授業アンケートの結果を意識して授業を見る

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。この日は授業アンケートの結果を受けて、企画運営委員の先生方と各教室の様子を参観しました。

昨年、子どもたちに授業に関するアンケートを取りました。個人のタブレット端末から回答をしてもらいましたが、予想以上に自由記述欄に書き込んでくれました。紙と比べて書き込みがしやすいようです。

中学校では、発表やコミュニケーション主体の授業スタイルが満足度の高さ、意欲につながっているようです。発表やコミュニケーションに日常的にICTが活用されているので、ICTに肯定的になっています。
高校ではコースによって傾向の違いが感じられました。
評価に関連しての質問に対して、平常点について多くの意見が寄せられていました。大学受験を意識している生徒が多いコースほど平常点よりも試験の評価の比重を高くしてほしいと考える傾向が見えます。平常点が高いとやる気が出るという生徒も多いのですが、大学受験の推薦等では評定が大きく影響するので、客観的に学力差が見えやすい試験を重視してほしいのでしょう。特に、生徒数の多いコースでは、同じ教科でかかわる教師の数が多いので評価基準の公平性、透明性についての不満が多く見られました。
授業スタイルについて、幅広いキャリアを指向するコースではアクティブ・ラーニングなどのかかわり合いの多い授業スタイルを評価する傾向が強いようです。一方、受験を意識している層では、アクティブ・ラーニングのような主体的に参加する授業への評価が高い反面、一部の生徒は知識を教えることを主体とした授業を望んでいます。知識を覚えることが勉強でそれが大学受験に直結していると考えているようです。

この日見た授業では子どもたちの姿とアンケートの結果の関連を感じる場面が多くありました。
中学校では、先生の問いかけに反応する子どもが多く見られ、子どもたちとやり取りをしながら進んでいました。授業に積極的な子どもの姿が目立ちます。その一方であまり反応できずに、授業に参加できない子どもも一定数います。反応する子どもとだけで授業が進む傾向が見えました。コミュニケーションが苦手な子どももいますので、その子どもたちをどう巻き込むかが課題です。口頭で意見を言えない子どもの考えを、1人1台の環境を活かして全体で共有するといったことが必要になると思います。全体として教室の雰囲気はよいので、全員参加をより意識してほしいと思います。

高等学校では、子どもたちの表情の違いが気になりました。
どのコースでも、子ども同士がかかわり合うような場面ではよい表情を見せてくれます。基本的に人間関係は良好なようです。違いが見えるのは、授業者が説明をして子どもたちが受け身になる場面です。幅広いキャリアを指向するコースでは、先生の話に反応して表情が変化します。子どもたちが安心して自分を出すことができているように感じました。特別進学のコースも、表情の変化が多いように見えます。どちらのコースも学級数が少ないので、先生と子ども、子ども同士のかかわりが濃く、人間関係が良好なこともその一因だと思われます。一方、一般のコースでは子どもたちの表情がほとんど変わりません。子どもたちは落ち着いているのですが、淡々としています。4月当初と比べても授業に対する意欲が減少しているように感じました。子どもたちの出力場面が少なく、授業中に評価されることがあまりないことが原因の一つのように思います。
また、よい雰囲気で授業を受けているコースでも、子どもたちが居心地のよい現状に満足して、ぬるま湯につかっているようにも見えます。まだまだやれると思いますので、子どもたちに適度なストレスを与えて鍛えるという視点も必要に思います。

ICTの活用は、中学校ではどの教科も日常的なってきているようです。1人1台のiPadを情報収集、表現・発表や共有といった使い方だけでなく、思考のためのツールとして活用する場面を増やしていくとよいと思われます。
高等学校では、子どもたちの意見の共有といったかかわり合いのツールとしてICTを活用する場面が見られますが、一部の先生に限られています。子ども同士のかかわり合いのある授業はそのやり方にかかわらず一定の評価を得ていますが、ICT活用の視点でも他の使い方に比べて評価が高いように感じます。また、子どもたちの発表のツールとしての活用も見られますが、それ以外は、教師の提示の道具としてスライドを映したり、ネットで資料や動画を検索させたりするといった使い方に留まっています。ネット検索に関しては、教師の指示で検索する場面が多いことが気になりました。これでは教師が用意していた資料がネットに変わっただけです。課題に取り組む中で子どもたち自身が必要と判断したことを検索することが大切です。
とはいえ、ICTの使い方以前に、授業者が今まで通りに準備した内容を板書し、子どもたちは手書きでノートに写すという授業もまだまだ目につきます。板書をスライドにして必要なものは配信することで多くの時間を生み出すことができるのですが、あえてICTの活用を避けているようにも見えます。生み出された時間をどう活かすのかを考えられないので、板書で時間をつぶしているのかもしれません。
こういった状況は子どもたちのアンケートからも見えています。ICTを活用している授業が評価されている一方で、使わないので持っている意味がない、タブレットが手元にあるとつい遊んでしまうというネガティブな意見もあります。このことを裏付けるように、子どもたちがiPadを机の上に立てて、その陰でよそ事をしていたり、中には漫画を読んだりしている姿を目にします。この状況を見て、「使わない時はきちんとしまうように指導することが大切だ」「iPadがあるとよそ事をしてしまうからない方がよい」ということを主張する方もいらっしゃるかもしれません。子どもたちはICT機器を動画配信や漫画、ゲームなどでは使い慣れていますが、学びにつながるような使い方を知らないので、よそ事に使ってしまうのです。これからの子どもたちにとって、ICTは生きるための大きな武器になります。ネガティブをあげつらいそこから遠ざけるのではなく、ICTの有効な活用を授業でたくさん経験させることが必要です。指示されて使うのではなく、道具として自身の判断で活用できるような子どもを育てることを目指してほしいと思います。

