互いに学べることを目指した研究授業

中学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は学年ごとの授業へのアドバイスと1年生の理科の授業研究への参加でした。

前回の訪問時、3年生は授業への参加の様子や友だちとのかかわり方がずいぶんとよくなっていました。今回は合唱コンクールの直後ということもあり、どのような姿をみせてくれるかとても楽しみでした。子どもたちは柔らかい表情で、集中して授業に参加しています。合唱コンクールがとても充実していたことがうかがわれます。その上で、合唱コンクールの余韻を引きずらず、雰囲気のよさだけが継続している感じです。教える側、教わる側、どちらも明るい表情で向き合っている姿をたくさん見ることができました。授業をする先生方の表情からも充実した授業が行われていることがわかります。学級がひとつになって中学生活の最後に向かってよい形で追い込みに入っていると感じました。
全体的にはよい状況ですが、学習面で苦しい子どもが若干目につきました。授業から逃避せずにがんばっているのですが、ついてくのに苦労しているように見えます。先生方には、子ども同士の関係がよくなっていることを活かし、互いに支え合う雰囲気を作るようお願いしました。

2年生は学級活動の時間を参観しました。この日は高校進学に関連した情報提供を中心とした時間でした。合唱コンクールの後の少し弛んだ気持ちを引き締め、学習に意識を向けようというねらいです。経験の少ない先生が多いこともあり、予定した情報を伝えることに精一杯に見えました。進学に関して、まだ2年生の半ばなので先のことだと考えている子どもたちが、急に現実をつきつけられて戸惑っていたように見えました。現実半分夢半分くらいの話ならよいのですが、一方的に情報を与えられて子どもたちが処理しきれていないようにも思いました。
話を聞いている子どもたちは3つの層に分かれているように見えました。学校生活が順調で進学情報も積極的に受け止めようとしている層、進学を考えることはもう少し先に延ばしたい層、そして既に自分の将来についてあきらめムードの層です。先生は思ったより子どもの喰いつきが悪いので、だんだん肩に力が入っていきます。そのプレッシャーを感じて子どもたちは、ますます話を聞こうとしなくなります。耳をふさいでやり過ごそうとしているのです。一方的に情報を与えるのではなく、自分たちの持っている情報を確認して、もっと情報が必要だ、知りたいという気持ちにさせることが必要です。身近な高校生を思い起こさせ、「高校生活はどんな風に見える?」と、それぞれが持つ高校生像を共有するといったことをしてもよかったでしょう。中学生活より楽しそうに見える人もいれば、大変そうに見える人もいるはずです。先生が経験している例を話してもよいでしょう。その違いはどこにあるのかを子どもたちに考えさせ、自分に合った学校選びが必要であることに気づかせたいところです。まずは、高校生活を想像させ、よりよいものにしたいと思ってもらうことが必要です。その上で、情報を少しずつ与えていくのです。この時間だけで完結する必要はありません。朝や帰りの会で少しずつ計画的に伝え、考えさせていくことが大切です。

1年生は、合唱コンクールを経て、以前よりも子ども同士の関係がよくなったように見えます。グループでの相談も額を寄せ合って話し合っている姿がたくさん見られました。全体的に授業規律がよく、集中して授業に参加している姿が見られました。その一方で、一部の授業で気になる姿が見られます。全体での発表に今一つ積極的でない子どもが多く、友だちの発表を聞かずに授業者の方を見ているのです。以前から、積極的に発言する一部の子どもたち中心で授業が進む傾向がありますが、その子どもたちは友だちではなく授業者に聞いてもらおうとします。授業者がしっかりと受け止めてくれるからです。授業者は発言を受けて自分で説明し黒板にまとめます。残りの子どもたちは発表を聞かずに授業者の説明を聞き板書を写すことになります。そういう授業では、子どもたちは楽しくグループの活動を行っていますが、それ程深く考えようとはしていません。ここで頑張ってもその結果が活きることはないからです。このような状況が慢性化していくと子どもたちが消費者的になってしまう危険性があります。子どもの発言を他の子どもにつないで、全員参加を意識することが必要です。
また、問題を個人で解く場面でも気になることがありました。一部の子どもたちにとっては課題がやさしすぎるのでしょう、解けた後時間を持て余しています。授業者は気になる子どもたちの所で個人指導をしているので、その状態に気づいていないように見えます。今はそれほど目立った行動はとっていませんが、放置しておくと次第に自分勝手な行動をとるようになっていきます。できた子どもにはあらかじめ次の課題を与えておくことが必要です。また、みんなで知恵を絞る必要があるような、よりレベルの高い課題を与えることも重要です。全体的に力のある集団なので、よい意味でストレスをかけるとよいでしょう。子どもたちを「鍛える」という意識を持ってほしいと思います。

