授業の変化を感じる

中学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は国語、理科、美術の先生を中心に授業参観を行いました。

前回訪問から1月半ほど経ちましたが、教科を越えて授業の変化が感じられました。具体的には多くの先生が一人一台のタブレットをとにかく使ってみようという雰囲気を醸し出していたことです。管理職、教務校務や学年の主任から、授業改善に前向きに取り組もうという声かけや働きかけがなされ、多くの先生がそれに応えたようです。わずかの期間で目に見える変化がこれだけ起こったということは、多くの先生方が潜在的に授業改善を意識していたのだと思います。

国語では子どもたちの書く活動を意識した課題に取り組ませている授業をいくつか見ました。
「説明文の大切そうなところを問題にする」「那須与一の人物像をわかりやすく説明する」「文のここがわからないところを書き出す」といった課題です。ここで問われるのが、子どもたちがどれだけ育っているかということです。説明文の「大切なところ」とはどういうところなのか?「わかりやすい説明」とはどのような説明なのか?「わからないところ」とはどのようなことを言えばいいのか?が具体的にイメージできていることが課題に取り組むためには必要だからです。課題に取り組むに際して、過去の同様な課題に取り組んだ時の活動を思い出させるような場面をつくったり、その時の成果物をクラウド上に残しておいてそれを参考にできるようにしたりするとよいと思います。
こういった課題を扱う時に意識してほしいのが、活動の課程を大切にするということです。作業途中のものを互いに自由に見られるようにすることで、困っている子どもが参考にすることができます。また、見合うことが相談するきっかけにもなります。今回見た授業では、完成したものをクラウド上にアップすることで共有しようとしていました。キーボードが苦手な子どもたちを意識して、紙に手書きしたものを写真に撮ってアップさせている授業もありました。作業過程の共有は、タブレットに直接入力しないととても手間がかかります。キーボード入力が苦手だからと紙に手書きさせるのではなく、授業以外にもいろいろな場面でキーボード入力をする機会をつくり早く慣れさせるようにするとよいでしょう。授業での活用では、入力が思考速度についていければよいのでそれほど早く打てるようになる必要はありません。数週間で大きなストレスなしに入力できるようになると思います。

美術では、参考資料をタブレット上で確認できるといったICTの使い方を見ることができました。技能教科とICTの相性はよいと思います。彩色する時に下絵を取り込んで、画面上で自由に色を変えて塗ってみるといったシミュレーション的な使い方も面白いと思います。いろいろと工夫してみてほしいと思います。

この日見た理科の授業では、グループの活用や、授業者と子どもとのかかわり合いでの課題を感じました。実験では、できる子どもが仕切って他の子どもはそれを眺めているだけというグループを多く目にしました。よくわからない、困っている子どもが活躍できるようにしたいのですが、グループでの実験ではそれほど簡単ではありません。この日の授業は回路図をもとに実際に配線をしての実験でした。全員で配線に取り組むのは難しく、よくわからない子どもが試行錯誤する場面をつくるのも簡単ではありません。一人一台のタブレット上で装置の配線を書いて見せ合い、それをもとに実際に配線しても面白いと思います。わからない子どもはタブレットを使っている段階で友だちに相談できると思います。
個人で課題に取り組んでいる時に、授業者が困っている子どもに説明している場面も多く目にしました。子どもにとって困った時に授業者に聞くのが間違いのない手っ取り早い方法ですが、それでは考えは深まっていきません。正しいかどうかわからない友だちの説明を聞くことがより深く考えることにつながります。先生の仕事は子どもと子どもをつなぐことが基本だと意識してほしいと思います。
また、授業者が子どもたちに「覚えろ、理解しろ」と圧をかけているように感じる授業もありました。理科では知識がないと理解できない課題が多いのですが、必要な知識を自分から手に入れようとする授業構造をつくることが必要です。ネット上で自由に検索して必要な知識を手に入れることはかなりのスキルが求められます。まずはクラウド上に授業者が資料を準備しておいて、子どもたちが必要なものを自分でアクセスして利用するようにすることから始めるとよいでしょう。

この日感じたのは、コロナ以前と比べて子どもたちの笑顔が減ってきていることです。先生方の授業中の笑顔も同様に減ってきているように思います。
3年生のこの時期、受験が近づき精神的に苦しい子どもが出てくる時ですが、昨年度までの3年生では苦しい子どもを他の子どもたちが支える姿を見ることができていました。今年の3年生も、授業中に互いにかかわり合うことは普通にできていますが、一部の苦しい子どもが孤立しているように感じました。子どもたちの精神的な余裕がないのかもしれません。学級全体で互いに支え合う雰囲気を作ってほしいと思います。
2年生は、学年としてタブレットの活用を意図的に進めているようです。その影響もあるのでしょうが、子どもたちの学習意欲が以前よりも高くなっているように感じます。ただ使うだけではしだいに意欲は減退していきます。子どもたちが主体的にタブレットを活用するような授業をつくることを意識する必要があります。どのような使い方が子どもたちの主体性につながるのかを意識して、先生同士で情報を交換するようにしてほしいと思います、
1年生は、子どもたちの集団が小さく分かれている傾向が続いています。また、授業者によって態度が変わる傾向もあります。子どもたちのよい行動を引き出し、そのことを認めてほめるという基本を徹底する必要があると思います。その際、子どもたちに笑顔で接することを意識するとよいでしょう。笑顔で叱ることはできません。笑顔でどのようになってほしいのかを伝える技術を意識するようお願いしました。

数学担当の先生が、タブレットの活用に関して今取り組んでいることを報告してくれました。図形の問題演習で、子どもたちが補助線や数値を書き込んで答を求めた図を写真に撮って共有し、その図をもとに進める授業です。不定な角の大きさを自分で勝手に設定して答を求めている子どももいます。設定した角の大きさを文字に置きかえれば、それで正しい答につながっていくので、授業者はそれを否定するのではなく、そこから考えを広げていこうとしていました。とてもよい試みだと思います。紙の上でやっているので、結果の共有になっています。子どもたちはタブレット用のペンを持っていないのでタブレット上で上手く線を引いたり書き込んだりできません。そのため、紙を使っているのです。慣れれば、指でもそれほどストレスなく書き込むことはできるので、思い切ってデジタルホワイトボード上で途中の図を共有しながら進めてもよいと思います。次のステップへの挑戦をまた聞かせてもらいたいと思いました。

タブレットを子どもたちの道具としてもっと活用させたいと思っている先生からは、授業時間以外の使い方での相談を受けました。「空き時間にゲームをやる子どもを放置してよいのか」といったことを保護者が子どもから様子を聞いて問い合わせてきたようです。この先生は、できるだけ自由に使わせながら、子どもたち自身で問題を解決させたいと考えているのですが、他の先生との意見のすり合わせも含めてどう対応していけばよいのかと悩まれているようです。まずは、大原則として、タブレットは子どもたちの成長のために公的な資金を投入して貸与されていることをしっかりと子どもたちに伝えることが必要です。その上でどのように使うべきか、自分たちで考えさせるとよいでしょう。保護者からも使い方の意見が出てきたのですから、そのことを前向きに活かすことを考えるとよいでしょう。PTAも巻き込んで、子どもたちと活用のルールについて意見を交換し、決定していくのです。保護者も家庭でどのように使わせていいか悩んでいると思います。先生、保護者、子ども、場合によっては地域も巻き込んで一緒に考えていってほしいと思います。

今回、学校の雰囲気が変わり始めたことを感じました。このあとどのように変化していくのでしょうか。次回の訪問がとても楽しみです。
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