子どものつぶやきで進めることに頼りすぎない(長文)

前回の日記の続きです。

5年生の算数は少人数授業で、式からどのように考えたのかを読み取る場面でした。
1辺が6個の●でつくられた正方形の●の合計の数を考える問題です。授業者は、「Aさんはこの図を見てこんな式を考えました」と図を提示してから、(6−1)×4と黙って板書しました。子どもたちは、授業者の手元に集中しています。書き終って黒板の横に黙って立っていると、子どもたちが、「ちょっと違う」「おかしい」といったことをつぶやきます。授業者は優しい表情でその言葉を聞いています。「えっ、違うの?」と声をかけると、「式が違っている」「答はあっている」といった言葉が返ってきます。子どもたちが疑問を持って、この課題に引き込まれていくのがわかります。「(柔らかい口調で)話す」「(黙って)書く」「(子どもたちの反応を)待つ」といったメリハリが効いているために、子どもたちがよく集中し、しっかりと参加しています。

「Aさんの考え方をこの前やったように図を丸で囲んでわかるようにしてほしい」と指示します。子どもから「式はあっとる?」というつぶやきが出てきます。授業者は笑顔で「式は?」「答は?」と返します。こういったつぶやきを軽く受容してくれるので、子どもたちはよくつぶやくのでしょう。
「今日のめあて」と授業者が言うと、子どもたちは素早くノートを開き鉛筆を持ちます。よい授業規律ができています。「今日のめあて、どうしよう?」と子どもたちに問いかけます。授業者が一方的にめあてを与えるのではなく、先に課題を提示し興味を持たせることで、子どもの言葉でつくろうとしています。とてもよい導入だと思いました。

子どもがいろいろとつぶやいてくれます。授業者は子どものつぶやきを復唱しながらめあての形にしていきます。子どもたちは一生懸命に自分の考えを聞いてもらおうとしますが、授業者と発言する子どもだけの関係になっています。つぶやきだけでやり取りするのではなく、「ちょっと待って。今言ったことみんなにわかるように話してくれる?」と、つぶやきを全体に広げるような場面がほしいと思います。一部の子どもだけで進めるのではなく、学級全体で考えを共有しながら進めるようにしたいところです。

図を配って、個人で考えさせます。十分時間をとった後、ペアでお互いの考えを伝え合います。まずは自分の考えを説明できることが目標です。子どもたちは落ち着いて自分の考えを話しますが、ほとんどの子どもは自分のノートを見てしゃべります。子ども同士の視線が交わらないのが残念です。そのせいか、聞いている子どもがあまり反応していません。説明の図を間に置き、それを使って相手の目を見て説明するようにしたいところです。
面白いのは、ペアでの活動が終わったら、後ろで自由に交流してよいというルールです。少人数で後ろにスペースがあるので他の子どものじゃまになりません。新たな発見があれば席に戻って書き足すのです。
ペア活動が終わった後、子どもたちはまずノートに説明を書き足していました。日ごろから友だちの説明を聞いた後は、自分の考えに足すようにしているのでしょう。よい学習習慣が身に付いています。書き終った子どもは後ろに移動して他の子どもと交流をします。ここで心配なのは、自由に交流すると仲のよい子同士でグループになって、テンションが上がってしまうことです。座席をもとにグループをつくるのはそういったことを避けるためでもあります。子どもたちの様子が気になりましたが、テンションも上がらず落ち着いて聞き合っていました。この場面だけでなく、授業全体で子どもたちが落ち着いていることが印象的でした。

全体で発表させます。子どもたちに挙手させるのですが、思ったほど手が挙がらなかったのでしょう。授業者は、「全部完璧に言うのは難しいと思うから、『私はここまでわかっている』とかでもいいから」と発表しやすいように言葉を足します。
指名された子どもはその場で発表しようか、前で発表しようか迷っています。前で発表しようと動いた時に授業者は、時間がもったいないから「早くしよう」と声をかけます。決して厳しく注意をするというのではなく、明るくうながします。子どもたちとよい関係を保ちながら上手に授業の流れをコントロールしていると思いました。

