子どもとの人間関係ができたからこそ、次のステップを目指してほしい

中学校の現職教育で講師を務めました。今回の授業研究は特別活動の「学級会」でした。学級会での授業研究は私も初めての経験でとても楽しみでした。
授業研究に先立ち全体の様子を参観させていただきました。手の空いている先生方も同行してくれます。気軽に互いの授業を見あうことができるのはとてもよいことです。子どもたちの様子を中心に、今教室がどのような状態なのか説明させていただきました。

全体として子どもたちは落ち着いています。基本的に先生方との人間関係も良好です。一方的な授業をしても、子どもたちはちゃんと指示に従い作業をします。ただ活動しているだけで、どんな力がついているのかよくわからない授業も目にします。しかし、子どもたちの状態がよいため、授業が成立していると思っているようです。もちろん、子どもたちが考え、活動するような場面をつくっている授業もあります。そのような授業では子どもたちはとてもよい姿を見せてくれますが、人事異動等の影響もあり、残念ながら絶対的に少なくなっていることが現状です。学校全体で、子どもたちが主体的に取り組む授業を目指してほしいと思います。
具体的には、「課題を先生が一方的に提示するのではなく、子どもたちが疑問を持つような場面をつくる」「わからない子どもがわかるようになる活動場面をつくる」「全員参加を心がける」「授業で大切なことを子どもたちに言わせるようにする」といったことを意識して、授業を組み立てることです。特に1時間の授業で、子どもたちがわかるようになるためには、どのような問いかけをして、どのような活動をすればいいのかを工夫してほしいと思います。
例えば、音楽でソナタ形式の説明の場面がありました。授業者は同じ「形」が出てくると説明しましたが、「形」という言葉ではそれがどのようなことを意味するのかよくわかりません。「形」をわからせるために、楽譜をいくつかのブロックに分けて、似た形を探させるといった活動をすることが必要です。Aとその一部が異なるA’を重ねて見せたりすると音符がつくる形が似ていることに気づくと思います。それを演奏することで、視覚的な理解が聴覚での理解へと進んでいくはずです。一つの例ですが、こういったことを考えてほしいのです。
また、黒板には答や結論、まとめだけが書かれていることが多く、思考の過程や根拠が残されていません。答だけを発表させて、課程や根拠を問わない、共有しない授業も目にします。わからない子どもはただ答を受け入れるしかありません。
例えば英語のQ&Aでは、聞き取れなかった子どもは、友だちの正解を聞いても「そうなの」と思うだけで、できるようにはなりません。できるようになるためには「質問の英語を聞き取ること」「その意味がわかること」「質問の答えを考えること」といくつかの課程があります。それを意識して授業を組み立てる必要があります。いきなり答を聞くのではなく、「どんな言葉が聞き取れた?」「どんな文があった?」と問いかけ、その上で再度聞かせることで今まで聞き取れなかった言葉が聞き取れるようになります。こういった活動を授業の中に組み込むのです。

学年ごとの子どもたちの変化は面白いものがありました。特に驚いたのが3年生です。この学年は入学した時からその様子が気になった子どもたちでした。小学校で学級崩壊を起こしたことがあったそうです。そのためか、子どもたち全体に教師に対する不信感のようなものがあるように感じたのです。生徒指導上で苦労も多かったようですが、一部の子どもにかかわりすぎないようにし、普通の子どもたちとの関係をつくることを一番にお願いしました。学級崩壊を起こした時には、先生方は一部の子どもに手を取られて、多くの子どもたちは先生にかかわってもらうことがなかったと思われるからです。
昨年から、子どもたちと先生の関係がよくなってきました。その様子を見ていて、離れていた子どもが学級に戻ってくるようになりました。そして、この日見た3年生の様子は、どの学級も小学校のように笑顔があふれていました。先生も子どもも授業が楽しくてしょうがない。そんな風に見えました。この時期になると入試のプレッシャーで苦しい表情の子どもも目に付くのですが、こんな能天気で大丈夫かと思うくらいでした。厳しい表情で教壇に立っていた先生の姿を思い出すと、まるで別世界です。先生方と子どもたちでとてもよい学年をつくりあげることができたようです。この素晴らしい経験を学校全体に広げていってほしいと思います。この日あった懇親会の席である先生がこんなことを話してくれました。学校から離れかけていた生徒が、今年は行事があるたびに「今日は3年間で一番楽しかった!」とうれしそうにするというのです。とてもうれしい話でした。

2年生は、相対的に問題が少ない学年ですが、授業で子どもたちが受け身になる場面が目立ちました。先生方が子どもたちを信じて、もっと高いことを求めてほしいと思います。求めればそれに応えることができるはずです。学年全体で目指すところを共有して授業に臨んでほしいと思います。

1年生は、以前訪問した時に、先生と子どもの関係ができる前に子ども同士の関係ができつつあるように感じました。そこで、子どもとの関係をつくることを意識してほしいとアドバイスをしました。先生と子どもの関係はよくなっているのですが、授業中に子どもが先生に対してなれあっているように感じる場面が目立ちました。先生方は子どもの言葉をよく拾います。しかし、授業に関係のない言葉にも一々反応して、相手をしてしまっているのです。こうなると、子どもは調子に乗って不規則発言が目立つようになります。結果として、学級全体のテンションが上がり、授業規律が損なわれたり、集中力を失くしたりしてしまいます。子どもとの人間関係は悪くないので、収拾がつかないといった状況ではないのですが、活気があるというのとは違います。また、一部の女生徒などは、このテンションについていけてないことにも注意が必要です。子どもの言葉を拾い、受容するのは大切ですが、授業と関係のないことは取り上げないようにすることが必要です。けじめをつけることを意識してほしいと思いました。

この学校は、何年かかけて子どもたちと先生の人間関係をつくることができました。だからこそ、そこで止まるのではなくその先に進むことが必要です。授業を工夫すればそれにみあうだけの結果が伴う状況ができました。子どもとの人間関係がよく、授業で困らないことで満足せずに次のステップに挑戦してほしいと思います。

授業研究については、明日の日記で。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31