どのような授業を目指すのかを相談

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は12月に研究授業を行う先生方との事前相談を中心に行いました。目指す授業や子どもの姿、困っていることなどをお聞きしました。

この学校へ来て日の浅い若手の先生は、以前勤務していた学校との違いから、子どもたちとのかかわり方を模索しているようです。子どもたちがおとなしく、こちらからの言葉に反応してくれないのでどうすればよいかを考えていました。私からは、子どもたちに反応を求め、ちょっとした反応もポジティブにとらえることをお話ししました。「反応してくれたね、ありがとう」とIメッセージを使い、安心して自分の気持ちや考えを外化できる雰囲気をつくるのです。また、答や結論ではなく、困ったことや考えの過程を問うことも大切です。正解・不正解を判定されるような質問に対しては自信がないと答えづらくなるからです。新型コロナウイルス対策で子どもとの関係をつくりづらくなっているので、特に意識することが必要だと思います。

知識をもとに考える力をつけたいと話してくれる先生がいました。しかし、話をうかがっていると、知識をもとに先生の求める答にたどり着いてほしいという授業になっているように感じました。先生の提示する質問に子どもたちが答えるという図式からは逃れられていないようでした。主体性を意識して、まず、子どもたちが疑問を持つことを大切にしてほしいとお伝えしたのですが、子どもたちの疑問が広がったり、自分が答えられない疑問だったりしたらどうしようと、戸惑われました。気持ちはよくわかりますが、すべての疑問を授業で取り上げる必要もなければ、先生がすべてを答える必要もありません。個人の課題としてプライベートで追究したり、先生が子どもと一緒に疑問に取り組んだりすればよいのです。正解のない問題に取り組むことの経験はこれからの時代を生き抜くためには重要です。授業に対する考え方を少し広げていただければと思います。

子どもたちと積極的にかかわりながら授業を進めたいと語ってくれる先生がいらっしゃいました。とてもよいことだと思います。ただ反応を求めるだけでは子どもとのかかわりはつくれません。最初の方へのアドバイス同様、子どもたちが答えやすい質問や、反応をポジティブに評価し、かかわり合う雰囲気をつくっていくことが必要です。気をつけてほしいのが、新型コロナウイルスの影響で子ども同士を直接かかわらせなくなっているので、反応する子どもと先生だけとのかかわりになりやすいことです。「○○さんの考えになるほどと思った人?」と他の子どもに反応を求めたり、反応しない子どもにも「○○さんの意見をどう思う?」と積極的に指名したりして、先生が仲介者となって意図的にかかわりをつくることが大切です。自分が子どもとかかわることだけで満足せず、子ども同士がかかわることを意識してほしいと思います。

子どもたちの考えを深める授業を新しくつくりだしたいと考える先生もいらっしゃいました。SDGsからテーマを選び、その問題を考える視点をいくつも示し、それを参考に子どもたちに自由な視点で追究させるというものです。考えを深めさせるために、同じ課題を異なる視点で追究した子どもたちを一つのグループにして互いの考えを持ち寄り、最終的に一つの発表にするという活動を考えられていました。調べたことをもとに考えを発表させても、ネットで拾い集めた情報をまとめただけの浅いものになりがちです。そこからもう一段考えを深めるためのプロセスを考えているのは素晴らしいと思います。
また、今実施している1年生の授業では、自由に制作をさせているそうですが、先生も驚くほど質の高いものをつくるグループもあったようです。その作品をみせていただきました。オリジナルの物語をパステル調の絵柄のデジタル絵本にしたものですが、自分たちで英語のナレーションと字幕を付け、BGMも入っています。10分以上の力作です。ちらっと見せていただくつもりが最後まで引き込まれてしまいました。もちろんこのような素晴らしい作品ばかりではないでしょうが、子どもたちの可能性を見せていただきました。多様な課題や活動の場を設定することで、子どもたちが自分の個性を発揮する機会が増えると思います。先生方がどの子どもにも活躍する機会を与えることを意識されることを願っています。この先生には今回の作品に示されるような子どもたちの素晴らしさを他の子どもたちや先生、保護者に紹介していただくようお願いしました。

他校で経験をしっかりと積んでいる先生は、この学校のやり方となじめているか心配していましたが、うまく順応しているようで安心しました。12月の研究授業では、子どもたちの活動量と技術面の向上とのバランスを工夫した授業を見せてくれそうです。
一緒に教育実習生の授業を見学して、改善すべき点について意見を交換しましたが、明確にポイントを押さえておられました。また、自分から申し出て一緒にこの授業を見学した他の教科の先生も、授業規律に関して非常によい視点でコメントしてくれました。若手ですが、授業見るたびに成長している方です。授業規律や子どもとのかかわり方をしっかり意識して取り組んでおられるので、この視点で授業を見る目が育っているのでしょう。

空いた時間に何人かの先生とお話ししました。その中で話題になったことでこの学校でこれから考えるべきだと感じたことに、知識の習得のための時間と子どもたちが課題解決に取り組む時間とのバランスの問題がありました。課題解決のためには知識が必要です。課題解決の過程で必要と感じることで、子どもたちが知識を習得していくことは期待できますが、基本となる知識はきちんと身につけることが必要です。ただ、授業で知識の習得を全員一律に徹底しようとすると、時間がかかりすぎます。お話をうかがった先生は、課題解決の時間を多くとるため、教科書の内容の解説をいくつかの短い動画にして、知識面の理解で困っている子どもが自由に見て学習できるようにされているそうです。子ども自身で必要に応じて動画を見て学習する方法はこれから普及してくると思います。こういったコンテンツが増えてくれば、授業のあり方も大きく変わってきます。子どもたちが自分に合った学び方を自分で選ぶ時代が近づいてきているのを感じます。このような考え方を学校の先生方で共有し、組織的にコンテンツを整備できるようになるとよいと思います。

子どもたちの様子は、どの学年も落ち着いていました。1年生の授業への取り組みも以前と比べるとよくなってきているように思います。今回感じたのは、よくも悪くも学年やコース間の差が見られなくなっているということです。ほどほどに集中し、指示されたことは最低限する。しかし、積極的に学習に取り組むエネルギーは全体的に下がっているようです。とはいえ、騒がず静かに指示したことをやるのですから、解説中心の授業を進める先生にとってはこれほど楽な状態はありません。しかし、この状態をよしとするのは、とても危険です。学校にとって一番大切な、子どもたちの学びに対するエネルギーが以前と比べて確実に減っていることを大きな問題ととらえてほしいと思います。
ICT活用は以前と比べて進んではいますが、使うべきところに使われていないことが気になります。机の上にiPadがでていても、子どもたちが自由に使っていない場面が目につきます。ある先生は、自分のノートをひたすら黒板に写していました。その間子どもたちを振り返ることはしません。一方の子どもたちは黙々とそれをノートに写しています。ノートの横にiPadがなければ、昭和の時代にタイムスリップしたのかと錯覚しそうな授業でした。また、黒板に大きく先生がチョークで図を書いている授業がありました。先生はそれを使って解説しているのですが、子どもたちは手元のiPadで図を見ながら話を聞いています。これも異様な光景に感じます。解説をしっかり聞かせたいのであれば、図はスクリーンに映して顔を上げさせ、こちらに集中させるようにしたほうがよいでしょう。板書は時間のムダです。もちろんよい活用もたくさんありますが、玉石混淆です。互いに授業を見合って、よりよい活用を目指してほしいと思います。

この学校では12月に、一人一台のiPadの導入から現在までの足跡を、子どもたちと授業をする教員の視点で発表する会を予定しています。これから多くの学校で先生方が一人一台のPC活用で悩むことと思います。その悩みを少しでも減らせるようにとの思いから開催を思い立ったようです。とても意義のあることだと思います。いつものように子どもたちにも自分たちの経験を発表する場面を用意するようです。私からは、失敗も含めてどのようなことが起こったか、そして先生方それにどう対処し、学校がどう変化していったかを飾らずに発表していただくことをお願いしました。この学校で起こったことはどの学校でも起こりうることです。自分たちの学校のちょっと未来を見ることで、先生方の不安も減ることと思います。多くの先生方が参加されることを願っています。平日の開催なので、出張が難しい先生方のためにオンラインの生中継も検討するようにお願いしました。
当日を楽しみにしたいと思います。

第13回教育と笑いの会

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第13回教育と笑いの会はオンラインで行ないます。
直前のお知らせになりましたが、是非ご参加ください、

期 日
令和2年11月28日(土)
●時 間
13時30分〜16時00分 (13時00分より接続いただけます)
●場 所
YoutubeLive(パソコン・スマートフォンがあれば、どこからでもご参加いただけます)
●参加費
無料 ※事前のお申込みが必要です
●主 催
教育と笑いの会 / 授業と学び研究所
●協 賛
EDUCOM
●申込み
人数把握のためホームページより11月26日までにお申し込みをお願いいたします。

※期日前日に、お申し込みの際に入力いただいたメールアドレス宛に接続URLをお送りいたします。

考えることを意識した授業

小学校で授業研究の助言を行ってきました。

5年生の社会科の授業でした。元気のよい子どもたちで、授業前に授業者と楽しそうにやり取りをしています。先生との関係のよさを感じました。ちょっとテンションの高いのが気になりましたが、授業者が「授業を始めるよ」と声をかけるとすぐに落ち着き集中しました。学級の規律がしっかりしています。
授業は食料自給率の低下とそれに伴う問題を考えさせようというものです。授業者は資料を読み取り考えさせる場面をたくさん用意していました。「考える」ことを大切にしようという思いがよくわかります。
前時の復習として食料自給率の低下を確認します。最初に食料自給率とは何かをたずねました。発言する子どもの方を見ようと身体を動かす子どもがたくさんいます。よい授業規律ができつつあります。しかし、発表者の方を向かない子どももまだいます。発言を聞こうとしている子どもをほめたり、価値付けしたりすることがまだ必要です。よい行動を強化し、広げていくことをして100%を目指さないと学級全体に定着する前によい規律がなくなってしまいます。
何人か指名しましたが、今一つ定義ははっきりしません。授業者は子どもの発言をていねいに聞くのですが、他の子どもに「どう?」とつないで確認をしません。復習ですからノートや教科書を確認すれば済むことです。覚えていることは大切ですが、思い出せなければ確認するという基本をきちんと身につけさせる必要があります。「ノートを見ないということは自信があるということだね」といった言葉をかけて、子どもを動かす必要があります。こうすればすぐに確認できるので、ムダに指名する時間を減らすことができます。
続いて、特に資料を与えずに、昔と今では和食と洋食どちらがよく食べられていたかを時間を与えて考えさせます。根拠となる資料を与えないのであれば、考えるのではなく想像するだけになります。無責任に答えるのでテンションは上がりますが、時間をかける意味はありません。子どもの興味を引くことができればすぐに次の展開をすべきです。
洋食が増えたという結果を示した後、食料自給率が下がった理由を考えさせます。子どもたちは教科書を見ながら考えますが、根拠となる資料は特にないので、教科書から答探しをするだけです。しばらく時間を使うのですが、答らしきものが見つかった子どもはすることがないので手遊びをしています。時間を与えても、とりあえずの答を見つけるとそれ以上考えることはしないので、ここもあまり時間をかける意味はありません。挙手で発表させますが、「輸入に頼っているから」「洋食が増えたから」といった浅い答しか出て聞きません。個人の活動に時間をかけても考えは深まりません。グループなら友だちと聞きあうことで深まることもありますが、ソーシャルディスタンスのこともあり、グループ活動は自粛しています。それならば、浅い答でよいのですぐに発表させて、それを元に考えを深める切り返しをすることを考えるべきでしょう。
子どもの発言に対して授業者が補足説明をして、消費食料の構成比の円グラフをディスプレイに提示します。教科書は、60年前と今のものを並べて示してありますが、授業者はあえて60年前のものだけを提示しました。これを元に今はどうなっているのか考えさせようという意図です。考える場面をたくさんつくろうと意識していますが、根拠となる資料や事実がはっきりしません。先ほどの「輸入が増えたから」を意識するのであれば「輸入が多い食料」や「外国産と国産の価格差」の資料を、「洋食が増えたから」を意識するのであれば「和食と洋食で使われる食材の割合」といった資料を用意することが必要でしょう。また、とりあえず想像させたいのならば、その後裏付けとなる資料を探すといった活動が必要になります。根拠を意識して考えることを大切にしてほしいと思います。
続いて食料品別の輸入量の変化のグラフを見てどんな食品が多く輸入されているか確認し、食生活の変化と食品の輸入量の変化から輸入する食品が増えた理由を考えさせます。しかし、どこまで行っても、最初に示された洋食が増えた(食生活の変化)ということ以外にこれらの資料から推論できる理由はありません。多くの時間を使いましたが、考えが深まることはありません。後から資料が出てきますが、結論が先に出ているので資料を読み取る意味もあまりありません。子どもたちが困ったり、疑問に思ったりすることがないので、集中力は落ちていきます。授業の始めと比べても、友だちの発表を聞く意欲も落ちています。発言者を見る子どもは減ってきました。
主課題は食料自給率が減ることの問題を考えることでしたが、残された時間は10分ほどしかありません。授業者は食の安全の問題が子どもたちから出てくることを期待していたようですが、その言葉がでてくる根拠となる資料や情報はありません。結局時間切れで、子どもたちからは授業者が期待する言葉はあまり出てきませんでした。

