全員参加を意識する

前回の日記の続きです。

4年生の算数は面積の学習でした。
子どもたちが授業者に集中していないのに、「どの花壇が大きいか?」と発問をします。それに対して「わかった」とすぐに反応する子どもがいます。授業者は「後で聞くから」と黙るように指示しますが、言われた子どもはわかっているのにと不満そうです。
授業者は子どもたちに見た感じでいいから、どれが一番大きいか決めるように指示しますが、先ほどの子どもは「わかっている」と何度もつぶやき続けていました。こういう場面ではどうしても行動を抑える方向に指示しがちですが、「すごいね」と受容して「みんながなるほど言えるような説明を心の中で考えてね」と次の課題を与えておくとよいでしょう。
子どもたちにしばらく考える時間を与えますが、ここは直感で選ばせたいのですからあまり時間を取る必要がありません。すぐに選択さして答えさせれば十分です。
授業者は挙手によって意見が分かれたことを確認して、すぐに「調べてみよう」と、どんなやり方があるかを問いかけます。挙手した子どもをすぐに指名しますが、時間を取るべきなのはこちらの方です。子どもたちが考えるべきことに時間を使うことが大切です。
授業者は、指名した子どもが「ブロックを数える」と答えると、子どもの言うブロックが花壇の縁のレンガ?のことであるのを図で確認し、「これを数えてみる」とまとめました。その間、多くの子どもは下を向いて集中していません。発言者と授業者だけのことで自分には関係ないと思っているようです。日ごろから一問一答で授業が進み、子どもの発言をつなぐことをしていないせいでしょう。
「他には?」と問いかけますが、反応はありません。そこですぐに「一回数えてみる?」と次の指示を出しました。ここは、まず先ほどの発言で縁のブロックを数えればよいという考えを全体で確認する必要があります。「○○さんの言ったことわかる?」「ブロックの数を数えれば、どれが大きいかわかるの?」と単に指示して作業をさせるのではなく、子どもの発言を共有し深めることで、見通しを持たせることが大切です。
子どもたちは、個別の作業に入ると集中力は上がります。やる気がないわけではないのです。
一人ひとりの子どもの反応を観察し、取り上げ、考えや意見をつなぐことで参加意識を高めることが重要です。余裕をもって全体を見ることを心がけてほしいと思います。

1年生は算数の授業でした。
子どもたちは元気よく反応し、よくつぶやきます。子ども同士で話し合うこともできます、発言者の方に体を向けることもできています。一見するとよい状態に見えますが、子どもたちのテンションがすぐに上がることが気になります。授業者は子どものつぶやきに対してすぐに反応して、受け答えします。そのため子どもたちは相手をしてもらおうと不規則に発言するようになっています。授業者が一人に反応すると、すぐに他の子どももつぶやきます。活発な教室に見えますが、このテンションについていけない子どもも目につきます。この子どもたちのことを意識する必要があります。
授業者は子どもの発言をきっかけに全部自分で説明してしまいます。参加しているのは一部の反応する子どもとテンションの高い子どもばかりで、他の子どもは一方的に説明を聞くだけで、なぜそうなるかといったことを自分で考える機会がありません。
高学年では子どものつぶやきをしっかり受け止めて発言意欲を高めることが重要ですが、低学年では逆にテンションが上がりすぎてしまうことがよくあります。授業者は高学年ばかりで低学年の経験がないため、その違いに気づけていないようです。この学級であれば、子どものつぶやきをすぐに授業者が受け止めて言葉を返していくのではなく、「今言ったこと、みんなに聞かせて」といったん間を置き、全体でしっかりと共有するとよいでしょう。子どもたちのテンションが落ち着き、全員が参加できるようになるはずです。

2年生の算数の授業はかけ算の導入部分でした。何のいくつ分かを考える場面です。
かけ算の結果を「4人乗った……の全部の数」と説明する発言を受けて、「全部の数が出たよ、バッチグー!」とほめます。続いて「大事だから覚えておいてね」と全部の数と板書します。子どもをほめることはよいことなのですが、なぜ「バッチグー」なのか、どうして大事なのかは全く説明がありません。「何のいくつ分が?」「全部の数って、どこの数?」と何人も確認して、「何のいくつ分」が何を表わすのかを子どもの言葉や感覚で理解できるようにする必要があります。
このことをきちんと定着させていないので、練習問題で間違える子どもがたくさんいます。机間指導しながら、一人ひとりに○つけをしていくと子どものつまずきを早く見つけることができ、授業を修正できると思います。
算数の概念形成は、定義を説明して問題を解かせればできるわけではありません。問題文の内容を図に表わしたり、算数の用語を使って言い換えたり、逆に図に表わされたことを言葉で説明したりといった活動をたくさんする必要があります。このことを意識してほしいと思います。

