どのような授業を目指すのかを相談

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は12月に研究授業を行う先生方との事前相談を中心に行いました。目指す授業や子どもの姿、困っていることなどをお聞きしました。

この学校へ来て日の浅い若手の先生は、以前勤務していた学校との違いから、子どもたちとのかかわり方を模索しているようです。子どもたちがおとなしく、こちらからの言葉に反応してくれないのでどうすればよいかを考えていました。私からは、子どもたちに反応を求め、ちょっとした反応もポジティブにとらえることをお話ししました。「反応してくれたね、ありがとう」とIメッセージを使い、安心して自分の気持ちや考えを外化できる雰囲気をつくるのです。また、答や結論ではなく、困ったことや考えの過程を問うことも大切です。正解・不正解を判定されるような質問に対しては自信がないと答えづらくなるからです。新型コロナウイルス対策で子どもとの関係をつくりづらくなっているので、特に意識することが必要だと思います。

知識をもとに考える力をつけたいと話してくれる先生がいました。しかし、話をうかがっていると、知識をもとに先生の求める答にたどり着いてほしいという授業になっているように感じました。先生の提示する質問に子どもたちが答えるという図式からは逃れられていないようでした。主体性を意識して、まず、子どもたちが疑問を持つことを大切にしてほしいとお伝えしたのですが、子どもたちの疑問が広がったり、自分が答えられない疑問だったりしたらどうしようと、戸惑われました。気持ちはよくわかりますが、すべての疑問を授業で取り上げる必要もなければ、先生がすべてを答える必要もありません。個人の課題としてプライベートで追究したり、先生が子どもと一緒に疑問に取り組んだりすればよいのです。正解のない問題に取り組むことの経験はこれからの時代を生き抜くためには重要です。授業に対する考え方を少し広げていただければと思います。

子どもたちと積極的にかかわりながら授業を進めたいと語ってくれる先生がいらっしゃいました。とてもよいことだと思います。ただ反応を求めるだけでは子どもとのかかわりはつくれません。最初の方へのアドバイス同様、子どもたちが答えやすい質問や、反応をポジティブに評価し、かかわり合う雰囲気をつくっていくことが必要です。気をつけてほしいのが、新型コロナウイルスの影響で子ども同士を直接かかわらせなくなっているので、反応する子どもと先生だけとのかかわりになりやすいことです。「○○さんの考えになるほどと思った人?」と他の子どもに反応を求めたり、反応しない子どもにも「○○さんの意見をどう思う?」と積極的に指名したりして、先生が仲介者となって意図的にかかわりをつくることが大切です。自分が子どもとかかわることだけで満足せず、子ども同士がかかわることを意識してほしいと思います。

子どもたちの考えを深める授業を新しくつくりだしたいと考える先生もいらっしゃいました。SDGsからテーマを選び、その問題を考える視点をいくつも示し、それを参考に子どもたちに自由な視点で追究させるというものです。考えを深めさせるために、同じ課題を異なる視点で追究した子どもたちを一つのグループにして互いの考えを持ち寄り、最終的に一つの発表にするという活動を考えられていました。調べたことをもとに考えを発表させても、ネットで拾い集めた情報をまとめただけの浅いものになりがちです。そこからもう一段考えを深めるためのプロセスを考えているのは素晴らしいと思います。
また、今実施している1年生の授業では、自由に制作をさせているそうですが、先生も驚くほど質の高いものをつくるグループもあったようです。その作品をみせていただきました。オリジナルの物語をパステル調の絵柄のデジタル絵本にしたものですが、自分たちで英語のナレーションと字幕を付け、BGMも入っています。10分以上の力作です。ちらっと見せていただくつもりが最後まで引き込まれてしまいました。もちろんこのような素晴らしい作品ばかりではないでしょうが、子どもたちの可能性を見せていただきました。多様な課題や活動の場を設定することで、子どもたちが自分の個性を発揮する機会が増えると思います。先生方がどの子どもにも活躍する機会を与えることを意識されることを願っています。この先生には今回の作品に示されるような子どもたちの素晴らしさを他の子どもたちや先生、保護者に紹介していただくようお願いしました。

