考えることを意識した授業

小学校で授業研究の助言を行ってきました。

5年生の社会科の授業でした。元気のよい子どもたちで、授業前に授業者と楽しそうにやり取りをしています。先生との関係のよさを感じました。ちょっとテンションの高いのが気になりましたが、授業者が「授業を始めるよ」と声をかけるとすぐに落ち着き集中しました。学級の規律がしっかりしています。
授業は食料自給率の低下とそれに伴う問題を考えさせようというものです。授業者は資料を読み取り考えさせる場面をたくさん用意していました。「考える」ことを大切にしようという思いがよくわかります。
前時の復習として食料自給率の低下を確認します。最初に食料自給率とは何かをたずねました。発言する子どもの方を見ようと身体を動かす子どもがたくさんいます。よい授業規律ができつつあります。しかし、発表者の方を向かない子どももまだいます。発言を聞こうとしている子どもをほめたり、価値付けしたりすることがまだ必要です。よい行動を強化し、広げていくことをして100%を目指さないと学級全体に定着する前によい規律がなくなってしまいます。
何人か指名しましたが、今一つ定義ははっきりしません。授業者は子どもの発言をていねいに聞くのですが、他の子どもに「どう?」とつないで確認をしません。復習ですからノートや教科書を確認すれば済むことです。覚えていることは大切ですが、思い出せなければ確認するという基本をきちんと身につけさせる必要があります。「ノートを見ないということは自信があるということだね」といった言葉をかけて、子どもを動かす必要があります。こうすればすぐに確認できるので、ムダに指名する時間を減らすことができます。
続いて、特に資料を与えずに、昔と今では和食と洋食どちらがよく食べられていたかを時間を与えて考えさせます。根拠となる資料を与えないのであれば、考えるのではなく想像するだけになります。無責任に答えるのでテンションは上がりますが、時間をかける意味はありません。子どもの興味を引くことができればすぐに次の展開をすべきです。
洋食が増えたという結果を示した後、食料自給率が下がった理由を考えさせます。子どもたちは教科書を見ながら考えますが、根拠となる資料は特にないので、教科書から答探しをするだけです。しばらく時間を使うのですが、答らしきものが見つかった子どもはすることがないので手遊びをしています。時間を与えても、とりあえずの答を見つけるとそれ以上考えることはしないので、ここもあまり時間をかける意味はありません。挙手で発表させますが、「輸入に頼っているから」「洋食が増えたから」といった浅い答しか出て聞きません。個人の活動に時間をかけても考えは深まりません。グループなら友だちと聞きあうことで深まることもありますが、ソーシャルディスタンスのこともあり、グループ活動は自粛しています。それならば、浅い答でよいのですぐに発表させて、それを元に考えを深める切り返しをすることを考えるべきでしょう。
子どもの発言に対して授業者が補足説明をして、消費食料の構成比の円グラフをディスプレイに提示します。教科書は、60年前と今のものを並べて示してありますが、授業者はあえて60年前のものだけを提示しました。これを元に今はどうなっているのか考えさせようという意図です。考える場面をたくさんつくろうと意識していますが、根拠となる資料や事実がはっきりしません。先ほどの「輸入が増えたから」を意識するのであれば「輸入が多い食料」や「外国産と国産の価格差」の資料を、「洋食が増えたから」を意識するのであれば「和食と洋食で使われる食材の割合」といった資料を用意することが必要でしょう。また、とりあえず想像させたいのならば、その後裏付けとなる資料を探すといった活動が必要になります。根拠を意識して考えることを大切にしてほしいと思います。
続いて食料品別の輸入量の変化のグラフを見てどんな食品が多く輸入されているか確認し、食生活の変化と食品の輸入量の変化から輸入する食品が増えた理由を考えさせます。しかし、どこまで行っても、最初に示された洋食が増えた(食生活の変化)ということ以外にこれらの資料から推論できる理由はありません。多くの時間を使いましたが、考えが深まることはありません。後から資料が出てきますが、結論が先に出ているので資料を読み取る意味もあまりありません。子どもたちが困ったり、疑問に思ったりすることがないので、集中力は落ちていきます。授業の始めと比べても、友だちの発表を聞く意欲も落ちています。発言者を見る子どもは減ってきました。
主課題は食料自給率が減ることの問題を考えることでしたが、残された時間は10分ほどしかありません。授業者は食の安全の問題が子どもたちから出てくることを期待していたようですが、その言葉がでてくる根拠となる資料や情報はありません。結局時間切れで、子どもたちからは授業者が期待する言葉はあまり出てきませんでした。

