グループ活動のポイントを伝える(長文)

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行いました。この日は今年度赴任した先生方を中心にアドバイスを行いました。

中学校3年生の社会科の授業は、冷戦についてグループで調べて発表する、4時間完了の活動の1時間目でした。グループごとに用意された中からテーマを選択し、分担して調べ、グループで発表するという流れです。
子どもたちは落ち着いていて授業規律も悪くないのですが、話を聞く様子が少し気になりました。授業者が話している時に、「体を起こしていればいいでしょう」と形だけつくろって、集中して聞いているようには見えない子どもが目立つのです。授業者が授業規律をつくる時に、子どもたちがちゃんと話を聞いているかどうかではなく、よい姿勢がどうかで評価してきたのではないかと思います。よい姿勢をほめるだけでなく、話の内容を個別に確認して、理解しようとして聞いていることを評価することが大切です。授業者が子どもたちに対して何を求めているのかをしっかりと伝えることを意識してほしいと思います。
グループ活動での子どもたちの様子は特徴的でした。互いに額を寄せながら話すのですが、男子同士、女子同士でしかかかわり合いません。互いに話しかければ、ちゃんとかかわるので、男女の関係は決して悪くないのですが、すぐに男子同士、女子同士に戻ってしまします。その原因の一つが同性同士で隣り合っている座席配置にありそうです。また、5人1組のグループなので、3対に2に分かれやすいことも影響しているようです。グループによっては、男子2人、女子2人、男子1人と3つに分かれていました。原則4人グループで座席は男女市松模様とするとよいことをお伝えしました。
授業者がグループ活動中に子どもたちと個別にかかわりますが、グループの一部だけとかかわるので、グループの分裂を助長してしまいます。このような場合、かかわっていない子どもたちをつなごうとすることが大切です。質問に対しても授業者自身が回答するのではなく、「ちょっとグループのみんなに聞いてみようよ」と他の子どもにつなぐようにしてほしいと思います。
最終的にはグループで発表するのですが、みんなで考えて一つの物をつくるには合意形成の過程が大切になります。合意形成する経験が豊富であればよいのですが、そうでなければ、時間が迫ってくると、声の大きい者の意見が通ったり、安易に多数決に走ったりします。合意形成について事前にその方法を考えさせることや、活動後にプロセスを振り返ることが必要になります。
また、グループでの作業の進め方も大切になります。授業者はザックリと分担して情報を集めて、それをまとめて発表をつくるようにと指示しますが、口頭で説明するだけで黒板等に残っていません。情報収集を分担するといっても、実はいろいろな方法があります。調べる媒体を分担するという方法もありますし、何を調べるかで分ける方法もあります。子どもたちは時間をかけず、安易に調べる対象を分担して個別作業に入っていました。まずはどのように進めるのかを考えさせ、一旦全体で共有することが必要です。その後、他のグループの進め方も参考にして活動するのです。活動終了後はその過程も含めて振り返ることが必要です。
個別に調べたことを「ねえねえ、聞いて」と見せあったりする子どもがほとんどいません。せっかくグループにしているのに、子どもたちがつながりません。個別の作業の場合、調べて分かったことをオンラインでグループ共通のシートに書かせるとよいでしょう。友だちの調べたことが自然と目に入るので、かかわり合いが生まれてきます。他のグループのシートも見ることができるようにすれば、より学びが深まると思います。
今回の活動はグループで一つの発表をするという形の班活動に近いものでした。グループ活動は、グループの力を借りて個人の考えを整理し深めることが原則です。プレゼン形式での発表にこだわると、個人発表では時間が足りなくなるのでグループで一つにすることになってしまいます。スライドに音声をつけた物やプレゼンを撮影した物を動画にして、共有する方法もあります。友だちの動画を見てコメントを入れて評価し合うことで立派な発表会になります。今時の子どもたちにとって、動画作成はさほど難しくはありません。一人一台のタブレットは、授業の自由度を大きく増やしてくれることに気づいてほしいと思います。
授業者は私からの指摘に、グループ活動を取り入れた経験が少なくよくわかっていなかったと話してくれました。疑問点を質問しながら、アドバイスをしっかりとメモしていました。授業改善に前向きなことがよくわかります。今後大きく進歩することが期待できそうです。

