学校が前に向かい出す

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。夏休みが明けてから2回目の訪問です。

中学校高等学校ともに、子どもたちは落ち着いて授業に向かっていました。
高等学校では定期試験前で自習が多かったこともあるのでしょうが、前回と比べて教師が一方的にしゃべり続ける授業は減っていたようにと思いました。また、子どもたちがiPadを使う場面が少なかった1年生も、かなり活用され始めていました。研修を推進している先生方がICTの活用を積極的に働きかけている成果だと思います。単にネットで検索するだけでなく、子どもたちが考えを共有したり、協働制作したりといったりといった、多様な活用を見ることができます。この日見た中で面白い活用をしている授業がいくつかありました。
一つはベテランの先生の古典の授業でした。子どもたちが授業者の解説をリアルタイムにiPad上でまとめていきます。本文のテキストはデジタルで配布され、そこに線を引いたり、メモやポイントをかき込んだりとノートの代わりとして上手に使っています。手書きもキーボード入力も可能ですが、多くの子どもたちはキーボードを使って素早く書き込んでいます。聞いたことをリアルタイムにまとめるのは、板書を写すよりはるかに高い能力が必要です。iPadが子どもたちの道具となっているがよくわかります。全員がリアルタイムにまとめることできないかもしれませんが、ネットワーク上でノートを共有することができるので、友だちのものを参考にして修正や付け足して完成させていくことができます。授業者もリアルタイムに確認できますので、子どもたちのノートの内容に応じて必要ならば補足するといった判断もできます。これからの時代のノートのあり方を見せていただけたように思いました。
もう一つは若手の数学の授業でした。子どもたちはiPadの共有ツール上で問題を解いています。わからないところがあればその画面のスナップショットに質問を添えて授業者に送ります。授業者はそこにヒントや解説を書き込んだものを返送しています。手軽に個別対応するための添削ツールとして活用していました。子どもたちは机間指導をする先生に声をかけるより質問しやすいようです。ただ、このやり方では、授業者と個人との1対1の閉じた世界でのやりとりになります。内容によっては全体に共有した方がよいものもあるはずです。時には子どもたちの作業の手を止めさせ、質問をスクリーンに映して、「同じところで困っている人いない?」とつまずきを共有し、どうすればよいかを学級全体で考えるとよいとアドバイスしました。それに対して、授業者は試験の解説の後に再試験をすることで、子ども同士をかかわらせる場面をつくっていると報告してくれました。友だちと相談してもよいので、完璧にできるようになることを目標にして再度取り組むのです。これまでこの先生は、子どもからなかなか反応が返ってこないので一方的に説明する授業になっていたのですが、ICTを活用することで自分にあった授業スタイルを見つけたようです。授業改善に対する意欲も上がり、これからもいろいろな工夫をしてくれそうです。
訪問するたびにこのような意欲的な取り組みを見ることができます。こういった取り組みを学校全体で共有する機会を継続的に持てるとよいと思います。

特別進学のコースでは、子どもたちが集中して授業を受けていました。特に3年生は、受験に直結しないような課題に対しても主体的に取り組んでいる姿が印象的でした。どのグループも額を寄せ合って真剣に取り組んでいます。3年間かけて育ててきたからこその姿でしょう。1年生、2年生も先輩に負けないように育ってくれることを期待します。

一般のコースでは、前回と同じく1年生の受け身な姿が目立ちました。全体的に表情が乏しく、先生の話を集中して聞いていません。指示されたことはこなしますが、授業に向かうエネルギーをあまり感じませんでした。子ども同士が自然にかかわることができるような場面ではよい表情を見せてくれるのですが、そのような姿を見ることが他の学年と比べても少なかったのが残念でした。意図的に子ども同士をかかわらせる場面をつくる必要があると思います。
子どもたちの出力の場面が減っているためか、2年生も今一つ学習意欲が感じられませんでした。しかし、個別に問題を解く場面などでは、子ども同士がまわりと相談している姿をよく見ることができます。ある若手の英語の授業では、ペアで答の確認をするように指示をすると、すぐに楽しそうな表情で活動に移りました。もともとかかわることはできる子どもたちなので、新型コロナウイルスの対策で直接かかわらせることが憚られるのであれば、「○○さんの考えについてどう思った?」「なるほどと思った人」と授業者が子ども同士を橋渡しすることでつないでいくとよいと思います。
先ほどの若手は子どもたち一人ひとりとしっかり目を合わせながら授業を進めています。どの子どもも前のめりで授業に集中していました。毎日の授業の中で子どもとの関係をしっかりつくっていることがよくわかります。日々子どもたちの様子をもとに授業を振り返り、課題を素直に認めて改善しようとしていることが、この子どもたちの姿につながっていると思います。この先生の成長を見ることは、私の励みにもなっています。
3年生は、理科系志望の数学の授業などは学級全体がとても集中していましたが、子どもの集中度がバラバラの学級も目につきます。推薦志望の子どもたちは、推薦に影響する試験が終わっているので意欲が下がってしまうのかもしれません。一生学び続けるという気持ちを持たせることが大切ですが、入試をゴールと捉える子どもが多いのが現実です。1年生の段階から学びに対する姿勢を育てていくことが求められると思います。