6年生は社会科で日清戦争から日露戦争へとつながる場面でした。
授業者は「日本がせっかく勝ち取った土地」をロシアが返させたと説明します。授業者に他意はないでしょうが、勝ち取ったといってもこれは他国への侵略ですので、言葉に注意が必要です。
授業者が「そうなると日本はどうなる?」と問いかけると、子どもからは「怒る」という言葉が返ってきます。授業者は歴史的事実の流れを整理していきますが、ロシアが南下してくることを「いい気がしないよな」と評しました。国際間の問題を感情的な言葉で説明しますが、このことにも注意が必要です。国際感情も歴史を理解する大切な要素ですが、できるだけ客観的、冷静に事実をとらえる姿勢を育ててほしいと思います。
なぜ、清国をめぐって列強が争うのか、なぜロシアは南下してくるのかといった、紛争の原因を考えさせることが必要です。小学生なので考えるための知識はそれほどありませんが、少なくとも歴史的な事件には原因となるものが必ずあることを意識させたいところです。歴史の授業で子どもたちに学ばせたいのは、単なる事実ではなく歴史の中から今の社会を理解し、よりよい社会をつくるための知恵です。そのことを意識してほしいと思います。

この続きは次回の日記で。

全体を見ることを常に意識する

2学期に小学校で行った授業アドバイスです。

3年生の初任者の授業は国語でした。
子どもたちをほめて授業規律をつくることができるようになってきました。以前と比べると子どもたちの集中も増しているようです。
前時までの音読をほめた後に、「どんな場面が心に残りましたか?」と問いかけます。その後続けて、すぐには思い出せないだろうから、教科書を見てもいいと1分間時間を与えますが、指示と課題が交互に繰り返され錯綜しました。徹底させようとして少ししゃべりすぎです。課題の提示や指示は1回で徹底させることを意識するとよいでしょう。不安なら、子どもを指名して、「今から何をする?」と確認すればよいのです。
時間が来て挙手させますが、4人しか手が挙がりません。それでも「○○さん、すぐに手を挙げてくれたね」と間を空けずに指名します。子どものよいところをほめて指名することは悪いことではないのですが、このような誰でも指名すれば答えてほしい場面は、挙手に頼ることは避けた方がよいでしょう。意図的にどんどん指名していけばよいと思います。
指名した子どもは、授業者の方を向いて発表します。授業者も発表者の方を向いたままで他の子どもの様子を見ていません。子どもの多くは発表者に注目していません。授業者は発言をしっかりと受け止めますが、すぐに「○○さんは今……と言ってくれた」と、発言の内容を子どもたちに伝えます。これでは子どもたちは発言を聞く必要がありません。聞く必然性を与えることが大切です。
続いて「よく似たところが心に残っている人?」とつなぎました。「自分の言葉でいいのでもう一度言ってください」と指名します。「同じです」を許さずに自分の言葉で言い直させることは大切です。発言に自分の言葉が付け足されたことを、「付け足されたね」と評価しました。こういったことができるようになったのは大きな進歩だと思います。ただ、常に授業者が評価するだけで、教室全体でその内容が共有されているわけではありません。「どこがつけ足されたかわかる」と他の子どもにつなぐことも必要です。また、本文と子どもをつなげることも重要です。「○○さんの言った場面は教科書のどこかわかる?」と全員で本文を確認させるとよいでしょう。
発言を受け止め、価値付けすることはできるようになってきています。教室全体を見て、子ども同士をつなぐことや発言の内容を共有することが次の課題でしょう。

特別支援学級は、ハンドベルの合奏の場面でした。
子どもたちをほめながら、やる気を出させています。「おれ、できんは」と弱音を吐く子どもに対しても「きらきら星の時より出番多いもんね」と受容しながら、励ますことができていました。
ただ、気になる子どもや反応する子どもばかりに注意が行ってしまい、全体を見ることができなくなっています。出番がない時にもしっかりと友だちの様子を見ている子どもがいましたが、その子どもに気づいてほめることができなかったのが残念です。普通学級を担任している時も、同様の傾向がありました。子どもを受容して関係をつくることができるようなってきたので、全員の様子を常に意識することが次の課題です。