中学校1年生の国語の授業は漢文の故事成語(矛盾)の授業でした。
授業者は子どもたちに問いかけてできるだけ発言を引き出そうと意識しています。そのことはよいのですが、実際に発言する子どもはごく一部です。ほとんどの子どもは発言しないだけでなく、友だちの発言を聞く姿勢を見せません。発言者も先生の方しか見ません。その理由は、授業者が発言する子どもとだけやり取りをし、他の子どもにつなげようとしないからです。そして、発言者に質問を返してやり取りをした後、結局は自分で説明をしてしまうので、その説明を聞けば誰も困らないのです。誰かが指名されればその後はその子と先生の間だけで進む他人事だと思っているのです。「みんなの方を向いて話そう。みんな、○○さんの方を向いて聞こう」と友だちとかかわることを求め、「今○○さんの言ったこと、もう一度言ってくれる?」と発言内容を他の子どもに確認したり、「○○さんの意見に近い人いる」とつないだりして、全員が参加する形を取ることが必要です。
また、授業者の問いかけに対して不規則発言が目立ちます。挙手をして自分の考えとして責任を持って発言しようとしていないのです。授業者が授業を進めるのに都合のよい意見を選択して取り上げるので、下手に挙手をして発言するより間違えて恥ずかしい思いをする心配がないからです。不規則発言を、「○○さん、今言ったことみんなに聞かせて。みんな○○さんの考えを聞こう」と公的な発言に変えることが必要です。内容以前に発言したことを評価し、公的な発言にしてから内容を評価することで、不規則発言を減らしていくとよいでしょう。
ワークシートをオンラインで配布し、タブレット上で書き込ませることで共有させますが、教室にいるのですから、できればまわりの子と対面で相談する時間も取るとよいと思います。授業者に確認したところ、なかなかペアやグループで対話ができないので、まずは出力したものを共有することでかかわるきっかけづくりにしようとしたようです。
確かに、指示をしたからといって相談できるようにはなりません。相談するとは具体的にどのようにすることなのかを伝えることが必要です。上手く相談できている子どもたちを見つけたら、相談の結果ではなく、「しっかりうなずいて聞いていたね、どんなことが話題になったの?」と相談する姿勢や相談の内容を評価するとよいでしょう。大切なのは課題の答ではなく、その過程を評価、価値付けすることです。このことを意識するようお願いしました。

高校1年生の体育は、テニスの試合形式での活動場面でした。
授業者はルール等を意識して試合をすることを課題としていたようですが、子どもたちの姿からはそのことは伝わってきませんでした。プレーをしていない子どもは、ほとんど友だちの様子を見ていませんし、当然声もかけません。プレーヤーも含めて子どもたちの声が聞こえない授業でした。
活動を終了させて集合をかけますが、一部の子どもたちはまだプレーをしています。授業者に確認したところ、きりがついたら集合するようにという指示だったようです。原則、全員同時に終了するべきでしょう。同じグループでもプレーをしていない子どもはそのまま集合します。これではグループにする意味がありません。また、まだ、プレーしている子どももいるので、焦る必要がないと子どもたちはダラダラと歩いて集合します。集合するとラケットを消毒するのですが、列にならずバラバラにウエットティッシュをもらいに来ます。指示しなくてもきちんと整列するようにしておくことが大切です。消毒が済むと子どもたちは、その場でごそごそしたり、雑談をしたりしています。全員ラケットの消毒が済んだので、整列するように指示ますが、子どもたちは雑然としたまま整列しません。それなのに、授業者はしゃべり始めます。もちろん子どもたちは授業者の顔を見ていません。
体育では、授業規律がいい加減だと事故が起こり易くなります。安心安全な授業が最低限求められます。この状態では、とても不安です。集団行動などもきちんと指導できないのではないかと心配です。
授業後、授業者に中学生と高校生とどちらやりやすいか聞いたところ、中学生という答でした。その理由をたずねたところ、高校生は人間関係が既にできていて、自分たちで行動できるので指導しにくいということでした。自分たちでやれるのであれば、目標や課題を上手く与えれば、主体的に活動してうまくなっていくのでやりやすいと思います。そうは思えないのは、きちんと授業規律をつくれていないことの裏返しのようです。厳しい言い方にはなりましたが、このことを授業者には伝えました。次回訪問時に改善していることを期待します。

