ルーブリックの相談

私立の中学校高等学校で各教科の主任からルーブリックについての相談を受けてきました。

国語科は子どもたちにつけたい力が明確になっていると感じました。国語では今回の指導要領での変更が大きかったため、具体的な授業をどうしていくのかかなり悩むことになると思います。教科書は既に決定しているので、まずは、教科書にそって実際の授業をイメージすることをしてほしいと思います。そのイメージをもとに、ルーブリック・評価の案を再度検討・修正して、より具体的で精度の高いものにしていってほしいと思います。ルーブリックと授業の進め方がうまくリンクしていくことで、新学習指導に上手く対応できると思います。

社会科は、科目ごとにチームで案をまとめたそうですが、授業を通じて子どもたちにどうなってほしいかという社会科教師としての思いが強く感じられるものになっていました。
その思いをどのような形で授業に落とし込んでいくのかが課題です。この学校の社会科では多くの先生方が多様な取り組みをしています。この多様性がよくも悪くも社会科の特徴です。新学習指導要領の実施をきっかけにして、互いの授業のよさを共有し、共通の授業基盤を構築できることを期待します。忙し毎日だと思いますが、互いに学び合う時間を確保してほしいと思います。

数学科は新指導要領の方向性を受けて、数学を実生活の中でどのように活かすのかを意識したものになっていました。教科としてこの方向性をしっかりと共有できたのは素晴らしいと思います。次の課題は、単元ごとに数学の活用をどのような形で取り上げればよいかを考えることです。教科書にはそういった題材が扱われていますが、教科書からの天下りではなく、子どもたち自身で疑問や課題を見つるようにしてほしいと思います。数学がどんなところで活かされているのか、学習したことがどのような場面で活かされるのかを子どもたちが日常的に意識し考えるようになることを目指してほしいと思います。

理科は、方向性の共有と授業の進め方の共有が課題のようです。ルーブリックの文言からは大まかな方向性は共有できると思いますが、実際の授業となると、先生のよって進め方等が大きく異なったものになる危険性を感じます。特に複数の学校で勤務している非常勤講師の方は、同じ教材でも学校ごとに扱い方を変えなければならないので、かなり具体的な形で示す必要があります。授業でどのような活動をして子どもたちに目指す力をつけ、どう達成度を評価するのかをわかりやすく伝えなければ、せっかくのルーブリックも絵に描いた餅になってしまいます。例えば実験一つとっても、「指示された通りに行って考察する」、「ある事実を確かめるためにどのような実験をすればよいかを考える」、「実験の結果は見せずに、その結果を既存の知識から類推する」「実験結果からモデルを構築させ、そのモデルをもとに別の実験の結果を予測する」といったように、進め方、活動は多様です。子どもたちにつけたい力によって活動も評価のあり方も変わってきます。ルーブリックをもとに、この観点であればこのような取り組みで評価することができるといった授業のデザインを教科で整理することが、授業の方向性と進め方を共有することにつながると思います。

英語科は、これまで教科としても個人としても様々な場面で新しい試みをしていました。新学習指導要領に対応するような授業例もたくさんあります。そのため、他の教科と違って活動やその扱いも非常に具体的になっています。また、コースごとの目指す子ども像の違いも意識されて、多様な取り組みが想定されています。しかし、ルーブリックが具体的な活動と連動し過ぎて、授業者の自由度が少なくなっているようにも感じます。野心的な試みをいろいろ重ねている教科です。その勢いを削がないためにも、教科としての方向性を共通のもとして活かしながら、各担当が自由に工夫できる余地を残しておいてほしいと思います。

商業科のルーブリックでは発信することが意識されていて、考えや意見を「述べる」という言葉で表現されていました。発信は自分の考えを話すことととらえられがちなのですが、そうではなく、相手を意識し、自分の考えを伝えることを目標にすることが大切です。このことをお伝えしました。
来年度の新学習指導要領への対応は「ビジネス基礎」という科目ですが、担当者としては、流通など子どもたちが普段あまり意識していない業界を中心に、発信を大切にしたカリキュラムを組み立てようとしています。自分たちで調べて発表するといった活動を考えていますが、用語を学習して定着させるための活動との兼ね合いで悩んでいました。用語については、教えて覚えさせるのではなく、用語を使うことで理解し定着させるという発想もあります。例えば重要な用語を指定し、その用語使ってレポートを書かせたり、発表させたりするのも一つの方法です。また、単に調べて発表するのではなく、いろいろな業界の今後のビジネスの方向性や改善を提案させるといった、プロジェクト型の活動を最終的には目指せるとよいと思います。
これまで商業科のカリキュラムでは仕訳計算などの作業や用語を理解し覚えるといったことが中心でしたが、今後、新学習指導要領の精神を踏まえて、財務諸表を読むことや、納税や補助金等の仕組みとの関連を学んでいくような、考えること、活用することを大切にしたものにシフトしていってほしいと思います。

