多くの先生が課題に前向きに取り組んでいる(長文)

6月に私立の中高等学校を訪問しました。

高校3年生は、授業者に合わせて態度を変えていることが気になりました。3年生なので先生との関係も固定化しているのでしょう。なれ合いになっていると感じました。
高校2年生は、途中で暑くなってきた影響もありますが、同じ学級でも授業によって集中力に差がありました。当然のことながら、先生が一方的に話す授業は集中度が落ちるのですが、同じように講義的な授業でもしっかりと集中していることもあります。授業者との人間関係が影響しているのかもしれません。
高校1年生は教室の人間関係が4月と比べて落ち着いていました。以前は仲のよい子ども同士のかかわりが目立っていたのですが、まわりの友だちと自然にかかわれるようになってきました。また、特に選抜コースはグループ学習や学び合いを先生方が意識しているのでしょう、子ども同士がかかわり合うことを楽しんでいるように見えました。
また、高校全体で実務系のコースの子どもたちの学習意欲が高いことが印象的でした。授業が楽しく、純粋に学びたいという気持ちが高いように見えます。とてもよいことです。

この日は中学校の2学級で授業アドバイスを行いました。
2年生の体育は、雨天だったためでしょうか、体育祭の競技の練習でした。全員で大縄跳びの練習でしたが、集中できていないのかなかなかうまく跳べません。授業者が「昨日はあんなにやれたのに」「ちゃんとやらないと」とどちらかというとネガティブな言葉で声をかけることが気になりました。「昨日の気持ちを思い出そう」「集中していこう」というように、前向きな声かけを意識してほしいと思います。
「声を出せ」といった気持ち面の指導だけで、具体的にどうするといったことを伝えません。実は、体育祭の対抗競技なので学級間の公平性を考えて、あえてアドバイスをしなかったそうです。このこと自体はなるほどと思ったのですが、そうであれば子ども同士で高め合うための工夫をすることが必要でしょう。見学している子どもがいますので、彼らにアドバイスをさせてもよいでしょう。1人1台のiPadを持っていますの、録画して見合うという方法もあります。
何回跳べるかの目標を授業者が設定しますが、子どもたち自身で決めさせたいところです。全体的に授業者が指示する場面が多いのですが、体育祭の競技であるからこそ子どもたち自身で考えさせて練習する場面を増やしたいところです。
後半は、ダンスを披露するグループだけ分かれて練習します。残った子どもたちは引き続き大縄跳びの練習ですが、ダンスの様子を陰からこっそりのぞいています。決してサボっているのではなく、仲間の様子が気になっているのです。この子どもたちの姿からは人間関係のよさが感じられます。互いに高め合うことができる子どもたちだと思います。ダンスの様子を見学させ、アドバイスをさせてもよかったのではないでしょうか。子ども同士のかかわり合いを活かす授業を目指してほしいと思います。
授業者は私のアドバイスを素直に受け止めてくれました。これから授業がどのように変化していくか楽しみです。