授業を見ながら企画運営委員の先生方とこういった課題を共有させていただきました。この学校で起こっていることは、「主体的・対話的で深い学び」「GIGAスクール構想」といったことを実現していく過程で多くの学校で経験することだと思います。手探り状態ですが、先生方と一緒に、課題に向き合いながら知見を深めていきたいと思います。

数学の先生から相談を受けました。
授業のスタイルを講義型から子どもの発表型に変えたところ、子どもたちから「よくわからない、元のスタイルに戻してほしい」という要望が出てきたのでどうしたらよいかというのです。本人も元のスタイルに戻したいようですが、問題は授業のスタイルではないところにあるように思います。子どもの状況を把握して、子どもの「わからない」に寄り添った授業展開をしていないように思えるのです。子どもの発表を活かすために、聞いている子どもたちとどんなやりとりすればよいかが考えられていない、というより子どもの状況を把握できていないようです。講義型の授業がわかるのではなく、写すべき板書があるだけましということなのでしょう。相談のあと、この先生の授業を少し見させていただきました。講義型の授業でした。一方的に説明をしていますが、ほとんどの子どもは板書を写すことを優先して先生の方を見ていません。説明より板書の方に価値があるのです。子どもとコミュニケーションを取れていないことが問題です。授業の感想を聞きに来てくれたので、このことをお伝えしました。すぐに変わることは難しいかもしれませんが、子どもの反応を見ながら授業をつくることを意識していただけることを願っています。

今年度の中学校の入学適性検査の問題を見せていただきました。資料の読み取りを含めた読解力や論理的思考力など、先生方大切にしたい力が何かがとてもよくわかる問いばかりでした。正答率が想定より低い問題について少し話し合いました。大人にとっては一般的な言葉でも、小学校6年生にはよくわからない言葉を使ってしまったことがその原因ではないかと想像します。具体的には、プログラミング思考を問う問題で、一連の手順を説明なしに「プログラム」とラベリングしたことです。例として具体的にその手順を一つずつ追うことをすればまた違ったのでしょうが、一連の手順の結果を問うことを最初の問いにしたために、理解できずに先に進めなかったのではないかと思います。ちょっとしたことですが、問題作成の難しさを考えさせられました。毎年工夫しながらオリジナルで問題をつくっています。失敗も含め、先生方の大きな力となる経験だと思います。来年の問題が今から楽しみです。

特別進学のコースの先生からは、うれしい報告がありました。2つの有志グループの自主研究をまとめた論文がそれぞれ選考を通り、高校生国際シンポジウムで発表の機会を得たそうです。自分たちの問題意識から出発し、調査し行動した結果をまとめたものです。高校生ですので論文の書き方もわかりません。入門ガイドブックと首っ引きで仕上げたそうです。調査の過程では、テーマにかかわる団体へアンケートの内容に関するヒアリングを行ったときに手厳しい指導を受けたりもしたようです。ところが、子どもたちは厳しい言葉にもめげず、よいことを聞けたと前向きにとらえて頑張ったそうです。自ら学ぶことの楽しさを知り、自信もつけたことでしょう。こういった子どもたちの頑張りが他の子どもたちへのよい刺激になってくれることを願っています。
子どもたちの素晴らしい姿に、従来の教科書的な学びではなく、国際感覚を持ち社会貢献などを通じて課題解決力を養う新しいコースをつくりたいという構想も浮かび上がってきたようです。子どもたちの姿から先生もエネルギーを得ているようです。新しい時代の学びについて、子どもたちや先生方の姿から考える機会をいただいていることに感謝です。

コミュニケーションの場面で何を意識させる

保護者や一般の方を対象にした研修を行うことがあります。研修では小グループでの話し合いを行いますが、「話し合いではなく、聞き合いにしてください」とお願いします。また、「相手を説得することではなく、納得することを大切にして下さい」とも付け加えます。こういう言葉を投げかけておくと、多くの方が主体的に話し合いに参加してくださいます。受容的な雰囲気で安心してしゃべることができるのでしょう。
研修の後のアンケートでは「聞くことの大切さがよくわかった」「会社でも相手を説得しようとする人が多いが、納得が大事だとあらためて気づかされた」といった感想をたくさんいただきます。こういった感想が多いということは、これまでこういったことを意識する機会があまりなかったことの現れでしょう。就活でもコミュニケーションスキルの大切さが言われていますが、主張する意識が強い、説得型の人も多いように思います。こういったことは先生方にも言えると思います。
学校でもグループ活動やペア活動など、子ども同士のコミュニケーションの場面が増えていますが、「話すことより聞くこと」「説得ではなく納得」を子どもたちに意識させることが大切だと思います。コミュニケーションで何が大切かをしっかりと意識して授業に臨んでほしいと思います。
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