一人一台のタブレット環境のよさと課題を学ぶ

小学校で授業参観と授業研究の助言を行ってきました。

昨年の秋に一人一台のタブレットが整備された学校です。この日は、タブレットを積極的に活用した授業をたくさん見せてもらえました。
子どもたちは、操作面ではほとんど心配のない状態でした。日常的に使われていることがよくわかります。子どもたちがタブレットを立てて使う場面が多かったのですが、授業者が机間指導する時に覗き込まなくてはいけないことが気になりました。教師用タブレットでモニターするという発想もありますが、子どもたちの手の動きや表情を見ることも大切です。子ども同士がのぞきやすいようにするという観点からも、タブレットを寝かせて使った方がよい場面が多いように思います。

1年生でもタブレットのワークシートに自分の指を使って上手に書き込んでいました。子どもたちは指で入力することにストレスを感じてなさそうです。ワークシートをデジタル化して送ったり、そこに書き込んだものを先生に提出させたりしていました。紙の配布といったことの効率化から始めるのは悪くないと思います。

2年生の回文をつくる学習場面で、入力した文を反転して付け足すことで回文を作ってくれるツールを使った先生がいました。こういったツールを使うことで回文をつくる作業の負荷が減ることはよいことだと思います。問われるのは、その結果生まれた時間でどのような活動が充実し、その結果どのような力を獲得するのに役立ったかです。ここが意識されなければ授業のねらいはぼけてしまいます。本来子どもたちがするべき作業をタブレットが代わりにやってしまっては本末転倒です。今まで以上に教材研究が求められます。

3年生の理科の授業では、電気を通す、磁石にくっつくという2つの性質を予想させて実験する授業でした。自由に調べるものを選んでカードをつくり、性質を2つの軸で表わして4分割した画面に貼り付けさせます。予想と違った結果が出ればカードをコピーして色を変え、正しい位置に貼り付けます。全体で結果を共有してから追究が始まりました。色が変わったカードを見ることで自然に焦点化するべきことが見えてきます。工夫がたくさん見られた面白い授業でした。

5年生のプログラミングでは、タートルグラフィックスを使って四角形をかかせる授業でした。先生の指示通りに入力したり、ワーク―シートの穴埋めをしたりしてプログラムを完成させていました。基本的なことを教えた後は、正しく動くものを指示して書かせるのではなく、自由に触らせる時間を多くとるとよいでしょう。失敗しながら、なぜだろう、上手くいっている友だちとどこが違うのだろうと比べたりしながら考えることが大切です。子どもたちの表情が楽しそうに見えなかったことが残念でした。

6年生の社会科では調べた物をまとめさせる授業でした。まとめることも大切ですが、まとめることが何につながるのかという、目的が明確でなければ意味はありません。一人一台の環境では調べることが今まで以上に簡単になります。検索してまとめるだけでなく、必要な情報を探し出し、それをもとに考えることが大切です。課題意識を持たせ、調べたことから子どもたちが新たな疑問を持つことを目指してほしいと思います。一人一台のタブレット環境では授業の構成を変えることで今まで以上に深い学びをつくり出すことができます。ぜひそのことに気づいてほしいと思います。

授業研究は5年生の担任がICTの活用をテーマに行いました。授業者はどの教科単元で授業をすればよいかから悩んでいたので、事前準備の段階で教務主任も交え、オンラインで2度相談をしました。こういったことが気軽にできる時代になりました。今後先生方が、学校の垣根を越えて情報交換を活発にする時代なると感じました。
授業者に何を大切にしたいのかを聞きながら、ICTのよさをどう活かすかを一緒に考えました。受け身でなく主体的に取り組むことで、子どもたちに楽しんで課題に取り組んでほしいという授業者の思いを強く感じました。私からは主体性を意識した時、何を使うか、どのように取り組むかといったことを子どもたち選択させるとよいとアドバイスをしました。失敗してもよいので先生方が考えるきっかけになるような授業にしたいという授業者の言葉に、よい授業研究になる予感がしました。
授業は社会科のコンビニの学習になりました。
最初に、以前に学習したことを活かして、スーパーとコンビのいい所を発表させます。挙手した子どもはとてもよい表情です。授業者は早く本題に入りたいのでテンポよく進めますが、挙手しない子どもを活かすことも考えたいところです。時間との勝負ですが、手を挙げない子どもに、「どう、賛成?納得?」と反応を求めるといったことをするとよかったでしょう。
子どもたちは、「安い」「品物が豊富」とスーパーの方を高く評価します。そこで、授業者は、子どもたちから出た言葉を活かして「それなのに、なぜ、スーパーと違ってコンビニは『たくさん』あるの?」と投げかけ、「何を使って調べる?」と選択させます。インターネット以外にも教科書で調べるという子どももいます。また、インターネットを使って調べるといっても、何を検索すればよいかわからない子どもいます。そこで授業者は何を検索するかを問いかけ、いくつかの例を引き出しました。子どもたちの活動の足場をそろえるよい問いかけだと思います。
子どもたちが結論を出すまで調べさせ続けるのではなく、途中で一旦止めて、わかったことを発表させました。最近は50代より上の世代の利用が増えたということが出てきます。非常時にトイレが使えるといったよさを発表する子どももいます。コンビニのよいところで調べたのでしょう。子どもたちはインターネットを使って様々な情報を得ていましたが、「いろいろできるコピー機がある」という発言が出てきた時、多くの子どもが「えっ」という顔をしました。その情報を持っていなかったのでしょう。授業者がどうやって調べたのか聞くと、教科書に書いてあると答えます。子どもたちにとっては盲点だったようです。何でもインターネットがよいわけではないのです。教科書のように整理してまとめられた書籍のよさに気づいてくれるきっかけになったかもしれません。
子ども同士で聞き合うようにすると、今まであまり積極的でなかった子どもも口を開きだします。自分の考えを口頭で伝える子どももいれば、タブレットを寝かせて情報を見せながら説明する子どももいますし、タブレットを立ててプレゼンのようにして説明する子どももいます。タブレットが子どもたちの道具となりつつあるのを感じます。
先生方は、日ごろからタブレットを自由に使わせているそうです。子どもたちがやらかすこともあったそうですが、そのことで委縮せずに自分たちで使い方を考えさせるという方針で対応したそうです。そのことが、タブレットが子どもたちとって自然に使える道具になっている大きな要因だと思います。
タブレットの活用で子どもたちの考えが広がっているのを感じますが、授業としてはどこに着地させるのかが難しいところでした。授業者は無理にまとめようとせずに授業を終えました。先生の言葉でまとめなかったのは評価できますが、子どもたちの考えを焦点化できると子どもたちなりに考えをまとめることができたのではないかと思います。広げることと焦点化することの兼ね合いの難しさを感じました。一人一台のタブレット環境のよさと課題を知ることのできた授業でした。

この後私からは、この日見た授業についての簡単な講評と、タブレットの活用について、子どもたちとって「成長の道具」「表現の道具」「世界とつながる道具」という視点でお話させていただきました。

この学校ではタブレットの操作に慣れる時期は既に終わりつつあり、いろいろな使い方や工夫が見られるようになっています。今後、深い学びにつなげるための活用を学校全体で考えていくことが重要になってきます。そのためには、互いの授業を見合い、考えや工夫を共有することが大切です。今回の授業研究はそのよいきっかけだったと思います。
今後この学校でどのような活用がなされていくか楽しみです。
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