高校3年生の数学の授業は演習場面でした。
事前に授業者と話をしたところ、対話を大事にした授業を目標としているが。子どもがわからないことを聞けなかったりして、うまくかかわれない。子ども任せでは対話ができないが、かといってグループに介入しすぎてもいけないので困っているということでした。全体の場面でかかわりあわせて、具体的に対話するための基本に気づかせることをアドバイスしました。
授業を見てみると、子どもたちは結構うまくかかわれていました。それよりも、問題の解答をする場面での授業者のかかわり方に課題を感じました。
複素数の基本的な計算問題です。いくつかの複素数が()でくくられ、それを2乗する計算でした。授業者は「どうやって計算しよう」と問いかけます。しかし、ほとんどの子どもはこの問題を解けています(単純な計算ミスはあるかもしれませんが)。今ここで問いかけてもほとんど意味はありません。この問いは問題を解く前にすべきことです。授業のポイントが何かずれています。複素数の問題を扱うのであれば、まず複素数のポイントとなることをきちんと整理してどこかに見える形にしておく必要があります。問題を解く前に、「どれを使えばよさそうと?」と問いかけ、その理由を聞いておくのです。子どもの発言に対して、「なるほどね」と受け止めるだけにして、子どもたちに解き方の方向性を意識させてから取り組ませるのです。そうすることで、子どもたちは解くための手がかりをつかめます。解くための方向性を意識できているので、「教えて」「わからない」「どうする?」といった曖昧な質問ではなく、「何をつかえばいいの?」「どうしてそれを使うの?」と問いかけの言葉が明確になってきます。
授業者は子どもと対話しようとしていますが、対話するためのよりどころとなる数学の言葉や概念が整理されていません。何を聞かれているのか、何を答えればよいのかわからないため、子どもたちは授業者の問いかけに答えられないのです。授業者は対話を、「一方が質問して相手がそれに答える」といったあいまいなものとしか意識できていません。まず数学で対話するための視点を意識し、この時間で必要となる数学の知識や考え方、根拠となる事実を明確にして臨まなければなりません。対話が成り立たないのは、子どもたちの問題ではなく授業者の問題なのです。

中堅の先生から、高校1年生の社会科の授業デザインについて相談を受けました。テーマは「冷戦と平和」で、冷戦を経済と情報(鉄のカーテン)の視点でとらえようとしていたのですが、今一つスッキリとした流れにならないようです。対象をより深く理解するための一つの視点としてコントラストがあります。「冷戦」「平和」の時代には、実は戦争はたくさんありました。代理戦争という言葉もあります。ホットな戦争を視点として取り入れることで、なぜ冷戦だったのか、この時代の平和とは何だったのかが見えてくるのではないかとアドバイスしました。とても研究熱心で、面白い授業される先生です。授業を見せていただく度に刺激と学びをいただいています。相談をいただくことで私の頭もフル回転しました。こういった刺激を多くの先生からいただけるのもこの学校の素晴らしいところです。この授業がどのようになったのか、報告聞くことが楽しみです。
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