英語がわかる、できるようになる授業はどのようなものか考える

前回の日記の続きです。

1年生の英語の授業は電話の応対の場面でした。小学校から異動してきた先生です。
小学校での経験からか、子どもたちを非常に上手に受け止めています。子どもたちの表情がよいことが印象的です。失敗しても笑い飛ばせる明るい雰囲気があります。しかし、小学校英語の影響でしょうか、授業が活動中心に構成されているように思います。一つひとつの活動のねらいやそれが達成できたかという評価が授業を見ていてはっきりとしないのです。

フラッシュカードを使うのは読みの練習なのか、リスニングの練習なのか、単語を覚えることなのか、よくわかりません。フラッシュカードはそのどれにも活用できるので優れているのですが、ただいつも同じように授業者が発音して、子どもが繰り返すのでは中途半端で力がつきません。読むことを意識するであれば、カードを見せるだけで授業者は発音する必要がありません。リスニングを意識するのであれば、カードは見せずに聞かせる必要があります。子どもが発音してから、カードを見せるべきですが、その時何を見せればよいのかは難しいところです。言葉を覚えるのであれば日本語を使わずに”situation”から理解させることが大切です。その点から言えば、”situation”や名詞であればその物を表わす絵を見せるという方法があります。その逆に、絵で表わしたものを見せて、言葉を言わせるという方法もあります。言葉の本来の意味を理解した後であれば、読みの確認として英語を見せればいいでしょう。どれが正解と言うのではなく、授業の組み立の中でねらいを明確にして活用してほしいと思います。

単語の意味を子どもたちに問いかけます。知っている子どもしか答えられません。復習であれば、その時使われた英文を聞かせ、思い出させてから問いかけたいところです。また、言葉の意味を教科書の例文の使われ方で教えるのも気になります。例えば”free”を「ひま」と教えます。「拘束されていない状態」という”root sense”で教えたうえで、子どもたちから「ひま」という言葉を出させたいところです。
一人の子どもが発言すると、その後授業者の説明が続く一問一答形式で進みます。授業者に続いて”repeat”しているか、こういった一問一答の受け身の時間が多く、英語が話せるようになる活動や場面はどこなのだろうと考えてしまいます。

この日の主課題は電話での応対ができるようになることです。電話でのやりとりはその”situation”を伝えにくいのが難点です。電話をかける前に、「○曜日にパーティをしよう」「だれを呼ぼうか?」「○○さんは暇かな?」「電話してみよう」「電話にでるかな」といった気持ちを吹き出しに絵で表わしておくといったことをしておきたいところです。その上で会話を聞けば、かなり理解度が変わってきます。田尻悟郎先生風に、この部分を口に出してから、英語を話すといったやり方もあるでしょう。
電話での会話の”repeat”に教科書を見せています。目で文を見ながら耳で聞くので簡単に”repeat”ができます。丸暗記するならいいのですが、言葉として覚えるのにはただ繰り返すのは有効ではありません。目は文を読むためでなく”situation”を理解することに使いたいのです。先ほど用意した絵を指さしながら、”repeat”させると言った工夫がほしいところです。

読む目標を「感情を込める」として、練習させます。指名した子どものテンションは上がります。楽しい活動を目指すのは理解できるのですが、英語の技能には直接結びつきません。それよりも正しく理解して、正しい発音で英語が使えるようにすることが優先です。小学校の英語活動ではないのです。読む練習をしますが、そうではなく話せるようになる練習が先だと思います。どうしても紙の試験への対応が優先された授業構成になってしまいます。大学入試を含め英語の試験のあり方が変わらないとなかなか変われないのかもしれません。

一方が友だちを誘い、他方がその誘いを受けるか受けないかを答えるという練習をペアでします。文をつくるのに「後ろと協力して」と子ども同士のかかわりも持たせています。こういった発想はとてもよいと思います。ただ、かかわれていない子どもも目に付きます。授業者は全体を見て、かかわれていない子ども同士をかかわらせるような動きをしてほしいと思います。
どのようなお誘いなのか、相手の言っていることを聞かなければわからないので頭を使った会話が成立しそうですが、実際の活動を見ているとそうはなっていません。電話なので直接目が合う必要はないとはいえ、誘う方は自分のワークシートに書いておいた文を読んでいます。一方、受け手は、誘いを受けるか受けないかの返事をすればいいので、とりあえず、相手の誘いの内容がわからなくても返事が可能です。また、ちゃんとできているのかどうかの判断、評価ができません。自分のことで手一杯だからです。やはり活動だけで学びが少ないのです。
オリジナルの文をつくると言っても、実際には”situation”をつくっているだけです。そこに時間をかけるのはちょっともったいないように思います。誘う内容の例を絵などで黒板に用意しておくといいでしょう。それをもとに、各自複数の文をつくって、どのようなことを誘うか選べるようにしておきます。一方で受けるかどうかの判断をするために、曜日の表をつくり、忙しい日を決めて印をつけておきます。ここで、授業者が指示した後ろとの協力を、バディとしてより積極的に活用します。バディで互いの文を確認し合い、ペアでの会話はバディにワークシートを預けて、何も見ないで言わせます。ここで言葉に詰まるようであればバディが助けるのです。評価もバディがすることができます。誘いを受ける方は、自分の予定が決まっているので、相手の誘いを聞き取ればすぐに答は決まります。好きなこと嫌いなことを事前に決めさせておくなどすれば、より高度な判断を必要とするやり取りにできます。

一通り活動が終わった後に、挙手で誘う役の子どもを指名して前でやらせます。相手役を決めて実演させますが、ペアの時と同じく誘う役の子どもはワークシートを読んでいます。2人のやり取りを見ている子どもたちは、ただその寸劇もどきを楽しんでいるだけです。そのやり取りの終了後、評価を子どもたちに挙手でさせます。笑い飛ばせる雰囲気の学級だからそれほど気にはなりませんでしたが、友だちに良し悪しを決められるのはあまりうれしいことではありません。いくつかの視点を予め与えておいて、子どもにその視点に沿ってよいところを言わせるといった発想をしてほしいと思います。
聞く側の子どもにしっかりと聞かせるためには、やり取りが終わった後に、”When do(will) they play soccer?”というように、会話の内容について問いかけるといったことが必要です。お客さんにしないような工夫が大切です。

一見活動量が多いように見えるのですが、英語としての活動量は少ない授業でした。英語がわかる、使えるようになるためにどのような活動が必要なのかを考えてほしいと思います。
授業者は、子どもたちを動かす力があります。子どもたちとの関係もとてもよいように思います。だからこそ、英語科の教師として一つひとつの場面で何を目指すのかを明確にして、ていねいに授業を組み立ててほしいと思います。このことを意識すれば、大きく成長する先生だと思います。またぜひ授業を見せてほしいと思う方でした。

最後の授業研究については明日の日記で。
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