研究授業は、講師時代を含めて新卒から7年目の先生の理科の授業でした。ICTの活用を意識した、フックの法則の実験の授業でした。
力について、単位や意味の復習から始めました。子どもたちに問いかけ、発言させながら確認します。一方的に授業者が説明するのではなく、できるだけ子どもの言葉を活かそうとしています。この姿勢は授業全体を貫いていました。
エキスパンダーを使って、力が強いとばねがたくさん伸びることを確認し、その上でこの日のめあて「力の大きさとばねの伸びの間にはどのような関係があるだろう」を提示します。ここで、「ばねの伸び」と授業者が提示しましたが、どこを測るかを子どもたちに考えさせて、実験結果から伸びに注目すべきだと気づかせても面白かったと思います。
「実験の手順はこうしたい」とスライドで示します。本当は子どもたちに考えさせたいという気持ちが言葉に現れているように思いました。手順が実験中も黒板の横のディスプレイに残しているのですぐに確認できます。板書しておいてもよいのですが、黒板の領域が狭くなります。黒板とは別にディスプレイがある時の、ICTの有効活用の一つだと思います。
実験の前に結果を予想させましたが、それを共有することはしませんでした。右肩上がり、比例といった言葉が子どもたちのワークシートには書かれていました。この言葉を活かして、どんな実験をすればよいのか、実験結果をどうまとめたいかを子どもたちに考えさせるとよかったと思います。
ペットボトルに水を入れたおもりを使ってばねの伸びを測るのですが、その結果を班に一つ準備したタブレットPCの表に入力します。入力した値に応じてグラフに点が打たれますが、子どもたちはこのツールを欲しいと思っているわけではありません。道具が一方的に与えられた形です。予想で右肩上がり、比例という言葉が出ているのですから、そこからグラフにする必然性につなげたいところでした。
デジタル量りでペットボトルの水の量を調整し、データを取っていきます。子どもたちは、きりのよい値にこだわりながら測定していましたが、タブレットPCでグラフ化できるので、グラフを書く手間を気にせずにたくさんの値をとるという戦略もあります。ツールの紹介と共に、どのように重さを変えるかについて考えさせれば、違った展開もあったかもしれません。
実験が一段落すると、グラフの点をどう結ぶかを考えさせます。タブレットPCのツールを使ってフリーで線を引いたり、直線を引いたりしていますが、タブレットPCを独占している子どもが、自分の考えで引いている班がほとんどでした。その結果を含めて、入力したデータと描かれたグラフを自分のワークシートに写しています。自分専用でないため、記録が個人の手元に残らないためですが、この時間がもったいないと思いました。短縮された時間が結局ムダになってしまいます。その場で結果をプリントアウトできるとよいと思いました。そうすれば、班ではなく自分の考えで線を引くこともできます。こういった課題に気づけたのは収穫だと思います。
今回実験の整理に使ったツールは、同僚に助けってもらって、表計算ソフトで作ったものです。デジタルで作ったものはサーバーに置くことで共通の財産として誰もがすぐに使えるようになります。授業の情報を交換しながら、学校としてノウハウを蓄積していってほしいと思います。
列ごとに定数の違うばねで実験させました。任意のグループの実験結果をまとめて集計する機能を使い、2種類のばねの集計結果をもとに考察をします。中には大きくずれた点もあります。どういうことか問いかけ、子どもから誤差という言葉を引き出しました。しかし、誤差か単にミスをしたのかはわかりません。実験した班は間違いと言っていましたが、具体的に確認をして誤差とミスの違いを明確にしておきたかったところです。
実験結果をプロットしたグラフを見て、比例しそうだという意見もあれば、曲線だと考える意見もありました。これはとてもよいことです。授業者は必要だったらまた実験しようと、一方的に結論を出しませんでした。こういう姿勢はとても好ましいものです。しかし、最後は、比例しそうという意見が大勢を占めたので、「比例しそうだ」とまとめ、フックの法則と結論づけました。せっかく子どもの多様な考えを認めたのですから、感覚ではなく、客観的な決め手となるものを与えたかったところでした。
ICTを積極的に活用したからこそ、それにともなう課題が見え、たくさんの気づきや学びのある授業研究になりました。今後子どもたちのICT活用が急速に進みそうですが、どのように活用すればより深い学びにつながるのか、まだまだ手探りの状態が続きます。今回の研究授業は、よい授業を見せようとするのではなく、互いに学べることを目指して新しい挑戦をしていたと思います。この姿勢を大切にした授業研究を続けることで、これからのICT活用のあり方が見えてくると思います。授業研究の積み重ねがこれまで以上に大切になってくることをあらためて感じました。
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