発表者は、図を使わずに言葉だけで説明していきます。言葉での説明に慣れているように思います。ここで授業者は「頭に入ってこないから、どこのことか説明してくれる?」と図を使うようにうながしました。悪い対応ではないのですが、授業者でなく子どもからこの言葉を出させたいところです。「今○○さんの言ってくれたこと、どこのことかわかる?」と子どもたちに問いかけて、「わからない」といった言葉を引き出すとよかったでしょう。
発表者は「(6−1)は」と言いながら、図の1つの辺の●を一方の端からもう一方の端の1個を除いて線で囲みます。「これが4つあるので」と同じように残りの3か所を線で囲みました。この間子どもたちはとても集中して発表を聞いていました。
2/3くらいの子どもたちはハンドサインで賛成を示します。授業者はここで「付け足し?」と付け足すことがないかを子どもたちに問いかけます。「なし?」「えっ、完璧?」「付け足しなし?」と子どもたちを揺さぶります。安易な「いいです」という賛成で先に進めないのはとてもよいことです。こうすることでハンドサインの形骸化を防ごうとしているようです。
「同じ考えした人?」というと数人の手が挙がります。「付け足しできる人?」というと手が下がりかけます。「違う考えの人?」と言って、手の挙がっている子どもを指名しました。「付け足し」という言葉にこだわるとなかなか発表しづらいと思います。こういう場合は、単に同じ考えの人や賛成した人に、もう一度説明してもらえばよいのです。たとえ同じ説明をしようとしてもできるものではありません。微妙に違ってきます。そこで、異なった表現や付け足された内容を評価していけばいいのです。

次に指名された子どもは、4つの辺をそれぞれ囲んで、重なっているところ消してと説明します。子どもたちはその説明がよくわからないようです。あまり反応しません。授業者は「うーん。なるほど」といって、また「付け足し?」と問いかけます。当然この状態では子どもたちは反応しません。「意見?」と言葉を重ねますが、反応はありませんでした。
そこで授業者はそれぞれの図を指し、どちらの考えをしたか挙手させます。多くは1人目と同じでしたが、2人目と同じ子どもも何人かいます。ここで、「どちらが正しいと思う」と問いかけました。すると、最初に発表した子どもが手を挙げて、もう一人の説明で、頂点の4つを消すと辺が4個ずつになることを指摘します。発言のはっきりしないところを授業者が発表者に確認していきます。子どもたちはしっかりと聞いていますが、授業者と発表者の2人の世界になっていきました。

授業者は発表者を席に戻した後、重なっていない4個ずつの4つの辺を計算したあと、重なっているのはどうすればいいかと問いかけます。数人の手が挙がります。ちょっと待ってから、一人を指名すると「4×4で16になるので違うと思います」と授業者のねらいと少しずれた答が出てきました。ここで、授業者は、まず「4×4はわかった?」とこの発言を全体に確認します。続いて「4個が4組あるけど、どこのことかわかる」と問いかけて、子どもの発言を否定しないようにずれを修正しようとしています。なかなかだと思います。しかし、一部の子どもつぶやきだけで授業が進んで行くので、多くの子どもはこの展開についていけなくなっています。最終的に、2人目の説明の図では式が4×4+4になってAさんの式とは違うことを押さえ、「求めることはできるけど考え方が違う」とまとめました。最後に、間違えていた子どもに、友だちの説明は自分の考えと同じか、納得したかと確認しました。こうすることで、自分の考えを否定されたという気持ちは薄れると思います。これもよい対応でした。
基本的に子どもつぶやきを拾う形で進んで行くのですが、これだけでは全員参加には限界があります。他のやり方も意識するといいでしょう。この場面では、「Aさんの式は置いておいて、2人の図で式をつくるとどうなるかな?ちょっとまわりと相談してごらん」とすると、他の子どもも参加しやすかったと思います。隣同士やまわりと相談させるのです。

続いて最初の図の説明にもどり、(6−1)と4がどの部分かを問いかけました。ずいぶん回り道になりました。最初に「付け足し」にこだわったことが苦しい展開になった原因です。付け足しにこだわらず、すぐにこの発問をして、他の子どもに答えさせればすっきりと進んだと思います。一つひとつ発表や発言をきちんと全員が理解することを先にすべきなのです。
話が横道にそれていたために、反応できる子どもはわずかです。ここでもまわりと相談させるといったことが必要だったでしょう。
指名された子どもの説明が終わると「あー、なるほど」という声が上がります。このような時には、声あげた子どもに「どういうこと?何がわかった?」と聞いて説明させると、まだよくわからない子どもの理解を助けてくれます。授業者はすぐに次に進みましたが、ちょっともったいないと思いました。時間が気になっていたのかもしれません。

