科学的な見方・考え方を意識して実験に取り組む

前回の日記の続きです。

理科の授業研究が2年生で行われました。唾液によるデンプンの消化の実験です。
小学校の復習で、ご飯を口の中で噛んでいると別のものに変わったことをヨウ素液の変化をもとに調べたことを思い出させましたが、一部の子どもの発言ですぐに授業者が説明していきます。記憶がはっきりしていない子どももいるので、もう少し他の子どもにも発言させて確認させたいところでした。ご飯を食べている時に別のものに変わっている実感が子どもたちにないことを確認し、「まずは実感してもらう」と、用意した小さな餅(団子)を子どもたちに配ります。音楽に合わせてしっかり噛むことを指示し、餅を口に入れさせます。テンションがかなり上がりましたが、口に入れれば、しゃべることもできませんので落ち着きます。1分ほどしっかり噛ませて、どんな変化があったか、変化がなかったのかを問いかけます。子どもからは「おいしい」「甘かった」という言葉が上がります。授業者は「甘くなった」と言葉を変えました。「甘くなったという人?」「おいしかったという人?」と子どもたちをつなごうとしますが、「甘い」「おいしい」ではなく、「変化」したことをしっかりと押さえたいところです。「甘かった?最初から?」と問いかけ、子ども自身に「変化」を意識させたいところでした。
授業者は、他の意見も子どもから引き出そうとします。液体になったという発言もしっかりと板書をします。「変化あった?」と問いかけられた子どもは、「あまり変わらない」と答えます。授業者は「あんまり変わらないね」とこの発言も受容します。どのような発言も受け止めようするのはよい姿勢です。「味は主観的なものなので、中々難しい」と言ってから、「中学校では別のものというのは、こういう風に教えます」と言って、「糖」を天下りで出しました。「今やったように、甘くなった、変化した、しなかった、おいしい、まずいではよくわからないから、理科的には困ります」と説明して、「糖になったことを確かめよう」とこの日の課題を提示しました。

子どもの発言を引き出すための手立てとして餅を食べさせるというのは面白いと思います。発言を受け止めることもできています。しかし、子どもの発言を焦点化して、課題をつくることが上手くできていません。前提となることをきちんと整理し、小学校の知識ともうまくつなげる必要があります。
まず、餅はお米から作られていて、小学校で学習したデンプンであることを知識として押さえておく必要があります。その上で、噛んだ後変化した、しなかったと意見が分かれたことから、舌では変化がよくわからないこと確認します。甘いとい意見もあったので、甘いものに変化したかもしれないことを押さえ、糖になったと結論づけるのではなく、甘いものの例として「糖」を出し、もしかすると糖の仲間になったかもしれないという仮説を立てるのです。

どのように実験するのか、手順は授業者が天下りで説明します。デンプン溶液は2つ用意してあります。ここで、なぜ2つあるのかと問いかけますが、何を知りたいかという実験の目的で手順や実験内容は異なります。手順の説明に入る前に、このことをきちんと整理していないことがとても気になりました。唾液を入れたのと入れないのをつくるためと言うのですが、温度については小学校の時に温めたのでと何も考察せずに40度と指定します。比較実験を意識しているのですが、どの条件を変えて比較すべきかは仮説によって変わります。デンプンを噛めば糖になることを示すのであれば、先ほどの餅を噛む前と後で試薬を使って確認するだけで十分です。比較をする必然性もきちんと考えさせることが大切だと思います。
丁寧にやるには時間の関係で工夫が必要ですが、まず先ほどの餅をもとに、試薬の説明や糖になっているのかの確認を授業者が演示し、その上でどんな実験をするとよいか考えさせると面白いと思います。例えば、餅ではよくわからないので、どんな実験をしようと問いかけるのです。米粉を溶かしたデンプンを使う必然性が生まれます。また、失敗から学ぶことも大切ですが、失敗させる時間を取ることはむずかしいので、あらかじめ常温で実験をしてうまくいかなかったビデオを見せて、どうしようと考えるという方法もあると思います。上手くいかなかった原因を考え、仮説を立て、どんな実験をするのかを構想するのです。デンプンのせいなのか、時間が短かったのか、撹拌が必要なのか、唾液の量なのか、子どもたちから出てきたものをもとに実験をグループごとに考えさせ、それらの結果を集めて考察するのです。

