授業研究と事例発表会に参加

先日、私立の中学校高等学校の授業研究とICT活用の事例発表会に参加しました。今回の公開授業はどれも高等学校でした。

3年生の英語の授業は、成長というテーマでのプレゼンの発表でした。言葉だけでなくスライドの表現や動きを工夫して、とてもわかりやすく楽しめる発表でした。発表者が会場とやりとりをする場面もたくさんあり、発表者も聞いている子どもたちもどちらもとても楽しそうにしていたことが印象的でした。この素晴らしい発表と一体感を生み出した要因の一つに、本番の発表までに何度か中間発表を行い、そこで友だちからコメントもらってブラッシュアップしていることがあると思います。1学年2学級のコースなので3年間で率直に意見を伝え、それを受け入れる関係ができています。自分たちの意見がどのように反映されブラッシュアップされているのか興味を持って見ているので、より一体感が増すのでしょう。
2組の発表を見ましたが、どちらの子どもたちも個性的で素晴らしい表現力を持っていると感心しました。おそらくこの2組がたまたま素晴らしいのではなく、教室の雰囲気からどの子どもたちもこのレベルに育っていると感じました。3年間の積み重ねの成果でしょう。今までの学校教育ではなかなか付けることができない力をつけていることが素晴らしいと思いました。

1年生の数学は、ICTを活用して場合の数の問題を解決する授業でした。課題に対して思ったことをデジタルのワークシートに書かせ、それを基にグループで話し合うものでした。このコースでは他の教科でもグループで意見を交換することをよく行っているので、子どもたちはこういった活動に自然に取り組みます。グループ活動が活発になることで、面白い意見や考えを取り上げて全体で共有して深めていくことが次の課題となります。指名された子どもが考えを発表するのですが、発表者は先生に理解してもらおうとして前に向かって話します。他の子どもは発表者が書いたものを手元のタブレットで見ながら聞いていますが、その様子からは発表を理解しようとする意欲はあまり感じませんでした。グループではコミュニケーションをとれる子どもたちなので、この場面は先生と発表者の二人だけの時間だと思って積極的にかかわろうとしなかったのだと思います。ここは、先生にではなく学級のみんなに伝えることを意識させることが大切です。発表を聞くことを意識させ、発表に対していつも反応を求めることが必要です。慣れないうちは、自分の考えをスクリーンに映して、前に立って説明させることも必要かもしれません。授業者が中継点となって子ども同士をつなぐことを大切にしてほしいと思います。

1年生の国語は小説の授業でした。タブレットに配布したワークシートを基に子どもたちが6人グループで作業をしますが、相談する姿はあまり見られません。また、隣との会話がグループ全体に広がることもありませんでした。課題が予め準備されているので、子どもたちは授業者の求める答を探しています。それを助長するのが、授業者の与える情報(ヒント?)です。これがあるため余計に授業者の求めるものは何かと子どもたちが考えてしまうのです。登場人物の感情や考え、行動に対して子どもたちが疑問を持ったり感じたりしたことを出し合い、そこから授業の課題をつくり出すことをしてほしいと思います。

1年生の社会科は、税金に関する課題に対しICTを活用して考えを共有する場面でした。スクリーンに全員の書いたものを映していましたが、小さすぎて読むことはできません。これはあまり意味のあることではありません。もし全体の考えの傾向をつかむのであれば、文字の色や背景の色を立場によって変えるとよいでしょう。そうすれば全体を映すことで傾向を見ることができます。
子どもたちは友だちの書いたものを一つひとつ自分のタブレットで見ていますが、その間授業者はぼそぼそとコメントをしています。子どもたちの集中を妨げるだけで、聞き取ることはできません。聞かせるべきことであれば、ちゃんと作業を止めてから話すべきでしょう。また、共有を個人作業にするのではなく、全体の場でどう行うかが課題です。この授業に限らずICTを活用した授業では「共有幻想」と名付けたくなる共通の課題があります。ICTを使えば全員の意見を共有することができるという幻想です。たとえ全員が考えを書いたとしても、それを一つひとつ見る時間は取れません。どう焦点化していくかの手法が求められるのです。似た考えをまとめていったり、考えにタイトルをつけてそれを共有したりといった工夫が必要なのです。当面は過渡期だと思います。今後この課題に対してどのようなノウハウが溜まっていくか楽しみにしています。