授業者は緊張してテンポが悪くなったと反省していました。後ろに先生が立っているので子どもたちが圧を感じていつものように発言してくれなかったこともそれに拍車をかけたようです。思い切って活動を省略したり、先に進むことをあきらめて次の時間に持ち越したりしたかったようですが、研究授業なので指導案をどおりにやらないといけないとプレッシャーがかかっていたようです。研究授業ではふだんどおりにはなかなかできないようです。指導案どおりにいかなくても、子どもの反応で授業をつくっていくことを評価する空気を学校内に作りたいものです。
45分の授業で主課題に焦点を当てるのであれば、そこまでの仕込みは15分かせいぜい20分で済ます必要があると思います。
例えば、最初に消費食料の構成比のグラフを比較して何が増えて何が減ったかを確認し、「この60年の間に何が起こった?」と問いかけることから始めてもよいと思います。「肉を食べるようになった」といった単純な答でいいので、数人を指名して発言させます。続いて、「君たちが、農家や畜産家なら何をつくる?」「スーパーマーケットや食料品店だったら何を仕入れる?」と問いかけて答を引き出します。意見が分かれれば、その理由を簡単に聞き、日本の食料生産の資料に穴をあけた物を提示、子どもたちが発表した理由を根拠に値を想像させます。国内生産で足りないことに気づけばどうするかを問いかけ、輸入という言葉が出てくれ、「じゃあ輸入を見てみよう」と食品別の輸入量の変化を見せます。このような流れであれば、20分以内で終われると思います。
なぜ輸入に頼っているのかを考えさせるのであれば、「何で輸入するの?日本でもっとつくればいいんじゃない?みんな食べたいんだから?」と揺さぶって考えさるといったやり方もあります。「どんな資料がほしい?」と子どもたちに聞いてから資料を見せてもよいでしょう。一人一台のPCが整備されれば自分で資料を探させることもできます。
食の安全を考えさせるのであれば、新聞記事などを用意しておくことも必要です。知らなければ答えられない問いは、根拠となるものを与えなければ知っている子どもしか答えられません。こういったこと意識してほしいと思います。

検討会では、「主体的・対話的で深い学び」について、少し具体的にお話ししました。子どもたちに「考えろ」と言っても考えてはくれません。「考えたい」と思ってくれることが大切です。そのきっかけとなるのは、疑問を持つことや困ることです。「わかった」とうなずく子どもより、「はてな?」「困ったな?」と首をかしげる子どもに発言させることが大切です。疑問や困ったことを発信することをしっかりと価値付けし、「わからない」と堂々と言える雰囲気の教室をつくるようにお願いしました。
個人で考えさせる場面では、とりあえずの答がみつかると子どもたちはそこで考えることを止めてしまいます。時間をたくさん与えるより、とりあえずの答を出させてから切り返していくことが必要です。ソーシャルディスタンスの関係でグループやペア活動などの対話活動が難しいのであれば、先生が間に入ってつなぐことで対話させるようにするとよいでしょう。「○○さんの意見に納得した人?」「○○さんの意見を聞いてどう思った?」「あなたと同じ?違う?」とつなぎながら、考えを共有し、新しい疑問を見つけさせ、考えを深めていくのです。
ソーシャルディスタンスでできないことを嘆いても仕方ありません。今できる範囲で工夫することが大切です。新型コロナウイルスが落ち着いた時には選択肢が増え、授業の幅が広がっているはずです。困難な状況を前向きにとらえてプラスに変えてほしいと思います。
次回は三学期の訪問ですが、どのような変化が見られるか楽しみです。
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