授業でICTが活きる場面を見つける

中学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は、数学、保健体育、技術家庭科の授業を中心に授業参観しました。

技術の木工の授業は、作品制作の場面でした。この日はのこぎりを使って材料を切断する練習です。授業者はベテランで、説明の口調や間の取り方などはとても素晴らしいものがありました。最初の挨拶の場面でも、きちんと全員の口を閉じさせてから礼をします。この授業で、技術室へ来るのが遅れた子どもが数人いました。授業者は彼らに注意をしたのですが、気をつけてほしいのが、遅れた子どもへの注意に多くの時間を使うと時間を守った大多数の子どもは、嫌な思いをするだけでやる気がそがれることです。その結果、遅れた子どもとの人間関係が悪くなる心配もあります。学級全体の問題ととらえて、互いに遅れないように声をかけ合うといった指導ならばよいのですが、一部の子どもへの指導を全体の場でするのは避けた方がよいと思います。
授業者は説明の途中で落ち着かない子どもがいたので声をかけていました。しかし、そこに時間を使うので、他の子どもたちの集中が落ちていきます。説明の時間が長いので、子どもたちが集中を切らさないような工夫が必要です。説明の途中で子どもたちに問いかけはするのですが、考えたり調べたりする時間もなく、すぐに反応する子どもとのやり取りで進めます。そのため、ますます子どもたちの授業への参加度は落ちていきました。授業者は子どもたちの集中度が落ちているのに気づいているのでしょう。授業者を見るようにと指示を出しますが、全員の顔が上がらないのに先に進んで行きます。実際の作業に入るまで、子どもたちはずっと受け身のままでした。この日の作業は材料の切断の本番前の、端材を使ったのこぎりの使い方の練習でした。授業者は次時の本番では各自のタブレットで動画を撮ることを予告していました。撮った動画は評価するために使うのでしょうか。説明を聞いてただ練習をすれば上手くなるわけではありません。自分の作業を動画で確認して修正していくことが大切です。本番で動画を撮ってもそれを活かす機会がありません。動画を撮るべきなのは、練習であるこの時間であるべきです。子どもが上手くなるためのプロセスを授業に組み込むことが重要ですが、技術だけでなくすべての技能教科で意識してほしいと思います。

もう一つの技術の授業は、授業者がオリジナルでつくった教材の制作場面でした。アルミのシャーシにモーター2個とギア、車輪を組み合わせ、有線のスイッチで動く車の制作です。簡単な電気回路やモーターの活用だけでなく、歯車やアルミの加工など技術科での学習内容を総合的に体験する、意欲的なものでした。
この日行う作業の説明の前に、制作途中の作品を自分の手元に持って来させます。自分の作品が見つからずに探すのに時間がかかっている子どもが何人かいました。全員の準備が終わって説明を始めるまでにかなりの時間がかかってしまいました。また、黒板の前で実物を使って授業者が説明しますが、手元に作品があるために、気になって注意が散漫になっている子どもが目につきました。手元にものが無い状態で説明をし、作品を手元に持ってくればすぐに作業に取りかかれるようにすることで、子どもの意欲や集中力を削がずに進めることができますし、今回のように自分の作品が見つからない子どもがいても全体の進行に影響が出ません。
授業者は子どもたちを道具のそばに集合させて、シャーシのアルミ板を曲げる作業の演示を行います。全員が同時に見るのは難しいので何回か分けて行いました。作業を手順ごとに分けて短い動画にしたものをクラウドに置いておき、必要に応じて何度でも確認できるようにするとよいでしょう。完成までの作業の流れを示しておけば、その動画を見ながら自分のペースで作業を進めることができます。一人一台のタブレットはこういった技能教科ではとても有効なのです。このことを提案したところ、なんと技術室ではネットにつなぐ環境がないというのです。聞くと、体育館も同様だそうで、一番使いたいところで使えないというのでは何のための一人一台かわかりません。また、教室でも全員が同時にタブレットを起ち上げるとつながらない状況がよくあるようです。これでは先生や子どもたちの活用意欲が下がってしまうことが危惧されます。この学校でICT活用が今一つ進んでいない大きな原因と思われます。
この授業者は、あまり使われていない特別教室のアクセスポイントを技術室に持ち込んで、活用して見ようと意欲を見せてくださいました。困難な状況でも工夫次第で乗り越えることもできます。こういった意欲を大切にして、学校全体で活用を図ってほしいと思います。

家庭科の授業は最後しか見られませんでしたが、解説動画や、写真のスライドを活用して、子どもたちの意欲を引き出していました。最後の確認でスライドをもとによい例、悪い例と説明していましたが、確認であれば、スライドを見せて「よい例?悪い例?」と子どもたちに判断させるとよかったと思います。