授業者は緊張してテンポが悪くなったと反省していました。後ろに先生が立っているので子どもたちが圧を感じていつものように発言してくれなかったこともそれに拍車をかけたようです。思い切って活動を省略したり、先に進むことをあきらめて次の時間に持ち越したりしたかったようですが、研究授業なので指導案をどおりにやらないといけないとプレッシャーがかかっていたようです。研究授業ではふだんどおりにはなかなかできないようです。指導案どおりにいかなくても、子どもの反応で授業をつくっていくことを評価する空気を学校内に作りたいものです。
45分の授業で主課題に焦点を当てるのであれば、そこまでの仕込みは15分かせいぜい20分で済ます必要があると思います。
例えば、最初に消費食料の構成比のグラフを比較して何が増えて何が減ったかを確認し、「この60年の間に何が起こった?」と問いかけることから始めてもよいと思います。「肉を食べるようになった」といった単純な答でいいので、数人を指名して発言させます。続いて、「君たちが、農家や畜産家なら何をつくる?」「スーパーマーケットや食料品店だったら何を仕入れる?」と問いかけて答を引き出します。意見が分かれれば、その理由を簡単に聞き、日本の食料生産の資料に穴をあけた物を提示、子どもたちが発表した理由を根拠に値を想像させます。国内生産で足りないことに気づけばどうするかを問いかけ、輸入という言葉が出てくれ、「じゃあ輸入を見てみよう」と食品別の輸入量の変化を見せます。このような流れであれば、20分以内で終われると思います。
なぜ輸入に頼っているのかを考えさせるのであれば、「何で輸入するの?日本でもっとつくればいいんじゃない?みんな食べたいんだから?」と揺さぶって考えさるといったやり方もあります。「どんな資料がほしい?」と子どもたちに聞いてから資料を見せてもよいでしょう。一人一台のPCが整備されれば自分で資料を探させることもできます。
食の安全を考えさせるのであれば、新聞記事などを用意しておくことも必要です。知らなければ答えられない問いは、根拠となるものを与えなければ知っている子どもしか答えられません。こういったこと意識してほしいと思います。

検討会では、「主体的・対話的で深い学び」について、少し具体的にお話ししました。子どもたちに「考えろ」と言っても考えてはくれません。「考えたい」と思ってくれることが大切です。そのきっかけとなるのは、疑問を持つことや困ることです。「わかった」とうなずく子どもより、「はてな?」「困ったな?」と首をかしげる子どもに発言させることが大切です。疑問や困ったことを発信することをしっかりと価値付けし、「わからない」と堂々と言える雰囲気の教室をつくるようにお願いしました。
個人で考えさせる場面では、とりあえずの答がみつかると子どもたちはそこで考えることを止めてしまいます。時間をたくさん与えるより、とりあえずの答を出させてから切り返していくことが必要です。ソーシャルディスタンスの関係でグループやペア活動などの対話活動が難しいのであれば、先生が間に入ってつなぐことで対話させるようにするとよいでしょう。「○○さんの意見に納得した人?」「○○さんの意見を聞いてどう思った?」「あなたと同じ?違う?」とつなぎながら、考えを共有し、新しい疑問を見つけさせ、考えを深めていくのです。
ソーシャルディスタンスでできないことを嘆いても仕方ありません。今できる範囲で工夫することが大切です。新型コロナウイルスが落ち着いた時には選択肢が増え、授業の幅が広がっているはずです。困難な状況を前向きにとらえてプラスに変えてほしいと思います。
次回は三学期の訪問ですが、どのような変化が見られるか楽しみです。

わかりやすい授業はよい授業か?

子どもたちからの「わかりやすい授業」という評価は先生にとってうれしいものです。私も子どもたちから「今日の授業はよくわかった」と言わるとうれしく思ったものでした。ところがその後試験をしてみると、期待していたほど点数が取れないことがよくありました。逆によくわからなかったという時の方が試験のできがよかったりするのです。「わかりやすい授業」が本当によい授業なのか少し考えてみたいと思います。

子どもたちは授業がよくわかったと思うとそれで満足して、家で復習したり新たな問題に取り組んだりしないようでした。逆によくわからなかった時は友だちに聞いたり自分でもう一度問題に取り組んだりしていたようです。子どもたちがわかりやすいと言ってくれた授業は、単にわかったつもりにさせているだけだったのです。そのことに気づいてから、「もうちょっとでわかりそう」な授業を目指すようになりました。「全然わからない」だと、子どもたちはあきらめてしまいます。「もうちょっと頑張ればわかりそう」というさじ加減が難しいところです。上手くいったと思える時は、授業が終わった後、子どもたちは黒板の前で授業の内容について聞き合っています。子どもたちのわかりたいという意欲が伝わってきます。

授業評価アンケートをとる学校が増えてきましたが、「授業がわかりやすい」という項目の評価が高いからといって、必ずしもよい授業とは言えません。どうやら多くの場合、子どもたちの思う「わかりやすい」が「試験に出る問題」「試験前に何を覚えておけばよいか」がわかりやすいということのようだからです。試験に何が出題されるかがわかれば点数を取りやすく、また、試験で点を取れれば子どもたちがその授業を評価してくれるので、子どもたちも先生も互いにそれで満足しているのです。これがエスカレートしていくと、授業の内容を理解し考えることよりも、板書を写しワークシートの穴埋めをして試験対策が効率よくできるノートづくりを優先するようになってしまいます。先生も試験で点数を取らせることが目的化して、極端な場合は試験問題を事前に教えたりします。子どものやる気は試験の点数とある程度相関がありますので、こういったこと全否定することはしませんが、受け身で覚えることが学習だと勘違いした子どもを育てることにつながってしまうように思います。
その一方で同じようにわかりやすいと評価される授業でも、自分たちで相談してわからないところを解決するといった全く異なったスタイルのものもあります。最初の内は正解を教えてほしい、早く答が知りたいと不評だったりするのですが、わからないことを自分たちで考え、一つずつ納得しながら解決していくことを積み重ねていくと「よくわかる」「楽しい」と評価が好転していくようです。子どもたちが疑問を持ったり困ったりすることで受け身ではなく主体的に学ぶようになっていくからなのでしょう。子どもたちを「困らせる」授業が「わかりやすい」授業へとつながっているのです。

一口にわかりやすい授業といっても、そのあり方は多様です。自分がどのようなわかりやすさを求めているのか、一度振り返ってみるとことをお勧めします。

学校が前に向かい出す

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。夏休みが明けてから2回目の訪問です。

中学校高等学校ともに、子どもたちは落ち着いて授業に向かっていました。
高等学校では定期試験前で自習が多かったこともあるのでしょうが、前回と比べて教師が一方的にしゃべり続ける授業は減っていたようにと思いました。また、子どもたちがiPadを使う場面が少なかった1年生も、かなり活用され始めていました。研修を推進している先生方がICTの活用を積極的に働きかけている成果だと思います。単にネットで検索するだけでなく、子どもたちが考えを共有したり、協働制作したりといったりといった、多様な活用を見ることができます。この日見た中で面白い活用をしている授業がいくつかありました。
一つはベテランの先生の古典の授業でした。子どもたちが授業者の解説をリアルタイムにiPad上でまとめていきます。本文のテキストはデジタルで配布され、そこに線を引いたり、メモやポイントをかき込んだりとノートの代わりとして上手に使っています。手書きもキーボード入力も可能ですが、多くの子どもたちはキーボードを使って素早く書き込んでいます。聞いたことをリアルタイムにまとめるのは、板書を写すよりはるかに高い能力が必要です。iPadが子どもたちの道具となっているがよくわかります。全員がリアルタイムにまとめることできないかもしれませんが、ネットワーク上でノートを共有することができるので、友だちのものを参考にして修正や付け足して完成させていくことができます。授業者もリアルタイムに確認できますので、子どもたちのノートの内容に応じて必要ならば補足するといった判断もできます。これからの時代のノートのあり方を見せていただけたように思いました。
もう一つは若手の数学の授業でした。子どもたちはiPadの共有ツール上で問題を解いています。わからないところがあればその画面のスナップショットに質問を添えて授業者に送ります。授業者はそこにヒントや解説を書き込んだものを返送しています。手軽に個別対応するための添削ツールとして活用していました。子どもたちは机間指導をする先生に声をかけるより質問しやすいようです。ただ、このやり方では、授業者と個人との1対1の閉じた世界でのやりとりになります。内容によっては全体に共有した方がよいものもあるはずです。時には子どもたちの作業の手を止めさせ、質問をスクリーンに映して、「同じところで困っている人いない?」とつまずきを共有し、どうすればよいかを学級全体で考えるとよいとアドバイスしました。それに対して、授業者は試験の解説の後に再試験をすることで、子ども同士をかかわらせる場面をつくっていると報告してくれました。友だちと相談してもよいので、完璧にできるようになることを目標にして再度取り組むのです。これまでこの先生は、子どもからなかなか反応が返ってこないので一方的に説明する授業になっていたのですが、ICTを活用することで自分にあった授業スタイルを見つけたようです。授業改善に対する意欲も上がり、これからもいろいろな工夫をしてくれそうです。
訪問するたびにこのような意欲的な取り組みを見ることができます。こういった取り組みを学校全体で共有する機会を継続的に持てるとよいと思います。

特別進学のコースでは、子どもたちが集中して授業を受けていました。特に3年生は、受験に直結しないような課題に対しても主体的に取り組んでいる姿が印象的でした。どのグループも額を寄せ合って真剣に取り組んでいます。3年間かけて育ててきたからこその姿でしょう。1年生、2年生も先輩に負けないように育ってくれることを期待します。

一般のコースでは、前回と同じく1年生の受け身な姿が目立ちました。全体的に表情が乏しく、先生の話を集中して聞いていません。指示されたことはこなしますが、授業に向かうエネルギーをあまり感じませんでした。子ども同士が自然にかかわることができるような場面ではよい表情を見せてくれるのですが、そのような姿を見ることが他の学年と比べても少なかったのが残念でした。意図的に子ども同士をかかわらせる場面をつくる必要があると思います。
子どもたちの出力の場面が減っているためか、2年生も今一つ学習意欲が感じられませんでした。しかし、個別に問題を解く場面などでは、子ども同士がまわりと相談している姿をよく見ることができます。ある若手の英語の授業では、ペアで答の確認をするように指示をすると、すぐに楽しそうな表情で活動に移りました。もともとかかわることはできる子どもたちなので、新型コロナウイルスの対策で直接かかわらせることが憚られるのであれば、「○○さんの考えについてどう思った?」「なるほどと思った人」と授業者が子ども同士を橋渡しすることでつないでいくとよいと思います。
先ほどの若手は子どもたち一人ひとりとしっかり目を合わせながら授業を進めています。どの子どもも前のめりで授業に集中していました。毎日の授業の中で子どもとの関係をしっかりつくっていることがよくわかります。日々子どもたちの様子をもとに授業を振り返り、課題を素直に認めて改善しようとしていることが、この子どもたちの姿につながっていると思います。この先生の成長を見ることは、私の励みにもなっています。
3年生は、理科系志望の数学の授業などは学級全体がとても集中していましたが、子どもの集中度がバラバラの学級も目につきます。推薦志望の子どもたちは、推薦に影響する試験が終わっているので意欲が下がってしまうのかもしれません。一生学び続けるという気持ちを持たせることが大切ですが、入試をゴールと捉える子どもが多いのが現実です。1年生の段階から学びに対する姿勢を育てていくことが求められると思います。