体育の授業はバドミントンでした。子どもたちがペアで打ち合っていますが、互いにアドバイスする声がこえないので何を意識して活動しているのかが見ていてよくわかりませんでした。ラケットを打ちにくい面を使って打ち返そうとしている子どもがいますが、まわりの子どもたちは余裕がないのかアドバイスすることができていません。また、飛んでくるシャトルをどの位置でむかえればいいのかが意識できていない子どもが多いようです。足が動いていないと言ってもよいでしょう。子どもたちは一生懸命に取り組んでいるので、この活動でクリアしたい課題を意識させ、そのために何に注意するとよいのかを明確にしてあげるとよいと思います。
印象的だったのが、子どもたちが振り返りをタブレットで入力する場面です。壁際の机に置いてある自分のタブレットを素早く見つけて、すぐに入力します。体育館はまだWi-Fiが上手く入らないので、提出は教室等に移動してからですが、そのことを含めて子どもたちは何のストレスもなく作業していきます。タブレットが文房具として日常化されているのを感じました。この学校ではタブレットは貸与の形をとっていますが、リースで3年間自分のものとして使えます。そのため、自分の好きなカバーを使ったり、シールを貼ったりしているので、どれ一つとして同じものがありません。自分のものという意識が強くなるので大切に使ことにつながります。そして、今回のように一か所に集めておいて取りに行くような場面では、すぐに自分の物を見つけることができます。これから一人一台を導入する学校では、タブレットをどのように区別できるようにするのかも考えることが必要でしょう。

午後からはICT活用の事例発表会がありました。想定より多くの参加者があり、関心の高さがうかがえました。主催者としては授業を中心とした活用のこれまでの取り組みを中心にお伝えしたかったのですが、これから本格的に導入を考えている学校の参加者からは、管理や運用面のことを知りたいという要望が多かったようです。そのため、前半は間口の広い話となり、授業での活用の話に深く入れませんでした。その中でも、高校1年生の生徒による自分たちのICTを活用した学びについての発表が圧巻でした。主に中学校時代の授業の様子を中心にした発表でしたが、内容以上に堂々とした発表態度と整理されたスライドの内容が素晴らしいものでした。要点を3つに絞って伝えるといったプレゼンの基本がしっかりと指導されてきていますが、型にはまったものではなく大人でもなかなかできないレベルの個性あるものでした。この子どもの姿がICTを取り入れた一番の成果だと言えます。このレベルの発表ができる子どもがかなり育っているという先生の誇らしげな言葉が印象的でした。
後半は3部制で、導入や環境整備、管理についての発表と自ら発表を希望した先生による授業や部活動での活用の紹介でした。若手を中心に多くの先生が自主的に発表されたことが素晴らしいと思います。学校で使い方を決めて強制するのではなく、各自で主体的に工夫して使っていることが素晴らしいと参加者から評価されていました。公立では異動があるため、学校としての使い方を決めていかないとなかなか活用は進みません。一方私立では先生方の多くはその学校にずっと務めるわけですから、活用することから逃げるわけにはいきません。学校としての方向性を明確にして先生方の意識を変えていくことができれば、主体的、継続的に取り組んでいただけます。私立の特性を活かしたマネジメントがされていると感じました。
この発表会の運営面でも仕事を強制的に割り振らずに進めたそうですが、人手が足りないことを伝えると、学期末の忙しい時期にもかかわらず多くの先生が自主的に手伝ってくださったそうです。こういったイベントを通じて先生方がチームとして育ってきていることを感じます。

ある先生から面白い報告を受けました。
学び合いや出力型の授業に対して批判的で、受験に対応した従来の知識主体の授業を望んでいる生徒が一部にいたそうです。共通テストでの記述式や英語の民間試験の導入が中止された時には、これから大切にしなければいけないと先生方が言っていた記述力や発信力は意味がなかったじゃないかと批判した生徒もいたそうです。しかし、そういった生徒も自己推薦やAO入試での面接や自己アピールを経験したあとで、今まで学んだ発表の力が役に立ったと素直に認めたそうです。小論文でも、要点の整理の仕方、まとめ方を学んでいたので簡単に対応できたと自慢げに報告してくる生徒もいたそうです。あれだけ反発していたのにと先生が苦笑していました。
新しい取り組みに対しての子どもたちからの反発に自信を失くす先生もいるかもしれません。子どもたちは、どうしても目先のことにとらわれてしまいます。大学入試でも受験生に求める力は確実に変わってきていますが、そのことになかなか気づけません。今学んでいることの価値に受験の時に気づければ、まだ早いほうなのかもしれません。大学入学後、いや社会人になってから気づくのがやっとかもしれません。先生方もあせらずいつか子どもたちが気づいてくれるはずだと信じて、自信をもって新しいことに取り組んでほしいと思います。

学校全体としていろいろな面で前向きに取り組む先生が増えてきています。しかし、残念ながらなかなか変われない先生、子どもたちが落ち着いている現状に甘えて以前の姿に戻ってしまっている先生も少なからず存在します。新型コロナウイルスによる変化は元に戻ることはないと思います。他の学校よりも一歩先に進んでいるからこそ、その歩みを止めずに、これからの学校のあるべき姿を模索し、その過程を多くの学校にむけて発信していってほしいと思います。
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