教材研究が次の課題(長文)

小学校で授業アドバイスを行ってきました。全員の授業を少しずつ見て、学年ごとに個別にアドバイスをさせていただきました。

どの学級の子どもたちも落ち着いていて、先生方は授業で大きく困ることはないようでした。授業に困難がないため、改善の必要性を感じていない先生が多いように思いました。きつい言い方になりますが、教科の知識や教材研究の力が弱いため、授業で押さえるべきことが押さえられていないと感じる授業を多く目にしました。単元を通じたねらいや小学校6年間を貫く見方・考え方をもっと意識してほしいと思います。大学入学共通テストを見てもわかるように、小中高とつながる教科の見方・考え方が重要視されています。このことを意識して授業を組み立てることが求められているのだと思います。共通テストを全問きちんと解く必要はありませんが、共通テストがどのように変わったかを小学校の先生も自分の肌で感じてほしいと思います。

1年生の国語の授業では、カタカナの言葉を見つけて文をつくる場面でした。子どもたちが友だちの発言を聞くことを大切にするよう指導していることがよくわかります。声が小さい聞きづらい発言も、先生が言い直すのではなく他の子どもや全体で確認します。発言内容がよくわからなかった子どもも、何度も聞くことで次第に友だちが言っていることを理解していく様子が見られました。
作業の説明に対して、「質問がありますか?」とたずねると手を挙げて質問する子どもがいました。こういった場面では、なかなか聞けない子どもが多いのですが、質問者の様子から、どんな発言や質問も受け止めてもらえるという安心感があることを感じました。
また、子どもが発表した「カナダへいく」という文に対して、「だれが?」と問いかけて主語述語を意識させることが必要な気もします。しかし、授業者はあえてそうしなかったのだと思います。ハードルを上げずにまずは全員が何かしらの文をつくれるということを目指して活動が組み立てられていると感じたからです。「1年生なので多くを求めない」という引き算の発想に授業者の成長を感じました。

1年生の算数の授業では位取り記数法と数の関係を理解させる場面でした。3桁の数字が表す数を計算棒で表わすのですが、正解を黒板で発表させて「いいですか?」で終わってしまいました。問題の数字は115です。次の問題の数字103?(うろ覚えで失礼)でした。授業者はこの数字の意味とこの場面のねらいを意識する必要があります。1が2つ続いているのは同じ1でも位置によってあらわす数が違うことを意識させるためです。ですから数字の1を押さえて、どの計算棒と対応しているかを押さえる必要があります。10の位の1を押さえて、「これが2になったら何が増える?」と確認してもよいでしょう。次に10の位が0となっている数字を扱うのも、位取り記数法で位を表すのに0が重要な役割を果たすことを意識するためです。これが今後学習する筆算の学習にとても大切になってくるのです。
子どもが正解しているからといって正しく理解しているとは限りません。答ではなくその根拠や過程を大切にすることを意識してほしいと思います。そのためにも教材研究が重要なのです。

2年生の国語は漢字づくりの授業でした。2つの漢字を組み合わせた漢字を見つけることが課題です。授業者の指示に対して子どもたちが素早く動きます。子どもたちのよい行動を授業者はその場できちんとほめています。この姿勢が子どもたちの授業規律のよさにつながっているのだと思います。
この課題は学年進行にあわせて学習していく漢字の成り立ちにつながっています。そのことを意識した発問や問いかけが必要です。
子どもが発表した「木」と「一」で「本」など、漢字の「一」なのか、指事文字の構成要素としての「−」なのかよくわからないこともありますが、「き」と「いち」で「ほん」なんだねと確認することで、漢字の構成要素を意味のあるものとして捉えることが重要です。授業者は「止」と「少」で「歩」という発表に対して、「とまる」と「すくない」で「あるく」と漢字を読みましたが、構成する漢字を読んだのは「歩」だけだったのが残念でした。
3年生以降で学習する会意文字や形声文字(この用語は出てきませんが)を意識して、「人」と「木」で休むんだねとか、「木」と「交」は「き」と「まじわる」で「校(こう)」だね。「ぼく」と「こう」で「こう」とも読めるねというように、成り立ちの違いを教える必要はありませんが、子どもが同じ音に気づいて「あれっ」と思えるような一言があるとよいでしょう。

2年生の算数は1mの長さを測って実感する場面でした。授業者が子どもに発言させる場面をたくさん作っています。発言する子どもにみんなの方を向くように指示して、聞き手を意識させています。子どもが発言することを大切にしていることがよくわかります。しかし、聞き手に発言者の方を向くことは求めません。一人発言するとすぐに要約して自分で説明してしまいます。そのため、子どもが友だちの発言を集中して聞こうとはしません。あとから先生が説明してくれるので、友だちの発言を聞かなくても困らないからです。話すことだけではなく、聞くこともしっかりとできるようにすることを意識してほしいと思います。

