ベテランの前向きな姿に驚く(長文)

先月、私立の中学校高等学校で、ベテランの先生と懇談を行ってきました。

ベテランの先生を中心にICT活用を意識した授業公開を行っていただきましたが、その結果の報告や事前相談でした。
驚いたのは、これまでやや後ろ向きだと思っていたベテラン陣の多くがICTの活用を前向きにとらえていたことです。学校がよい方向へ変わるエネルギーを肌で感じることができました。

国語のベテランはワークシートをデジタル化して子どもたちに取り組ませています。自分が説明するのではなくワークシートの中に参考資料や必要な情報も組み込むことで、子どもたちが主体的に取り組めるように工夫しています。しかし、自分の考えを整理するページと資料のページが異なるため、資料を参照するたびにページを行き来しなければならないので、紙の方がいいのではないかと悩んでおられました。子どもの様子を見ているから気づくことだと思います。そこで、ワークシートの下段を余白にして、必要な情報を見ながら整理できるようにページ構成を変えてみてはどうかと提案しました。
次の放課に「これでどうでしょうか?」と改善したワークシートを見せに来てくれました。次の時間にこれでやってみると前向きな姿を見せていただいたことをとてもうれしく思いました。紙のワークシートであれば、修正後に印刷する時間も必要ですし、場合によっては事前に作ったものがムダになります。デジタルであれば修正するだけですぐ次の授業で利用することができます。ちょっとしてことですが、デジタルのよさを感じる場面でした。

理科の先生からはいろいろな実験を工夫している物理の授業の実践を報告していただきました。アプリを使うことで、iPadを実験のための道具として活用されていることが印象的でした。アプリを組み込むことでこういった活用ができる点もタブレットの魅力です。学校でアプリのインストールは管理していますが、お金がかからないようなものであれば、基本的にすぐ許可が出るようです。個々の先生の工夫や思いつきをできるだけ妨げないような使用ルールになっていることが、活用度が上がってくるために大切なことだと思いました。
魅力的な題材や面白い実験を工夫される力のある先生だからこそ、一歩進んで、子どもたち自身が疑問を持ち、課題を見つけ、実験等を通じて自ら解決するような授業を目指してほしいことをお願いしました。

もう一人の理科の先生からは、知識をもとに考えさせることを目指している、生物の授業について話していただけました。教師が最後にまとめや正解を提示してしまえば、子どもたちはそれを待ってしまうので、自分たちで結論づけることを意識しておられます。とてもよいことなのですが、子どもたちから明確に正解を示してもらえないと不安だという声が上がっていることにどう対応しようか悩まれているようでした。正解を先生が提示しない授業では、子どもたちが不安を訴えることはよくあることです。正解は自分たちでつくるものだということがわかってくるまでは、ある程度時間がかかります。まずは、子どもたちの考えを発表させたりタブレットで共有させたりしながら、先生の言葉ではなく、子どもたちの言葉でまとめる場面をつくることから始めるとよいと思います。また、その学習の最後に振り返りを書かせることも有効です。考えたことを自己評価することや、他の考えに触れて気づいたことを振り返ることで、自分たちで答を見つけることはどういうことか気づいていくと思います。焦らずに他の先生とも連携を取りながら、自分たちで答を見つける姿勢を、時間をかけて育ててほしいと思います。

保健体育の先生からは、子どもたちの演技をビデオ撮影して活用するダンスの授業の報告を受けました。子ども同士でビデオを撮らせ、それを見て自分たちの演技を修正するという授業です。漠然と演技を撮影するのではなく、演技をする前に意識することを宣言してからビデオを撮ると、演技を振り返るときの視点がシャープになります。また、撮影している者も演技を見る視点が明確になって、双方の学びが深まります。多くのことを意識することは難しいので毎回ポイントは絞り、短いサイクルで何度も振り返るようにすることをアドバイスしました。単元の最後のまとめとして、初期のダンスと最終のダンスを比較してみることも提案しました。これまでの過程と進歩したと思うこととをビデオをもとに振り返ることで成長をメタ認知できます。この提案に対して、撮影データは各自の端末に残っているので、早速やってみると言っていただけました。過去のデータがいつでも見ることができるデジタルのよさがこういった思いつきをすぐに実現させてくれます。
保健の授業でもICTが役に立っていると報告がありました。先生同士で授業の説明スライドを共有しているそうです。他の先生がつくったものを利用することや共同で一つのスライドをつくることで、授業準備の時間短縮にもなりますし、スライドを通じて先生方のかかわり合いが増えることにもつながります。いろいろな場面でICTが活用されていることをうれしく思います。

