養護教諭の模擬授業で学ぶ

先日、市の養護教諭の研修会に参加しました。養護教諭の授業技術研修です。今回は代表の方に模擬授業を行なっていただき、私が解説するというものでした。子ども役は参加者全員です。

男女交際を考えるという中学校の授業をTT形式で行います。T1は養護教諭、T2は担任です。実際にあった女子生徒からの相談をもとに授業を進めます。
私にとって、このようなテーマの授業を考えることは初めてで、授業者の思い、子どもの気持ちを考えながらその場その場で授業を止めながら、時には私自身が授業者になって進めてみたりしました。とても刺激的でよい経験をさせていただきました。同じことを伝えるにも、ちょっとした言葉の使い方で、相手の受け取り方は変わります。そういったことも伝えることを意識しました。

相談内容は、「交際相手と部屋で勉強していたら、いきなりキスされて泣いてしまった。泣いているところを母親に見つかり勘違いされたようで、気まずい雰囲気だ。相手のことは好きだけれど、どうしていいかわからない」というものです。
最初の課題は、この女子生徒にどんなアドバイスをするかです。子ども役は素早くペンを持ちますが、手が動きません。このような微妙な問題は、大人でもすぐに書けません。子どもならなおさらです。もし、すぐに書けるようなら、それは真剣に考えていない証拠です。そこで、授業を止めて課題について検討しました。アドバイスは難しいので、男子はキスした男の子の気持ち、女子は泣いた女の子の気持ちを考えてもらうことにしました。授業者は課題を変更して授業を進めてくれます。予定した課題を途中で変えてやり直すのはベテランでもなかなか難しいことです。快く挑戦してくださった授業者に感謝です。

今度は、ペンが動きます。それぞれの気持ちを書いたところで、グループで話し合います。授業者の学校では、班長が司会をしたりと役割があるようですが、このような類のグループ活動には向きません。特に役割を設けずに、聞き合うことを目的とするとよいでしょう。
グループで聞き合ったことを小型のホワイトボーにまとめて、代表に発表させます。これが中心となる活動であれば、こういう時間の使い方もあるかもしれませんが、ムダに時間がかかりすぎると思います。ここはホワイトボードを黒板に貼って、同じような意見を中心に共有していくとよいでしょう。「『そばにいるだけでよかった』という意見があるね。○班にもあるね。どういうことか聞かせてくれる?」、「どう、今の意見なるほど思った人?」とつなぎながら、女子の気持ちを男子がどう思ったか、男子の気持ちを女子がどう思うかを確認することで、男子と女子の気持ちの違いを焦点化するといった進め方をするとコンパクトにまとめることができます。

ここで授業者は、資料をもとに、カエルとネコ、人間の脳の違いから性行動の違いを説明します。しっかり理解させようと、脳の構造が三層あり、それぞれが発達しているかどうかで行動が違う。食欲を例に挙げ、続いて性行動とていねいに進めますが、一方的な説明の時間が続きます。また、いきなり脳の話が始まり、何のためにこの話をするのかがよくわからないため、子ども役は戸惑います。ここはていねいに進めることよりも、伝えたいことをコンパクトに話すことが大切です。
「カエルは発情期になると、互いに相手を性行動の対象と見て、本能的に行動する。ネコは、気に入らなければ拒否をし、気に入れば気持ちだけで性行動する。では、人間はどうだろう?」と問いかけ、先ほどの子どもの意見と関連づけて、「好きだからと相手の気持ちを考えずに行動するのはどの動物だろうか」といったことを考えさせながら進める方法もあります。
授業ではできるだけ、子どもたちの活動を活かすことが大切になります。この授業では子どもたちから言葉を引き出したのでその言葉を使って説明することを考えるとよいでしょう。

この後、男女の性心理に違いを資料で伝えます。接近欲については男女の違いはほとんどありませんが、接触欲については男性と女性の間にかなり大きな違いがあります。とても説得力のある資料です。子ども役から出てきた違いを裏付けてくれます。先ほどのグループ活動の後にこの資料を使って、子ども役からの意見と関連づけた方が、流れが素直だったと思います。私が急に課題を変えてしまったので、とっさにそこまでできないのは当然ですが・・・。

互いに相手の気持ちを思いやることが大切ということに気づいてくれると思いますが、そうすると双方合意ならいいのかという問題になります。ネコの例をもとに責任ある行動を考えさせたいところですが、子どもたちには責任を取ることの意味はよくわかっていないと思います。責任を取ることは、単純に結婚すればいいと思う子どももいるでしょう。ここを子どもたちに話し合わせると面白かったと思います。

この授業では、担任役が教え子からの手紙を読んで終わります。
中学校時代荒れていた女生徒が、いろいろあったけれど、先生が言っていた「あなたの心と体を大切にしてくれる人」と巡り合えて幸せな結婚をすることができた。しかし、子どもがほしいのだがなかなかできない。過去に堕胎したことがあるので、それが原因かもしれないと悩んでいる。そういう内容でした。
子どもたちに考えさせるのによい話です。「心と体を大切にする」という言葉で、この時間のまとめとしたかったのでしょう。しかし、聞いていて違和感がありました。手紙が説明的で、リアリティに欠けるのです。確認したところ、実際には電話での話だったということです。それを単独で話が完結するような手紙に変えたため、説明的になってしまったのです。手紙にこだわらず、教師が自分の目線で話をしてもよかったかもしれません。子どもに考えさせることも大切ですが、教師の「心と体を大切にして」という思いを伝えることも意味があると思います。

T2の担任役をやった方は、T1の養護教諭の前任者でした。前任者がつくった資料を活用しながら、最初の課題を自分で考えたそうです。よい形で授業が継承されていることに感心しました。

参加者のアンケートからは皆さんが多くの気づきをしたことが伝わりました。実際に子ども役をやることで、授業での大切なポイントを感じ取った意見がたくさんありました。どのコメントからも授業を前向きにとらえていることがよく伝わります。
授業者からは、私が授業を止めたところは自分でもしっくりいっていないところばかりだったので、参考になったと言っていただけました。うれしいコメントです。

終始和やかな雰囲気で、学びの多い研修でした。次回は、実際の授業を参観しての研修です。養護教諭の授業は私にとって見る機会の少ない貴重なものです。前向きな養護の先生方と一緒に考えることで多くのことが学べます。今からとても楽しみです。
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