私立高等学校での公開授業(その1)

私立の中学校高等学校の授業公開週間の第3日目です。この日は高等学校を中心に授業を参観しました。

3年生の体育は選択で行われています。基本的に先生方は自分の得意な種目を教えるので、指示や練習の内容が的確だと感じました。
バドミントンでは、授業者がプレーを見せながら具体的にポイントを解説します。子どもたちが集中している姿から、上手くなりたいという意欲を感じました。続いてペアで打ち合う練習をするのですが、声が聞こえてきません。プレーに集中していて余裕がないのかもしれませんが、声をかけ合ったり、よいプレーをほめあったりといったコミュニケーションは必要だと思います。子どもたちが互いに学び合うためにも、コミュニケーションをとることを意識させることが大切です。
野球は試合を行っていました。ここでも子どもたちの意欲の高さを感じました。攻守交替の場面では素早く動きますし、攻撃チームのバッター以外もしっかりと試合に集中しています。声もよく出て、とてもよい雰囲気で試合は進んでいました。どのようなプレーを目指して試合をするのかを子どもたちが意識しているのかは外からではわかりませんでした。守備や攻撃に入る前にチームでプレーを確認する場面があるとよいと思いました。
女子のダンスはチームごとで練習をしていました。iPadで撮影した自分たちのダンスをチーム全員で見ながら修正していたり、互いのダンスを見合ってアドバイスしたりと練習の仕方はチームによって違います。iPadの画面を見ることで、動きを確認して踊っているチームもありました。この授業では、iPadが子どもたちの道具として自然に使われています。チームごとに自分たちで練習の仕方を工夫していることが印象的でした。
授業者がところどころ個別に指導していましたが、チーム間でアドバイスをし合ったり、練習の過程を共有したりする場面をつくるなど、チームを越えて学び合うことも意識してほしいと思います。

3年生の現代文の授業は本文の内容の読み取りでした。グループで内容をまとめるのですが、個人で作業をしていてグループで相談しようとはしません。発表のためのまとめをする時になって初めて子ども同士がかかわります。しかし、ここでのかかわりは、誰の答を選ぶのかという答の取捨選択で、互いの根拠を確認し意見を聞くことでよりよい答をつくっていくという、考えを深めることにはつながりません。単にまとめるだけの作業です。グループで結論を一つにまとめようとすると、その結論に対して個々が責任を持つ意識は薄くなってしまいます。そのため、結論にこだわって意見を戦わせることはしなくなります。互いの考えを深めるためのかかわり合いを意識させるような仕掛けが必要でしょう。そのためにも、グループで結論一つまとめることは避けた方がよいと思います。
授業者は「何でか」を書くことを指示することで、根拠を意識させようとしていました。しかし、この表現ですと、本文を根拠としない曖昧な理由になりやすいことに注意する必要があります。はっきりと「本文のどこでわかる?」と問いかけた方がよいでしょう。

別の3年生の現代文の授業は、授業は内容以前に授業規律や指示の仕方が気になりました。
子どもが聞く態勢ができていないのにしゃべりはじめ、「教科書を準備して」と言わずもがなのことを指示します。しかも子どもたちはなかなか動きません。紙のワークシートを配りますが、紙である理由がよくわからないものです。しかも、まず名前を書いてと高校3年生にもなっているのに小学校の低学年のような指示をします。中にはうっかり忘れる子どももいるとは思いますが、自分で修正させていかなければ育ちません。子どもを育てる意識を持ってほしいと思います。
授業者が本文を読みながら説明していきます。今何をやっているのか、何を考えればよいのか、授業の目指すところが子どもたちにわかりません。見通しの持てない授業です。読みながら「今からマイナスの理由が出てきます」と前置きします。文章の内容を授業者が教えるのが目的化しています。国語でどんな力をつけたいのかが、根本的にずれています。教材を通じて文章を読む力をつけるのが国語の授業であって、教材の内容を理解するのが目的ではないことに気づいてほしいと思います。

1年生の国語はグループでの発表の場面でした。グループごとに順番に発表させますが、iPad上で共有できているのですから、あえて口頭で順番に発表する意味はあまりありません。少し時間を与えて、自分たちと近い意見、違う意見を探させて、そのことをつなぎながら発表させるとよいとでしょう。
グループ内で一つにまとめることも、全体で一つにまとめることも、注意をする必要があります。どうしても同調圧力が働くのです。子どもたちから出た意見は、全体の場ではなく各自でまとめさせ、それを共有するとよいでしょう。収束させたいのであれば、答を提示するのではなく、いくつかを紹介するにとどめるとよいと思います。

3年生の英語の授業では、子どもたちがしっかりと課題に取り組んでいました。体育祭の翌日とは思えないほどよく集中していました。教室の雰囲気から人間関係のよさもが感じられますが、課題に行き詰まっている子どもが一人で考えようとしているのかがちょっと気になりました。まわりに助けを求めることもできる関係だと思えるのですが、友だちが自分の課題に集中しているので遠慮していたのかもしれません。
ペアで答え合わせをするのですが、答だけを確認し合って、理由を聞いたり説明したりする声が聞こえませんでした。答ではなく、説明やどうやって答を見つけたかを聞き合う習慣をつけたいところです。

