若者から元気をもらった研修

2年目、3年目対象の道徳の研修を行いました。今回はICTの活用を意識した実戦形式のものです。

小学校低・中・高、中学校の4つに分かれて事前に決められた授業者が模擬授業を行います。
最初に私から、道徳の授業で目指すものとICT機器の活用のポイントを簡単に説明した後、各グループで授業の検討を行いました。学校で指導案の検討をする時にはどうしても先輩の意向が強く反映する傾向がありますが、今回は同世代なので、自分の考えを言いやすく、積極的に発言する姿が多く見られました。若手同士で自由に授業について話す機会を研修等で意図的につくることの大切さを感じました。授業予定者が体調不良で休んだため当日一から授業を作ることになったグループがありました。とてもたいへんだったと思いますが、昼休みも熱心に検討を重ねる姿から、よい学びになっていることを感じました。
ICT活用については、学校、個人差がありますが、この機会にいろいろな活用について学び合えているようでした。道徳に限らず、授業で使ってみたいという言葉がたくさん聞かれました。講師が機器やアプリケーションの使い方を解説するよりも、授業づくりの過程で仲間から学ぶことの方がはるかに効率的で効果的だと感じます。
これからは、講師が教えるのではなく参加者同士で学び合う研修が主流になっていくでしょう。

模擬授業はどれもICTを活用して導入や考えの共有を効率的に行い、子どもの意見の発表時間をたくさん取るようにしていました。どの授業者も、しっかりと子どもを見て肯定的に発言を聞くことができていました。子どもの言葉を聞くことを意識していることがよくわかります。しかし、挙手中心で順番に発表させるだけで、意見をつなぐことができません。単発の意見の羅列になって、考えがぶつかったり、深まったりすることがありません。このことは4人の授業者に共通していました。
簡単なことではありませんが、つなげる技術が必要です。技術ととらえると難しく感じますが、子どもの意見を聞きたいと授業者が思うことがその第一歩です。そのためには、発言中に発表者だけを注視するのではなく、発表を聞いている子どもの姿を見ることが大切です。子どもたちの反応を見て、なぜこの子は首をかしげたのか、うなずいたのかを授業者が知りたいと思えば、自然に問いかけることができ、子どもの考えがつながっていきます。ここから始めてみるように伝えました。
切り返したり、揺さぶったり、焦点化したりすることも大切です。模擬授業の場面を私が引き継いで、でてきた意見に対してどう返してつないでいくのかを実際にお見せしました。理屈で説明するより、自分たちの眼で見て気づくことでより実感を持って学べると思います。

若い先生は、ICT機器の基礎スキルについてはすぐに身につくと思います。それよりは、ICT機器を活用した結果、最終的に子どもたちが主体的に参加し考える授業へとどうつなげるかが大切です。これができるようになるには工夫と経験が必要です。しかし、彼らの研修に参加する姿から、近い将来きっとこの課題をクリアしてくれると確信しました。若者から元気をもらった研修でした。

ワクワクを感じた校内研修

私立の中学校高等学校の校内研修にコメンテーターとして参加しました。中学校、高等学校のコースごとの現状報告とワーキンググループの中間発表の2部構成です。

今年開設した高等学校の主体的な探究活動を重視するコースでは、生徒が学校での活動について語ったものを自分たちで動画にしてPTA懇談会で発表したようです。機器の不調でその動画をしっかりとは見ることができませんでしたが、障がい者や海外との交流など、社会とつながる活動から生きた知識を学ぼうとしていることを感じました。自分のアイデンティティを持つという言葉が印象的でした。

従来の特別進学コースをリニューアルしたコースでは、具体的な目標を明確にした活動を意識しているようです。英検取得などの目標を意識した授業を展開しています。また、卒業生とのインタビューを冊子にまとめるなど、卒業生とのつながりを活用した進路指導を進めています。また、昨年までは、他のコースより授業時数が多かったのですが、今年から他のコースと同じとすることで終業時刻が同じになり、部活動への参加がしやすくなったようです。文武両道が意識されています。学生生活の充実と進路指導を意識した改革が進んでいるように感じました。

従来の一般のコースをリニューアルしたコースでは、生徒が落ち着いて前向きに学校生活を送っていることが報告されました。学校全体で取り組んでいる毎時間のリフレクションシートについて、当初は書くのが大変だという声が多かったようです。慣れるまでは時間も手間もかかるが、学校全体で取り組めば次第に素早くしっかり書けるようになっていくといろいろな学校で聞きます。この学校も全体で取り組んでいるので、次第に定着してきているようです。
コースを2分割してカリキュラムは同じだが実質別の2コースとして運営していますが、小集団化することで子どもたちの仲間意識や教師のチームワークがよくなっているようです。こういった試みは私がかかわらせていただいている他の学校でも検討されています。規模の大きい学校では検討に値すると思います。
学力をどのようにして伸ばすのかがこのコースでの課題の一つですが、子どもの自主性・主体性を高めることをその解決の糸口として考えています。これは正しい方向だと思います。一人ひとりの状況に応じて異なるアプローチを用意して対応しようと、意欲的に取り組んでいます。今後どのようになっていくかをしっかり見守っていきたいと思います。

