個別のアドバイスの場で管理職の役割を考える

昨日は中学校で若い先生方に個別の授業アドバイスをおこなってきました。

一人は数学の初任者です。来年早々に学校の授業研究会で授業をおこないます。事前にこの日を含めて3回お話をする予定です。第1回目として単元の持つ意味やポイントの説明と、教科書の読み込みをおこないました。
最近の若い教師に共通するのが、「数学とは何を教えるのか、何を学ばせるのか」といった教科の本質に対して自分の答えを持っていないことです。指導要領等で言われていること、教科書が意識していることを読み取れていないと言ってもいいでしょう。
「確率」の単元で実施するということだったので、まず確率で一番大切なことについて、そして身近な確率の応用と統計のかかわりについて話をしました。確率で一番大切なことは、その値の意味するところとその根拠です。確率1/2とはどういうことか、1とは0とは。根拠となるのは基本となる事象が「同様に確からしいこと」です。ここが揺らげば確率は変わります。意味を考えるとき、「大数の法則」が大きなカギです。中学校では直接触れませんが、統計にもつながる大切な考えです。必ずたくさんの試行をおこなわせるのはこのことが基本にあるからです。
また、3択で、解答を選んだ後、選択しなかった2つのうち不正解を教えてもらい、再度選択すれば得になるかなどの現実的な問題につても話をしました。ちなみにこの先生は、得になるとは答えてくれましたが、その根拠は確率が1/2となって上がるという間違いでした。あえて間違いだと指摘せずに、どう子どもたちに説明するか考えるように伝えました。次回までに考えて自分の間違いに気づいてくれればいいのですが。
基本となる話をした後、教科書を1ページずつ丁寧に見ていきました。教科書は実にこの基本となるポイントしっかり押さえています。同様に確からしいことが基本となることを見開きの具体例を使って教えています。
また、組み合わせの問題で、{A,B}と(A,B)を使い分けていることの意味とそれを活かすとどのような指導や発展があるのか、場合の数の樹形図の導入場面で、キャラクターが「6通りになることがよくわかる」とわざわざ言っているのはどういう意味があるのか・・・というように、教科書を読み込むとはどういうことか、一つひとつできるだけ細かく話をしました。たとえば、キャラクターの言葉は、「6通りであることは6通りを見つければいいのではなく、それ以外にはないということを示すことが必要である」ということを意識しています。したがって、子どもたちが場合を列挙した時に、「これだけ」「他にない」「これで全部」「どうして全部だと言えるの」というような問いかけが必要になるのです。これは場合の数だけでなく、算数・数学全般に共通する大切な問いかけです。こういうことを教科書から学んでほしいのです。
与えられた時間では単元全部を見ることはできませんでしたが、この先生が自分に何が欠けているか、何を教材研究すればいいのかを少しでも理解して、冬休みに勉強してくれることを期待します。ネットなどからおもしろそうな教材を拾ってくるのではなく、まずは、基本となる教科書に書かれたこと、その中に込められたメッセージをきちんと理解してケレンのない授業を考えてほしいと思います。

もう一人は、英語の常勤講師です。最近、以前と比べて笑顔が減っていることが気になったので、時間を取ってもらいました。
授業中集中しない子どもが目立つようになってきた。私語も目立ってきた。私の力が足りない。そういう悩みを相談してくれました。
英語は、言われたことをおうむ返しに言うといった、やる気であれば誰でもできることがたくさんあります。そこをまず全員にしっかりできるようにすることが大切であることを伝えました。全員で発音するときに口を開いていない子がいないか、いたら開きなさいと注意せずにどう参加させるのか。そいうことを話しました。また、考える場面をどうつくるかについても話をしました。この両面があって、よい英語の授業がつくられます。こういったスキルは意識して取り組めば、次第に身に付きます。それより気になったのは、自分の力不足を気にしすぎていることでした。
そこで、何でもいいから話してと振ったところ、人間関係の悩みが出てきました。
実は、経験の豊富な非常勤講師とTTを組んでいるのですが、相手の方が自分のやり方をよくないと思って見ているのに遠慮して指摘していないと感じているのです。どう接したらいいのか、どうすればうまくコミュニケーションがとれるのか苦しんでいるのです。一方だけの話を聞いて、こうしなさいとは言えませんがとにかく話を聞きました。これは時間がかかる問題なので、いつでもいいから気にせず気軽に声をかけてと次につなげるようにしました。

教頭に時間を取っていただきこのことについて相談しました。TTの2人はよく授業の相談をしているそうです。ベテランが自分の考えを強く言うが、最後はあなた任せという流れになることが多く、常勤講師が主であるからと最後は1歩引いているようです。さすがによく観察されています。そこから察するに、双方にフラストレーションとストレスが溜まっているようです。2人だけでなく第三者を交えて単元の進め方を相談して調整する機会を設けては提案したところ、早速対応を検討してくれました。素早い判断はさすがです。

数学の初任者の集中的なアドバイスも管理職の発案です。彼の状況からこのまま研究授業をおこなえば、検討会で厳しい意見にさらされかもしれない、少しでも達成感を与え前向きにしなくてはと、異例の対応をとったのです。
授業について考えたり勉強したりするための場を作ることが自分たちの仕事ですと明確な方向性をもっておられます。授業にこだわる教師集団にするために何をすればいいのか常に意識していることが言動によく表れています。部活動や生活指導に力を入れていた学校ですが、授業を大切にしなくてはいけない。そのために、先生方に授業を大切にする風土をどうつくるか、そのことに腐心をされてきました。私を含め外部の力をうまく使い、着実に学校を変えてきました。若手が変化し、それにつられ実力あるベテランもより力をつけてきました。この3年で大きく子どもたちの姿が変わりました。表にはあまり見えませんが、この管理職の動きが学校を変えていったのです。明確な方向性を持って、管理職が何をするか、誰に何をさせるのか。このことがいかに大切かをこの学校の変化が教えてくれます。

この日、来年度も授業アドバイスを依頼されました。このような学校に選んでいただけることを嬉しく思うと同時に、勉強する機会をいただけることに感謝します。
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