キャリアを意識したコースでは、子どもたちの明るい声をいくつかの教室で聞くことができました。とはいえ、やはり昨年までと比べると子どもたちの授業中の反応は少なくなっているように思います。特に1年生の教室で反応が少ないことが気になります。反応がないのであきらめて教師が説明するのではく、子どもたちが反応できるまで待つ姿勢が大切です。まずは、うなずく、手を挙げるといた体の反応を求めることから始めるとよいでしょう。そしてその反応を、「うなずいてくれたね」「反応してくれたね」「ありがとう」とIメッセージでほめることで、しだいに子どもたちから言葉を引き出せるようになると思います。
前回訪問した時に気なった1年生のある学級は、まだ子どもたちが小集団化したままでした。文化祭等も近づいているので、こういった行事を活用して子ども同士の関係をつくるようにしてほしいと思います。

中学校は2年生の学級のカラーの違いが大きいことが気になりました。一つの学級は、女子が小集団化してまとまりがなく、男子は女子に比べてエネルギーが低く、学級全体としてまとまりがないように見えました。もう一方の学級は担任がしっかりと学級をコントロールできているようですが、その反面子どもたちの自主性が育っていないように見えることが気になります。学年の一体感が感じられず、問題行動が起きやすい状況に思えます。子ども同士が協力して何かを達成する経験が必要でしょう。学校行事などは、学級単位ではなく学年として何かをつくり上げることを目指すとよいと思います。
3年生は多くの子どもが互いにかかわれるようになっているのですが、それゆえに孤立している子どもの姿も目立ちます。グループ活動の場面では、先生方はかかわりながら活動できている子どもたちとかかわることが多いように見えます。グループと距離を置いている子どもをどうかかわらせるかを意識した支援をしてほしいと思います。
1年生は創作ダンスの練習をしている場面を見ました。特に気になったのが、男子がグループとして動けていないことでした。女子は一部の子どもを除いては一つにまとまって動けていましたが、男子はどのグループでも一人孤立して参加できていない子どもが目につきました。孤立していなくても2人だけでしゃべっている者がいたりして、集団としてまとまることができていません。全体的にコミュニケーションがうまく取れないようです。まずは形式的にでも一緒に行動することを意識させたいところです。グループの活動の中で、全員で一緒に動かなければいけない場面をつくることが必要だと思います。例えば、自分たちの進歩の様子を紹介する動画をつくって本番前に上映するといった活動を組み込むとよいかもしれません。毎回の練習の最後にその時点での全員が踊る姿を録画することで、全員が一緒に行動をする場面をつくるのです。
今年は年度当初に学校に来られない時期があったため、特に子ども同士の人間関係をつくりにくかったと思います。焦らずにていねいに子どもたちの関係をつくることをしてほしいと思います。

ある教科主任の先生から、新学習指導要領のカリキュラムについて先生方の意見が平行線で中々まとまらないと相談を受けました。とはいえ、まとまらないのは、以前はなかなか意見を言えなかった先生も声を出せるようになり、先生方が本音で議論できることの結果だと前向きにとらえています。まだまだ若手の先生なのですが、まとまらないことをマイナス捉えていないことに感心しました。頻繁に教科会を開き、みんなが納得できる着地点を求めています。議論が平行線になるのは、そもそも目指すもの(ゴール)、前提条件・考え方が共通のものになっていないことが原因であることが多いと思います。一度、教科の授業を通じてどのような子どもに育てたいのか、具体的な姿をみんなで出し合い、共通のイメージを持てば論点が明確になるのではとアドバイスしました。「大変な時期に教科主任なったとね」と言ったところ、「自分が勉強するよい機会になったと」明るい表情で答えてくれました。この経験がこの先生の成長につながることと思います。

この日は若手の成長もベテランの頑張りも目にすることができました。新型コロナウイルスを越えて学校全体が再び前に向かい出したことを感じた一日でした。

子どもとの関係の次のステップ

小学校の授業研究でアドバイスをしてきました。6年目の先生による2年生の算数の授業でした。

最初に感じたのは子どもたちの表情と授業規律のよさでした。子どもたちは指示に従って嬉しそうな表情ですばやく動きます。この状態をつくり出しているのは授業者と子どもたちの関係のよさでした。授業者は子どもたちに顔を上げるように指示した後、笑顔で「みんなと目があうとうれしいね」と一人ひとりと視線を合わせます。Iメッセージを使いながら、全員が指示に従うのを待っていました。こういった積み重ねが子どもたちとのよい関係につながっています。

この日の課題は連続した足し算を順番に足すか、増える数をまとめてから足すかというものでした。「10人の子どもが遊んでいるところに、2人来て、その後6人来て、全部で何人になったか」という問題文をディスプレイに映しながら子どもたちに読ませます。ディスプレイが天吊りなので、指示棒で画面を指すのに上を見る必要があります。とはいえ、授業者はディスプレイをずっと見ているのではなく、子どもたちの方を振り返っては様子を確認していました。子どもを見ようと意識しているのは立派でした。指示棒ではなくタブレットのマーカー機能を利用して手元で操作すると子どもたちの様子を無理なく見ることができると思います。

問題文を一度読んだ後、再度要素ごとに区切りながら読ませ、内容をていねいに確認しました。子どもたちはとても集中していました。
いろいろな考え方で解くように指示をして、ワークシートを配ります。ワークシートには考え方を書く1行と式を書く数行を1組にした枠がいくつか書かれています。授業者は、考え方は書けたら書くようにと指示しましたが、子どもたちは何を書けばよいのかよくわからないようでした。「考え方」というのは教師の言葉です。これまでに考え方を記述する経験を積んでいなければ、手がつかないと思います。考え方の行は空欄で、「10+2+6」「10+6+2」「2+6+10」と足す順番を「いろいろ」変えた式を書いているだけの子どもがほとんどでした。授業者のねらっている、順番に足すのか、まとめて足すのかを意識しているのか、3つを足せばよいと考えて、単に足す順番を入れ替えているのかはよくわかりません。
個人での活動に続いて隣同士で自分の考えを「数図ブロックを使って」説明するように指示します。子どもたちはここまでの活動で数図ブロックを使っていません。突然指示されてもすぐに対応できません。友だちの説明を聞くどころではなく、どうやって説明しようかと数図ブロックを前にあれこれ考えている子どもがほとんどでした。これまで数図ブロックを繰り上がりや繰り下がりの説明に使ったことを思い出したのか、式の説明ではなく、式の計算の方法を説明しようとしている子どもが目に付きました。

全体で考えを発表させる場面で、授業者は「自分の考えでも友だちの考えでもよいから」と自分の考えを持てなかった子どもも発表できるように意識していました。このことはとてもよいのですが、説明がしっかり聞き合えていないので、子どもたちの手はなかなか挙がりませんでした。
指名された子どもは、式は発表できるのですが、説明はうまく言葉にできません。授業者は式に出てくる数は何かと確認して、説明の言葉を引き出そうとするのですが、ねらっている「順番に」とか「まとめて」といった言葉にはつながりません。数図ブロックを活かすのであれば、足し算ごとに数図ブロックを操作させ、足した結果が何かを言葉にさせるとよかったと思いまが、授業者は使おうとはしませんでした。指名した子どもが使おうとしななかったのであえて使わなかったのかもしれませんし、隣同士での説明でうまく使えていなかったのでやめたのかもしれません。しかし、子どもたちは数図ブロックを使ってどう説明すればよいのかわからなかったのですから、どう使うとよかったのかを知る場面を作ってあげないと、スッキリしないと思います。

「10+2+6」のように3つの数を一度に足す式を書く子どもが多かったのですが、足す順番が異なる式についてその違いを子どもたちはうまく説明できません。「10+2+6」が10+2に6を足しているのだという感覚は子どもたちにありません。3つを足したという意識しかないのです。そのため、授業者は「10+2+6」「2+6+10」の違いをうまく子どもから引き出すことができませんでした。「最初に『2+6』を計算したんだね」と押さえて、「これってどういうこと?」「何を計算したんだろう?」と子どもたちに問いかけ、全体で共有するとよかったと思います。友だちや先生の説明がよくわからなかったのでしょう。発言や説明を聞いているうちに子どもたちは集中力を失くしてしまいました。
最後は授業者が無理やり「じゅんばに」「まとめて」という言葉でまとめていきましたが、子どもたちは自分の考え方がどちらになるのかをちゃんと理解できていないようにみえました。2年生のこの時期ですから、考え方を言葉で上手く説明するのはまだ難しいものがあると思います。

教科書の絵はよくできています。もとから遊んでいる子どもの集団へ駆け寄ってくる2人と6人を上手く書き分け、増えた子どもは何人かわかりやすく表現しています。それに対して、最初の集団は10人全員をかき込んでいないので、全体では何人かの答はわからないようにしています。無理に数図ブロックを使うのではなく、この絵を使って説明させるとよかったと思います。
問題文の要素と絵の子どもをきちんと対応させてから考えさせ、式が絵の何を計算しているのかを説明させるようにします。「3つ数があるけど、どこから計算したの?」」と問い返して子どもから「最初に」「まず」といった言葉を引き出したり、「ここを『先に』計算したの?」と順番を意識する言葉を強調したりして子どもの考えを整理していくとよいでしょう。「2人来て、6人来た」と「来た」という言葉を意識させ、「2人と6人来た」と整理し、「8人来た」という言葉引き出してもよいでしょう。子どもと言葉をやりとりしながら、他の子どもにつなぎ、子どもたちの考えを整理していくのです。「10人が12人なって、18人になった」「8人増えて(来て)、10人が18人になった」といった言葉を引き出して「順番に人数を計算した」「何人増えたかを計算してから足した」と、少しずつ抽象化していくとよいでしょう。最後は、順番に「考える」、何人増えたかを「考える」とまとめていき、「考え方」とはどういうことを言うのかを子どもの感覚で理解させていくことが必要だと思います。

授業者は子どもとの関係や授業規律のつくり方といった学級経営や授業の基礎はしっかりとできています。その上で必要となる教材研究がまだ浅かったことが上手くいかなった原因です。教材研究の力は一気につくものではありません。毎日の授業で教材研究と修正を積み重ねることで、少しずつ身に付いてくるものです。この学級の子どもたちはわからなかったり困ったりすれば、素直に態度に現してくれます。前向きに授業を受けようとしているので、子どもたちの様子から授業のどこで上手くいかなくなったのかがよくわかります。あせらずに、子どもたちの姿を通じて学んでいってほしいと思います。

この学校の先生方は、「新学習指導要領の評価」や「ソーシャルディスタンスを意識した子ども同士のかかわらせ方」に困っているようでした。全体会では、この授業についての解説のほかに、「主体的に学習に取り組む態度」の評価におけるポートフォリオの活用や、発言以外の出力(書くこと、描くこと、体での表現等)で子ども同士をつなぐことをお話ししました。
次回の訪問時に先生方がどのような工夫をされるか楽しみです。

3年生の変化に驚く

中学校で授業アドバイスを行いました。前回訪問は新型コロナウイルス感染予防の休校が明けた直後でした。今回はその時と比べて子どもたちにどのような変化があるのか楽しみでした。

