研究授業で考える

中学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は、理科の研究授業と1、2年生の授業を中心に参観しました。

2年生は授業中の場面によって見せる姿が異なっていました。グループなどの友だちとかかわりながら作業をする場面では、明るい表情が多く見られます。ところが全体で先生の話を聞く場面では表情に乏しく、授業に向かうエネルギーを感じられないのです。挙手もほとんどしません。先生の指示にはもちろんきちんと従いますし、板書などもちゃんと写します。生徒会活動などには例年以上に積極的に取り組む姿が見られるという話とその姿が矛盾しているようにも感じました。積極的な子どもたちとそうでない子どもたちとに分かれてきているのかもしれません。間違った発言をして恥をかくことを恐れていることも考えられます。授業者の顔色を読んで注意されないような行動をしているようにも見えます。授業者が意図しているわけではないでしょうが、子どもたちは先生のコントロールから外れないようにしているようです。
いずれにしても、全体の場で子どもたちに安心して自分の考えを言えるようにする必要があります。そのためには、「答は?」と正解を求めるのではなく、「どんなふうに考えた?」「何をした?」というように過程を問うとよいでしょう。答を発表させるにしても、「どうなった?」というように聞くことで、正解を求めている雰囲気を排除するような工夫が求められます。グループやペア活動の後であれば、「どんなことを話した?」と基本的に誰でも答えられ、正解や不正解と判断される心配のないような聞き方がよいでしょう。どんなな発言も受容されることで、教室に安心感を広げることを意識してほしいと思います。子どもたちが授業中のどんな場面でも、のびのびと明るい表情で活動できるようになることを目指すようお願いしました。

1年生は前回の訪問時と比べると、落ち着いてきているように感じました。この間、学年の先生方が授業規律を意識してきた結果だと思います。授業者の話を集中して聞ける場面が増えていました。その一方で子どもたちは全体として受け身の姿勢がまだ強いようです。授業者が指示したこと、意識していることはできるのですが、自分からは動くことはしません。ワークシートを埋めてしまえば、余計なことはせずじっとして時間をつぶしています。授業者からの指示がなければ、困っていても自分からまわりと相談しようとはしません。例年であれば授業以外の行事等を通じて自分たちで考え行動する力を育てることができるのですが、今年は行事がほとんど潰れてしまい、そのような機会がありません。先生方は授業では子どもたちが指示に従えるようになっていることでよしとして、それ以上を求めていないように思います。授業で子どもの自主性を積極的に育てる必要があります。よい行動を促し、その行動を価値付け、強化し、意識して子どもたちを目指す姿に近づけるようにほしいと思います。2年生時でクリアすべき課題になると思いますが、今からこのことを意識した指導を続けることで、4月からの子どもたちの成長が期待できます。このことを学年の先生にお願いしました。