「6は何を表わすか」「引く1はどういうことか」を再度確認していきます。子どものつぶやきだけではなかなか焦点化できません。「そのまま計算すると重なった部分が……」と最初に考えを発表した子どもがつぶやいたので、「説明して」とまたその子を指名しました。この授業時間中、この子どもばかりが発表します。発表に対して授業者が言葉を足したり問いかけたりして、また2人だけの対話で進んで行きます。さすがに視線が下がる子どもが目立ってきましたが、それでも子どもたちは授業に参加しようとしているように見えます。発表者とだけやり取りするのではなく、他の子どもたちに問いかければ、きっと積極的にかかわってくれたと思います。
発表者が席に着いた後。授業者は子どもの言葉でまとめようとします。しかし、先ほどの子どもが大きな声で話すので、他の子どもは板書される結果を見ているだけになってしまいました。ここは、その子どもを「ちょっと(発言を)待ってくれる」と制して、他の子どもに発言させなければいけない場面でした。

続いていよいよこの日の本題です。「辺の数が7だとAさんの考え使える?」と問いかけます。本時のねらいは同じ考え方を使えば一般化できることと、そこから関数的な考えにつなげていくことです。元となる考え方はどれでもよいのです。Aさんの考えにこだわる必要はありません。できれば、先ほど出てきた別の考えも活かしたいところでした。
辺の数が7個の時、8個の時にどんな式なるかを個人で考えます。子どもたちは作業中によくつぶやきます。決して悪いことではないのですが、授業者に向けて発せられる言葉です。授業者がよく拾ってくれるのでそうなるのでしょう。個人作業の場面でも、「隣の人に聞いてごらん」「相談していいよ」と子ども同士をつなぐことも意識してほしいと思います。

全体で「式を教えてください」と挙手を求めますが、半分ほどしか手が挙がりません。まだ、ノートに書いている子どももいます。作業をきちんと終わらせて顔を上げてから、問いかけることが大切です。それでも、指名された子どもが発表すると子どもたちはそちらに顔を向けます。こういったとこところは本当によく子どもたちが育っていると思います。授業者は指名された子どもが式を言うとその場で板書を始めます。せっかく発表者を見ている子どもたちの何割かは黒板の方を見てしまいます。ここは、じっと聞いているべきでしょう。続けて他の子どもを何人か指名して答を共有し、「いいかな?じゃあ黒板に書くね。だれか言ってくれるかな?」とちょっと不安な子どもを指名するとよいでしょう。大切な式なので、何人にも言わせるのです。自信のない子ども、よくわからない子どもも聞いていれば答えられるので、意図的にそういう子どもを指名します。こういったことが全員参加につながるのです。

続いて辺の数8個の場合を聞き、最初の式と変わっているところ、変わっていないところを確認します。よい展開なのですが、ここでも一部の子どもの挙手で進んで行きます。
全体で、辺の数を増やしながら、式を言わせていきます。その時「4個ずつ増える」とつぶやいた子どもがいました。授業者は「答がね」と受けて「今式を考えているから」と「式だと何が変わる?」と返しました。うまい対応ですが、子どもの発言は関数的なとてもよい気づきなので、「すごいことに気づいたね。この考え方はこの後の単元で出てくるから覚えておいてね」とちょっとした価値付けをしてあげるとよかったと思います。

最後のまとめを子どもたちとつくります。「今日のキーワードは?」と問いかけて「1辺の数」を引き出し、「1辺の数に注目すると」と子どもに続きを考えさせます。何人かの子どもがつぶやいてくれるので、キャッチボールしながら修正していきます。よい場面なのですが、どうしても一部の子どもとのやり取りになってしまいます。他の子どもが聞くだけでなく、ここにかかわれるようにすることが課題です。
最終的には、「1辺の数に注目すると辺の数が変わっても同じ考え方でできる」とまとめました。このまとめは、指導書に書かれているものですが、私には違和感がありました。1辺の数に注目するというのはたまたまです。授業者が子どもたち問いかけていた「変化するものと変化しないものに注目する」ということをまとめに活かしたところでした。

授業者は子どものつぶやきを拾ったり、切り返したりといった対話がとても上手です。しかし、それに頼るあまり、一部の子どもとの個の関係で授業が進む傾向あります。子どものつぶやきを全体に広げたり、出てきた課題を一人ひとりに考えさせる時間をとったりできるとよいと思います。また、授業者と個との対話だけでなく、子ども同士が相談するといった場面をもっと取り入れると授業の幅がぐっと広がると思います。
子どもを受容することを含め、基本的な力はとても高い先生なので、ちょっと意識を変えるだけでぐっと伸びると思います。
次に授業を見せていただくのがとても楽しみな先生でした。
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