3年生は教室の前の廊下に立った瞬間に空気の違いを感じました。間違って他の学年のフロアに来てしまったのかと思うほどです。全員が真剣に授業に集中していて、程よい緊張感が漂います。これは程度の差こそあれ3年生のどの学級でも共通です。この数か月で何があったのかとても気になります。学年全体で進路意識を高める取り組みを積極的に行ったことがよい方向に作用したようです。例えば、今年はオープンスクールが開かれないため高校の情報が子どもたちに不足するので、学年の先生方が進路指導部と相談して「卒業生の話を聞く会」を8月に開催したそうです。身近な先輩の生の声は子どもたちの進路意識を高めるのによい影響を与えたようです。また。部活動の大会が自粛、縮小されたこともあり、例年よりも受験に向かって気持ちを切り替えるのが早まったようです。新型コロナウイルスが思わぬ形で影響しています。
この学年では授業を見ると学習についていくのが苦しい子どもがだれかよくわかったのですが、この日は気づけませんでした。どの子どもも前向きに学習に取り組もうとしているようです。受験に向かって気持ちが切り替わったのはよいのですが、だからといってすぐに学習の後れを取り戻せるわけではありません。彼らが授業についていけているのか少し不安です。先生の話を聞いて答や板書を写しているだけでは理解できずに、そのうち気持ちが折れてしまう心配があります。担任を中心にこういった子どもたちをよく観察し、必要に応じて個別に困りごとを聞く時間をとって精神的に支えることも必要だと思います。
例年以上にこのことを懸念する理由が、この日の授業の様子です。授業者の一方的な説明が多いのです。子どもたちが真剣に聞く姿勢をみせているので、授業者はついしゃべりすぎてしまいます。また、新型コロナウイルスの影響で、進度が遅れ気味な上に子ども同士をかかわらせることが難しくなっているので、答や解き方を教えることが中心になり、思考の過程や考えを共有する場面がほとんどありません。先生の説明を聞けば誰しもが内容を理解できるわけではありません。自分で考え、わからないことを友だちに聞き、友だちの言葉から理解する場面が必要です。この学年の子どもたちはそういった場面をつくればよい表情でかかわり合うことができます。先生との関係も良好です。今子どもたちが学習に対して前向きだからこそ、彼らを信じ、自分でできることは彼ら自身で学習するように仕向け、授業の中で考え、かかわり合い、出力する時間を確保し、子どもの言葉で授業を進めるようにしてほしいと思います。
今年度は行事が廃止、縮小されることが多かったようですが、このことも子どもたちの意識が学習に切り替わるのが早まった要因と言えそうです。その一方で、先生方は3年生が学校のリーダーとして活躍する場面がほとんどなく、そういった面での成長があまりないことを気にされていました。少ない機会をとらえて意識させるようにはしているようですが、なかなか難しいようです。私からは、「学校のリーダーとして後輩たちに何を残したいか?何をすべきか?」と問いかけて、子どもたちに自分たちがしたいこと、すべきことを考えさせる場面を作ることをお願いしました。受験勉強という個のことに追われて孤立し、孤独になる子どもも出てくるでしょう。他者とのかかわりで自己有用感を持てる場面が必要になります。子どもたちの残り半年の中学生生活が充実したものになるよう、先生方が力を合わせてくれることと信じています。

この日の2年生は授業に対するエネルギーが低いように感じました。たまたまこの日、生活指導面で学年全体が注意されたことが影響しているのかもしれません。先生方の授業スタイルは3年生と大きく異なりませんが、子どもたちの表情がほとんど動いていないのが気になりました。子どもたちに発言を求め、その発言について子どもたちの考えを問うような場面ではとてもよい表情を見せてくれますが、発言を受けてすぐに授業者が説明を始める時には表情は動きません。この学年でも子ども同士をかかわらせることを意識することが必要だと感じました。この状況は子どもたちの問題ではなく、先生側の問題だと思います。

1年生の社会科で授業研究が行われました。中国の経済発展の理由を考える授業でした。
ワークシートの地域ごとの農業の地図資料から特色を読み取ることをさせます。特色といった言葉は基本的に先生の言葉です。子どもたちの言葉になっていればよいのですが、まだ1年生です。特色とは何か、どのようなことを調べたり考えたりすればよいのかといったことを確認する必要があります。過去に特色を調べたり考えたりしたことがあればそれを思い出させたり、その時のまとめを振り返らせるとよいでしょう。見通しを持たせることが必要です。スクリーンには教科書のどのページの内容であるかも示されているので、子どもによっては資料を読み取るのではなく、教科書に書かれていることを抜き出したりしています。自分で読み取り、考えることを大切にするのであれば、教科書の該当箇所を指摘する必要はありません。
個人で考えることにかなりの時間を割きますが、子どもたちはとりあえず自分の答を書けばそこで手を止めてしまいます。多くの子どもにとって時間がムダになっています。考えを深める場面を意識する必要があります。授業者は、全体での発表で指名した子どもが「農業が盛ん」と答えると、そこから地域によって違うという視点を誘導しました。どう違うかを問いかけて挙手した子どもをすぐに指名します。地域という視点を持てなかった子どもは、そのことを自分で考える機会はありません。ここで一度考える時間を与えたいところです。個人で活動をする前に特色とはどういうことかを押さえたり、途中で止めてどんなことに目をつけたかを全体で共有して再度個人で考えさせたりすれば、時間のムダなくより多くの子どもが自分で資料を読み取ることができるはずです。
また、子どもの考えや答を聞く場面で、授業者の意図にそぐわないものや誤答を無視する場面が目につきました。授業者に聞いたところ他の学級でそれらを拾ったところ授業のテンポが悪くなったので無視したようです。しかし、このようなことが続くと子どもの発言意欲が落ちたり、自分で考えた答ではなく先生の求める答探しをしたりするようになります。テンポが悪くなると感じるのは、授業者が自分の考えた流れに誘導しようとしているのでそれと関係ない答はじゃまだからです。子どもの発言から授業をつくる発想を持ってほしいと思います。
授業の課題は、必要な知識を与える活動をして、それをもとに授業者が提示します。これでは子どもの課題にはなりません。必然的に授業者が求める答探しになります。また、子どもの発言は授業者の求めるものだけが取り上げられてまとめられていくので、自分で考えなくても困りません。子どもたちが受け身になることが心配です。
授業者は課題に対して必要な知識は与えなければいけないと意識しすぎているようです。この視点はもちろん大切ですが、むだなく知識を与えると授業者が考える答に誘導するだけになってしまいます。大切なのは課題を解決するのにどのような知識や資料が必要かを考えさせることです。子どもたちが疑問を持てば、解決したくなります。解決するためにどうすればよいかを考えることから活動を始めるのです。一人一台のPC環境が来年度より実現されます。この環境を活かすためにもこういった発想がこれからはより重要になってきます。
授業者は素直に他者の話を聞くことができる方です。今回の授業をきっかけに、授業はどうあるべきかを考えてくれると期待します。

生活指導担当の先生から、校則について相談されました。時代の変化に合わせて校則を変えることを考えているようです。よい姿勢だと思います。子どもと教師、保護者の調整をどうするかを悩んでいるようです。ICT環境が整備されアンケートの作成集計が容易になってきました。これからはICT環境を活かした活動をプロデュースする視点も大切になってきます。子どもたち自身の手で、保護者や先生も対象にした意識調査を行い、原案を考えさせるとよいのではないかとアドバイスしました。データをもとに考えるという、これからの時代に必要な課題解決力にもつながっていきます。

いろいろな学校を訪問するたびに、新しい時代に向けて学校が変わらざる得なくなっていることを実感します。先生方と一緒にこれからの学校のあり方について考える機会を得ていることに感謝します。次回の訪問も楽しみです。

夏休み明けの子どもたちの様子から考える

私立の中学校高等学校で授業を参観しました。新型コロナウイルス対策で休校していた間もオンラインで授業時間を確保できていたので、夏休みは例年通りでした。長い夏休み明けで子どもたちの様子の変化が気になりましたが、よくも悪くも大きな変化は見られませんでした。

中学校では、子どもたちは元気に授業に参加していました。ICT機器も積極的に使っている授業が多く見られます。気になるのは授業での子どもたちの活動の様子が学級や授業者によってかなり差があるということです。コロナの影響を意識して、座席を動かしたりせずに進めている方もいれば、自由に席を立って話をするのを容認している方もいます。前者ではどうしても子ども同士のかかわりが減る傾向にありますし、後者では新型コロナウイルスが気になる子どもが孤立したり、仲のよい子同士の小グループに学級が分断されたりします。前回訪問時に子どもたちが小集団化しているのではないかと気になっていた学級ではその傾向が強くなっているように感じました。
授業の進め方や活動のやり方を規定したり限定したりするのは勧めませんが、何を目指して子ども同士をかかわらせるのか、そしてそれにふさわしい活動はどうあるべきかを学校や学年全体で話し合い共有することが必要だと思います。

高校ではコースごとに様子は少し異なっていました。
一般のコースの1年生は、夏休み前と大きく変わっていません。落ち着いてはいるのですが学習に対するエネルギーが乏しいように感じます。先生の指示には素直に従い作業しますが、基本的に受け身です。授業中に表情が動く場面がとても少ないように思いました。授業アンケートの回答を見ても、テストで点を取れるのをよい授業と評価している子どもが多く、消費者的な意識が強いようです。ワークシートの穴を埋めることがよい点につながると考え、先生の話を聞くよりもワークシートを完成させることを優先している子どもが多いように見えます。中学校時代の学習観がそのまま授業態度に反映しているようです。子どもたちの主体性を引き出すためには、出力を求め、その出力を肯定的に評価することが必要です。iPadを使い調べ活動をさせても、どうやって調べたか、その結果どう考えたかといったことを問いかけることをせず、そのまま授業者が説明をして進めていることが多いようです。活動しても評価される場面がなく、活動しなくても困りません。これでは主体的に活動する意欲をどんどん失くしていきます。子どもたちが活動し、考えたことが授業に反映されることが大切です。このことを学年の先生方で共通理解すると同時に、子どもたちにも学ぶことの意味や意義を繰り返し伝えるようにしてほしいと思います。
2年生も昨年と比べて学習意欲が低下しているように感じます。友だちとかかわり合う場面ではよい表情を見せてくれますが、そういった場面が新型コロナウイルスの影響で少なくなっていることが問題です。直接話し合うことにこだわらずに、iPadを活用した文字や絵によるコミュニケーションも積極的に取り入れてほしいと思います。
3年生は入試の推薦の基礎資料になる最後の試験が終わったためか、授業に集中していない子どもが目立ちました。入試という目先のことではなく、将来のことを見据えて学び続けてほしいのですが、それは簡単なことではありません。学校全体で学ぶことの意味を伝え続けることが大切ですし、それを体感できる授業設計も必要です。大きな課題として先生方に意識してほしいと思います。

幅広いキャリアを志向するコースの2、3年生では、新型コロナウイルスの影響で子ども同士のかかわりが制限されていることで、昨年と比べていろいろな場面でエネルギーが下がっているように思いました。グループでの活動ができる環境では、今まで同様の姿を見ることもできるのですが、それでも新型コロナウイルスに対しての不安からか一部の子どもは積極的に参加できていないように感じます。参加できている子どもとそうでない子どもが分断されているように感じました。先生方はこういったことを考慮しながら、かかわる場面を作ろうと苦労されていますが、ソーシャルディスタンスのこともありなかなかよい方法が見つからないのが現状です。iPad上で使える共有ツールで子ども同士をかかわらせることを提案しましが、子どもたちにとって書くことへのハードルが高いことを心配されていました。問題は何を書く、出力するかということです。「書く」のは「答」「正解」「きちんとした文章」という思い込みが子どもたちにあります。それが、書くことへの抵抗になっているように思います。まずは、この考えに「○」か「×」といった判断を書かせる。「○○がわからん」といった疑問や困ったことを書かせる。単純に「?」といった記号だけでもよいので、出力させることが大切です。「△△さんがわからないって言っている。いいねえ」と出力を肯定的に評価することを繰り返していくことで書くことに前向きになっていくと思います。書くようになれば、友だちの書いたことに下線や印をつけて、「参考になった」「ありがとう」「いいね」とコメントすることでかかわりをもたせ、そのやり取りを肯定的に評価するとよいでしょう。こうすることで、書くことでもコミュニケーションがとれるようになっていきます。こういう時代だからこそ、新たなコミュニケーションの方法を模索することが必要だと思います。
1年生では、たまたま学級編成の関係でそうなったのかもしれませんが、3つの学級の状況がかなり異なっていました。ある学級は子どもたちのよい表情がよく見られ、例年ほどではありませんが、子どもたちの前向きなエネルギーを感じました。別の学級は、落ち着いてはいますが、受け身で授業を受けている子どもが目立ちました。もう一つの学級は、集中して話を聞いている子ども、顔が上がらない子ども、授業と関係なくまわりとかかわっている子どもと子どもたちの姿がばらばらでした。先生と子どもたちの関係ができる前に一部の子ども同士の関係が強くなっているように思いました。まずは先生と子どもたちの関係をしっかりつくり、その上で子ども同士のかかわりを学級全体に広げていくことをしないと、今後の学級経営が困難になるような気がします。