体育科は思考、表現を大切にしたルーブリックでした。具体的にどのようなことが、思考、表現として評価されるのかということを子どもたちがイメージできるようなものにするとよいと思いました。考えることとかかわりあうことの関連や、体育における表現はどのような形で現れるものかを具体的な姿でわかりやすく伝えることを意識してほしいと伝えました。

家庭科は、担当者の中に、授業を通じて子どもたちこうなってほしいという強い思いがありました。ただ、ルーブリックは抽象的な表現で書かれているので、その思いは伝わりにくいように感じました。例えば論理的に考えると書かれても、それだけではどうすればよいのか子どもたちには伝わりません。課題に対してどのような視点、方法で解決するかを示すことで、論理的であるとはどういうことかが意識できると思います。子どもたちこのような力をつけたいという先生の思いを、明確な、わかりやすい形で提示することを意識してほしいと思います。

芸術は作品や発表で評価できるよさがある反面、制作過程の評価が難しいという課題があります。振り返りをうまく活かすことで、多面的な評価が可能になると思います。最終的な作品や発表だけでなく、中間の段階のものを個人のタブレットに記録するようにするとよいでしょう。単元の最後の振返りで自分の作品や発表の変容を見ることで、過程をしっかりと振り返ることができると思います。一人一台のタブレットは評価にも大いに活用してほしいと思います。

若手の先生からいろいろと相談を受けました。
まずは、研修のあり方はどうあればよいのかと質問されました。多くの人が前向きに参加してくれるようにするにはどうすればよいかという悩みです。これは確かに難しい問題です。こうすれば絶対に受けたくなる、受けてよかったと思える研修にする方法というのは思い当たりませんが、ポイントの一つは能動的に参加できる活動を取り入れることです。自分たちの現状や課題と思っていることを互いに聞き合うといったことを取り入れると、参加意欲が高まると思います。もう一つは、自分の課題の解決のヒントがもらえることです。自分の課題を他の先生に相談することは、意外とハードルが高いものです。そういう意味でも互いに現状認識と課題を共有することは意味があると思います。研修への参加意欲が高まるヒントになればよいのですが。
主体性と評価についても悩んでいるようでした。主体性を引き出す方法が見えていないのに、評価をするというのは抵抗があるようです。主体性を引き出すために、まず子どもたちの自己選択の場面をつくることから始めるとよいと思います。例えば英語の会話練習をペアで行うにしても、決められたシナリオ通りに話すのか、一部分をオリジナルにするのかを選択させるだけでも主体性に影響があると思います。練習後、どちらのやり方をやったのかを確認して、その理由を聞いたりすることで、意識的に選択するようになっていきます。やってみて上手くいったか、次はどうしたいかといったことを問いかけることで、自分の行動を振り返り評価するようになっていき、主体性が育っていくと思います。
評価については、まずしっかりと自己評価ができるようにすることが大切です。自分の変容に気づき、それを自己評価する場面をつくるとよいでしょう。変容はBefore Afterの比較が基本です。活動の前後をどう記録するかがポイントになります。毎時間の振返りを単元の最後に振り返る、途中の成果物を記録しておくといったことをするとよいでしょう。こうしたポートフォリオはICTを活用することで以前と比べるとはるかに簡単に作ることができます。学校全体で上手く取り組めるようになるとよいと思います。

高等学校での新学習指導要領の実施がいよいよ迫ってきましたが、この学校全体としてはうまく対応が進んでいると思います。今後。教科ごとの取り組みを共有してよりよいものにして行ってほしいと思います。

次の課題が見えてくる

中学校で授業アドバイスを行ってきました。2学期2回目の訪問です。各学年の子どもたちの授業の様子を学年担当の先生方と一緒に見て回りました。

3年生は、授業者によって見せる姿の差が大きいように感じました。この学校では、例年3年生はどの先生に対してもよい姿勢で授業を受けるようになるのですが、今年はちょっと違って見えます。主体的に活動するような授業では、とてもよい表情で集中して参加しますし、子ども同士がかかわる場面があれば、しっかりとかかわることもできます。人間関係もよいのですが、教師主導型で受け身の活動になると、そのよさが消えてしまいます。今までの3年生と違って、受け身の授業では集中力が落ち積極的に友だちとかかわろうとする姿勢を見せません。授業者の問いかけに対しても、考えることよりも板書を写すことに専念しています。授業のスタイルに合わせて態度を変えているようです。
高校受験を意識して演習的な時間が増えるのはしかたがないとしても、子どもたちと先生のやり取りをもっと増やして、考える過程を教室全体で共有することが必要だと思います。3年生の子どもたちは、場をつくればよく反応して、積極的に活動することができます。例え問題演習であっても、子ども同士で問題解決の過程を聞き合うような取り組みを取り入れると、もっと力を発揮すると思います。子どもたちの力をもっと信じるようにお願いしました。