英語の先生からは、この学校で取り入れているGDM(教師が日本語で説明せずに、シチュエーションから英語を理解し話せるようにする指導法)に手ごたえを感じつつも、なかなか理解できない子どもたちにどう対応すればよいかという悩みを相談されました。
子どもが理解するタイミングには個人差があります。ライブ(シチュエーションを簡単な寸劇で見せる)の場面で理解できる子どももいれば、先生と対話することや最後のワークシートに取り組むことで理解する子どももいます。全員が一度に理解することを求めるのではなく、一人ひとりのペースを大切にすることが必要です。子どもたちの理解度によっては、予定している流れにこだわらず、直前のステップに戻ることや以前の学習活動を再度行うことも必要です。今理解できなくても、子ども自身が活動のどこかで理解できるタイミングが来ることを信じることができれば、集中力を切らしません。先生も子どもたちができるようになることを信じて取り組むことをお願いしました。また、その日の活動についてこられているのに、学習内容を整理して確認するワークシートが手につかない子どもも一定数いるようです。ワークシートでは棒で表わした人物を使った図でシチュエーションを表わし、そのシチュエーションを英文にします。ワークシートでつまずく子どもは、図からそのシチュエーションを読み取ることができないので手がつかないのだと思います。困っている子どもに対して、そのシチュエーションが授業のどの場面のことかをわかるようにちょっとライブを見せてみるといったことが有効だと思います。もちろん、子ども同士で聞き合うことが許されるのならばそれに越したことはありません。その際、答ではなく図のシチュエーションを聞くことを意識させておくことが大切です。
先生は、準備は大変だが、子どもたちが楽しそうにしていると頑張ろうという気持ちなるとおっしゃっていました。「自分楽しいと思わなければ子どもも楽しくない」と、自分が楽しく授業することを意識されていたことが素晴らしいと思いました。

もう一人の英語の先生もGDMの授業での悩みの相談でした。この先生は習熟度別の下位の子どもたちを担当していますが、先ほどの先生と似たことで悩んでおられました。ワークシートについては同様ですが、その他にも、英語をなかなか文にすることができずに、単語や句での表現になってしまう子どももいるようです。そのような時にはまず、笑顔を作り、部分肯定で子どもが言った言葉を繰り返してOKサインを出します。続く言葉を待ち、なかなか出てこなければ、その言葉につながる動作や物を見せて言葉を出しやすくするといったことが有効です。もし主語がなければ、主語にあたる人や物を指さして見せて子どもが言葉を紡ぐのを待つといったことをします。子どもが間違えた、失敗したと思わないようにしてあげることが大切です。子どもが困っているとどうしてもヒントを出したくなるのですが、しゃべるのではなく、待ったり、きっかけになるものを見せたりすることを意識するとよいでしょう。子ども同士に助け合わせることも大切です。困っている子どもを座らせてから他の子どもに発表させ、もう一度その子どもに言わせるという方法もあります。最後は言えたという状態にしてあげれば子どもは意欲を失いません。このようなことをアドバイスさせていただきました。

この日にあった英語の公開授業を見ることができました。演習とその解答確認の場面でした。
ほとんどの子どもたちはiPadの画面を立てて使用しています。そのほうが使いやすいのはわかるのですが、友だちの手元を覗きにくかったり、先生の説明の時に表情が見えにくくなったりすることが気になります。場合によっては画面を寝かすことがあってもよいと思います。
子どもの様子を見ようと教室の後ろから移動する先生が増えていることに、先生方の授業に対する意識の変化が現れてきているように感じました。一人一台のタブレットになったからこそ、一人ひとりの様子を見ることが大切になると思います。
私が見られなかった前半では、ペアで問題を交換して解く場面や、作業中に質問等があると先生をタブレットのボタンで呼ぶといった場面もあったようです。この学校での多様なICT活用の一端を知ることができました。
授業者は一人一台のタブレットの導入で自分の授業が変化しつつあると語ってくれました。以前より教師主導にならないように意識しているようです。一つひとつの活動が、子どもたちにつけたいと思う力につながっているかを意識して取り組むことをお願いしました。

数学の先生は、ICTのよさを熱く語ってくださいました。新型コロナウイルスの感染予防の休校の時に、他の先生がICTを活用するのを見て自分も試したところ、これは素晴らしいと気づいたそうです。目からうろこという言葉を何度も使われました。
問題を解く過程で子どもたちにかかせたグラフの一覧をiPadの画面で私に見せながら、授業での活用の様子を説明してくれました。「子どもの考えが一目でわかり、自分が選んだものをスクリーンに映すことで子どもの考えをもとに授業を進めることができる。黒板に書かせると時間がかかるので、自分が書いて説明していたが、タブレットを活用すれば子どもの考えをもとに進めることができ、しかも時間が短縮できる。こんな素晴らしいものはない」とうれしそうに話してくれました。これまで、説明や解説型の授業をしていたのは、時間の問題も大きかったようです。一人一台のタブレットによってその壁が取り払われたことで授業が変わり始めたのです。
タブレットはねらいによって使い方が変わりますし、逆にどう使おうか考えることでねらいがシャープになります。ICTの可能性に気づくことでこの先生の授業が進化していくことが感じられました。

この日は、懇談を通じてベテランの先生方のICT活用や授業改善への強い意欲を感じました。ベテランの先生が意識を変えると、これまで培った経験がベースにあるので授業が大きく進化することがよくあります。新型コロナウイルスによる休校と、今回のベテラン対象の授業公開がそのきっかけになったように思います。若手だけでなくベテランも前向きになってきたことはとても喜ぶべきことです。課題は、年齢や経験にかかわらず、変革に後ろ向きな方がまだ一定数いることです。その人たちをどうこうすることよりも、前を向いている方がどれだけ先に進めるかが大切だと思います。前向きなエネルギーが集まってきたことで、次年度以降、学校がより大きく進化すると確信しました。
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