特別進学のコースでは子どもたちは前向きに授業に取り組んでいました。ただ、教科によっては昨年度までの考える時間が多い授業から、講義型に変わったために一部の子どもたちが戸惑っている姿をみる場面がありました。
その一方で、3年生の難民問題について深く調べて、自分の考えを書かせる授業では、子どもたちの素敵な姿を見ることができました。特定の地域の難民問題だけでなく、各地で起こっているもの、過去のこと、すべてをきちんと理解してから取り組むようにという条件を与えられて活動を始めたところでした。どこから手をつけてよいか困っているのか、子どもたちは厳しい表情で真剣にiPadに向かって取り組んでいます。途中で集中力が切れて投げ出すのではないかと心配になりましたが、最後まで集中力は切れませんでした。1年生からこういった負荷のある課題に取り組み続けているので、ストレス耐性が高くなっているようです。鍛えることで子どもたちが育つというよい例を見せていただきました。最終的にどのようなものが出力されるのか楽しみです。
このコースでは、考える授業に肯定的な層と、受験的な問題の解き方や知識を求める層に子どもたちが分かれているようです。後者の中には、友だちにバカにされたくないといった理由で偏差値の高い大学に入ることが目的となっている子どももいるようです。そのことを全面的に否定はできませんが、学ぶことや進学することの意味を問い直すことが必要だと思います。入学時から進路やキャリアについて考える機会を多く持つことが求められると思います。

進路に関しては、受験に必要な自己推薦文を書く力が育っていないことが課題となっていました。コースによっては各教科で意識して書かせることをしているので、それなりに書くことができるようになっているようです。外部での論文発表を経験している子どもなどはかなりレベルの高い文章を書くことができます。他の子どももそういった子どもに教わったり、書いたもの見せてもらったりして学んでいます。学級数が少なくかかわる先生がまとまりやすいので、協力し合いながら教科横断的に書く指導がされているようです。
一方、学級数の多いコースでは、学年全体でまとまることが難しく、計画的に指導されていないので受験が近づいてからの付け焼刃の対応になります。何度も指導する時間がないので、先生が大幅に手を入れることで何とか完成させることもあるようです。自己推薦文であれば、自分自身の経験や身に付けた物をきちんと意識することや文章力が必要です。1年時からポートフォリオを作り、書く経験を繰り返すことが求められます。このことは、単なる受験対策ではなく将来にわたって成長し続けるために必要になってくることです。学校全体で計画的に取り組んでほしいと思います。

先生方は新型コロナウイルス対策でどうしても一方的に教える授業になりがちです。そのせいで子どもたちも依然と比べて受け身になっているようです。しかし、新型コロナウイルスの対策が必要な今だからこそ挑戦できること、すべきことがあると思います。「新型コロナウイルスのおかげで、ICT機器など必要ないという先生がいなくなった。大きな一歩を踏み出せた」という発言もありました。負の側面ばかり見るのではなく、新たな授業スキームを作る機会だと思って、前向きに授業改善に取り組んでほしいと思います。

オンライン授業から学ぶ

オンライン公開による中学校数学のオンライン授業を参観しました。なんかややこしいですね。
2日間で4つの授業公開でした。公開にあたり、板書の画面、教師が見ている子どもたちの様子の画面、そして教師の動きを見せる画面の3画面を同時に配信するという工夫をしていました。この3つの画面を同時に見たり、場面に合わせてどれか一つに絞ったりといった柔軟な見方をすることができます。隙間なく参観者がいる教室で授業を参観するよりも、かえって情報が多いくらいでした。

今回の授業は、日ごろの授業と同等の授業をどうすればオンラインで実現できるのかを意識したものでした。日ごろの授業と同じように子どもたちの反応をみて進めたいために、大型のディスプレイを教師の前において、子どもたち全員の様子を見えるようにしています。黒板も子どもたちにしっかり見えるように、専用のカメラで配信できるようにもしています。私が初めてオンラインで研修をした時に、講師陣で試行錯誤した結果のシステムとほぼ同じ考え方です。大型のディスプレイを使えば、オンラインでも思った以上に参加者の表情はわかるものです。

私の感想を一言で言えば、いい方は悪いですが「通常の授業の劣化版」です。決して授業の質が低いわけではありません。どの授業も子どもたちに数学的な考え方を身につけさせることが意識された、とても工夫されたものです。教科の先生方が同じ方向に向かって、互いに研鑽していることがよくわかります。通常の環境でもこれ以上の授業はそれほど簡単ではないと思います。だからこそ、この先生方で通常の環境で授業をすれば、よりよいものになるだろうと思いました。言い換えると、オンラインのよさよりも難しさを感じることが多かった言うことです。

授業は、大きくは、個別に問題を解いて、グループ(ZOOMのブレイクアウトを利用)で考え方を聞き合い、全体で何人かの考えを取り上げ、それぞれの発表に対して「つかまえたこと」「疑問」「付け足し」を発表させて共有する流れです。
課題となる問題は、どの授業でも答えを出すのは難しくはないが、多様なアプローチがあるものでした。多様な考えに触れることで数学的な考え方を広げ、深めたいという先生方の思いがよく表れています。
どの先生も子どもの発言をしっかりと受容し、安心して自分の考えを発言できる雰囲気を作っています。グループでは自分の考えをしっかり持って友だちに説明できていました。特に2、3年生は数学的な見方が育っていると感じました。多様な考え方を認めることを意識して先生方が取り組んできた成果だと思います。考えを共有して、深める時間をできるだけ確保しようと事前に自分の考えをClassroomで提出している授業もありました。反転授業の発想です。

グループ活動に入ったあたりからオンライン授業の難しさを感じることが増えてきます。グループ活動の時間は、それぞれのグループで閉じているので、他のグループの様子はわかりません。他から刺激を受けたり、進み具合を見ながら自分たちのペースを調整したりできません。先生も、グループ全体の活動の様子はわからないので、グループの状況に応じて相談の時間を調整できません。あらかじめ設定した時間で強制的にグループを解除することになります。もっと話し合いたいのに、ちょうど議論が盛り上がっているのに突然打ち切られてしまいます。こういったことを起こりにくくするためには、グループ活動の時間を長めにとって、終了2、3分前予告する必要があります。しかし、そうするとどうしてもグループ活動の時間が押して、集団追究の時間が足りなくなってしまいます。とても悩ましいところです。
印象的だったのは先生方から出てきた「子どもたちを信じてまかせる」という言葉でした。「互いに学んでいけるはずだ」と、グループ活動を変にコントロールせずに子どもたちに任せているのです。この割り切りはとても大切です。実際、グループでの子どもたちはしっかりかかわり合えていたように思います。子どもたちがよく育っているのです。

全体の場でどの子どもの考えを取り上げるかも難しいところです。授業者の先生方もおっしゃっていましたが、オンラインで子どもの考えをリアルタイムに把握することはかなりハードルが高いものです。子どもの記述したものを共有するツールを使えばある程度可能ですが、それだけでは情報は不足します。通常の授業であればちょっと声をかけたり、途中の様子を見たりすることで情報を補えますが、オンラインではそう簡単ではありません。
ですから、あらかじめClassroomで提出させたワークシートをもとにどの考えを取り上げるかを考えて授業を組み立てている方もいました。

各グループでどのような話がされたかをすべて聞くのは時間的に厳しくなります。とはいえ、意図的に指名することは、各グループの状況をすべては把握できないのでそれもなかなか困難です。結果、取り上げる考えは挙手に頼るか、あらかじめ提出された解答から選ぶことになります。この問題を少しでも解決しようとしたのでしょう。ある先生は、途中でグループを切り替えていました。通常の授業では、座席を移動しなければいけませんが、オンラインでは簡単にシャッフルできます。シャッフルすることで、各グループで話されていたことを多くの子どもが共有することができ、多様な考えに触れることができます。交流の結果、どのようなことを考えたのか、できるだけ多くの子どもに聞きたいところですが、多くの時間は取れません。一人ひとりの振り返りを授業時間外か次の時間に共有することになると思います。オンラインのよさを活かし、効率的・効果的な共有方法を見つけてほしいと思います(既に実行されているのかもしれませんが)。

全体追究をこの学校ではとても大切にしているように思います。日ごろから子どもの意見をつないで、考えを深めることを意識しているように思います。指名した子どもの考えに対して「つかまえたこと」「疑問」「付け足し」と全体に問いかけ、先生ができるだけ言葉を足さずに発言を共有しようとしています。子ども自身に友だちの考えを価値付けさせようとしているのがよくわかります。通常であれば、子ども同士をつなぎながら進めていくのでしょうが、オンラインでは発言者以外のマイクはオフにしておく必要あります。そのため、つぶやきを拾うことができません(マイクオンでも、訳が分からなくなりますが)。表情や態度で指名するのにも限界があります。ちょっと理解できない考えに出合った時、そのことは表情に現れますがその後どうつなげるかが問題です。通常であれば、「ちょっとまわりと相談して」と投げかけることで子どもたちが動きだせますが、オンラインではかなり難易度が高いのです。そのため、どうしても先生が問いかけ、挙手する子どもの発言をもとに整理し、まとめていくことになってしまいます。先生と子どもが1対多の関係になってしまい、子どもの発言やつぶやき、疑問から考えが広がったり、深まったりする多対多の関係になりにくくなっているのです。この先生方ならば、通常の環境の授業であれば、間違いなく子ども同士をつなげる進め方をしたと思います。しかし、オンラインでは、発言をつないで進めるスキームを実現するハードルはかなり高いのです。
これとも関連しますが、子どもたちが全体に考えを伝える方法がかなり限定的だったのも気になるところでした。通常の授業では黒板に書きながら、体全体を使って説明したりできるのですが、口頭だけか、カメラに向かってワークシートをかざしての説明がほとんどです。紙のワークシートをベースにしているので、画面共有もしづらいのです。しかし、グループでの意見交換にホワイトボードの機能を使って上手に説明している子どももいました。こういったツールを使うことで、それらを保存し共有することも簡単にできます。先生方は子どもの発言を黒板にメモして共有していましたが、そういう板書の時間も節約することができます。これからの時代、オンラインで考えを伝えるスキルも必要になってきます。数学の授業だけの問題ではありません。学校全体でスキルの習得を意識することが必要でしょう。

どのようなツールを使うかは別として、オンラインでは話すことだけではなく、書くことによるコミュニケーションをスキームに加えていくことが重要だと思います。文字だけではなく、図などの視覚情報もリアルタイムに加えて考えを示すのです。通常の授業では結果や結論を共有することが多いのですが、オンラインでは途中の考えや試行錯誤の課程をそのまま共有することができます。友だちの作業を覗くことで考えを理解しあうことも可能です。友だちのいい所にスタンプを押したり、疑問や感想をコメントしたり、それを他の子どもが見たりすることで考えを深めることができます。SNSに慣れている今の子どもたちにはそれほどハードルの高いことではないように思います。オンラインだからこそ有効なスキームは何かを考え、積極的に取り入れることが大切です。

現場の多くの先生方から「早く通常の対面授業に戻りたい」という声を聞きます。その気持ちはとてもよくわかります。しかし、「対面の授業に戻りたい」が「今までの授業に戻りたい」では困ります。確実に時代は変わりました。対面だろうがオンラインだろうが、新たな授業スキームに移行していかざるをえません。
この学校では、もうすぐオンラインでの授業は終わり、通常の授業に戻るそうです。だからこそ、これまでのオンライン授業での経験を活かし、通常の対面授業をより進化させることを期待しています。これだけの授業に挑戦した先生方ですので絶対に可能だと思います。次の機会を心から楽しみにしています。
私も2日間で本当に多くのことを学ぶことができました。この機会を得たことを感謝すると同時に、ここで得たことを学校現場に伝えていきたいと思います。ありがとうございました。

個別最適化学習について考える

個別最適化学習という言葉が一人一台のPC環境整備の議論と共に語られることが増えています。多くの方は個別最適化学習という言葉に対してドリル型のソフトの活用を思い浮かべているのではないでしょうか。AIやビッグテータを活用してきめの細かい、精度の高いものになったとはいえ、発想は40年以上前のCAIと大きくは変わっていないように思います。個別の習熟度に応じたドリル学習=個別最適化学習と考えることに違和感があります。