別の3年生の英語の授業は、授業規律が素晴らしくしっかりしていました。ペアで説明を聞き合う場面では、子ども同士すぐに体の向きを変え、聞き合う姿勢をとります。説明時間も1分と指示し、きちんと守ります。子どもたちの表情もよく、むだのない素早い動きが印象的でした。一つひとつの活動がルーティン化して、子どもも何をすればよいか自分が何をすべきかをきちんと理解していました。指示を明確にし、できていることをほめて規律をつくってきたことがよくわかります。
子どもたちは授業者の指示に従って安心して活動していますが、次のステップは子どもたち自身で判断する場面を増やしていくことです。細かく区切っている活動をいくつかまとめ、その進め方や時間配分を子どもたちに決めさせるようなことをしていくとよいでしょう。

2年生の英語は、ネイティブの授業者が英語で話すことを聞き取る授業でした。子どもたちはリアルタイムで話される内容を聞き取ろうと集中しています。授業者は話の途中で適宜質問をはさみます。質問に反応する子どもと受け答えをすると次に進んで行きます。しかし、これでは、反応できない子ども、よく理解できない子どもはそのやり取りに参加できません。他の子どもに反応を求めたり、反応した子どもの答を他の子どもにつないだりして少しでも全員が参加できることを意識してほしいと思います。

2年生の数学は演習の場面でした、子どもたちは指示されるとすぐにiPad上で問題を解き始めます。友だちの解いている様子をリアルタイムで見ることができるので、自信がなくても取り組みやすいようです。子ども同士で相談している姿も見られます。授業者は個々の取り組みを手元のiPad上で見ることができるので、困っている子どもが多いことに気づいています。そこで、作業を止めてもう一度自分で説明を始めました。わかっている子どもは必要がないので聞きませんし、わからない子どもも最初から同じ説明が繰り返されるので、自分がつまずいているところをピンポイントで意識することができません。自分たちで相談しながら解決しようとしている子どもたちもいるので、授業者がもう一度説明するのはあまり得策ではありません。困っていることやだれのどこが参考になったといったことを共有し、相談や友だちのノートを参考にすることで自分たちだけで問題を解決できるようにすることが重要です。
この授業では、別の先生が欠席者のために授業をライブ配信していました。学校に来られなくてもみんなと同じ授業にリアルタイムで参加できることはとても意味のあることだと思います。こういった新しい取り組みにどんどん挑戦し、広げていってほしいと思います。

1年生の数学は絶対値を使った問題の演習でした。子どもたちは友だちが答を説明しても発言者を見ようとしません。一方、授業者は子どもが発言するとすぐに説明を始めます。他の授業ではちゃんと発言者を見ることができる子どもたちですが、この授業では自分たちの発言が活かされないことを知っているので聞こうとしないのです。
また、授業者が解説をしても子どもたちは答を写すことを優先します。しかし、その板書は答だけで試行の過程やポイントとなる考えは残っていません。写すことにあまり意味はありません。数学において大切なのは考え方や解く過程であることがこの授業では意識されていませんでした。
授業者が「絶対値は何か?」と問いかけると「答が正」と返ってきました。「答」という表現からは、絶対値記号を演算子とみなして計算問題として考えていることがうかがわれます。授業者がそれで「よし」としていたことが気になりました。定義の持つ意味を考える意識がないのです。子どもたちを問題の答探しから解放してほしいと思います。

2年生の簿記の授業では、同じ勘定科目が借方になる場合、貸方になる場合を考えていました。子どもたちに考えさせたり、問いかけたりするのですが、反応があるとそれを受けてすぐに授業者が説明します。ペアで説明し合うなど、子どもたちの言葉で説明させたいところです。
子どもたちは経済活動と縁がないため、取引の実際のところがイメージしにくいかもしれません。仕訳例を与えて、その取引のシチュエーションを自分たちの身近な場面でつくるといったことも面白いかもしれません。同じ仕訳となるものでも、色々な取引が考えられます。多様な答が出てくるような課題に取り組むことで、子どもたちの考えが広がることが期待できます。

3年生の地理の授業は中国とタイの経済活動の似ているところ相違点を考えさせるものでした。子どもたちはiPadを活用して調べたデータをもとに考えますが、違いや共通点を見つけてそこで止まります。授業者が子どもたちの気づいたことをもとに半導体について調べるように指示しますが、指示しなくても自発的に関連した情報を集めたり、その理由を考えたりする姿勢を育てたいところです。

体育大会の翌日にもかかわらず、多くの子どもたちが授業にしっかりと向き合っている姿が印象的でした。一方授業の内容については、子どもたちをどう主体的にさせていくかという点が課題として感じられました。学校全体の課題として共有していく必要を感じました。
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