授業参観とアドバイス(1日目)

私立の中学校高等学校で授業参観とアドバイスを2日間行いました。その1日目です。

社会科の先生からは、アパルトヘイトと中東問題の共通点を考えさせる課題を与えたところ、考える手がかりがなくて子どもたちが苦しんだことについて相談されました。考えるためのヒントとして、観点を具体的に与えて整理することを指示したそうですが、子どもたちを誘導しているように感じ、苦しい展開になったそうです。まずは、子どもたちが苦しんでいるのは考えている証拠だとポジティブにとらえることをアドバイスしました。その上で解決策を与えようとするのではなく、どういうことに苦しんでいるか、何に困っているのかを全員で共有することをするとよいでしょう。困っていることを明確にすることで、次に何をすべきかに気づいていくはずです。ねらっているゴールとのギャップが大きいのであれば、子どもたちの実態に応じて課題をいくつかの段階に分けることも必要だと思います。今回であれば、最初にアパルトヘイトと中東問題についてこれまでに学習したことを自分たちの言葉で整理し、考えるための土台をつくる時間を取ると、整理する視点が明確になったと思います。
観点別評価ついても相談を受けました。「これまでのテスト形式では、『知識・技能』以外は評価しづらいので、レポートを中心にしようと考えているが、頻繁に提出させることは子どもも教師も負担が大きいので日常的な評価をどうしようか」という悩みです。レポートに頼りすぎると、提出できない子どもの評価ができなくなることも問題です。レポートにこだわらず、毎回の授業での活動をそのまま提出させることを提案しました。タブレット上で作業したのであればそのまま、紙のノートを使っているのであればその日に書いたことを写真に撮り、振り返りといっしょにデジタルで提出させるのです。自分の考えをなかなか外化できない子どもには、活動で調べたもの、参考にしたものをそのままペーストして、「役に立った」、「立たなかった」、「よくわからなかった」、「ここが参考になった」といったコメントを付け加えて提出させるとよいでしょう。クラウドを上手く活用することで、日常の活動を無理なく記録していくことができます。教師がすべてに目を通すことは難しいので、記録したものをもとにポートフォリオを作らせて、それを評価するようにするとよいと思います。

英語の先生からは、新型コロナウイルス対策の影響で、ペアを次々変えて練習することが難しくなったりして、これまでのやり方ができなくて困っているとの相談がありました。できないことではなく、できることを探す発想をお願いしました。ペアを変えることができないのであれば、固定のペアでより深い対話をさせることを考える。ICTの活用などの代替手段を考える。他教科の授業実践などを参考にして、授業を工夫する。こういったことをお話させていただきました。

高校1年生の現代社会では、教科書や資料を読んで生まれた疑問から問いをつくり、探求した結果をプレゼンテーションする授業に取り組んでいました。子どもたちはとりあえず思いついた浅い問いから資料をまとめているだけで、探求までには至っていません。こういった課題では、子どもたちは○○について「調べたことをまとめる」だけで、自分で考えたり判断したりはしないものです。「YesかNoか?」「AかBかどっち?」といった「判断が求められるような問い」をつくるという条件を付けるとよいでしょう。また、グループで途中経過を話し合っているのですが、互いに聞き流しているという感が否めません。考えを深めるためには、グループの中間発表で積極的に質問し合うことが必要です。「発表者に『えー、困った』と言わせるようなツッコミをしよう」といった条件を付けると、活性化すると思います。

中学校では、全体で言語技術(Language Art)の授業を行っていました。ペアワークの場面では、ほとんどの子どもがすぐにかかわり合うことができていました。こういった活動に慣れていることがよくわかります。だからこそ、うまくかかわれない子ども、かかわろうとしない子どもが気になります。授業者以外にも中学校の先生が何人も参観しています。こういった子どもたちをしっかり観察して、その場で対応できなくても、今後どのようなかかわり方をすべきかを全体で検討する場をつくってほしいと思います。
途中で授業者が若手の先生に交代しました。指名した子どもの発言をしっかり聞くことができますが、反応している他の子どもを上手くつなげられずに、1対1のやり取りが続きました。全体を見て子ども同士をつなぐことが課題です。
授業者はすぐに、前回の研究授業の報告とこの日の授業についてのアドバイスを求めに来ました。授業を上手くなりたいという前向きな気持ちが感じられます。
先ほどの授業で、子どもに発言させた場面で全体の様子はどうだったかをたずねたところ、状況をきちんと把握していました。以前から子どもたちを見ることをアドバイスしていたのですが、そのことをきちんと意識してできるようになっていました。となれば、次の課題は、その状況にどう対応して子ども同士をつなげるかです。素直にアドバイスを受け入れて実行しようとしてくれる先生です。あせらず一つひとつ課題をクリアしていくことで、今後大きく成長してくれることと思います。

高校2年生の英語の授業では、子どもたちがタブレットを自分の道具として使っている姿に感心しました。授業者が解説している場面で、子どもたちは、フリック入力、ペンで手書き、指で手書きと自分に合った入力方法でタブレット上のワークシートに素早くメモを書き込んでいます。必要に応じてリアルタイムで辞書を引きながら、説明を聞き、自分の言葉でまとめていきます。タブレットを日標的に使うことで、道具として完璧に使いこなせるようになっていました。
授業者は一問につき一人の記述をスクリーンに映しながら、その子どもと簡単なやり取りをして、あとは自分で解説します。子どもたちがタブレットに書いたものは互いに見合うことができるのですから、ダイナミックに子ども同士をつなげるとよいと思います。直接かかわらせることが難しい今だからこそ、オンライン上でかかわらせる工夫をしてほしいと思います。
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