3年生男子の体育の高跳びでは、子どもたちが次々に跳んでいるのですが、何を意識しているのかがわかりませんでした。漫然と跳び続けているように見えます。だれも友だちの跳んでいる様子を見ていません。後で聞いたところ、依頼されて、授業者が教えずに子どもたちに気づかせることをテーマにした研究に挑戦しているとのことでした。そうであれば、子どもたちが気づくための活動を取り入れなければいけません。個人種目ですが、グループで互いにどうすればよいかと考える活動を入れる必要あるでしょう。また、互いに高め合う意欲を持たせるために、最初の記録からの伸びしろのグループ全員の合計を○○cmにするといった目標を与えるとよいでしょう。
上手くなるための仕組みをどう授業に組み込むかが問われます。上手くなるプロセスを意識させるようにしてほしいと思います。

3年生女子のダンスはスクリーンに映した模範のビデオを見ながら全員が練習しています。動きを真似するだけで、自分たちのどこがよいのか、どこを改善すべきかが意識されていません。やはり上手くなる場面を意図的につくることが必要です。練習の時に意識すべき視点を教えるか、気づかせることが求められます。
ダンスであれば、グループで互いに向き合って仲間の動きを観察しながら練習するといったことも必要だと思います。

1年生女子の水泳の授業では、誰と誰がバディなのか見ていてわかりませんでした。見学者が授業に参加していないことも気になりました。授業者は、集合させて説明する時も、集まっている子どもだけに目線を合わせ、集合に遅れている動きの遅く子どもたちの方を見ていませんでした。先生も子どもも互いを見ることが意識できていないことが気になりました。

2年生男子の跳び箱の授業は、動画を見せてポイントに気づかせる場面を参観しました。子どもたちはワークシートに気づきを書きますが、紙なので共有することは難しく、結局は授業者が説明をすることになってしまいました。本来ICTが活きる場面なのですが、体育館ではネットにつながらないことが残念です。

2年生女子のソフトボールの授業は、グループで模擬ゲームを行う場面でした。正式なバットやボールではなく、段ボールの筒のバットや柔らかいボールを使って投げたり打ったりしています。スイングやスローイング、キャッチングの動作は基本からかなり外れていまいた。何となく楽しんではいるのでしょうが、技術的な向上は見込めないと思える活動でした。スポーツを楽しむだけではなく、工夫や努力をして技術の向上を目指すことも体育での大きな目標だと思います。授業を通じて子どもたちにどうなってほしいのかがよくわからない授業でした。

数学は全体として、解き方を教える覚えることが中心に置かれているように感じました。グループで相談させることもするのですが、子どもたちに発表させるのは答や解き方です。見方・考え方やそれにつながる思考の過程を問うことはしません。結果、わかっている子どもが授業者の求める答を発表して進んで行きます。グループや個人の活動で行き詰っても、あとから授業者が正解を解説するので困りません。また解説を聞かなくても、手元に解答があれば十分なのでしょう、先生の板書を写すことを何より優先させている子どもが目立ちます。グループ活動やペアでの相談といった活動を取り入れても、結局解き方を覚え、問題の答がわかればよいという古いタイプの授業のままでした。
数学の授業を通じてどんな力をつけたいのかを数学の先生方に問うと、数学の問題以外でも通用するような考え方を見につけさせたいといった素敵な答が返ってきます。それと実際の授業との乖離が大きいのです。先生方もそのことには気づいています。目指すものを共有できているのですから、互いに授業を見あって、実際に子どもたちにどんな力がついているのか忌憚のない意見の交換ができるとよいでしょう。自分たちの思いを実現するための行動をとっていただければと思います。

この日見た3年生は、全体として学習に対する姿勢が選択的になっているように感じました。授業中は規律を乱すようなこともなく、落ち着いているのですが、自分にとって必要と思えることだけに取り組み、そうでないことは適当に済ませているように見えるのです。学習に対するひたむきさを感じないのです。学びに対する姿勢が育っていないことが気になりました。受験も近づいている中、難しいことなのですが、目先の進学ではなく、進路意識を持たせる必要を感じました。

2年生は、相変わらず学習に向かうエネルギーが低いように感じました。子どもたちが一方的に説明を聞くことが中心の、受け身の授業が多いことがその要因として挙げられると思います。子どもたちは自分たちで活動する場面があれば、その質はともかく動くことはできます。子どもたちの活動を増やすことから始めることが必要でしょう。

1年生は子どもたちの集団が分離しているように感じました。中学生としての意識ができている層と、中学生活に慣れ小学校時代の子どもっぽい行動が顔を出している層に分かれているのです。そのため、学習に積極的に取り組む、取り組まないがはっきり分かれ、授業での全員参加が崩れています。子どもたち一人ひとりときちんと向き合い、子ども同士のかかわり合いをつくることを意識することが大切です。まず学級経営の中でこのことに取り組んでほしいと思います。行事も残り少なくなっていますが、少ないチャンスを活かして来年度につなげてほしいと思います。

GIGAスクールが始まって2年目です。地域間学校間の格差がかなり広がっています。この日、タブレットを子どもたちが活用している場面を見ることはほとんどありませんでした。環境の問題を差し引いてもかなり気になるレベルです。保護者や地域から信頼されるためにも、学校でどのように取り組んでいくのかの方向性をきちんと打ち出し、実現へ向けてのロードマップを明確にする必要があります。管理職の方にこのことを強くお願いしてきました。
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