先生方の成長の要因を考える(長文)

小学校で授業アドバイスを行ってきました。毎回ほぼ全員の授業を見てきましたが、今回は低中高に分かれて授業研究のスタイルで行いました。

2年間かかわってきましたが、学校全体がとても落ち着き、どの学級も授業規律が保たれるようになりました。この2年間でどの先生も大きく進歩したと思います。その要因の一つに教務主任の動きがあると思います。初めて授業を見た時、先生方の授業規律の意識が低く、子どもたちの授業への参加意欲も低いように感じました。当時の教務主任は私と共有した課題を整理し、どこから改善していくかを考え、夏休みに全員と共有する場をつくりました。学校全体で意識することで、かなりの改善が見えてきました。全体の授業研究では若手が意欲的な授業を見せてくれ、学校全体によい刺激を与えてくれました。
新年度は4月から授業規律と子どもとのかかわりを大切にしていたため、どの学級もよいスタートを切れました。学校全体で共通の意識を持てたことが大きいと思います。
もう一つの要因は、学校内にチームとしての動きが出てきたことです。小学校はともすると学級王国になりがちですが、横のつながりや縦のつながりができてきたのです。今回の授業研究では、低中高それぞれがチームとして機能していることを感じさせてくれました。

低学年は1年生の国語の授業でしたが、驚くほど授業規律がしっかりしていました。参加した2年生の学年団が2年も負けてられないと刺激されるほどでした。授業者は子どもをよくほめて育てています。子どもたちの表情から安心して授業に参加していることがよくわかります。これはこの学級だけでなく1年生の他の学級でも同じ雰囲気です。一つの学年として同じように指導ができていることがよくわかります。板書中でも振り返りながら子どもの様子を見ています。そのため、子どもの集中がよく続いています。
カタカナの学習で、ひらがなとカタカナの違いを意識して正しく書けるようにする場面でした。教科書は違いだけを取り上げる構成でしたが、この授業では「くらべる」をキーワードに似ているところと違うところを見つける展開に変えていました。「くらべる」という視点は教科を越えて大切な視点です。「くらべる」としたのはとてもよい発想だと思います。この展開は学年団で相談して決めたようです。学年団がチームとして機能していることがよくわかりました。
子どもたちが落ち着いて授業に集中しているので、進め方や活動内容が子どもたちの姿に直結します。そのため改善点もたくさん見えてきます。一つは、授業規律に関して、子どもたちをほめるのが姿勢に終始していたことです。子どもたちは作業が終わるとよい姿勢を取って待つことになっています。「よい」姿勢にこだわって背筋をきちんと伸ばすので、体は緊張を強いられます。そのためもあって、いざ授業者が説明を始めると子どもたちの緊張がゆるみ、上がっていた顔が下を向く子どももいます。また、常に授業者の指示で動くので、指示されたことしかしないように見えます。これは低学年によくあるのですが、子どもたちが指示に従えるようになると、先生は楽をして常に指示で動かすようになってしまいます。そうではなく、子どもたちに今何すべきか考える癖をつけ、自分で判断してよい行動をとらせることが大切です。「先生は次、何言うと思う?」と次の指示を想像させ、「指示に従ったこと」から「指示しなくても行動できたこと」をほめるようにしていくとよいでしょう。
もう一つが、一つひとつの活動のねらいが明確になっておらず、活動したことしか評価されていないことでした。今回は見つけたことを「伝える」ことがねらいとなっていましたが、これだけではどうなれば「伝わった」のかが明確ではありません。聞いた人が「なるほど」「そうだ」「私も同じ」と納得することが相手に伝わることだと押さえておく必要があります。それがないため、単に話すことが目的となっていました。グループ内での発表も聞き手意識がないため次第にテンションが上がっていきました。
全体での発表では、「同じところを見つけた人」と子どもをつなぐことを意識して手を挙げさせますが、手を挙げなかった子どもに、今の発表を聞いて「なるほどと思った?」「納得した?」と聞くことが大切です。伝えること、聞いて理解することの大切さを価値付けしたいところでした。また、授業の最後に授業者が「カタカナとひらがなの違いがわかればうまく書けるようになる。次の時間は書く練習をしよう」とまとめましたが、この日のねらい「カタカナとひらがなで比べたことを伝える」とまとめがずれています。最初に「カタカナを上手くけるようにするため」と比べる目的をきちんと押さえると子どもはもっと見通しを持って活動できたと思います。
チームでよく考えた授業だったからこそ、改善点が自分たちの課題としてはっきりしたと思います。参加者が多くを学べる授業検討になりました。