キャリアを意識したコースでは、子どもたちによい人生を送ってほしいということを大きなテーマとして掲げています。体験から学ぶことを重視し、校外学習やインターンシップ、文化祭等の行事の充実、外部検定への挑戦といったことを軸としてカリキュラムを展開しています。生徒も積極的に参加し、楽しく学校生活を送っているようです。中でもインターンシップは子どもたちの進路を意識したものに変えるように検討されています。具体的には、これまでは面白そうなところ、行きたいところを選んでいたのを、将来を意識して各自が目指す目標にあったところを選択するように指導するようです。積極的に事前指導を行い、ていねいに時間をかけて取り組んでいくようです。
また、評価基準をコースごとではなく学校全体で統一するようになったため、このコースでは評定が従来より低くなる生徒が増えそうです。大学入試の推薦等で不利になりそうですが、推薦やAO入試で重視される表現力を高めることで対応するように考えているようです。表現力は社会に出ても役に立つスキルなので、この方向性はよいと思います。一方で、力のある生徒たちも一定数いますので、彼らを伸ばす取り組みも考える必要があります。多様な課題がありますが、生徒たちの前向きな気持ちを上手く引き出すことで乗り切ってほしいと思います。

中学校では、未来を生きるために力をつけることを目標としています。未来は不確定だからこそ、未来生きる子どもたち自身がつくっていくという考えです。従来の私立中学校の偏差値ランクから脱却して、この学校だからこそできる学びを大切にしたいという思いを強く感じました。
具体的にはプロジェクト学習を柱にしたカリキュラムを考えています。ゼミ形式の活動から始め、プロジェクト学習へとつなげていきます。学校独自のカリキュラムとしてLanguage Arts(言語技術)で論理的思考や正しい日本語を身につけ、未来ゼミでこれからの時代に必要となる力を身につけます。続いて、地域社会や異文化を理解しコミュニケーションを取れる力をつけるプログラムでグローバル社会を生きる力を身につけていきます。今後どのような成果が出てくるのか楽しみにしたいと思います。

「放課後学びカフェ」ワーキンググループでは、高等学校で授業時数を減らして浮いた時間を、子どもたちの自由な学びの時間とする試みです。生徒が「自分の情熱を語れるか?」という課題意識が根っこにあるようです。単に受け身で勉強するのではなく、自分の興味関心を持てるものを見つけるための試みです。3年間でいろいろな体験を積み、自分の目指すもの見つけることを願って、放課後にいろいろな活動ができる環境をつくろうとしています。先生方が思い思いのプログラムを準備し、子どもたちに好きに選んで参加してもらうのです。中には、ウクライナ在住記者とZOOMで話をするといった面白い企画もあります。一方、先生方のボランティア的な部分もあり、魅力的な企画をどれだけ提供できるかが課題です。外部の力を利用することも含め、今後どのように展開していくか、思い切った方策が必要かもしれません。

今年度より外部が提供する「グローバルコンピテンス」プログラムを実施しています。他者の視点や世界観を理解した上で、自分は何者であるのかを明確にして他者とコミュニケーションする力をつけていくといったものです。このプログラムでどのような力がついてくるかをしっかりと見極めていくことが必要でしょう。今後が楽しみです。

「言語力・論理力」ワーキンググループは、つくば言語技術教育研究所のLanguage Arts(言語技術)をもとにカリキュラムをつくっています。AIに負けない力をつけることを目指して、「型を学ぶ」⇒「型を活かす」⇒「思考と表現を自分の言葉で話す」という3つの段階で構成しようとしています。学校の実態に合ったカリキュラムとするにはまだまだ試行錯誤が必要だと思いますが、地道に改善を続けてほしいと思います。

「修学旅行」ワーキンググループは時間のない中、大胆な改革を打ち出しました。修学旅行を各自の学びの先につながるものとしてとらえ、多様な目標に対応する全部で8つのコースに分けることを提案しました。引率教師の人数に制限がありますので、担当者一人ひとりの役割と責任が重くなります。それでも、あえて踏み切ったことを評価したいと思います。交通機関や宿泊施設の手配のタイムリミットが近づく中での決定、発表だったため、事前に全体のコンセンサスを取る時間がなかったことで若干混乱がありましたが、是非前向きに進んでほしいと思います。

私からは、これだけ新しいことや、変革が多方面で同時進行していることをどのようにとらえるのかについてお話ししました。正直自分が先生方の立場であれば、「大変だ、やり切れるのか」と後ろ向きにとらえるかもしれません。しかし、社会から求められる学校の姿は大きく変わろうとしています。ICT機器の活用に対しても数年前までは後ろ向きの方もいらっしゃいましたが、どのように活用しているかは別にして、活用することそのものに否定的な方は今ではいません。学校改革は社会から求められ、逃れることはできないことです。どうせなら、何が起こるか、どうなるかとワクワクしながら挑戦し、たとえ失敗しても笑い飛ばして再挑戦するぐらいの方が楽しいし、最終的に結果もついてくると思います。少なくとも、この日発表された方からは、ワクワクを感じることができました。すべての先生方がワクワクして過ごすことを願っているとお伝えしました。
この学校にかかわらせていただきずいぶん時間が経ちました。初めておじゃましたころと比べると、当時では想像できないくらいに学校の様子は大きく進化しています。私自身も、この学校が今後どうなっていくのかとてもワクワクしています。皆さんと一緒に学校の変化、子どもたちの変化を楽しみたいと思います。
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