新型コロナウイルスによる学校閉鎖の影響を一番受けたのが2年生だと思います。この時期になっても人間関係がうまく構築出きていません。教室では、子どもたちからも先生方からもコミュニケーションをとる意欲が感じられませんでした。先生が話をしても子どもたちの顔が上がりませんし、先生方も子どもたちの顔をあまり見ようとしません。子ども同士がかかわる場面も少なく、授業の中で孤立感を感じている子どもが多くなっている可能性があります。授業者の話を受け身で聞くことが多いため、すぐに集中力が切れ、コミュニケーションが上手くいっていないこととあわせて、授業に対するエネルギーが感じられません。ここで関係を再構築しないと、残りの中学校生活がこのままの状態でずるずるといってしまそうです。
まず、先生は自分たちを受け止めて寄り添ってくれる存在であると、子どもたちに思ってもらえることが大切です。出力がなければ、受け止めることはできません。授業だけでなく学校生活のあらゆる場面で子どもたちに出力を求めることが必要になります。発言することだけでなく、振り返りを書くことや行事、学級活動で行動することも大切な出力です。その出力を受け止め、ポジティブに評価し、子どもたちから疑問や困りごとがでてくれば、どうすればよいか一緒に考えてほしいのです。
朝や帰り、授業の最初と最後での挨拶で、一人ひとりと目を合わせ、元気に学校に来て授業に参加してくれていることを先生が喜んでいると伝えることから始めてほしいとお願いしました。

1年生は授業規律がしっかりしてきました。先生との関係もよくなっていると感じます。子どもたちの顔がきちんと上がるようになってきました。しかし、よく見ると顔は上がっているのですが、集中して参加できていない子どもの存在が気になります。表情がかたく、授業の中身が理解できていないように感じます。授業者との関係も悪くなく、やる気がないわけではないようですが、授業が「わからない」のです。
授業規律がよくなり、その過程で子どもとの人間関係も構築されたので、次はどのようにして学習内容を理解させていくかが課題です。
この学年全体に共通していると感じるのは、わからなくて困っている子どもが理解してできるようになるための仕組みやプロセスが授業の中にないことです。課題に取り組む子どもたちの手が止まっていると、授業者がヒントを出します。これでは、子どもたちはできるようになりません。なぜなら、教師が出すヒントはこうやりなさいという指示と同じだからです。この進め方をしている限り、困っている子どもは言われたことをやるだけで、自分で考える力は育ちません。また、問題を解かせた後、できた子どもに発表させますが、いきなり答を言われてもわからない子どもはついていくことができません。わかるできるためのスモールステップを意識することが大切です。
まず、課題に取り組む前に、何が求められているのかを子どもを指名しながら確認することが必要です。課題によっては試しに一つやってみたり、とりあえずの答を発表させたりすることで、全員が課題を理解できるようにします。また、見通しを持つための活動も大切です。似たような課題に取り組んだことを思い出させたり、課題に取り組むにあたって疑問や困ったことを共有したりするとよいでしょう。困ったことについては、どうすればうまくいきそうか数人に発表させたり、まわりと相談させたりすると見通しを持って取り組めるようになります。
次に、個人で解決することにこだわらず、グループやまわりと相談するようにします。手がつかない子どもが多いようであれば、いったん活動を止めて全体で、困っていることを共有し、できた子どもには答ややり方ではなく、どう考えたのか、どうやって気づけたのかといった過程を発表させるようにします。子どもたちが見通しを持てたようであれば、再度課題に取り組ませます。最終的な発表も答ではなく過程を発表させることを中心にし、つまずいた子どもがそのことを理解できたかを確認して進めます。答や解き方を教えるのではなく、どうすれば答えが出せるかという課題解決の力を意識した授業に変えてほしいと思います。
授業後、1年の先生から、家庭学習の課題を出さない子どもが多くどうすればよいのかという質問をいただきました。無理に出させようとすれば、答を写して提出するといったことになりかねません。「形だけ整えればよい」と教えることになるだけで、本質的な解決にはつながりません。授業中、わからなくても顔をあげて聞こうとする子どもたちです。提出できないのは、課題がわからない、解けないからだと思います。できない問題を無理にやらせるのではなく、できる問題に取り組ませてやる気を出させるという発想に変えてほしいと思います。全員が同じ課題に取り組む必要はありません。子ども自身が提出する課題を選ぶという個別最適な学習を目指してはどうでしょうか。一人一台のタブレットを活用すればそれほど難しいことではありません。問題集であれば、デジタル化して一題ずつ選べるようにし、難易度別に分けておいて子どもたちに好きな問題を選ばせるのです。中には中学校以前の内容でつまずいている子どももいるので、その子どもたちでも解けるような問題も用意しておくとよいでしょう。最低何題提出するかを指示するだけにして、自分で取り組む問題を選んで提出させるようにするのです。やれたことをほめ、次は題数を増やそうとか難易度の高い問題を増やそうといった声をかけるとよいでしょう。課題の準備は大変に思えますが、分担してやればそれほどではないと思います。一度作っておけば、来年度以降も活用できるので、年々充実していきます。
こういった工夫をすることで、宿題のあり方も変わっていくと思います。今後の先生方の工夫に期待したいと思います。
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