中学年は4年生の国語の授業でした。4年生の授業規律ももちろんしっかりしています。子どもたちの授業への参加意欲がとても高いことに感心しました。何よりさすがは4年生と思わされたのが、授業者が指示をしなくても場面を意識した行動をちゃんととれることでした。作業が終わった後、授業者がしゃべり始めるとすぐに全員が授業者の方に顔を向け集中します。低学年の先生方がこの授業を見る機会があれば次の目標が明確になったのにと、少し残念でした。授業を見あう機会がより多く持てるとよいでしょう。
授業は前時までに読んだ詩の中から、自分の好きな詩を選んで気に入ったところを友だちと話し合うというものでした。隣の子が何を選んでいるか「見せてもらおう」、好きな詩の発表を「自慢しよう」と指示したり、自分と同じ詩を選んだ友だちの考えを「知りたくない?」と促したり、友だちの発表にサムアップする「いいねサイン」を出し合ったりと子どもたちの意欲を高めるような言葉や活動をとても意識していました。子どもたちはペアやグループでも、細かい指示なしで活動でき、よい表情でとてもよくかかわれていました。日ごろからかかわりあう活動をしていることがよくわかります。人数の関係で5人になっているグループで、お誕生日席の子どもが友だちの書いたものが見られずに席を立つ場面がありました。その時、発表している子どものそばに座っていた子どもが席を立って、自分の席にその子どもを座らせました。自然にこのようなことができることに感心しました。
気になったのが、同じ詩を選んだ子ども同士で、気にったところ聞き合う場面で、テンションが上がっていったことです。子どもたちは言いたいが先にあるので仕方がないのですが、聞く目的をしっかり与えておくとよかったでしょう。各グループの代表が意見を発表する場面では、どの子どももしっかりと発表ができますし、ちゃんと聞くこともできていました。だからこそ、聞いている子どもの活躍場面が少なかったことが残念でした。
授業者は「よく分析しているね」と評価したり、子どもが表現について感じたことを述べた時に「確かに前向きな感じがするね」とコメントしたり、「文章の並びに注目した」と価値付けしたりしていました。評価や価値付けを意識しているはよいことですが、すべて授業者からのものだったので、子どもからも出させたいところでした。最後に「友だちの意見を聞いて参考になった?」と問いかけましたが、最初にこのことを意識させておけば、子どもから言葉をたくさん引き出せたと思います。
子どもたちは十分に育っているので、活躍させる場面を増やすことを意識してほしいと思います。
この授業は、ベテランの主任からヒントをもらいながら若手2人で指導案検討を行っていたようです。うまくかかわり合いながら授業をつくっています。だからこそ、互いに学びの多い授業でした。

