研修担当者の目に見えない努力を感じる

昨日は小学校で算数の授業アドバイスと模擬授業に参加しました。2回目の訪問で、前回からどのような変化があったか楽しみでした。

特別支援学級の算数の授業は異学年の4人の一斉授業でした。年齢も支援の必要度合いも異なる子どもたちです。子ども一人ひとりに何が起こっているかを中心に観察しました。
授業開始前から2人の先生は、受容的な態度で子どもたちと接しています。笑顔がとても素敵でした。授業が始まっても落ち着かない子どもがいます。いつもと違う知らない人が授業を見ているので、興奮したのかもしれません。4人の中で一番しっかりしている児童が注意をしてくれます。その時気になったのが注意の仕方です。「・・・してはだめ」「・・・して」と否定的な表現や命令調なのです。たまたまなのかもしれませんが、先生の注意の仕方と何か似たものを感じました。「・・・しよう」という表現を意識して使っていただくことをお願いしました。
授業は輪投げとさいころゲームを使って得点を計算するという課題でした。全員に○をつけて自身を持って発表するように工夫しています。しかし、一生懸命に発表してくれた友だちの言葉ではなく、そのあとの先生の確認の言葉に反応します。ここにも少し工夫が必要かもしれません。

アドバイスとしては大きく2点です。
1つは、子どもたちへのポジティブな評価を今以上に増やすことです。困難を持っている子どもたちですのでちょっとしたことでも、できたことはできるだけほめて自己有用感を高めることが大切です。
もう1つは、コミュニケーション力を高めることを意識していただくことです。学力も大切ですが、彼らが将来自立していくためには自己有用感を持って他者とかかわれることがより大切です。発表の場面などでは、聞いたことを復唱などで確認し、聞いていたことをほめる。聞いてもらってよかったねと発表者とつなぐ。このようなことを授業の中に組み込むこと意識するようにお願いしました。

4年生の2学級の算数は、学年主任と講師の方の資料の整理の授業でした。
学年主任の先生は学級規律をしっかりつくり、子どもたちを笑顔できちんと評価できる方でした。細かな授業技術もしっかりして、とてもわかりやすい授業です。ほめるところ参考になることがたくさんありました。だからこそ、課題も明確になりました。的確な指示でどの子も作業がきちんとできます。しかし、なぜ資料を整理するのか、整理することで何がわかるようになるのかといった、考える部分が弱いのです。このことをお話ししたところ、本人も自分の課題として認識されていました。自己評価ができる素晴らしい先生です。この教材を具体例に、課題の設定、発問についてお話しました。今後の教材研究にきっと活かしてくれると思います。

講師の方は、笑顔と受容的な雰囲気で子どもたちが落ち着いて授業を受けていました。しかし、板書がされると子どもがノートを写すことに意識がいってしまい話を聞かなくなっています。積極的に子どもに問いかけ参加を促すことが大切です。
気になったのが、数人しか手が挙がらないのに指名して、「あってますか」「あってます」で進めてしまったことです。本人もどうしても待ちきれないとどうすればいいか困っていました。まわりと相談させる、ヒントを子どもに言わせるなどの方法をアドバイスしました。
また、資料の項目を問う場面で指名された子どもが「人間」とよくわからない発言をしました。先生が即座に否定することなく聞き直すことで「東町の人、西町の人」と言葉が足されました。とてもよい対応です。ただ、残念なのが、「人間ではわかりにくいから他の言葉で言って」と他の発言をすぐに求めたことです。発言者をほめたり、しっかり評価する場面がありませんでした。結局、「町」という言葉が出たところでこれを評価し、答としました。このようなことが続くと、子どもたちは教師の求める正解を見つけようとします。自分の答えを考えることしなくなってしまいます。一人ひとりの考えを認め、子どもたちの判断させることも時に必要なことを伝えました。

5年生のきまりの授業と6年生の資料の整理の授業は前回アドバイスした先生でした。
2人とも前回は表情が硬かったのですが、笑顔も増えてこのことを意識していることがよくわかりました。

5年生の授業は、マッチ棒でつくった階段のきまりを見つける問題です。なかなかむずかしい問題なので、前時の復習と問題把握に多くの時間を割きました。しかし、先生が一方的にしゃべるので子どもはだんだん集中力をなくしていきます。子どもに問いかけて発言させることで同じ内容を伝えられるところがたくさんあります。子どもの発言で進めることができないかと常に自分に問いかけることをお願いしました。
この問題は、マッチ棒を数える、表をつくったりして整理する、整理したことをもとに決まりを見つけるといったスモールステップがあります。これらを明確にしないで個人追究をさせようとしましたが、子どもの状況に大きな差ができました。スモールステップを意識して、ある程度足場をそろえることも必要です。問題把握の段階で、マッチ棒を数える作業をいれるなどの工夫をすることをアドバイスしました。

6年生の資料の整理の授業は、資料から度数分布表をつくる作業が1時間のメインでした。教師が一人ひとりの表を確認して○をつけていますが、非常に時間がかかります。○をもらった子どもはすることがなくて集中力をなくしています。こういった作業的な課題は、互いにまわりと確認し合い、もし違っていればやり直すようにすることで、スムーズに進むことをアドバイスしました。
また、この授業では度数分布表をつくることが目的となってしまって、そこから何がわかる考えることがありませんでした。つくったものを活用する、何のためにつくっているのかといったことを考えることを大切にするようお願いしました。

全体研修では、この学校では初めての試みとなる模擬授業をおこないました。1年生の算数の授業に若手がチャレンジしてくれました。
模擬授業を企画した先生が手順やポイントをまとめたものを配り、丁寧に説明をします。特に子ども役が学ぶことが多いこと、みんなで考えることを強調されました。模擬授業をよく理解されています。
初めての試みということで最初は私が意図的に介入しましたが、そんなことは必要ないことがすぐにわかりました。企画した先生が司会者となったのですが、実に的確に授業を止め課題を明らかにしていきます。
わかったかどうかの確認で、ほぼ全員が手を挙げたのに、3人の子ども役の手が挙がらない場面がありました。そのまま授業者が進めようとしたところを止めて、挙げなかった理由を聞き、どうするかまわりの人と相談するように指示されました。先生方はとてもよい雰囲気で意見を出し合っています。全体で発表される意見も素晴らしいものでした。これをきっかけに雰囲気も柔らかくなり、子ども役の先生方も子どもになりきって実に細かく演じてくれました。授業者も意見を受けて何度も進め方を変えてくれ、教師の対応が子どもたちの活動にどう影響するかとてもよくわかる模擬授業となりました。先生方に模擬授業のよさが伝わったことと思います。企画した先生の準備と素晴らしい取り回しのおかげです。授業をみる力があることと模擬授業をきちんと研究していたことがとてもよくわかります。この学校にきっとよい形で模擬授業が定着していくことと思います。

私も学ぶことが多い1日でしたが、研修担当の先生が模擬授業だけでなくアドバイスを受ける先生に事前に働きかけるなど、一つひとつしっかり準備していたおかげだと思います。充実した研修の裏にはこういった担当者の目に見えない努力があるものです。この学校がこれからどのように進歩していくのか、とても楽しみです。
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