研究授業は2年生の理科の電気のまとめの段階の授業でした。次年度以降の一人一台タブレット環境を意識したものです。
一人一台にしたかったのですが、Wi-Fi環境が悪いため二人一台での実施となりました。タブレットの数が揃っても、ネット環境が整わず思うように使えないという嘆きをよく聞きます。早く環境が整うことを願っています。
授業者は、教科書通りの結論が見えている課題ではなく、子どもたちが「あれっ」と疑問を持つような課題で主体性を引き出すことねらいました。静電気や電磁誘導などの過去の実験で使った道具を用意し、これらを使って豆電球を点灯させるというのが課題です。「学んだことを使って」と提示しますが、ここで意識したいのが、「学んだこと」をどのように扱うかです。子どもたちが学んだことを覚えていて使える状態にあることが課題に取り組むための前提であれば、どのようなことを学んだのかを思い出す場面を作って全員の足場をそろえることが必要です。課題の解決を通じて学んだことを思い出させ定着させるのをねらうのであれば、解決の場面で学んだことをしっかりと整理・確認する場面が必要となります。今回の授業では、どんなことを学んだかを最初に確認しなかったので、解決方法を全体で発表する段階で整理・確認することが求められます。
ペアでどのようにするかを相談してタブレットのアプリケーションのカードに書き込みます。相談はするのですが、その時に教科書やノートを調べている子どもがほとんどいないことが気になりました。それだけ知識が定着しているのかもしれませんが、どうだったのでしょうか。子どもたちがタブレットで書いた方法をスクリーンで共有します。書けなかった子どもにどれがよさそうか問いかけます。しかし、20枚近くのカードをすぐに読むことはできません。指名された子どもは困りながらあせってカードを選びました。静電気を起こして点灯させるというものです。授業者はその理由を問いかけますが、この短い時間では明確に答えることは難しいでしょう。一人一台というとすぐに共有することを考えますが、実際にはそれほど簡単なことではないのです。逆に言えばこういった研究授業でこのことを参加者が実感することはとても意味のあることです。このことだけでもICT活用に挑戦した意味があります。
授業者はそのカードを書いた子どもに理由を説明させ、前に出てきて実験させます。もちろん点灯しません。そこで、他のカードを再び選ばせます。今度は磁石をコイルの中で動かし電磁誘導を起こすという方法です。同様に説明させてから実験しますが、これも点灯はしません。授業者の思惑通り子どもたちは失敗します。電気が流れるという点ではどれも間違いではありません。学んだことを活かしています。授業としては学んだことをきちんと整理・確認して押さえることが必要です。その上で、なぜ点灯しないかを考えさせることをしないと、単なる導入になってしまいます。導入とするには時間をかけすぎていました。
しかし授業者は、すぐに正解となる道具を教えました。実は道具を示す写真の片隅に電動歯ブラシの充電器が映っていました。これを使うと豆電球が点灯すると言って説明を始めます。子どもたちはなんだかだまされた様な気分になったのではないでしょうか。そもそも充電器の構造は外からわかりません。もし気づいても子どもたちには考えようがありません。充電器の上にコイルを載せて豆電球を点灯させますが、結局、充電器の中にコイルが入っていることや、家庭用のコンセントから流れる電流が交流であることを先生が説明し、それを基に理由を考えるように指示します。この展開であれば、前半は全くと言っていいほど意味がありません。
何人かの子どもに点灯する理由を発表させて、他の子どもに納得させようとしますが、口頭での説明で理解するのは難しいでしょう。ここまで子どもたちは磁石による磁界の変化でしか電磁誘導を理解していません。交流を流したときコイルの磁界がどう変化するのか、磁石と比較しながら図などを使って考える必要あったと思います。しかし、そのためには時間があまりにも足りません。前半の課題か後半の課題に絞って1時間の授業をつくるとよかったと思います。
前半を中心にするのであれば、実験道具を最初から与えて自由にやらせてみて、「おかしい」「上手くいかない」と困らせてから、子どもたちに「電気は流れているの?どうなの?流れているならどうして点灯しないの?」と揺さぶるとよいでしょう。静電気が弱いからダメだといったことを言えば、バンデングラフで高電圧を作ってみせるのも面白いでしょう。電磁誘導であれば、磁石を高速で動かす実験ができるといいでしょう。手回しで上下動するクランクがあれば可能かもしれません。その上で、充電器の説明は交流を使うことが磁石を動かす代わりになっていると説明して、実演するくらいでよいと思います。
後半を中心にするのであれば、充電器の構造を説明し、最初は交流を使わずに実験させるとよいと思います。直流では磁石になることを確認してからどうするのかを考えるのです。電流の向きを変えると磁界が反転することから、すばやく電流の向きを変えるという答に気づいてくれるのではないでしょうか。
子どもたちが考えるためには、その足場となる知識が必要です。前半部分では電流がたくさん流れないと豆電球は点灯しないということ。後半部分では交流とコイルで磁界が変化することです。こういった考えるための足場となる知識をどのように獲得させるかを考えることが授業の設計には必要です。
授業者は、以前と比べて子どもたちの言葉を大切にしようとする姿勢が感じられました。子どもたちの主体性を持たせようと工夫もしていました。確実に進歩しています。今回は何を考えさせたいのかが絞り切れていなかったため、時間が足りず考えを深めることができませんでした。次へのよい学びになったと思います。

来年度もこの学校へおじゃますることになりました。新学習指導要領の実施と一人一台のタブレット導入、それに加えて新型コロナウイルス対応と課題は山積みです。先生方と一緒に考えながら、時代の変化に対応していきたいと思っています。
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