1年生の若手の数学の授業は文字式の活用の場面でした。
授業者は以前と比べて、表情が明るくなっています。意識して子どもを受容していることがわかります。子どもとの関係をつくれるようになっていました。
マッチ棒で正方形を順番につくり、マッチ棒の数を考えることが課題です。例題を使って何本必要かを数えさせます。続いて、正方形がx個だったら何本になるかと問いかけますが、天下りで課題を提示しているので、子どもたち自身の課題になっていません。「どうしよう」と疑問を持たせるような課題の設定や提示の工夫が必要です。例えば「マッチ箱に○○本入っているけれど、正方形20つくれる?」「1箱でいくつ作れる?」と問いかけたりすることで子どもたちの動きが変わると思います。文字を使って式に表わすという発想だけでなく、正方形を1個増やすとマッチ棒が3本増えるといった関数的な発想も出やすいと思います。
子どもたちは作業の途中で授業者を呼びます。授業者は呼ばれるとすぐにその子どものところへ行って個別に対応します。全体で考えるべきものであればいったん作業を止めて共有する必要がありますし、そうでなければ授業者ではなくまわりの子どもに相談するように仕向けることが大切です。教師と子どもの1対1の関係になることが多かったのですが、子ども同士をつなげることが必要です。
「団体戦にします」とグループにしますが、5人のグループをつくるので子どもたち全員がかかわれません。グループになっても、グループを越えて仲のよい子ども同士で話をする場面も目にします。誰とでもかかわれるといった子ども同士の関係がまだできていないことを感じました。グループ活動がうまく成立しない理由に、課題が易しすぎることもあります。みんなで知恵を絞る必要があるような問題でないと、わかった子が一方的に説明して終わってしまいます。
また、全体での発表場面で、友だちの発言に受容的でない子どもが目立ちました。「おかしい」とか「違う」といった攻撃的な言葉がよく出てきます。子ども同士の人間関係をつくることを意識する必要があるでしょう。授業者は子どもの発表をしっかり聞いて理解しようとしますが、そのことよりも他の子どもが理解しようとしているのかを意識することの方が大切です。友だちの発言をよく聞いて理解することを価値付けしていくことで、子ども同士の関係をつくってほしいと思います。
数学的な見方・考え方をきちんと価値付けすることもあまり意識されていませんでした。正方形が1個増えるといくつ増えるといった帰納的に変化を意識する考え方、横に何本、縦に何本と構成要素を演繹的に求めるといった考え方を整理して数学的に価値付けする場面が必要です。
また、文字を使って表わすことのよさを実感させる場面もありません。ただグループにして相談させたり、全体で子どもに発表させたりといった形式だけでは学力はつかないことを意識してほしいと思います。
授業者は授業改善に前向きに取り組もうとしています。数学は若手の教師が多いので、互いに授業について相談できるとよいと思います。授業を見合い、意見を交換することで力量がアップしていくはずです。チームとして学び合う雰囲気ができることを期待します。

この日は多くの先生から相談を受けました。
英語の中堅の先生からは、授業が上手くなっていないと相談されました。先が見えないといった言葉も出てきます。上手くなっていないのではなく、できるようになったからこそ、できないことが目立つようになったのです。以前は「授業中に寝る子どもを減らしたい」と言っていましたが、今はそんな言葉を聞くことはありません。そんなレベルは通り越してしまっているのです。子どもたちがよく見えるようになったからこそ、気になる姿が目に付くのです。これは教師の宿命です。授業がうまい方ほど、自分の授業の課題が見えてくるため、自分のできないと向き合わなければいけないのです。自分で上手いったと思える授業は100回に1回あればすごいことだと思います。焦らずに、できることを少しずつ増やしていく気持ちで授業に臨んでほしいと思います。

中学校の社会の授業についての相談です。
「この歴史上の人物はなぜこのような行動をしたのか?」といった人物に寄り添って書かせることで、子どもたちは自分の考えをずいぶんかけるようになったそうです。ところが、よいことを書いていてもなかなか積極的に発表してくれないということでした。子どもに自信がないことが原因の一つでしょう。発表を評価されることに臆病なのです。評価を常に教師が行っていると、教師の求める答になっているかどうかが気になります。先生は子どもたちのよいものを印刷して、どこがよいかを伝えていますが、そこから一歩進めて、どこがよいかを子どもたちに考えて言わせるようにするとよいでしょう。そうすることで、自分たちで評価できるようになってくるはずです。それができるようになれば、ペアで見あって、相手のよいところを発表させる場面をつくります。友だちのよいところであれば、恥ずかしくなく発表できます。友だちによいところを評価してもらうことで、次第に自信が持てるようになると思います。

