WITHコロナの授業の課題を感じる

昨年まで2年間授業アドバイスをさせていただいた中学校の校長より、子どもたちの様子を見てほしいとの依頼がありました。授業の様子が気になっているようです。

訪問して校長のお話を聞いた後、子どもたちの様子を見せていただきました。
子どもたちからは新型コロナウイルスの影響をあまり感じませんでした。グループ活動をさせれば、感染を怖がることもなくちゃんとかかわることができます。どの教室も落ち着いています。しかし、学校全体の雰囲気はどうにもピリッとしません。一言で言うと「ゆるい」のです。このことは、この学校にかかわらず新型コロナウイルスによる休校後に訪問した学校に共通するように思います。おそらく、授業の遅れを取り戻すことを優先して、子どもに考えることを迫ったり、深く追求することを求めたりしなくなったのではないかと思います。グループ活動にしても形だけで、求める答がでれば授業を先に進めるためにすぐに先生が自分で説明してまとめています。
ある授業でのことです。グループで相談した後、一人の子どもを指名して前で説明させました。その説明が終われば、そのあとすぐに子ども同士でこの説明について互いに確認させます。しかし、これでは子どもが先生の代わりになっただけで、先生の説明を聞いて理解しなさいと言っているのと変わりません。説明を途中で止めて、「どうしてこう考えたのかわかる?」「この後どう考えたと思う?」と他の子どもとつないで続きは各自で考えさせるとか、「同じように考えた人?」「ちょっと違うという人?」と聞きながら、考えを広げるといったことが必要です。一番の問題はこのような授業の進め方をすると先生も子どももとても楽なことです。子どもたちは取り敢えず話し合えばよいだけで、深く考えることを求められません。極論すれば、雑談していても答えは後から説明されるのでそれを聞くか黒板のまとめを写せば困らないのです。
2学期の終わりの時点で授業の進度はほぼ例年に追いついているようです。しかし、一度楽をしてしまうと先生も子どももなかなか元には戻れません。
子どもたちに深く考えさせるためには課題が重要です。そのような課題を考え準備するのは大変です。また、グループ活動に頼らず子ども同士をつなぎ考えを深めるためには、先生が中継役となって対話をうながす技術が必要です。この市では、小学校から一貫して学び合うことを重視し、子どもたちにグループで話し合う力をつけています。そのため、中学校の先生方は子どもたちの力を頼りにしたグループ活動を行って、自分で子ども同士をつなぐ技術を身につけていなかったようです。そのことが新型コロナウイルスの影響で露呈したように思います。

校長はこのことに気づいていたのですが、あまりに先生方に危機感がないことに不安を感じ、私が同様に感じるのかを聞きたかったようです。先生方は、「子どもたちは落ち着いていて、授業もちゃんと進んでいる」と問題を感じていないのです。この状態が続けば、子どもたちは自分たちで考えを深める意欲を失くしていくかもしれません。形式的な話し合いと受け身な姿勢になってしまうことが危惧されます。
ではどうすれば先生方の意識が変わるかと問われると、私にも明確な答はありません。校長といろいろな視点で話をしながら、人の意識を変えることの難しさを感じました。学び合いをどうすれば実現できるかと悪戦苦闘された先生方の努力の結果、今の授業の基本のスタイルがあり、子どもたちの姿があります。しかしいつの間にか結果としての形だけが残り、なぜこのようなスタイルをとっているのか、そこにどんな願いがあるのか、どこがポイントなのかといったことが継承されていないように思います。そのため、一度崩れたものを立て直す力がなくなっているようです。新型コロナウイルスがその問題をあぶりだしたように思います。

一朝一夕で解決する問題ではありませんが、そのことに校長が気づいているだけまだよいのかもしれません。高等学校で大学進学率が急激に上がった時に、「受験に出る」という言葉で子どもたちをコントロールするという楽を覚えた結果、先生方の授業力が低下したと言われたことを思い出しました。大学全入時代になっても以前と同じ知識の切り売りを続けて変わろうとしない先生がたくさんいるのです。
新型コロナウイルスの影響を乗り越えて、学校が前に進むことを願っています。
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