ドリル型ソフトを否定するわけではありませんが、子どもたちにつけるべき力のゴールはその先にはありません。個別指導の学習塾が人気だそうですが、それと似たものをドリル型ソフトに感じます。個別指導塾ではわからないことをすぐ聞け、その場ですぐに教えてもらえ、ストレスなく効率的に試験対策ができることが魅力だそうですが、そこには誰かに答や解き方を教えてもらう受け身な子どもの姿が透けて見えます。ドリル型ソフトはその個別指導の教師がAIに置き換わっただけのように感じます。
教師時代先輩から、「個別にていねいに教えることが最善ではない。あなたが一生その子どもたちの面倒を見られるわけではない。あなたがいなくても学び続け、自分で問題解決ができる力をつけることがあなたの仕事です」と厳しく言われたことを思い出します。
どのように学ぶかも含めて自己決定する力をつけることが大切だと思います。教師やAIの指示に従うのではなく、例え指示にしたことをやるにせよ、自分でそれを積極的に選ぶという判断をしたかどうかが問われます。

個別最適化学習は、一人ひとりが自分に応じた学びを続けることをゴールにするべきだと思います。ハンディキャップを持った子どもたちや何らかの理由で登校できない子どもたち、そんな子どもたちを含めすべての子どもたちが、学校だけでなく、家庭や地域も含め自分に適した学びのありようを見つけて学び続ける、そこを目指すべきなのです。そのために有効な基盤となるのが一人一台のPC環境だと思います。
個別最適化学習についてどのようなドリルソフトを導入するかではなく、どのような学びの選択肢を用意すればよいのかをまず考えてから、一人一台のPC環境整備に取り組んでほしいと思います。

オンラインでの授業研修

私立の中学校高等学校で、事前に送っていただいた授業ビデオをもとに、オンラインの授業研修を行いました。
オンラインでの講演ではスライドを共有すると相手の顔が見づらくなるので、モニター用にもう一台端末を準備しました。しかし、今回は会議室に先生方が集まって1対1でテレビ会議システムをつなぐ形だったので、残念ながら先生方の個々の反応を見ることができませんでした。

本年度から本格的にICTの導入が始まる学校なので、これまであまりICTを活用して来なかった先生を意識した授業研修を目指しました。そこで、ICTに堪能な先生ではなく、最近使い始めた先生に授業をお願いすることになりました。授業の一場面を切り出した動画で見ていただき、ICTの活用をメインにその場面のポイントとねらいどころを解説するという形で進めました。切り出したのは、「大きく映す」「スクリーンに書き込む」「板書とスライドのすみ分け」「活動を前にポイントを確認」「個別に机間指導」「ていねいな説明」「生徒に考える時間を与える」といった場面です。

「大きく映す」
スクリーンに映すことで板書する時間を節約できますし、子どもたちの顔を上げて教師の話に集中させることができます。子どもの反応を見やすくなるので、それをどう活かすがポイントになります。

「スクリーンに書き込む」
スクリーンに映したものに書き込むことで、タイミングよく必要な情報を付加することができます。ただ、子どもたちは書き込まれたものを写そうとするので、話を聞かせるのか写させるのかを意識して進める必要があります。子どもたちが後から書かれたものを見て思考の過程を振り返れるような書き込みを意識することが大切です。

「板書とスライドのすみ分け」
子どもとの対話でアクティブに変化するものは板書が有効になります。一方、予め決まっている流れに沿って示すのであれば、スライドにして順番に映すことで十分です。子どもたちは板書されたものは写そうとしますが、これから一人一台のPCの時代になれば、スライドや板書は配信か写真に撮るのが主流になります。手を使って写す意味のある板書かどうかを意識することが大切です。

「活動を前にポイントを確認」
活動前に子どもにポイントを確認し発言を求めることで参加意識が高まり、見通しが持てます。しかし、発言したり反応したりしなかった子どもはポイントを理解できているかどうかわかりません。全員に確認することを意識することが大切です。何度確認するポイントはスライドにしておいて、「いつもの」と映し出してすぐに思い出させるようにしておくとよいでしょう。作業中にずっと映しておいて、いつでも確認できるようにすることも一つの方法です。

「個別に机間指導」
子どもをほめる言葉かけは重要ですが、できたことをだけをほめるのではなく途中までできていれば部分肯定する姿勢が必要です。また、「正解です」とノートを見て先生が正誤を判断すると子どもたちは先生に判断を委ねてしまうようになってしまいます。正解かどうかを自分たちで判断する力を育てることが重要です。机間指導しながら子どもたちの困り感をすくい上げ、学級全体で共有しながら自分たちで解決していくことを意識することが大切です。一人一台のPC環境になれば、オンラインで困り感を共有することも可能になります。今後、何を共有するのかが授業のポイントになっていきます。

「ていねいな説明」
作業の手をきちんと止めさせて、話を聞く姿勢をつくることが大切です。子どもたちの取り組みで、上手くいかなかったものを取り上げることで、困っていた子どもの参加意識を高めることができます。ただ、すぐに上手くいく方法を説明するのではなく、「どこで行き詰った」「その後どうした」と試行錯誤の過程を全体で共有する時間をとることが必要です。間違いを修正する経験を積むことが、問題解決能力を身につけることにつながっていきます。先生が無駄のない正しい道筋を与えると、子どもたちは自分で考えることをすぐに諦めて教えてもらうのを待つようになってしまいます。教えてもらうのではなく、自分たちで解決することを学習の基本にする必要があります。

「生徒に考える時間を与える」
例をもとに類推させるといった時間をとることは思考力をつけるのに有効です。その活動をもとに、考えたことを抽象化・一般化して整理することがより思考力を育てることにつながります。まとめは先生ではなく子どもたちにさせて、全体で共有する時間をとることが大切です。

授業をもとにこのようなことをお話しし、最後に一人一台のPC環境のもとでの授業の方向性について説明しました。
これからは「対話」を伴わない説明や解説は動画に置き換わっていくでしょう。子どもたちは自分のペースで納得いくまで見ることができるようになります。教室は子どもたちの疑問や困ったことから出発し、仲間とかかわりながら自分たちで解決する場となることが求められます。授業観が変わるとともに先生方に求められる能力も変わっていくのです。

会場からは、「子どもたちの考えをつないだり、焦点化したりといった力がこれからの教師には必要になるのですか?」との声が上がりました。その通りだと思います。ただ、それだけではなく、どんな課題や環境を与えれば子どもたちが主体的に活動し、考えを深めていくのかといった、学びの場をプロデュースする力(教材研究の力)も必要になります。このことをお伝えしました。

オンライン研修のノウハウが、まだまだ私に不足していると感じた1時間でした。こういった機会を活かし、今後研修をより一層効果的に進められるよう精進したいと思います。

先生方が3つのグループに分かれた

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は全体の様子の確認と、先生方からの相談を受けました。

この日も高校1年生と他の学年との違いを感じました。1年生は板書を写したり、作業をしたりしていると、先生がしゃべっていても手は動き続けています。一方他の学年では、手を止めて先生の話を聞こうとする姿が見られます。授業に対する参加度が違います。今は先生がしゃべっている時間を多いのでこの違いが顕著です。一緒に参観している先生から、冗談半分で「教師が1時間の授業でしゃべる時間を20分ほどに制限なくちゃ」という声も聞こえてきました。今時、20分でも長いかもしれませんが…。

中学校の社会科の授業について報告と相談を受けました。
気候の学習で、今までは資料集の雨温図をもとに学習していましたが、今回は子どもたちに理科年表をもとに表計算ソフトを使って雨温図を作らせてみたそうです。すると、今まで以上に雨温図を理解し、特徴を捉えることができたそうです。資料を作るということはこれからの時代に必要な力です。これからの時代は、「どんな資料があればよい?」から、「どんな資料を作ろう?」へと一歩先に進んだ活動が必要になると思いました。
今回の課題は、旅行者に対していつどこへ行くとよいのか、レイアウトも工夫して立派な提案書を作ろうというものでした。資料を探してそれを元に何かを作るという課題は友だちとかかわれないと苦しくなる子どもが多いようです。3密対策で友だちとかかわりにくいので、互いの作業をネット上でリアルタイムに見えるようにすることや、どのような資料を使った、それはどうやって見つけたかといった過程を共有シートに書き込むことで、困った時に参考にできるようにするとよいでしょう。どの教科でもそうですが、結論を共有するのではなく、その過程を共有することを意識することが大切です。子どもたちに失敗や間違いを含めて、自分の活動の過程を残していくことを習慣づけてほしいと思います。
登校ができない子どもに対して、課題等の授業の内容をネットで伝えるようにしているそうです。友だちの学習の過程を、先ほど述べたように共有できるようにしておけば、家庭からでもそれを見ることで授業に参加するのと近い状況をつくることができると思います。ぜひ検討してほしいと思います。また、登校できない子どもに対して知識的なことを整理したプリントを配ろうとすると、他の子どもがそれを欲しがるがどうしたものかと相談されました。子どもたちは正解や結果に価値があると思っているのでそのように思うのです。ふだんの授業でも解答や結論はさっさと配って、その根拠を考えることに価値を置くようにするとよいと思います。根拠や過程を結論より大切にすることを学校全体で意識してほしいと思います。

この1週間の公開授業で感じたことに、子どもたちの笑顔が減っていることがありました。先生方の余裕がないため、子どもたちを認める場面やほめる量が減っていることがその原因のように感じました。どんな時でも笑顔を絶やさないように意識してほしいと思います。

新型コロナウイルスによる休校が明けて先生方は3つのグループに分かれているように思います。

・休校中はICTを活用したが、対面の授業が始まってまた以前と同じ授業に戻った。
・3密対策のため子ども同士がかかわる活動が制限され、今までやれていた授業ができずに困っている。
・以前からICTを活用していたので、3密になってもそれほど困らずに自分のやりたい授業ができている。

大切なのは、どの先生がよいと比べることではなく、情報を交換しあって互いの授業改善につなげていくことです。危機感を持った先生を中心にまずこの状況を共有することになりました。私から全体にお話しする時間は取れないので、気づいたことをレポートにまとめさせていただきました。学校全体で課題を共有する一助になればと思います。

WITHコロナの時代の授業のあり方について考えるよい機会になった1週間でした。

課題意識を持って授業に取り組む

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は前回気になった中学校の様子を中心に参観し、また希望の先生方からの相談にも答えました。

中学校は前回ある先生に子どもたちのかかわり方や授業規律について指摘しましたが、中学校全体でそのことを意識して授業に取り組んでいるようでした。中学校は規模が小さいこともあり、先生方のコミュニケーションがよいことがわかります。
授業規律がしっかりしていても、子どもたちに過度に守ることを意識させているように感じる学級がありました。子どもたちの笑顔が少ないように思います。やわらかい空気の中で授業規律が保たれることが理想です。子どもたちのよい行動をほめることで授業規律を保つことを意識してほしいと思います。
中学校では日ごろから子どもたちの発言を大切にし、考えをつなごうとしている先生が多いのですが、この日は発言を授業者が受けて、説明したりまとめたりしている場面に多く出会いました。無意識のうちに授業を先に進めること優先しているようです。一人一台のiPadがあるのですから、発言させることにこだわらず、iPadで考えを書かせオンライン上で共有するといった進め方も視野に入れるとよいでしょう。こうすることで授業者は子どもたちの考えを把握しやすいので「○○さんの意見と△△さんの意見が似ているように思うけど、どう?」「□□さんはちょっと違う意見のようだけど、どういうことか聞かせてくれる?」とすぐにつなぐことができます。意見を発表させなくても子ども同士が互いの考え知ることができるので、「納得した考えある?」「質問や疑問ある?」と問いかけることもできます。これが最善というわけではありませんが、3密対策や時間を効率的に使うことを考えると一つの方法になると思います。

国語の先生から「子どもたちに文章を読み取る力をつけたいが一人ではなかなかできない。ワークシートに沿って穴埋めさせているが、これで力がつくのか自信がない」と相談されました。文章の構成にそって筆者の主張を読み取ることは簡単なことではありません。力をつけていくためのステップを意識することをアドバイスしました。最初はワークシートの項目に従って穴埋めすることでよいと思います。大切なのは、項目を指示ではなく文章の読み取りのポイントとして意識させることです。「接続詞に注目することで段落の関係がわかる」「結論、根拠、例示・・・のどれか意識する」「何度も出てくる言葉、言い換えている言葉はキーワード」といったワークシート上の作業をメタなものとして意識させるのです。このようなワークシートでの作業を経験させてから、今度は記入枠の項目や指示を省いたものに変えていきます。何を書けばよいのかを自分たちで考えさせ、どんな項目を書こうとしたか、何に注目したかといったことを互いに聞き合い、自分たちでゼロから読み取れるようにしていくのです。
また、子どもたちの力に差があるので、課題への取り掛かりが見つからずになかなか手がつかない子どもがいることも悩んでおられました。子どもたちに課題に取り組ませるとある程度区切りがつくまで時間を与えることが多いのですが、そうすると手のつかない、途中で止まったままで時間が過ぎていく子どもがどうしても増えます。個別対応も一つの方法ですが、限界があります。早い段階で、どこで困っているか、何がわからないかを全体で確認し、同じように困った子どもをつなぎながら、動けている子どもに「なにをやった?」「どこに注目した?」と解決に向かってどのようにしているかの過程を共有するのです。ある程度見通しが持てそうな状態になったら、また作業に戻ります。結論ではなく困ったこと、過程を共有することを大切にするようアドバイスしました。

