でほめると、同じような場面でほめられなかった子はつらい。だから、そういうことは全体の場ではなく個別の場でほめるというわけです。裏を返せば、何か出力すれば必ずポジティブな評価をしなければいけないということだと思います。

文法事項は、まず日ごろから感覚的に覚えさせ、たくさん練習させて身につけてから教えるということもなるほどと納得させられました。日本語の文法は言葉を知っているからできる。キーセンテンスをまず使えるようにすることが先であるという言葉も説得力があります。
質問の答えは省略しない。"Which question do you want to try?" に対して、"No.1." ではなく、"I want to try the question No.1."と答える。
"want" の意味を "want to" で「したい」と教えるのではなく、root sense を大切にして「ほしい」と教え、そこからsituationを考えさせる。
たとえば、何か頼むシーンを最初は "May I …?"、慣れてくれば、"Will you …?" "Would you …?"のように変えていくことで、多様な表現に親しませる。
ジェスチャをつけて会話することで、situation の理解につなげる。
こういったことを通じて英文が感覚的になったところで文法的な説明を入れていくということです。

教科書の題材ごとの利用方法もたくさん教えていただきました。
モノローグや手紙は、勝手に会話文にする。とび込み授業での漫才の相方のようなやり方です。
ダイアログでは、その言葉が出た時の気持ち・原因となる「心のつぶやき」を考えさせる。たとえば "Do you often listen to music?" であればなぜoftenといったのかその理由を考える。教科書の絵は、携帯プレーヤーで音楽を聴いている。だから、「携帯プレーヤーで音楽を聴いている。いつも聴いているのかな」と考えた。という具合です。このつぶやきを聞いて会話文を言う。こうすることで、単なる暗唱ではなく、situationベースの英語の授業に変わるわけです。
説明文には、疑問文をはさむ。説明文に対して、「それってどこにあるの」といった疑問文をはさんでいくことで、新しい文が生まれてくるということです。

この他にも書ききれないほどのことを学ばせていただきました。一部を以下にあげておきます。

子どもの活動に、時間的・数的目標を入れることは活動の活性化につながる。
プレッシャーをかけることになるが、かけるからこそ達成したいと思う。そこで上手に途中でヒントを入れると自力での解決につながる。時間が来てもすぐに解答をせず、少し余韻を持たせると、子どもがまわりの友だちの答えを知ろうとする。そこで話し合いが始まる。

わからない子とわかる子をつなげる方法に、わからない子たちを優位にする方法がある。
わからない子を明確にして、そうでない子(わかっている子)に絶対に大丈夫だな、だったら絶対納得させられるなとプレッシャーをかける。そうすればわからない子はよし自分たちを納得させろとわかった子に聞きに行く。わかっている子も必死にわからせようとする。

子どもがまとめた気づきを黙って見合う。
そうすれば、自然に子ども同士の話し合いが起こる。

家でできることは授業でしない。学校の授業でしかできないことを大切にする。
発音練習は家でもできる。学校でしかできないのは間違いの修正だ。

全員起立させて、できた子から座らせるのは意味があるのか。
いい加減にやって座る子がでる。できない子がさらしものになる。

ALTをCDの代わりに使わない。
彼らは人間だ。彼らの自己有用感も大切だ。彼らを中心にした授業を組み立てる。

・・・

田尻先生にこの学校の子どもたちを大変ほめていただけました。研究指定をきっかけにこの学校が取り組んできたことの成果だと思います。かかわってきた私にとっても、とてもうれしいことでした。今回の田尻先生のご指導が、この学校の英語の授業を大きくステップアップするきっかけになることと思います。今後の変化がとても楽しみです。田尻先生ありがとうございました。
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