社会科の公開授業から学ぶ(長文)

前回の日記の続きです。

社会科は、以前から積極的にアクティブ・ラーニングに取り組んでいる方が多く、また、ICTを積極的に活用されている方も多いように思います。

中学2年生の社会科はアメリカ合衆国の独立についてでした。
授業者は用意したスライドを使って説明をします。子どもたちの顔はしっかりと上がっています。手元の資料を使うのではなく、スクリーンに大きく写すことの有効性がよくわかります。ただ、教師が一方的に解説しているので子どもたちは受け身です。次第に集中力を失くす子どもがでてきます。授業者は一通り説明をすると黒板にまとめを書きます。すると子どもたちはそれを一生懸命に写し始めます。授業者は板書している間は子どもの方を振り返りません。板書が終わると子どもたちの方を見るのですが、しばらくすると補足的なことをつぶやきます。しかし、子どもたちは、写すことに専念しているので顔は上がりません。ほとんどの子どもたちがまだ写しているのに、「アメリカの人は紅茶を飲むか?」とか、「アメリカンコーヒーを知っているか?」と子どもたちに問いかけます。こういったやり取りを全くムダだとは言いませんが、本質的なことではなく、子どもたちが考えるようなことで問いかけてほしいと思います。
途中でどうしても眠ってしまう子どもがいるのですが、授業者は声をかけたり、指名したりして何とか参加させようとしています。窓を開けて空気の入れ換えもしますが、なかなか効果が上がりません。しかし、眠っている子どもも、授業者が板書をするとまわりの子どもの動きでそのことに気づき、ノートに写し始めます。
ICTは、授業者がより効率的に情報を与えるための道具として使われていますが、子どもたちの理解するスピードや情報処理の能力には限界があります。それを越えては頭の中に入っていきません。情報を処理して整理する時間が必要です。授業者がまとめて写させるのではなく、子どもたち自身にまとめさせるだけでも様子は違ってくると思います。
せっかくのICTの活用ですが、従来型の授業の枠を越えることができていませんでした。授業者が一方的に説明するための道具ではなく、ここぞという資料を大写しにして、それをもとに子どもたちに考えさせるといった使い方も視野に入れてほしいと思います。

日ごろからグループでの活動を取り入れている先生の高校1年生の世界史の授業は、イギリスと中国、インドの三角貿易について考える場面でした。
6人のグループもあるのですが、どうしても子どもたちが2つに分かれてしまいます。3人ずつにした方がよいかもしれません。また、子ども同士の机が離れているグループがあることも気になりました。距離があるとどうしてもかかわりにくくなるからです。
授業者は子どもたちがグループ活動している間、ずっと笑顔でいます。簡単なことに思えますがそれほどたやすいことではありません。このことが学級の雰囲気に大きく影響しているように思います。子どもたちが安心して授業に参加する空気ができているのです。子どもたちの表情がよいことが印象的です。
活動の途中でいったん止めて、着眼点について説明をします。途中で止めることはよいのですが、授業者がポイントを確認するのではなく、子どもたちにどこで困っているのかまず共有して、子どもたち自身でポイントに気づくようにしたいところでした。
作業が終わった後、子どもたちに課題の答について確認します。貿易品目を問いかけ、指名した一人が答えると、それを受けて授業者が解説をしますが、他のグループの子どもたちにも確認したり、どこからわかったかを問いかけたりすることも必要だと思います。
貿易品目の中の銀がなぜ重要かを問いかけます。これは知識なので調べさせるか、この課題に取り組む前に教えておいた方がよかったでしょう。当時のイギリスの中国との貿易不均衡を確認して、合法的に銀を取り返すにはどうすればよいのかを問いかけます。授業者は「結局どうしたの?」と問いかけ、子どもたちのワークシートにそのことがきちんと書かれているか確認するように指示しました。
子どもたちはグループの活動で何を考えればよいのか明確に意識しておらず、教科書や資料集に書かれていることをまとめただけのようです。課題意識がないのです。三角貿易について考えさせるのであれば、まず「イギリスが貿易不均衡での銀の流出を止めたい」状況であったことを早く確認して、イギリスとしてはどうすればよいのか子どもたちに考えさせるとよかったでしょう。三角貿易は現在でも行われることですので、そういった方法があることに子どもたちに気づかせ、続いてイギリスが具体的にどうしたかを調べさせるのです。
子どもたちはグループでの活動に積極的に取り組むようになっていますので、次は、授業のねらいを明確にして、どのような課題で活動させるとよいのかを考えることが必要になります。子どもたちに何を情報として与え、何について考えさせるのかを意識することで子どもたちの学びが深くなると思います。今後、どのように授業が進化していくのか楽しみです。

