授業者の進歩を感じた体育の授業

中学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は同じ先生の体育の授業を2時間参観しました。

1年生と3年生の女子のハンドボールの授業です。
1年生はこれまでハンドボールの経験がない子どもたちです。準備運動で運動場をランニングします。授業者は一か所に立って子どもの様子を見ながら、笑顔で一人ひとりに声をかけて励まします。どの子どもも手を抜かず一生懸命に走っていました。走り終わるとすぐに子どもたちは集合します。どの子どももしっかりと顔を上げて授業者の説明を聞いています。寒い日でしたが手をさすったりする子どももいません。どの子どもよく集中していました。
パスのやり方を授業者が見本を見せながら説明し、ペアに分かれて練習をします。子どもたちは素早く動いて練習を開始します。一生懸命に取り組むのですが、この学級では部活動で球技を選んでいる子どもはほとんどおらず、予想以上に上手くいきません。ボールを持って振りかぶることもできない子どもがほとんどで、ボールが届かない、まっすぐに飛ばないと苦労しています。授業者は時々個別に指導しますが、特に追加の指示せずに全体が見える位置で様子を見ています。常に全体を見ることを優先していました。これは体育教師としては、特に大切なことだと思います。
子どもたちが苦労していたので、あまり時間をおかずに一旦全員を集合させました。見本として、比較的上手なペアを前に出すと、子どもたちは食い入るように見ています。授業者の説明の時もよく聞いていたのですが、それと比べても段違いの集中でした。やってみると難しく、困り始めたタイミングだったので、身近な仲間のプレーは参考になったようです。この後のプレーは先ほどと比べてボールの投げ方はかなりよくなっていました。子どもたちが主体的になったタイミングで、自分たちとレベルが近いプレーを見せることが効果的なことがよくわかりました。
続いて、ラテラルパス(ボールを片手で、素早く横に出すパス)の練習です。このパスは手首のスナップが必要ですが、子どもたちは握力がないためボールを片手持ち上げることができずません。正しいフォームを教えても手首を使えないので、腕で投げてしまいます。その上、横に出すパスなのに互いに正面を向いて投げるので、ボールはおかしな方向に行ってしまいます。横に並んで短い距離で練習を始めるとよいでしょう。ボールを片手で持てないので利き手と反対側の手も軽く添えるように指導すると、正しいフォームが身につくと思います。
最後の練習は、チームプレーを意識した連携の練習でした。鬼ごっこの要領でディフェンスとオフェンスの感覚を養うものです。正方形の中に鬼が1人いて、5人が子です。子が頂点の4か所にいれば鬼は捕まえることができませんが、1つの頂点には1人しか居られません。頂点に入れない子を逃がすためには誰かが他の頂点へ移動して逃げる場所を作らなければなりません。子が捕まらないためには、次々に頂点を移動していくことが必要です。仲間の動きを見て連携しないとすぐに捕まってしまいます。ルールはそれほど難しくないのですが、個別に状況を判断して動く必要があるので、子どもたちにとっては難しいものです。
ルールを説明して、簡単にやって見せた後、2グループに分かれて開始しました。予想通り、子はどう動いてよいかわからないため、すぐに鬼に捕まってしまいます。何度かやっている内にどう動けばよいか気づくかと思いましたが、進歩が見られません。授業者は、一旦集合させて1チームがやるのを見学させます。子どもたちは一生懸命見ていますが、パスの時と違って状況がどんどん変化していくので、誰を見ればよいのか、どこを見ればよいのかよくわからなかったようです。この後、各グループで再開しても状況は大きく変わりませんでした。
個別の状況に応じてどう判断して動くかを考えるには、場面ごとに動きを止めることが必要です。最初に4人の子が頂点にいて、1人が辺上にいる場面を作ります。「この時、鬼はどうする?」と問いかければ、当然辺上の1人をねらうことに気づきます。ねらわれた人はどちらかに逃げますので、「逃げた先の頂点に2人は居られないよ。どうする?」と考えさせます。頂点にいる子が次の頂点に向かって逃げれば、最初の子は空いた頂点にたどり着いて助かることに気づけば、あとは、同じことを繰り返せばよいとわかります。ここまでを一つひとつ動きを止めながら理解させることが必要です。子がうまく逃げるようになってくれば、今度は鬼がどうすればよいのか考える必然が出てきます。子が正しく動けるようになって、初めて鬼も戦略的に動く必要が出てきます。鬼は子が逃げようと動いたら、その先の頂点にいる子が動くのをねらえばうまく捕まえられます。ここまでできるようになれば、互いにまわりの動きを見てフェイントを入れながら協調的に動くことができるようになってきます。よく考えられた練習ですが、それが機能するまでには、スモールステップで教えることが必要なのです。
終了後の後片付けも素早く行われていました。授業者が何も言わなくても子どもがすぐに動けるのは、次に何をすべきかを考える習慣がついている証拠です。授業者がどんな子どもを育てようとしているのかがよくわかる授業でした。

3年生の授業では、よくも悪くも3年生らしさを感じました。
準備運動のランニングでは、全体はしっかりと走るのですが、一部の子どもがどうしてもついていきません。体力的な問題なのか気持ちの問題なのかはわかりませんが、友だちが一生懸命に引っぱっていきます。授業者も最後は笑顔で励ましながら一緒に引っぱって、なんとか完走させました。人間関係のよさを感じる場面でした。
説明の場面でも、数人の子どもの顔がなかなか挙がりません。しかし、授業者の説明には反応します。授業者は気づいていますがあえて注意はしないで、見守っています。移動や練習の開始もとても速いのですが、やはり数人だけが遅れます。しかし、全体に悪い影響を及ぼすことはなさそうです。まわりの子どもが優しく見守っていますし、授業者も時々そばに行って前向きな言葉をかけています。子どもたちをよく見て、丁寧な対応をしていました。
ディフェンスとオフェンスに分かれ、パスを使ってボールを運ぶ練習をします。前へ運ぶという意識が弱く、ボールをパスするとそれで気を抜いて止まってしまいます。パスアンドランの意識を持たせる必要があります。1年生の連携の練習と同じく、場面ごとに止めながら、「パスした後どうする?」と問いかけながら、動きを考えさせるとよいでしょう。また、グループ内でオフェンスとディフェンスを交代しながら練習していましたが、前へ運ぶことを意識させるのであれば、チームごとにオフェンスとディフェンスに分かれて、チーム対抗の形にしてもよいかもしれません。まだまだ工夫の余地はありそうです。
3年生は1年生と比べてよく声が出ていました。3年間の人間関係が現れているのかもしれません。その反面、嬌声も時々聞こえてきます。楽しそうな雰囲気はとてもよいのですが、活動することが目的化しているようにも見えます。活動の目標を明確にすることで、より真剣さが増すと思います。

授業者はこの1年余りで、ずいぶん成長しました。子どもを温かい目で見守れるようになりました。授業規律がしっかりとしてくると同時に、毎回子どもたちに着けたい力を意識して、どんな活動をすればよいのかをよく考え、ねらいを達成するための工夫をしています。
この姿勢を維持すれば確実に授業力はついてくると思います。これからの伸びが楽しみです。
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