6年生の体育の授業はマット運動で、最後に演技をして見せる場面でした。
4人につきマット1組なので、活動量はある程度確保されていました。見学者が前に座っていますが、役割を与えられていないのですることがなく、顔が伏せ気味なことが気になりました。
グループ毎に先頭の子どもが演技をしますが、待機している子どもたちは後方からなのでよく見ることができません。1組目の子どもの演技に対して一部の子どもから拍手が上がりますが、全体には広がりませんでした。また2組目以降では誰も拍手をしませんでした。形式的な拍手にはあまり意味はありませんが、この場合授業者は子どもたちにどうしてほしいと思っていたのかが気になります。このことを意識しないと漫然と授業が過ぎていきます。一方、前に座っている子どもの一人は、積極的に演技者に励ますような声をかけています。こういった行動を授業者には評価してほしいところですが、気づいていなかったようです。
体育では、演技者以上に待機している子どもの活動が大切です。また、個人の演技も評価しないとうまくはなりません。漫然と待機して演技を眺めるのではなく、声をかけたりアドバイスをしたりといった役割を与えることが必要です。マットの横などの見やすい位置から観察させるとよいでしょう。毎回アドバイスをさせるのであれば、4人を2人ずつのバディに分けるという方法もあります。演技者に対してバディが観察して、終わるとアドバイスする。その間に次の組が演技をし、アドバイスをした子どもが次に演技をする。この繰り返しで進めるのです。
授業の終わりのまとめをするのに、全員が散らばったままでした。既にチャイムが鳴っているので焦っていたのでしょうが、いったん集合させるべきでしょう。特に気になるのが見学者です。離れたところに座っていて、授業者の背中を見ることしかできません。ほとんどの見学者の頭が下がっていました。授業に参加する意識を持たせるためにも、見学者は授業者の前方に移動させるべきでしょう。
後片付けは素早く行います。見学者の何人かは積極的に片づけに参加しますが、何もせずに歩いている子どももいます。できることは参加させたいところです。
4人のグループで大小2枚のマットを片付けますが、大きいマットを3人で持って運ぶので、小さいマットのところに行った子どもは1人でどうしていいか困っています。自分1人でマットを引きずって片づける子どももいましたが、2人の子どもがマットに手をかけたままその場に所作なく立ち止まっていました。そのうちの1人には、大きいマットを片づけたメンバーがすぐに走り寄って一緒に片づけましたが、もう1人の子どもはしばらく1人で寂しそうにしていました。他のグループの子どもがその子どもの横を通り過ぎますが無視しています。授業者は倉庫の方で片づけの指示をしているのでそのことに気づきません。1人の子どもが最後に気づいてくれて、やっと2人で片づけました。今までもこのようなことがあったのではないかと思います。「4人で大きいマットをまず片付けてから、小さいマットを片付ける」、「小さいマットは引きずってもよいので、1人で片づける」、どちらでもよいので、明確に指示する必要があったと思います。
体育の授業は広がって行うので、どうしても全体を把握することが難しくなります。この授業者であれば、子どもたちに起こっていることに気づけば適切な対応を取ることができると思います。常に全体の様子を意識して見ることを忘れないでほしいと思います。

この続きは次回の日記で。

何を焦点化すれば考えが深まるのか

ずいぶん間が空きましたが、前回の日記の続きです。

9年生(中学校3年生)の道徳は、下級生からのバレンタインデーのプレゼントを、好意を持っている女生徒の目を気にして受け取らなかったという読み物をもとにした授業でした。

明るい雰囲気の教室です。コの字の隊形で、範読しながら子どもたちに主人公の行動の裏にある気持ちを問いかけます。子どもたちはよく反応し、笑い声もよく起こります。主人公の気持ちにしっかりと入り込んでいました。また、話の内容にテンションが上がっても、授業者が話の続きを読み始めるとすぐに集中します。よい授業規律がつくられています。

授業者は下級生からプレゼント受け取ってくださいと言われたところで、「あなたなら受け取りますか」と質問しました。授業者は、主人公が好意を寄せている女生徒が見ているかもしれないという記述の手前で話を止めています。あえてここで止めたのはこのことを使ってこの後子どもたちを揺さぶるためでしょう。どう進めるのか楽しみです。