高校2年生の日本史の授業は、平安時代に関する選択肢問題をグループで解く場面でした。まずグループにしてからこの日の進め方について説明しますが、子どもたちの顔は上がりません。授業者の指示が終わる前に問題に取り組む子どもも目立ちます。まず、授業者に集中させることを徹底してほしいと思います。
授業者は何となくではなく、根拠を説明できるようにと強調します。とても大切なことです。このことを子どもたちがどこまで意識できて取り組めるかがポイントです。
多くの子どもたちはしっかりと問題に取り組んでいますが、中には集中できていないグループがあります。問題を解き終っているのかもしれません。授業者の何らかの働きかけが必要だと思いました。
グループでの活動を止めて、全体で解答の確認をします。授業者は子どもたちの動きがまだ止まっていないのにしゃべります。いったん授業者に集中させてから次の指示をするとよいでしょう。
子どもたちの意見は、2番と3番の2つに分かれました。意見が分かれるのは、子どもたちに考えさせるよい機会です。授業者はここで根拠を問いかけるのですが、一方の側からは、明解なものが出てきません。出てきた方の根拠についても全体できちんと共有してそれに対して納得するのかどうかを問う場面がありませんでした。子どもたちからそれ以上の意見は出てこなかったのですが、実はグループの中では話し合いが起こっていました。全体で進めるのではなく、子どもたちに戻すべき状態になっていたように思います。授業者は、しばらく待ってから、もう一度理由を考えるようにとグループに戻しましたが、その前にまず、他の選択肢が正しくない理由をきちんと確認することが必要です。その上で、2番と3番の選択肢についてどこが違うのかといったことを焦点化することが必要でした。
再び、全体で確認するとほとんどのグループが2番に変わっていました。変わった理由も確認しますが、教科書の記述と同じだという理由です。「では、3番はどこが違っていたのか?」と確認することも必要なのですが、それはありません。また、2番、3番と番号で確認するだけで、その記述をきちんと読むこともしませんでした。正解を導き出すことが目的化しています。この問題を解くことを通じて、きちんと学習内容を確認、復習することが大切です。選択肢で何が述べられているのかを確認し、正しい理由だけでなく、正しくない理由も明確にすることで、なんとなく選択していた子どもたちにも知識が定着していくのです。
続いての課題は、有力な農民が荘園を守るためにどのようにしていったのかのストーリをグループで有力農民、中級貴族、国司といった配役を決めて考えるというものでした。ワークシートにはヒントとなる事例が載っているようですが、それを使わなくてもよいと指示しています。答は一つでないことも強調します。授業者は何度も言葉を足しながら指示をしますが、考えるための足場となるものが整理されていません。子どもたちと言葉のキャッチボールを通じて必要な知識や視点を明確にし、見通しを持たせてから取りかかるようにするとよいと思います。
子どもたちは配役を決めるのに結構な時間がかかっていました。誰がどの役のやるのか、授業者が指示してもよかったかもしれません。子どもたちにとって興味を引く課題なのでしょう。活動は盛り上がっているように見えます。しかし、ここで注意をしなければいけないのは、この活動の目標や評価基準がはっきりしないことです。農民の行動のきっかけとなった法律や制度を明確にするといった条件を付けて、どれだけのものを関連づけることができたかを評価にしてもよかったでしょう。
ワークシートには○割という穴埋めがあります。収穫高のどれだけを献上するかというものですが、それをいくらにするかが一つのポイントになっていました。授業者は、「正解はないが、つじつまが合う」ようにと指示をしています。ここでも根拠を意識させることが大切です。結局、時間がないため、最後まで作業が終わらすに宿題となりましたが、途中でいったん止めて、何割という答ではなく、どのようなことを根拠に数字を決めたかを聞き合うとよかったと思います。
子どもたちが興味を持つような課題を工夫しようとしていることは、とてもよいと思います。その上で、子どもたちの考えを深めるために教師がどのようにかかわるのかについて考えることが必要です。教師の指示・説明、子どもたちの活動・発表といったことだけでなく、考えの共有、揺さぶり、焦点化、新しい疑問や課題の発見といった要素も意識して、子どもたちの学びを深めてほしいと思います。