3年生は 同じ指導案をもとに国語の授業を行っていました。学年の先生が一緒に指導案を考えることはとてもよいことです。この学年以外にも多くの学年が一緒に指導案を考えていました。この学校のよいところです。
授業は伝えることを意識して文章を書くことが課題です。子どもたち同士で文章を読み合って、ここがもっと知りたい、こうやればよかったということを付箋に貼り合い、それを参考に文章をブラッシュアップするのです。
しかし、子どもたちの意欲が今一つ高まりせん。先生方は面談した際、そのことを反省点として挙げられました。そこで、文章を書く時に何を意識して書くかを問いかけました。少し考えてから、「伝えたいこと」答えると自分でその原因に気づかれました。テーマはあるが、この文章で伝えたいことは何かという目的を意識させていなかったので、活動のエネルギーが高まらなかったのです。
また、ペアの相手に「もっとこうやればよかった」ということを書かせましたが、そうするとネガティブなことがたくさん集まってきます。そうではなく、いいなと思ったところ、参考にしたいと思ったところを書かせ、それを教室全体で共有、整理してからブラッシュアップの作業に入ればよかったのです。ポジティブで授業を構成するという発想を大切にしてもらいたいと思います。

4年生の理科の授業は水の凝固の学習でした。授業者はていねいに子どもの言葉を拾うことができます。発言を否定せずにしっかりと受容できるので子どもたちの発言意欲も旺盛です。しかし、子どもたちの発言を受容するだけで、切り返しながら焦点化することができません。氷はどうすればつくれるという発問に対して「冷たくする」という発言がでます。それに対して「なるほど」受容して次の子どもに聞きます。これを繰り返しても、どんどん拡散するばかりです。「今外は冷たいけど、外に置いとけば氷になる?」「冷たいってどのくらい?」といった切り返しが必要です。この授業で求められる理科的な視点は何だろう、そして、それをどうやって持たせるとよいのかといったことを考えておくことが必要です。初任者ですが、子どもとの関係づくりといった基本しっかりとできています。次は、教材研究の視点を身につけることを意識してほしいと思います。自分一人で考えるのではなく、まわりの先生方に気軽に相談できるとよいと思います。

4年生の算数の授業は、表を使って決まりを見つける発展的な課題の授業でした。正方形を階段状に積み重ねた時の段数とまわりの長さの関係を、表を使って見つけるのが主な活動です。授業者は自分で授業が上手くいかなかった理由をよくわかっていました。授業者は段数、まわりの長さを確認し、表を書く時のポイントも押さえていました。しかし、図から段数とまわりの長さをこれだねと確認しただけでした。そのため表を埋められない子どもがたくさんいたのです。簡単な確認だけで問題把握ができるわけではありません。授業者は個人追究が始まってからそのことに気づいたようです。全体で1段、2段の場合の表をていねいに埋めて何を聞かれているのかがわかるような活動が必要だったのです。
しかし、この授業者はそのことに自分で気づけているので心配ありません。上手くいかないことを修正していけば自然に授業はうまくなります。子どもの実態を見ようとする先生なので、今後の成長が楽しみです。

5年生の社会は情報について考える授業でした。前回一人一台のタブレットを使って調べたことの共有をしようとして上手くいかなかった先生の授業です。一人一台のタブレットを使った授業に再チャレンジしてくれました。その姿勢が素晴らしいと思います。授業は最後の10分ほどを見たのですが、ちょうど面白い場面でした。インターネットを活用しながら教科書の内容を一通り終えた後でした。
「日本の人口は何人?」と問いかけました。子どもたちに数分の時間を与えて、調べさせます。シンプルな問いで、子どもたちに得た情報をどう整理し活用するのかを考えさせるよい展開です。子どもたちが調べ終わると、何人かに発表させます。同じようにインターネットで調べたのに、発表者によって数字が異なります。子どもたちが「えっ」と驚きました。そこで我が意を得たとばかり授業者が、「どれが正しいの?」と聞きながら何を調べたのか確認していきます。予定通り違った答がでてきて授業者としては上手くいったのですが、時間が残り少なく、結局結論は授業者が「いつの資料であるとか、複数の資料を比較して調べることが大切」とまとめていきます。せっかく子どもたちが疑問を持ったのですから、それを自分たちで解消するための時間をとりたいところでした。
全員が日本の人口をインターネットで探し終えるのを待っていると、時間がかかりすぎてすぐに見つけた子どもがだれてしまいます。「日本の人口がわかった人?」と全体に問いかけ、すぐに見つけた子どもに答えさせ、続けて何人かテンポよく答えさせます。違う答が出てきたところで、「えっ?どっちが正しいの?」と揺さぶります。「答がいくつもあるけどどういうこと?ちょっとグループでどれが正しいのか相談して」と子どもたちが考える場面を作れるとよいと思います。最後のまとめは子どもたちの言葉で進めたいところです。何を子どもたちに考えさせたいのかを中心にして授業のデザインをすることが大切です。
とはいえ、前回から一皮むけた授業に変化していました。進歩したからこそ、次の課題が見えてきます。若い先生の進化していく様子を見せていただくのはとても楽しいことです。