中学校の数学担当の若手からは、定着させるための時間をどう確保するかについて相談を受けました。授業中に問題を解かせる時間を取り、子どもの実態を把握するために、前に持って来させるが時間がかかる。途中でどんどん子どもが溜まってくるので、時間のムダが多いということです。そのため、困っている子どもに手が回らないということです。
実態把握については、事前に、練習問題のどの問題をチェックすれば理解できているかどうか判断できるかを考えておきます。できた子どもに前に持って来させるのではなく、端から順番に回りながらその問題に絞って○つけをするのです。できていなければ途中までで○をつけます。間違っていれば、正しいところまでに○をつけて、「ここまであっているよ。この先を考えてごらん」と部分肯定をするのです。一通り見た後、最終的に○になっていない子どもに対してもう一度○つけをします。
先生が困っている子ども全員に対応することは無理です。友だちに「教えて」と聞けるようにすることが解決方法の一つです。できる子どもはどんどん先に進んでもよいが、友だちに聞かれたらわかるまで教えることをルールにします。できる子どもも教えることでより力をつけることができます。このやり方の前提となるのは子ども同士の人間関係がよいことです。日ごろ授業で、子ども同士がかかわり認め合う場面を意図してつくることが大切です。

高校の化学基礎の授業について相談されました。
受験に利用しない子どもも多く、世に言う捨て科目で積極的に取り組もうとしてくれないということです。実験で主体的に取り組ませたいのですが、これまであまり実験をする経験がなく、慣れていないために時間もかかり、なかなか意欲的にはなってくれないようです。そのためか、考察もおざなりになるようです。
経験がないのですから、いきなり高校生としての力を求めるのは無理がありそうです。経験の少ない中学生と同じステップで力をつけていくことが必要です。疑問を持たせる。どんな実験をすればよいか、もし仮説が正しければどんな結果が出るはずか、実験結果からどんなことが言えるか、何が言えないかといったことを順番に考える経験を積ませるのです。また、時間を確保するためにICTの活用も大切です。予備実験の様子をビデオに撮っておい、いつでも見られるようにするといった工夫で、説明時間を短くすることができます。データの共有も簡単にできます。焦らずに一から育てるつもりで授業を組み立てることが必要だと思います。高校生ですから、何が大切かを理解できれば、できるようになるのは中学生よりも早いと思います。急がば回れです。焦らずに基本からやり直すことも大切だと思います。

中学校入試の適性検査での論理的思考を問う問題について、理数に偏っていることを気にされていました。論理性は言語面でも大切なものです。言葉を論理的に正しく解釈する問題や、日常的な場面での見方・考え方を問う問題など、ちょっと視点を変えればバリエーションはたくさんあるはずです。先生方も楽しむつもりで問題を考えればよいと思います。
また、スモールステップで解答する問題をつくるのかどうかについても相談されました。どちらかが正しいということではないと思います。ひらめき型の子どもと、一つひとつ積み重ねていくタイプの子どもとではどちらが解きやすいかは違ってきます。多様な子どもたちの特性を知るためにも、両方を混ぜればよいと思います。

子どもたち1人に1台の端末を持たせていますが、機器の貸し借りによる紛失、ログインの失敗によるロックなどセキュリティ関連でルールが守れないためにトラブルがいくつか起こっているようです。
改めてセキュリティ関連のルールについて話す機会を設けるべきかという相談です。多くの子どもは守れているのに、一部の子どものためにわざわざ全体で話をするのは効果的ではないように思います。せっかく端末を持っているのですから、ネットを使ってニュースのような形で失敗例を紹介するとよいと思います。こんなことが起こって困ってしまったといった情報を流すのです。せっかくですので学園新聞ネット版を新聞部などにつくらせるのもよいでしょう。部活動の結果報告なども一緒に掲載して子どもたちが楽しく読めるものにするとよいと思います。

先生方が、それぞれが課題を持ち、それを解決しようと前向きに取り組んでいることがよく伝わりました。個々の動きが大きな波となって学校全体に広がってくれることを願います。
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