高学年は5年生の道徳の授業でした。授業規律のよい、子どもたちが落ち着いている学級です。集中して授業に参加してくれるので、道徳の授業はどうあるべきかを参加者が深く考える授業となりました。若い授業者でしたが、昔からの道徳の授業を引きずっているように見えました。よくあることですが、自分たちが受けた授業と同じような構成で授業をつくってしまうのです。
最初に、やらなければならないことが2つ重なったことがないかを問いかけ、何人かに発表させます。よくある、目的意識のない導入に見えます。子どもの発表を後で活かすのであればよいのですが、本当に考えさせたいことのためにできるだけ時間を節約すべきでしょう。
授業者が教科書を範読します。子どもたちは教科書を手に持ってよい姿勢で聞いていますが、教科書を立てているので、表情が見にくいことが気になります。授業者も淡々と読み続け、子どもの反応をあまり見ていません。感情を込めたたり言葉を足したりして、子どもの反応を引き出し、その反応によって展開を調整するという発想はないようです。
読み終えると、お約束の登場人物や内容の確認を行います。主人公が、これまでサボっていた今日中に片づけなければいけない図書委員としての仕事をするか、明日のリレーのために苦手なバトンの練習をするのか悩むというわかりやすい内容なので、あえて時間をとらなくても5年生なら読み取れるはずです。子どもたちに自分ならどうするのかを考えさせ、グループで話し合わせます。ワークシートには心情直線がかかれ、自分の気持ちがどのくらいの位置かを書き込みますが、それを活かす場面がありません。
心情直線は、結論が同じでも、そこに至る考えの違いを浮き上がらせ、多様な考えに触れるための道具です。揺れ動く考えを問う場面がないので考えは深まりません。グループで結論を一つにまとめるため、結論が同じであれば、その理由はあまり気にしません。理由が並列に扱われるだけで、考えは深まりません。リレーの練習を強く推す子がいたグループ以外はすべて図書委員の仕事を選んだので、全体での発表は考えが広がりませんでした。
また、この手の二者択一をさせると、子どもたちは「リレーの練習は当日の朝にやれるから図書委員の仕事をする」といった、帳尻を合わせる方向に頭を使います。この時点で時間がないため、ここで考えることが終わってしまいます。陥りやすいパターンです。
最後は、このような時に何を大事にするかを書かせます。子どもたちは、「優先順位を決めて行動する」「責任を考える」といった言葉でまとめますが、「優先順位は何で決めるの?」「責任ってどういうこと?」と掘り下げることなく終わりました。この授業を受けて「子どもが変容したか」、「より深く考えたか」という点で疑問が残る授業でした。
導入はできるだけ早く終わらせるため、主人公の置かれている状況を範読しながら押さえて、「あなたならどうするのか」と問いかけ、すぐに発表させるとよいでしょう。子どもたちを最初にグループで話し合わせても、考えは深まりません。とりあえずの考えを発表するだけであまり深くは考えていないからです。そのため、子どもたちの考えを焦点化することが大切です。子どもたちから出てくる「リレーの練習は明日の朝」は「朝練習なんかしている時間はない」とばっさりと切り捨て、どうしてもどちらかを選ばせることをしなければいけません。心情直線を利用するのなら、両端からずれている部分はどういうことかを聞きながら、考えるべき要素を広げて多様な考えに触れさせるとよいでしょう。その上で、この授業で子どもたちに考えさせたいことにつながる所に焦点化して、再度考えさせるのです。子どもたちを揺さぶり、問題を焦点化してから考えさせることが重要なのです。子どもたちは真剣に悩めば友だちの考えも聞きたくなります。
この授業で何を考えさせたいのかがポイントになります。授業者はあまり明確になっていなかったようですが、例えば、責任感に焦点を当てるのであれば、誰かが「責任」という言葉を使ったときに、「責任」をキーワードにして焦点化していきます。それぞれの判断や考えに対して、「じゃあ、このことに責任はあるの?ないの?」と揺さぶり、子どもたちの多くは、責任を果たすという視点で考えていることを押さえます。「みんな責任を果たすと言っているけど、やることは違っているじゃない。どいうこと」と揺さぶったり、「どっちの責任が重いの」と逃げられなくしたりして考えさせると面白いでしょう。「責任を果たす」という表面的な言葉でまとめるのではなく、そこから考えを深めるのです。
同じ教材でも、何を考えさせたいかによって揺さぶりも焦点化も異なります。授業者が子どもたちに何を考えてほしいかが授業の方向性を決めるのです。
検討会では事前にみんなでよく検討していたため、他人事ではなく自分の問題として真剣に考えていました。事前の検討に参加できなかった先生が、「(検討に)参加できればよかった」とつぶやいていたのが印象的でした。自分たちで多くの課題や改善点に気づけていた、これもとても学びの多い授業検討でした。

今年度はチームを意識した人事を行ったということでしたが、この一年間でチームとしての動きが多くの学年集団で生まれていたようです。集団として成長している姿が多く見られました。
どの学級でも授業の基礎となる規律や子どもとの人間関係はできてきたので、次は学力向上を目指して、教材研究や活動の内容を工夫してほしいと思います。学校全体が大きく飛躍するチャンスが訪れているように感じました。先生方の成長した姿をたくさん見ることのできた一日でした。
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