学校の到達した場所と次の課題が見えた授業

昨日は中学校の授業研究に参加しました。若手の道徳の授業です。

子どもたちと授業者、子ども同士の関係がとてもよいことがすぐにわかります。参観者にとってもとても居心地のよい教室です。この学校はどの学級もこのようなよい雰囲気になっています。授業研修のお手伝いをさせていただいて4年がたちました。この4年間で授業の基本となる人間関係がきちんと確立されたと思います。先生方の努力の成果だと思いますが、特に教務主任が自らも一生懸命勉強しながら、方向性を持って授業改善に取り組んできたことが大きな力となっていると思います。

この日の授業は、子どもたちに「向上心」を持って生活してほしいという授業者の願いが込められたものでした。人間関係のよい学級ですから、何をやっても授業が破たんするようなことはありません。それだからこそ、何が子どもの中で起こっているかを注意してみないと、授業を見誤ってしまいます。

最初に、自分のあこがれの人を思い描かせた後、相田みつおの詩から、「そこにいるだけでまわりを明るくする人」とはどんな人か、その人は「頭」「口」「手」「足」でどう行動するか、グループで話し合わせました。子どもたちは、どう答えればいいのか戸惑っています。しかし、一生懸命考え、ワークシートを埋めていきます。しかし、一通り意見が出ると活動が止まってしまいました。漠然とどんな人と聞いても、ただ思いついて話すだけになってしまいます。話し合う視点が明確ではないのです。全体の発表の場面では、授業者は一人ひとりをしっかり受容しています。学級がよい雰囲気であるのもよくわかります。しかし、子どもの発言をつなごうとするのですが、子どもたちは自分が書いたことを発表するだけで、なかなかうまくつながりません。友だちの意見は、「そういうのもあるよね」と互いに認めるだけのものであって、それ以上深く考える必然がないのです。そういう状態ですので、なかなか授業者がねらうようなところまで、考えが深まりません。いきおいどうしても発言をまとめようとする切り返しが多くなります。子どもたちは、先生が求める答があるのではないかと、探るようにもなりかねません。

では、どうすればよいのでしょうか。道徳では自分に引き付けて考えることが大切です。ここで問題にしている「そこにいるだけでまわりを明るくする人」が子どもたちとって意味のない人であれば、そもそも話になりません。たとえば、まず、「そういう人ってあこがれる?」「なりたいと思う?」と全体で確認します。その上で、ではそうなるために「あなた」はどのような行動をとるかと問いかけるようにすれば、自分の問題としてとらえることができます。友だちの考えを聞いて、最終的にどういう行動をとるか考え、発表させることで友だちの意見は意味を持ってきます。

最後に、自分はどんな人間になりたいかとその心をワークシートに書いて、何人かに発表してもらって終わりました。子どもたちは、その前の活動に引きずられたのか、深いところからの言葉少なかったように感じました。
前半の「そこにいるだけでまわりを明るくする人」については全体で何人かに発言させ、自分はどんな人間になりたいかを中心にグループ活動をした方がよかったのかもしれません。

授業検討会は柔らかい雰囲気で進みました。この4年間で検討会の雰囲気もずいぶん変化しました。ベテランと若手がうまくかみ合ってきています。若手の授業を見る力もずいぶん上がってきたと思います。
私からは、道徳の授業は「自分に引きつける」「相手の気持ちになる」「自分はどう行動するか考える」ことを大切にして課題や進め方を考えるとよいということ、つなぐためには、その視点を明確にしておくこと(根拠、結果・・・)を話させていただきました。また、学校全体で教室の人間関係ができているから、一つひとつの授業から学ぶことがとても多い。だからこそ、たくさんの課題も見えてくる。これからは今まで以上に授業研究が求められることを伝えました。

今回の授業からは多くの気づきがあり、授業者への個人アドバイスは何時間でもできるほどでした。それは、授業が悪いのではなく、子どもたちがとてもよい状態で、授業者が一つひとつの場面で真剣に考えて進めていたからです。ちょっとした切り返しの言葉にもどうすればもっと子ども言葉を引き出せたのだろうということを考えさせるものがあったのです。今回は前半部分を中心に細かく話をしながら、一緒に考えてみました。通常はこのような細かいアドバイスはしません。指摘や課題があまりに多くなると消化しきれずに落ち込むからです。しかし、授業者が非常に謙虚で、向上しようとする意志を見せてくれたので、指摘が多くても消化しきれると思い、一つひとつの場面を丁寧にアドバイスしました。1時間近い時間、本当に真剣に授業を振り返ってくれました。基本となる部分がしっかりでき上がってきました。次の課題はレベルの高いことですが、きっと乗り越えて素晴らしい教師に成長してくれると思います。

今回の授業は、この学校の今を的確に表してくれるものであった気がします。ベースはできた、次はもう一段上の課題にチャレンジする。そういう段階なのです。しかし、来年度は人事異動がかなり多くなりそうだということです。ひょっとすると今の状態を維持することに追われるかもしれません。多くの学校が苦しむ問題です。
うれしいことに、来年度もこの学校のお手伝いをさせていただくことになりました。私もできる限りのお手伝いをさせていただくつもりです。いろいろな障害があるかもしれませんが、この学校はきっと次の段階に上がってくれると信じています。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29