授業者は実験の条件を同じにするために、唾液は全員のものを入れるように指示します。こういった実験全般に共通する注意を手順の途中にはさみます。このことは大切なのですが、手順の中で説明すると押さえが弱くなります。実験に関する共通の注意、比較実験であれば「条件をそろえる」「比較する時は条件を一つだけ変える」といったことですが、を最初に子どもたちに問いかけてまとめておき、その上で、実験を構想したり、手順をどうすればよいか、なぜこのような手順を踏むかを問いかけたりするとよいでしょう。

糖の検出の試薬としてベネディクト液を使いますが、授業者は実際に反応を見せずに口頭で糖があるとオレンジ色に変わると説明します。ビデオ等を使ってデンプンと糖との反応の違いをきちんと確認しておくとよいと思います。この時、糖として何を用意するかが問題です。子どもたちは糖というと砂糖しかイメージしませんが、ベネディクト液はショ糖(砂糖)とは反応しません。そこで、麦芽糖やブドウ糖などをいくつか用意して、代表者になめさせて甘いことを確認した後、それらで実験した結果をビデオで見せるとよいでしょう。中学校の範囲を逸脱するのでショ糖をどう扱うかは難しいところですが、ショ糖は反応しないことを実験で押さえておいてもよいかもしれません。

手順に沿って、注意事項もその操作といっしょに説明するので説明が長くなり、子どもたちは長時間受け身の状態が続きます。よく集中していたのですが、さすがに集中が切れてくる子どもが出てきます。説明が終わると子どもたちは一斉に体を動かしました。それだけ受け身の状態が続いていたということです。
子どもたちは素早く実験に取りかかりますが、注意事項が多かったため、徹底できていません。試験管を突沸させてしまうグループもありました。また、温度計は使うたびに洗うことを指示していませんでした。唾液が混ざってしまう可能性もあります。授業者は途中で気づいて指示をし直しましたが、授業者自身も注意が多すぎて整理できていませんでした。
子どもたちの集中力を考えると、実験の流れを説明して全体像をつかませてから、注意事項を説明するとよいでしょう。ディスプレイにスライドで実験の流れを映しておいて、注意事項をその横にポップさせておくといった工夫をすれば分かりやすくなると思います。口頭だけではなく、視覚に訴えることも意識するとよいでしょう。注意事項ごとにその場面をビデオで見せるといった方法もよいと思います。

一度実験をした後、比較実験を意識して、デンプンの種類、温度など、自分たちで条件を変えて実験をさせます。しかし、その必然性がありません。条件を変えることで何を知りたいのか、何がわかるのかといったことを意識させることが必要です。子どもたちが思考する場面がほとんどなく、実験という作業に終始してしまいました。

実験終了後、グループを混成にして何を変えてその結果どうなったかという実験結果を共有しますが、子どもたちは互いの結果を写しているだけです。条件を変えた意図、実験結果から何がわかったということを共有して、それをもとに何が言えるかを話し合わせたいところでした。
もとのグループに戻り、個人で考察を書かせた後、個別に発表させます。最初に指名した子どもは「唾液を入れたものはベネディクト液でオレンジ色になったので、糖に変わった」という事実を発表してくれます。子どもたちは授業者が板書をするとすぐにそれを写します。発表をもとに考えを深めるという経験を日ごろからしていないことがわかります。結果、結論だけが重視されていることが気になります。続いて、それ以外に何かないかとたずねると「デンプンは唾液によって糖に変わる」ということが出てきました。授業者は、それを軽く流してしまいます。これらの発言は、もっとていねいに扱う要があると思います。「唾液を入れれば糖に変わるの?絶対?」といったやり取りが必要なはずです。というか、条件を変える実験の前にこのやり取りをするべきなのです。そのことを確かめるために実験をするのですから。

この授業をつくるために予備実験を含めてずいぶん時間をかけたようです。条件を変えて比較実験をするなどの工夫も見られるのですが、科学的な見方・考え方として何を大切にするのかが明確になっていません。実験をする必然性を子どもたち持たせることができていませんでした。「何がわかっていて、何がわかっていないのか」、「どのような実験をして、どのような結果が出れば仮説は正しいといえるのか」といったことと、実際の実験がつながっていないのです。活動中心の授業になってしまったのが残念でした。実験のアイデア自体はよいので、科学における実験とはどういうものかをきちんと意識して、授業を構成できるとよかったと思います。
まず、実験する前に何がわかっているのかをしっかりと押さえ、その上で、子どもたち問いかけたり揺さぶったりしながら、何がわからないのか、どうなりそうなのか予想させるといったことから授業改善を始めるとよいでしょう。
まだ若い先生なので、この経験を活かして次につなげてほしいと思います。
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