数学担当の先生からは、「今までは子ども同士で教え合うことで、中位の子どもがわかるようになる場面が多かった。しかし、教え合うことがやりづらくなったので、iPadで解答を共有するようにしたのだが、直接教えてもらえないのでわからない子どもが増えてしまった」と相談を受けました。そこで上位の子どもを鍛えることをアドバイスしました。子どもたちは、式を順番に書いてその結果が正しければそれで満足します。そこで、「どういう方針で問題を解いたのか?」「式の変形は何をしているのか?」「なぜそうしたか?」といった、行間を埋めることを書くように求めるのです。それを見合い、よかったところをマーカーで塗り、「どこでわかった」「どこがわからない」「どの説明がよかった」といったコメントを書いたり、「いいね」スタンプを押したりして子ども同士で評価させるのです。こうすることで、オンライン上でコミュニケーションが生まれ、子ども同士で問題解決ができるようになりますし、上位の子どもも説明を書くことでより力がつき、友だちに評価されることで自己有用感も増します。授業をいろいろ工夫している先生ですので、これをヒントに自分なりの解決方法を見つけてくれると思います。

今回、課題意識を持って授業に取り組んでいる先生とたくさんお話しすることができました。先生方の今後の成長が楽しみです。

子どもたちのかかわりたい気持ちをどうする

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は前回見ることができなかった中学校を見ることと、先生方からの相談に答えることが中心でした。

中学校は、「友だちとかかわれることがうれしい」という休校明けの子どもたちの気持ちを強く感じました。高校生はそれなりに抑制が効いていたのですが、中学生はうれしい気持ちの方が強いようです。授業中にマスクを外して友だちとしゃべっている姿も目にします。マスクをしていても、前のめりで距離が近すぎる子どももいます。その一方で友だちとかかわることに不安を感じている子どもも一定数いるように思います。必要以上にかかわることを避けているように見えました。3密に関しては、適切な状態になるように授業者がもう少し意識してコントロールする必要があるように感じました。まずは安心安全な学級であることが基本です。
中学1年生は授業規律がまだ安定せず、小学校のままという感じがしました。出身小学校ごとに授業規律は異なりますので、中学校ではこうだよと、きちんと伝える必要があります。休校が続いたため授業を進めることをどうしても優先してしまうので、一度立ち止まって、まずは授業や学級の規律を身につけさせることを優先してほしいと思います。
中学校担当の先生にこの状況についてお話ししたところ、すぐに打ち合わせで検討したいと言っていただけました。素早い対応に感心しました。

高等学校では、前回同様に子どもたちが友だちとかかわりたいがかかわれないというストレスを感じている場面に出合いました。自分の考えを伝えたり、わからないことを聞いたりしたいのでしょう。まわりの子どもに視線を送るのですが声は出せません。iPadを使って意見や考えを共有することを積極的に行うことで、ストレスを減らすことができるのではないかと思います。

裁縫の授業で、子どもが個別にやり方の説明を授業者に求めている場面がありました。3密を意識して友だちに聞くことが憚られるので、直接授業者に教えてもらおうとしたのでしょうが、濃厚接触が気になります。実技では3密に関係なく、やり方の説明を細かく分けた動画を準備し、手元でいつでも見られるようにするとよいでしょう。自分のペースでわからないところを確認しながら進めることができます。一人一台の端末があたりまえになった時には、こういった環境を準備しておくことで自学ができるようになります。その代わりに、どのようにしてかかわりながら学ぶかが教室では重視されます。これからの授業のあり方を今から考え続けてほしいと思います。

英語のリスニング力をつけるためにどうすればよいのかという相談を受けました。ただ問題文を聞いて、質問の答えを選択し、正解を教えられても聞く力はつきません。聞けたことをまわりと確認してから聞き直し、少しずつでもよいので聞けたという実感を持たせるとよいでしょう。しかし、まわりと聞き合うことも現状では難しい状態です。話す代わりに聞けたことをオンライン上で共有する方法もありますが、リアルタイム性にはやや欠けます。相談者はいろいろと考え悩んでいるようでした。そこで、前回この学校の別の先生から教えていただいた、動画や音声のファイルをiPadに配布して家庭で繰り返して聞いておくというやり方を紹介しました。聞き取れたところ、よく聞き取れなかったところを事前にオンライン上で共有して授業に臨むことで、教室で再度聞く時にかなり聞き取れるようになると思います。よい実践を教科内で共有できていないことがもったいないと思いました。新型コロナウイルスの対策等で先生方の余裕がなくなっていることもその要因だと思います。今回の公開授業の参観者が例年と比べて少ないのも気になりました。先生方の余裕をつくるためにもICTをいろいろな場面で活かすことを考える必要があると思います。

公開授業でいろいろなことに気づく

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は新しく赴任した先生方を中心に同行していただき、子どもたちの様子を共有しました。

休校中はオンライン授業を中心に一人一台のiPadを学校全体で活用していました。学校再開後、どのように活用されているか楽しみにしていました。
衝撃的だったのが高校1年生の授業でした。iPadどころか、プロジェクターもほとんど利用されず、一方的に先生がしゃべって板書している授業がほとんどでした。子どもたちの机の上にはiPadが置かれることすらされておらず、ノートに板書を写す作業が続きます。子どもたちが考える場面はほとんどなく、授業規律も怪しい状態でした。授業者は早く授業を進めることを意識していたのか、「どうなる?」「どう思う?」と子どもに反応を求めても反応が返ってくるのを待たずにすぐに自分でしゃべり続けます。たとえ子どもから反応があっても、「そうだね」と言って自分で解説を始めます。反応するまで待ったり、他の子どもにつなげて考えを共有したりする姿勢がみられませんでした。
一方高校2、3年生ではiPadは多くの教室で普通に使われていました。ただその使い方にはかなりばらつきがありました。資料の提示や配布のツール、調べるツール、課題の結果を共有するツールと様々な活用が見られます。しかし、iPadを使いながらも教師が板書して手書きで写させる場面も多く見ました。

学校全体で授業の進め方と合わせてiPadの活用を整理する必要を感じました。
一つは板書とノートの関係をiPadの活用を意識して変えていくことです。
事前に予定している板書はスクリーンに映すかiPadで配信すれば十分です。手書きで写すことに時間をとるのではなく、集中して先生の話を聞くことに時間を割くべきです。板書は子どもたちの意見や考えをアクティブに整理するのに活用するとよいと思いますが、それも手書きで写すことにはあまり意味はありません。写真に撮らせれば十分でしょう。
一方手で写すことが意味のある場面は当然手を使わせるべきです。ただそれも、紙のノートにこだわる必要はないと思います。
漢文で返り点の練習のための例を板書している場面がありました。先生は黒板に○を縦に書いて返り点をつけたものをいくつも書いていきます。子どもたちは、上から順番に○を書きながら返り点が出てくるたびに○の横に写していきます。二が出てくればそれを書き、後から一を書いています。これならばそのまま配信すれば十分です。本来ならば、先に〇だけ写し、まずレ点、次に一二点を一から順番に、続いて上下点を上から順番にと、返り点の意味を意識しながら写させなければ手を使う意味がありません。先生は指示をしたのかもしれませんが、板書で黒板に向かっているので子どもたちの様子は見ていません。これでは時間の無駄です。子どもたちには〇だけ書いたものを配信してスクリーンに例を映し、それから写し方を指示して手で作業させれば、自然に返り点の規則が見えてくるはずです。先生は子どもの写す様子を観察していればよいのです。
この教材で子どもたちに何を活動させればよいかを考えることが大切です。ICT機器を活用するにしても、やはり教材研究が大切なのです。

もう一つは、子どもたちの考えを深めるためにどうするかです。
子どもたちがそれぞれの課題の結果をiPad上で見合うことだけでは考えは深まりません。それを元にグループや全体でその課程や根拠を聞き合う場面が必要です。今回の訪問ではその場面をほとんど見ることができませんでした。3密対策のため、子ども同士で話をさせたり、全体で意見を交流したりすることが憚られることもその要因でしょう。実際、以前から子どもたちをグループや全体の場面でかかわらせること重視していた先生からは、今回の3密対策で授業がとてもやりにくくなった、子どもたちはしゃべりたいのにしゃべれないフラストレーションがたまっているといった言葉が聞かれました。
考えを共有したり深めたりする方法は聞き合うだけではありません、ICTはそこにも活かせるはずです。ネット会議システムでグループを作り、子どもたちにイヤホンを使わせればグループで話すことも可能ですが、さすがにそこまでは難しいのなら、ネット上で考えを共有させる方法を工夫すればよいのです。課題の答や結果しか書かせていないのなら、それを共有して、そこに質問を書かせればよいのです。線を引いて「よくわからない」「どうして?」といったことを書かせて、それに答えさせるのです。課題の結果ではなく、その過程や根拠をiPad上に残させるようにすれば、やり取りはより活発になると思います。過程や根拠に「いいね」をつけあうことで自己有用感も高めることもできます。子どもたちに小グループや全体で自由に見合うことをさせ、先生はそのやり取りや書き込まれたものを全体で価値付けすればよいのです。

また、今回の休校をきっかけに、ICT機器をうまく使うことで、子どもたちが自分で学習できることがまだまだあることに気づいた方もいらっしゃいます。
英語を聞き質問の正解を選んで解答を教えられることを繰り返しても、リスニング力はつきません。何度も聞くことで聞く力がつくのですが、一斉授業の枠組みではそれも容易ではありません。CDを焼いて配り家庭で聞いてくるようにと指示しても、手間なためなかなか聞いてはくれません。今やCDプレイヤーがない家庭もけっこうあるということです。そこで、音声ファイルをiPad上で配信して聞いてくるようにと指示したところ、多くの子どもたちが積極的に取り組み事前に何度も聞いて授業に臨んだそうです。これならば手間がないので、やる気になるようです。ちょっとした手間が障害になっていたのです。やる気と手間のバランスが変わるだけで、子どもたちは学習に積極的に取り組むのです。

発表のスライドをネット上で共同作業させている先生もいらっしゃいました。しゃべることが制限されても、オンラインツールでそれに近い共同作業はできるのです。学校でも活用できるインフラが整ってきています。それを活用するだけでも障害は乗り越えることができるのです。

私がまだ気づいてないだけで、この学校でも多くの先生がいろいろな工夫をしていることと思います。そういった工夫を学校全体で共有する仕組みを作ることを担当の先生にはお願いしました。

新しく赴任された先生方には、子どもたちとのよい関係づくりと、認めることでつくる授業規律のつくり方を中心にお話ししました。子どもたちをしっかり見ることと子どもたちの状況に合わせて授業をつくることを意識してもらえればと思います。次の機会があれば、子どもたちに考えさせるためにどうするのかについて、詳しく話をしたいと思っています。