5年生の国語は複合語の学習です。複合語を辞書から見つけて、成り立ちを考える授業でした。授業者はどのパターンかを考えることに力を入れていましたが、複合語をつくることで言葉や概念を広げていく日本語の特性についてもう少し深く考えさせたいところでした。子どもたちとのやり取りはできるので、次は何を考えさせるのか、何を焦点化させるのが問われてきます。複合語を通じて何を考えさせるのか、べきなのかを深く教材研究することが求められます。授業の基礎的なスキルが身に付いてくると必ず行き当たるのが教材研究の壁です。特に小学校は多くの教科を一人で受け持つのでとても大変です。先生同士が学び合うことが大切になります。学校の中にそういった空気を醸成することがこれからの管理職には一層求められると思います。

6年生は同じ単元の保健の授業を学年として見せてくれました。飲酒がテーマですが、どちらも授業者の個性が感じられる面白いものでした。一言で言うと動の授業と静の授業です。スクリーンにイラストを映しながら子どもたちと対話でキャッチボールをしながら、飲酒でどのようなことが人の体に起こるのかを伝える授業と教科書をじっくりと読んで、子どもたちの反応を見ながら内容を説明していく授業です。子どもたちに知識を教えるという意味では、どちらが正解と言うことはありません。どちらの授業でも、子どもたちは飲酒についての知識は得たと思います。問題は、この授業を通じて子どもたちにどうなってほしいのか、何を考えてほしいのかです。子どもたちはお酒を飲むことはできません。そこに飲酒の害をいくら伝えても、実感はないでしょう。将来、お酒と節度ある接し方をするようになってほしいといったことを意識した授業構成にするとよいでしょう。ある程度知識を与えた後、「そもそもそんな害があるのになぜ大人は飲酒するの?」といった発問から授業を展開していくと面白いかもしれません。「お酒には魅力がある、じゃあその魅力におぼれないためにどういうことが大切なんだろう」と考えることが、将来に生きてくると思います。
一つひとつの授業の先には「どんな子どもを育てる?社会人を育てる?」があることを忘れないでほしいと思います。

特別支援学級では、タブレットを使った授業がありました。授業者は子どもたちを受容しながら丁寧に授業を進めることができるようになっています。しかし、この日はタブレットから手を離せなくなっている子どもがいたりして、余裕がなくなっていたようです。そのため、注意する口調が強くなり、注意された子どもがタブレットから手を離しても、いつものようにそのことを認めたり、ほめたりできませんでした。特別支援に限らず、教室ではストレスのかかる事態がよく発生します。そのときに、余裕を持てないと本来持っている自分の力やよさを発揮することができません。困った時、苦しい時ほど無理にでも笑顔をつくって余裕を持つことが必要です。そのために、意識的に笑顔をつくる訓練が必要なのです。このことをお伝えしました。

特別支援学級の道徳の授業は「はしのうえのおおかみ」でした。登場人物の気持ちを読み取ることが中心になっていましたが、それでは他人事になってしまいます。「威張ると気持ちがよい」というおおかみの持つ自己顕示欲や自己中心的な気持ちは誰にでもあるものです。子ども自身がその気持ちに共感していくことで、その後のおおかみの気持ちの変化を自分のこととして考えることができます。自分の気持ちのコントロールが難しい子どももいますので、他人事でなく自分のこととして考えられるような展開を工夫してほしいと思います。

3学期は学級がほぼ完成された時期です。だからこそ、教材研究の深さがよく見える時期でもあります。今回は先生方の教材研究が課題としてはっきりと見えてきました。新年度になると学級づくりに追われ、他のことを考える余裕がなくなります。学級づくりは最初の1月でほぼ終えることを目指し、できるだけ早く教材研究に力を注ぐことができる状況をつくることが大切です。学級づくりはどの先生もしっかりとできるようになっています。次の段階に進むためには、素早く学級づくりを終えて教科の内容を充実させることが重要です。来年度に期待したいと思います。
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