他校で経験をしっかりと積んでいる先生は、この学校のやり方となじめているか心配していましたが、うまく順応しているようで安心しました。12月の研究授業では、子どもたちの活動量と技術面の向上とのバランスを工夫した授業を見せてくれそうです。
一緒に教育実習生の授業を見学して、改善すべき点について意見を交換しましたが、明確にポイントを押さえておられました。また、自分から申し出て一緒にこの授業を見学した他の教科の先生も、授業規律に関して非常によい視点でコメントしてくれました。若手ですが、授業見るたびに成長している方です。授業規律や子どもとのかかわり方をしっかり意識して取り組んでおられるので、この視点で授業を見る目が育っているのでしょう。

空いた時間に何人かの先生とお話ししました。その中で話題になったことでこの学校でこれから考えるべきだと感じたことに、知識の習得のための時間と子どもたちが課題解決に取り組む時間とのバランスの問題がありました。課題解決のためには知識が必要です。課題解決の過程で必要と感じることで、子どもたちが知識を習得していくことは期待できますが、基本となる知識はきちんと身につけることが必要です。ただ、授業で知識の習得を全員一律に徹底しようとすると、時間がかかりすぎます。お話をうかがった先生は、課題解決の時間を多くとるため、教科書の内容の解説をいくつかの短い動画にして、知識面の理解で困っている子どもが自由に見て学習できるようにされているそうです。子ども自身で必要に応じて動画を見て学習する方法はこれから普及してくると思います。こういったコンテンツが増えてくれば、授業のあり方も大きく変わってきます。子どもたちが自分に合った学び方を自分で選ぶ時代が近づいてきているのを感じます。このような考え方を学校の先生方で共有し、組織的にコンテンツを整備できるようになるとよいと思います。

子どもたちの様子は、どの学年も落ち着いていました。1年生の授業への取り組みも以前と比べるとよくなってきているように思います。今回感じたのは、よくも悪くも学年やコース間の差が見られなくなっているということです。ほどほどに集中し、指示されたことは最低限する。しかし、積極的に学習に取り組むエネルギーは全体的に下がっているようです。とはいえ、騒がず静かに指示したことをやるのですから、解説中心の授業を進める先生にとってはこれほど楽な状態はありません。しかし、この状態をよしとするのは、とても危険です。学校にとって一番大切な、子どもたちの学びに対するエネルギーが以前と比べて確実に減っていることを大きな問題ととらえてほしいと思います。
ICT活用は以前と比べて進んではいますが、使うべきところに使われていないことが気になります。机の上にiPadがでていても、子どもたちが自由に使っていない場面が目につきます。ある先生は、自分のノートをひたすら黒板に写していました。その間子どもたちを振り返ることはしません。一方の子どもたちは黙々とそれをノートに写しています。ノートの横にiPadがなければ、昭和の時代にタイムスリップしたのかと錯覚しそうな授業でした。また、黒板に大きく先生がチョークで図を書いている授業がありました。先生はそれを使って解説しているのですが、子どもたちは手元のiPadで図を見ながら話を聞いています。これも異様な光景に感じます。解説をしっかり聞かせたいのであれば、図はスクリーンに映して顔を上げさせ、こちらに集中させるようにしたほうがよいでしょう。板書は時間のムダです。もちろんよい活用もたくさんありますが、玉石混淆です。互いに授業を見合って、よりよい活用を目指してほしいと思います。

この学校では12月に、一人一台のiPadの導入から現在までの足跡を、子どもたちと授業をする教員の視点で発表する会を予定しています。これから多くの学校で先生方が一人一台のPC活用で悩むことと思います。その悩みを少しでも減らせるようにとの思いから開催を思い立ったようです。とても意義のあることだと思います。いつものように子どもたちにも自分たちの経験を発表する場面を用意するようです。私からは、失敗も含めてどのようなことが起こったか、そして先生方それにどう対処し、学校がどう変化していったかを飾らずに発表していただくことをお願いしました。この学校で起こったことはどの学校でも起こりうることです。自分たちの学校のちょっと未来を見ることで、先生方の不安も減ることと思います。多くの先生方が参加されることを願っています。平日の開催なので、出張が難しい先生方のためにオンラインの生中継も検討するようにお願いしました。
当日を楽しみにしたいと思います。
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