ワークシートで作業をさせた後、自分の考えが「受け取る」「受け取らない」のどちらかを黒板の数直線上に貼らせます。一人を除いて全員が「受け取る」です。受け取らないという子どもの考えを黒板に書きます。「自分には好きな人がいるのに受け取れない」という考えです。続いて他の子どもの考えを聞きます。「相手に悪い」と相手の気持ちを思いやる意見に続いて、「受け取るのはいいけどつき合うのは困る」という考えが出てきます。それに対して「つき合いだしてから好きになれるかもしれない」という意見も出てきます。授業者はどの意見に対しても「なるほど」としっかりと受容するので子どもたちは安心して意見を発表してくれます。
ここで授業者は、好意を寄せている女生徒が見ているかもしれないと揺さぶります。それでも「受け取る」か、まわりと相談させます。子どもたちはすぐに食いついて話し始めました。ここで揺さぶるのであれば、それまでの意見を「相手のことを思って」受け取るということと、「自分の気持ちを優先して」つき合うつもりはないという2つの視点に焦点化しておくと、この後、考えが変わったのはどの視点が影響したのかを考えやすかったかもしれません。

子どもたちは、積極的に話し合っていました。揺さぶりはうまく機能したようです。意見が変わった人に貼り変えるように指示します。貼り変えたのは数人です。授業者は「本当に受け取る?見られているかもしれないんだよ」「もし、本当に見ていたら?」と揺さぶりますが、子どもたちはほとんど動きません。
続いて、「受け取る」「受け取らない」のいずれにしても、まわりの人の意見を見てもよいから、相手にどんな言葉をかけるかを書くように指示します。一通り書いた後、席を立って友だちの掻いたものを見にいかせます。その時、「なるほど」「これはいい」と思ったものがあれば、メモするように指示しました。子どもたちは、友だちの言葉に対していろいろとつぶやきながら移動します。思ったことを気軽に話せるよい関係に見えます。見終わった後、それぞれが書いたものを黒板に貼ります。

「(プレゼントを)受け取る」から、「気持ちだけ受け取る」に変わった子どもにその理由を聞きます。相手のことを考えて誤解しないようにと考えたからです。続いて「何チョコのつもりで渡しているの?」と聞き返す言葉を取り上げます。相手の返答で対応が変わるということのようです。授業者は前に出させて、自分が相手役になりロールプレイを行います。「義理チョコです」と答えて、対応を迫ります。しかし、チョコだけでなく手編みのセーターも一緒だったことを考えると、すぐに「大好きなので受け取ってください」と迫ってもよかったと思います。とはいえ、ここでロールプレイをして子どもに考えるように迫ったのはとてもよかったと思います。
今度は、「チョコが好きだから、うれしい」「ありがとう」という言葉を取り上げます。今度は、「誤解されたらどうしよう」と迫ります。ロールプレイで「ありがとう」に言葉に対して「やった」というアクションします。そこで、相手が純粋に心から喜んでいるけれど、どうすると迫りました。いろいろと揺さぶることで、考えを深めようとしていました。
ここでちょっと攻め方を変えて、友だちの書いたものでよかったと思ったものを聞きます。「ありがとう。でも、もし受け取ったらつき合うみたいなことになるならいらないよ」という言葉が取り上げられました。選んだ理由は、「もし付き合うことになるなら受け取らないというのは相手のことを考えているから」というものです。相手のことを考えていると言いながら、判断を相手に委ねるというちょっとずるい考えにも見えます。「はっきりとつき合う気はない」というのとどう違うのかと迫りたいところです。この他にも、「別に好きだから受け取るわけではない」という言葉も取り上げられます。全体的に、「受け取る」という子どもたちは自分を守るような言葉が多いことが気になりました。真正面から相手の気持ちを受け止めて言葉を返す子どもは少ないのです。
子どもたち個々の言葉を取り上げて、切り返していきますが、子どもたちの考えはなかなか深まらずに終わってしまいました。

授業者は、子どもたちを揺さぶることや、より深く考えさせるためにロールプレイをするなど、ずいぶんと工夫をしていました。しかし、子どもたちの考えに「相手のことを思う」「自分の気持ち(都合)を優先する」という2つの視点があることが整理されていませんでした。そのため、どうしても個の考えに対する切り返しになって、共通の課題として全体で考えられませんでした。2つの視点に焦点化して、「相手のために」と言っても、自分を守ることになっている言葉もあることに気づかせたいところでした。
その言葉を言った後、相手はどんな行動をとるか、どうなるかを問うとよかったかもしれません。相手のことを思った言葉がどのような結果をもたらすのかを想像させるのです。そうすることで、自分の考えが本当に相手のことを思ったことになるのか深く考えることができと思います。

授業者は、よく教材研究をして授業に臨んでいました。よい学級も作れています。子どもたちは、よく反応し考えてくれました。どう揺さぶるかももずいぶん考えていたようです。だからこそ、具体的にどこに切り込むと気づけるのか、何を焦点化すれば深まるのかを考えさせられるのかが課題として明確になった授業でした。
いつも前向きに授業改善に取り組む先生です。今後の成長がますます楽しみになりました。
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