子どもたちの様子や先生方からの質問から、いろいろなことに気づけた有意義な1日でした。

授業と学びコラムに投稿しました

授業と学び研究所」の「授業と学びコラム」に「変化を進化につなげることを意識しましょう(大西)」を投稿しました。

変化と進化について、ダーウィンの進化論の誤用が話題になっていますが、学校が進化するための視点について述べさせていただきました。

是非お目通しください。

学校再開後の授業アドバイス

中学校の授業アドバイスを行ってきました。学校が再開してちょうど2週間たった週明けでした。

全体的に気になったのが、速く進めたいという気持ちが先生方の授業に表れていることでした。意識はしていないのかもしれませんが、一方的な説明が多く以前と比べて早口であったり、指示の確認がなかったり、子どもが聞く姿勢を取れていないのにしゃべったりしています。説明が中心で進んでいる授業が多く見られました。どこの時間を削って、何に時間をかけるべきなのかを工夫することが大切です。
一部の先生を除いて、プロジェクターをあまり活用していません。先生が手で板書したことを子どもたちが写している場面を多く見ました。速く進めようという焦りか、子どもたちがまだ書き終っていないのに授業を進めていることもあります。子どもたちの発言や考えを書き留める板書ならよいのですが、あらかじめ決められた内容であればスライドで順番に示すだけで時間は大幅に節約できます。板書を写すのも、リアルタイムに手で写すことに意味がないのであれば、スライドを印刷したものを後から配ればよいのです。この授業で大切なことは何か、どんな力をつけたいのかを今まで以上にしっかりと押さえ、そのために必要な活動は何かを考え、ムダな時間を省く工夫が必要です。
また、教科書の内容を全部授業で扱わなければいけないという思い込みもなくすことが必要です。岐阜聖徳学園大学の玉置崇教授もおっしゃっていましたが、教科書は自学自習できるように配慮されています。子どもたちを信じて、思い切って委ねるという発想もあるのです。大切なのは、子どもたちに教科書を使って学ぶ方法を教えることと、その意欲を持たせることです。それは理想論で、家庭環境も含めて自学自習が困難子どももいるという声もあるでしょう。そういう方に私は声を大にして言いたいことがあります。「あなたの授業ではそういう子どもたちをちゃんと拾い上げて、学習内容を習得させているのか?」「教室にいて単に履修していることで良しとしているのではないか?」ということです。新型コロナウイルス出現以前でも、100%の習得は不可能です。100%でなくても今やれる工夫をし、自学自習が困難な子どもには、彼らに応じた工夫をすることが大切なのではないでしょうか。個別最適化という言葉が言われていますが、これもその一つだと思います。
教科によっては、単元そのものをカットするという発想もあると思います。教科を通じて子どもたちにつけたい力は、その単元でなくても他の単元でもつけることが可能なこともあります。例えば国語であれば、小説でつけたい力はすべての小説の教材を扱わなくても身につけることは可能だと思います。いずれにしても、今まで以上に教材研究が大切になっているということです。

先生方が手を抜いて工夫していないと非難しているのではありません。空き時間に教室の消毒をするといった、余分な仕事が増え余裕がないのです。そのことは、授業中の様子からもうかがえます。以前と比べて笑顔や子どもたちをほめる言葉が少なくなっているのです。子どもたちを受容する言葉も減っているように思いました。先生方の負担を減らすために消毒等のお手伝いをしてくれる方を手配していると聞くこともありますが、すべての地域というわけではありません。こんな時期だからこそ、先生方に少しでも授業に専念できる環境を整えてほしいと願うのは贅沢なことなのでしょうか?

プロジェクターを上手く活用し、スライドを学年担当の先生と共有している教科もありました。教材研究の時間を相対的に減らし、指導内容を共有するよい工夫です。この日の授業では、最後に子どもたちにまとめを書かせたのですが、それを上手く全体で共有する時間がありませんでした。このことについて授業者から相談がありました。子どもたちが板書を写すのに時間が取られていたので、先ほど述べたような板書のスライド化と配布の話をしました。まとめの共有については、先生用のタブレットを使って子どもたちの書いたものを撮ってスクリーンで共有する方法をお伝えしました。手軽さや解像度に問題があれば、先生方が持っているスマホの方が高機能で使い易いかもしれません。個人の物を使うのは本来お勧めできないのですが、ルールを変更しても使えるものは使うという発想も大切だと思います。
今まで比べて子どもたちに発言させる機会が減っています。書くことが相対的に増えていると思います。書いたものを共有する方法を工夫してほしいと思います。一人一台のPC環境が学校にやってくればこういった問題もかなり解決されると思いますが、その時を待つのではなく、今できることを工夫することで大切です。整備されてない環境でも挑戦することで何が大切か、また何があればよいのかを知ることができ、一人一台のPC時代の授業づくりに直結していきます。次のステップへとつながっていくのです。

各学年の様子はそれぞれに異なる課題を感じるものでした。
3年生は子どもたちの落ち着きがないように感じました。休校中に学習への取り組みに差ができていたのでしょうか、授業が情報過多になっていることもあり、先生の話を聞いているうちに集中力をなくす子どもが目立ちます。その一方で、個人作業になると友だちとかかわろうとする姿が目立ちました。グループ活動が難しく受け身の時間が多いことが子どもたちのエネルギーを下げることになっているように感じました。授業についていくのが苦しくなっている子どもだけでなく、部活動の大会がなくなり目標を失くしている子どももいます。こういう子どもたちをケアするためにも、先生が個々の子どもたちとかかわる時間をつくることが必要に思いました。
また、今回の新型コロナウイルスの影響で経済的な不安を感じている子どもも増えていると思います。進路指導面では、各高等学校独自の経済支援の情報などが子どもたちにわかりやすい形で提供できることをお願いしました。

2年生は、指示されたことややるべきと思っていることはきちんとやることができていました。逆に言えば、指示や作業の意味が不明確だったりすると、集中せずに授業に参加しません。先生の話を聞かずに、板書を写すだけといった学級も目にしました。学校が再開して2週間でこの状態というのは少し心配です。この学年の子どもたちは、消費者的な態度をとることがあります。先生によって態度を変えるようになる危険性があります。子どもたちに何が大事かを伝え、子どもたちのよい行動を価値付けすることをもう一度学年全体で取り組んでほしいと伝えました。

1年生は一見すると落ち着いて見えますが、学習規律がかなり危ない状態に見えました。もちろん席を立ったりすることはないのですが、先生や友だちの発言をきちんと聞いていないように見えます。顔をあげない子どもが目立ちますし、顔を上げていても先生や発言者を見ていない子どもがほとんどでした。先生方がこのことに気づいていないのか、気づいていても授業を進めることを優先してしまっているのかはわかりませんが、子どもが集中していないのに話し続けます。この状態を続けると学級のコントロールが効かなくなり、早晩荒れてくることが心配されます。子どもたちとの関係をきちんと構築し、中学校の学習規律を定着させることが必要です。まずは、どういったことが大切かを伝え、それができたことをきちんとほめることから始めてほしいと思います。叱ってできない子どもを減らすのではなく、ほめることでできる子どもを増やす発想で、学習規律を定着させてほしいと思います。

次回は9月に訪問しますが、子どもたちのよい姿をたくさん見られることを期待しています。

オンラインで学校と打ち合わせ

オンライン会議システムを使って、私立の中学校高等学校と打ち合わせを行いました。

自宅から遠距離にある学校(片道4時間以上かかる)なので、打ち合わせのためだけに出向くのは時間のムダが多いのですが、オンラインだと移動時間もなく、出席者の時間調整もやりやいので助かりました。打ち合わせは、主に新型コロナウイルス対応の休校から現在に至るまでの学校の様子を共有し、今後の研修をどのようにするかを中心に行いました。オンライン会議システムを使うことで、対面での打ち合わせとほとんど変わらないコミュニケーションがとれました。学校の研修についても、今後オンラインという選択肢が増えたことを実感しました。

この学校では、今年度から生徒一人一台のICT環境を中1と高1に導入します。校内のWiFi環境が整えば、他の学年もBYODを視野に入れた活用を考えるようです。現在のICT機器の活用は、教師の提示が中心ですが、今後クラウドサービスの活用が進むことが期待されます。とはいえ、具体的にどのように活用すればよいのかはまだよく見えていません。中高等学校では、教科色が強いため教科会にお任せになる部分も多いようです。この取り組みをどう学校全体で共有し深めていくかが課題です。
ICT環境の整備に関して事務職員の方が積極的に関わり、先生方の負担を軽減しようとしていることが印象的でした。私立ということもあるのでしょうが、組織としてうまく機能していると感じました。
公立の学校では、機器導入や活用サポート等も先生の仕事になっていることが多いようです。今後ICT環境が急速に整備されますが、先生方の仕事増、負担増につながることを危惧しています。教師が行うべき仕事とそうでないものとをきちんと仕訳して、必要な人員の予算をつけることが必要です。導入しても稼働しないという事態に多くの学校がなるのではないかと心配です。

今後の研修について、学校で方針をまとめていただいて、再度打ち合わせをする予定です。オンライン会議であれば、こまめに打ち合わせを行うことができるのも魅力です。
緊急事態宣言が解除された途端に会議や連絡のための出張が復活したと嘆いている方がたくさんいらっしゃいます。ほとんどの会議はオンラインで十分対応可能ですが、なぜか学校は対面へのこだわりが強いようです。対面のよさもありますが、トータルコストを意識すべきです。学校は時間がコストだという感覚が薄すぎるようです。これからは授業も対面とオンライン、オフラインの役割を考え最適化することが求められます。新型コロナウイルスへの対応が先生方の仕事のやり方を見直す機会になることを願っています。(なかなか学校の壁は厚く高いようですが…)

私学には公立と比べて新型コロナウイルスによる変化に素早く対応をしているところが多いようです。地方でも選ばれる私学となるためには、この対応力の差が大きな影響を与えることになります。これからの数年が正念場です。わたしもできるだけこの学校のお役に立てるよう頑張りたいと思います。

授業と学びコラムに投稿しました

授業と学び研究所」の「授業と学びコラム」に「学校を進化させましょう(大西)」を投稿しました。

学校が再開される中、先生方はこの事態に対応すべくいろいろな工夫して授業を行っています。早く以前のような授業ができるようになってほしいと願うのではなく、こういった工夫を共有して学校全体の進化へとつなげてほしいと思います。

是非お目通しください。

新学習指導要領の評価について研修

先日、休校中の私立の中学校高等学校でオンラインの研修を行ってきました。
テーマは「新学習指導要領の評価について」です。観点別評価、特に「主体的に学習に取り組む態度」について詳しくお話をしました。出入りがありましたが参加人数は延べ50名を越していました。自主参加にもかかわらず、多くの方に参加いただけました。

緊急事態宣言がまだ解除される前で、オンライン授業やクラウドを利用した課題のやり取りを先生方が学校や自宅から行って対応している時でした。研修をお願いされた時は、テーマはICTのオンライン活用や休校再開後の授業についてだと想像していましたが、お願いされたのは新学習指導要領の評価についてです。最初は意外に思ったのですが、休校への対応がある程度落ち着き余裕ができた今だからこそ、先を見て必要なことを研修しようという担当者の思いを聞き、なるほどと納得しました。学校再開後WITHコロナの学校運営を軌道に乗せるために忙しい日々を送ることになりますが、一歩先を見て次に備えることを忘れないでほしいと思います。

研修は、まず、新学習指導要領の目指すところ、「育成すべき資質・能力の3つの柱」と評価の観点についてお話し、3つの評価の観点で何が大切かについて考えていただきました。
「学びに向かう力人間性等」が大切だという意見がほとんどでしたが、いざそれをどう評価するのかというと皆さん困っている様子でした。
「学びに向かう力人間性等」は、観点別学習状況評価になじまない「感性、思いやり等」と観点別学習状況評価として見取れる「主体的に学習に取り組む態度」とに分かれること、前者は個人内評価として所見等を通じて伝えることを説明しました。今回は「主体的に学習に取り組む態度」の評価に的を絞り、中教審答申のキーワードを使って解説しました。特に、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」を身につけるための「学習に取り組む態度」「自らの学習を調整しようとする態度」の2軸で見ることと、そのため「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」が身についていなければ調整力を働かせているとみなされないことをポイントとしてお伝えしました。
日常的に指導や支援を行わずに評価することのないようにと中教審の資料等に示されていますが、実際に行うとなるとそれほど簡単ではありません。子ども自身が調整力を働かせるような仕組みとそれを教師が効率的に支援する仕組みが必要となります。そこで注目されるのが、ポートフォリオです。単に振り返りを記録するだけでは調整力は働きません。節目ごとにその記録をもう一度振り返り、自己評価し次のステップへと向かうようにすることが大切です。教師は日常の振り返りは特に気なる子どもを中心に、節目ごとの振り返りで全員を見るようにすることで効率的に指導支援を行うことができます。紙でもできないことはありませんが、デジタルであれば記録の集約と再構成がしやすいため、より効果的に活用できると思います。来年度に向けて準備するようお願いしました。

学校現場は新型コロナウイルス対応で手一杯と思いますが、新学習指導要領への対応も待ったなしです。酷なことを申し上げるようですが、新学習指導要領への対応もおろそかにならないようにお願いしたいと思います。
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