高校3年生の地理の授業は、問題演習をグループで行うというものでした。授業者は日ごろからアクティブ・ラーニングを意識した授業を続けていますが、今回はどのような工夫をしているのか興味を引くところです。
グループが基本ですが、グループにならずに個別に取り組んでいる子どもたちもいます。そういった子どもの中には、よそのグループをのぞき込む者もいます。一人で取り組むことを否定する必要はありませんが、形だけでもグループにした方がよいように思います。全体的に子どもたちのテンションが高いように感じました。問題に関係のあることをしゃべっているのですが、集中して取り組めていないようです。授業者は机間指導をしているのですが、全体を眺めて集中できていない子どもに集中を促すことを優先した方がよいと思います。
途中で活動を止めて追加の指示をします。子どもたちは静かにはなるのですが、顔が上がらない子どももいます。もう少し、子どもたちの顔が上がるまでしゃべるのを待つようにしたいところです。この後、子どもたちは少し落ち着くのですが、しばらくすると今度はテンションが上がるのではなく、集中力が落ちてきました。ここが、活動の止め時だったように思います。
子どもたちは、活動はしているのですが、そこで終わっています。より深い学びにどうつなげていくのかが課題のように思います。
別の学級でも同じように問題演習を行っていました。
その学級では、子どもたちのテンションは落ち着いていました。集中して個人で問題を解いています。時々聞き合っている子どもがいますが、グループ全体でのかかわりにはつながっておらず、子どもたちの相談する姿はあまり見られません。調べればわかるのでしょうか、子どもたちにとって、まわりと相談する必然性のある問題ではないのかもしれません。授業者は時々、個別に子どもの質問に答えていますが、せっかくですのでまわりとつなげたいところでした。
授業者は特に答え合わせをしません。自分たちで完結できるようです。これは、よいことなのですが、その先に何か子どもたちが考えるような課題がほしいところです。グループを活かすのなら、一問一答形式の問題の結果や資料をもとに、どのようなことが言えるのかを考えるような課題を用意したいところでした。
授業者が、問題演習でのグループ活動を今後どのような形にしていくのか楽しみです。

高校3年生の時事問題の授業は、ニュース動画をもとに考える場面でした。
原発の再稼働についてのニュースを子どもたちに見せます。今一つ集中して見ていない子どもの存在が気になります。グループの形で進めているので、スクリーンを見にくいことも要因かもしれません。椅子の向きを変えるなどして、見やすい態勢を取らせるとよいでしょう。「安全だという電力会社の意見に対して、汚染水が流れると危険だという意見がある」と動画の画面を使いながら授業者が解説し、これは一般に言われていることだから、授業者の意見ではないことを強調します。
「ニュースを見て意見が変わった?」と問いかけながらその日の朝刊の記事のコピーを資料として配ります。記事を見て子どもたちが反応をします。授業者は資料の説明を始める前に「おしゃべりはやめてください」と、ちょっと強い口調で言いました。資料に興味を持って、それに関することをしゃべっている子どももいます。「やめてください」という否定的な言葉を使うと、子どもたちの学習意欲が下がる心配があります。「今から説明するから聞いてくれる」といった言い方にするとよかったでしょう。
「もんじゅ」の廃炉に関連した記事です。指名した子どもに「もんじゅ」の説明の一文を読ませます。子どもたちは、集中して目で追っています。読み終わった後、授業者が、「再稼働するためにも数千億円の費用がかかる」といったポイントとなる部分に線を引くように指示をしますが、指示や説明を始めると子どもたちの集中が落ちることが気になりました。子どもたちはそれなりに興味を持って記事を読んでいます。授業者がポイントを解説するのではなく、子ども自身でポイントと思うところに線を引かせるとよかったと思います。ほとんどの子どもたちは、朝、新聞に目を通していないようです。子どもたちにこういった活動をやらせても時間がかかると思ったのかもしれませんが、彼ら自身で記事の内容を整理させなければ、自分で理解して考えることができるようにはなりません。子どもたちを鍛える意味でも、できるだけ子どもたちにまかせたいところです。
「もんじゅ」の再稼働についてのニュース番組を見せます。授業者は途中で動画を止めて「青森県の六ケ所村に使用済み燃料貯蔵プール」とメモするように指示しました。所々でビデオを止めながら、授業者が内容をまとめます。確かにこうした指示やまとめをしないと記憶に残らないかもしれませんが、子どもたち自身の判断でメモするようにさせたいところです。見終わった後で、内容をグループや全体で確認して共有する時間をとるのです。
最後に、この日の内容について自分の考察を書いて提出するように指示しましたが、じっくり考えて書くだけの時間はありませんでした。早々と片付ける子どもが目につきました。
子どもたちにニュースの内容を知識として与えることが目的なのか、その知識をもとに考えさせるのが目的なのかをはっきりさせるとよかったと思います。前者であれば、子どもたち自身でニュースの内容を再編成して記事を書かせるといった課題、後者であればその日のテーマを元に社説やコラムを書くといった課題を与えると面白かったと思います。こういった課題であれば、子どもたちの活動量を増やすことができるでしょう。
授業者の意欲が感じられる授業でした。子どもたちに知識を与えることに加えて、子どもたち自身に考え、出力させる場面が増えることを期待します。

社会科として、グループを活かす課題や活動の在り方についてこれからも工夫を続け、互いに見合うことで高め合ってほしいと思います

この続きは次回の日記で。
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