キャリアを意識したコースでは、子どもたちの明るい声をいくつかの教室で聞くことができました。とはいえ、やはり昨年までと比べると子どもたちの授業中の反応は少なくなっているように思います。特に1年生の教室で反応が少ないことが気になります。反応がないのであきらめて教師が説明するのではく、子どもたちが反応できるまで待つ姿勢が大切です。まずは、うなずく、手を挙げるといた体の反応を求めることから始めるとよいでしょう。そしてその反応を、「うなずいてくれたね」「反応してくれたね」「ありがとう」とIメッセージでほめることで、しだいに子どもたちから言葉を引き出せるようになると思います。
前回訪問した時に気なった1年生のある学級は、まだ子どもたちが小集団化したままでした。文化祭等も近づいているので、こういった行事を活用して子ども同士の関係をつくるようにしてほしいと思います。

中学校は2年生の学級のカラーの違いが大きいことが気になりました。一つの学級は、女子が小集団化してまとまりがなく、男子は女子に比べてエネルギーが低く、学級全体としてまとまりがないように見えました。もう一方の学級は担任がしっかりと学級をコントロールできているようですが、その反面子どもたちの自主性が育っていないように見えることが気になります。学年の一体感が感じられず、問題行動が起きやすい状況に思えます。子ども同士が協力して何かを達成する経験が必要でしょう。学校行事などは、学級単位ではなく学年として何かをつくり上げることを目指すとよいと思います。
3年生は多くの子どもが互いにかかわれるようになっているのですが、それゆえに孤立している子どもの姿も目立ちます。グループ活動の場面では、先生方はかかわりながら活動できている子どもたちとかかわることが多いように見えます。グループと距離を置いている子どもをどうかかわらせるかを意識した支援をしてほしいと思います。
1年生は創作ダンスの練習をしている場面を見ました。特に気になったのが、男子がグループとして動けていないことでした。女子は一部の子どもを除いては一つにまとまって動けていましたが、男子はどのグループでも一人孤立して参加できていない子どもが目につきました。孤立していなくても2人だけでしゃべっている者がいたりして、集団としてまとまることができていません。全体的にコミュニケーションがうまく取れないようです。まずは形式的にでも一緒に行動することを意識させたいところです。グループの活動の中で、全員で一緒に動かなければいけない場面をつくることが必要だと思います。例えば、自分たちの進歩の様子を紹介する動画をつくって本番前に上映するといった活動を組み込むとよいかもしれません。毎回の練習の最後にその時点での全員が踊る姿を録画することで、全員が一緒に行動をする場面をつくるのです。
今年は年度当初に学校に来られない時期があったため、特に子ども同士の人間関係をつくりにくかったと思います。焦らずにていねいに子どもたちの関係をつくることをしてほしいと思います。

ある教科主任の先生から、新学習指導要領のカリキュラムについて先生方の意見が平行線で中々まとまらないと相談を受けました。とはいえ、まとまらないのは、以前はなかなか意見を言えなかった先生も声を出せるようになり、先生方が本音で議論できることの結果だと前向きにとらえています。まだまだ若手の先生なのですが、まとまらないことをマイナス捉えていないことに感心しました。頻繁に教科会を開き、みんなが納得できる着地点を求めています。議論が平行線になるのは、そもそも目指すもの(ゴール)、前提条件・考え方が共通のものになっていないことが原因であることが多いと思います。一度、教科の授業を通じてどのような子どもに育てたいのか、具体的な姿をみんなで出し合い、共通のイメージを持てば論点が明確になるのではとアドバイスしました。「大変な時期に教科主任なったとね」と言ったところ、「自分が勉強するよい機会になったと」明るい表情で答えてくれました。この経験がこの先生の成長につながることと思います。

この日は若手の成長もベテランの頑張りも目にすることができました。新型コロナウイルスを越えて学校全体が再び前に向かい出したことを感じた一日でした。
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