扱い方が難しい実験の授業で考える

1学期末に中学校で若手の理科の授業アドバイスを行いました。

3年生のDNAの抽出実験の授業でした。
抽出に使うバナナ、ブロッコリー、レバーの3種類の材料をグループに割り当てて実験を行います。DNAの抽出はいくつもの工程を経て行われますが、各工程の意味を中学生が理解するのは難しい実験です。授業者は実験の各工程は何を行っているのかを事前の授業で説明しておいたそうです。
最初にDNAについて子どもたちが知っていることを問いかけます。子どもたちは何らかの知識やイメージは持っていますが、断片的なものでしかありません。この実験からDNAと染色体や遺伝子との関係がわかるわけではありません。DNAに関する知識をどのタイミングで、何と関連づけて与えるのかで、子どもたちに実験中に意識させるポイントは変わります。
DNAは形質を決めるものという説明の後、「イメージをふくらませながら実験して見よう」とめあてを提示しました。前時までに行った実験の工程の説明を思い出しながら、それぞれの工程の意味を考えながら実験してほしいということだと思いますが、イメージという言葉では、子どもたちは具体的にどうすればよいのかわかりません。DNAの説明の時に、「形質を決めるものは細胞のどこにあった?」「染色体ってDNAなの?」といった染色体との関係を意識させるような問いかけをしておくと、各工程の意味を意識しやすくなったと思います。
子どもたちは、積極的に実験を進めますが次第にテンションが上がっていきます。手順に従って作業をしているだけで、考える必要がないことが原因です。タブレットで工程ごとに抽出物の写真を撮り、DNAが今どこに存在しているのかを書き込ませる活動をさせると、工程にどのような意味があったのかを意識することにつながると思います。
DNAの抽出終了後、抽出物の写真をとらせ、クラウドにアップさせます。素材ごとに写真をピックアップして見せますが、結局授業者が予備実験で撮っておいた写真で説明をします。それならば、実際にすぐ横で互いに実験しているのですから、ローテーションしながら見合ってもよかったかもしれません。
子どもたちの写真は横から撮ったもの、上から撮ったものと撮り方はいろいろです。時間があれば、この違いについて全体で取り上げてもよかったでしょう。何を強調したかったのかといった意図や、どの写真がわかりやすかったかといったことを聞き合うことで、実験の結果をわかりやすく伝えることを意識できると思います。
授業者は、もやもやした抽出物がDNAであることをどうやって確かめるのかを問いかけますが、子どもたちの反応は今一つです。顕微鏡で見るという発言に対して授業者は、DNAは見えないとすぐに否定します。しかし、実際に見えているものを顕微鏡で見て見えないというのはおかしな表現です。もっとていねいに対応する必要があります。授業者は時間があれば実際に顕微鏡で見せたいと思っていたようですので、写真でもよいのでどのように見えるか提示したところでした。大切なことは何がどのように見えればDNAとわかるかということです。通常の実験であれば、実験の結果から何がわかるかということが大切なのですが、DNAに関する絶対的な知識不足のため、ここを押さえることができません。
半分茶化しているかもしれませんが、「食べる」という反応もありました。授業者はこれをあまり真剣に取り扱いませんでしたが、全体に反応が薄い中なので、取り上げ方によっては学級を活性化できたかもしれません。「どんな味がすればいいの?」「味でわかる物質って何かあったっけ?」といった問い返しをして、味も立派な性質だという認識を持たせることも意味があると思います。DNAがDeoxyribo Nucleic Acid(デオキシリボ核酸)の略であることから、「酸=すっぱい」と想像する子どもがいればほめたいところです。デオキシリボ核酸がどのような物質かよくわかっていなくても、酸の共有性質を意識できることは大切なことだと思います。浅学のため抽出されたDNAを食してもよいかはわかりませんが、食べてみるといった体験をすることも大切な発想だと思います。
授業者は何とか「染色体を染めるのに使った酢酸オルセインで染まればよい」と答えさせようとしますが、染色体と遺伝子、DNAの関係が子どもたちにはよくわかっていないので、かなり無理やりになってしまいます。そもそもすべての細胞にDNAがあるはずなのに、染まるのは細胞分裂時の染色体だけだというのでは、酢酸オルセインでDNAが検出できるということの説得力に今一つ欠けます。逆に「普通の細胞は染まらないけどDNAはあるの?」「DNAは細胞のどこにあるの?」といったことを子どもたちに問い買えるといったことも必要かもしれません。授業者は子どもたちに考えさせる場面としてDNAを確かめる方法を問いかけたのですが、この展開では、子どもたちが考えることはあまりなかったようです。
この実験は子どもたちが考えるための材料が少ないものです。この実験を通じて子どもたちにどのような力をつけたいのかをシャープにしておく必要があったように思います。わかりやすいレポートをつくるスキルを身につけることだって目標になりえます。考えさせたいのであれば、考えるための足場をどのようにするのかをもっと突き詰めることが必要でしょう。

実際に授業をやってみるからこそ分かることもたくさんあります。今後の実験の授業を考えるためのよい材料が得られたことと思います。授業者共々、私も大いに勉強させていただきました。
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