活動から活躍へ

子どもたちを受け身にさせない。学習内容を定着させたい。そのためには子どもたちの活動量を増やす必要があります。友だちの意見を聞くことも立派な活動ですし、問題を解くことも、グループでの話し合いもすべて活動です。ここで意識してほしいことは、子どもが活躍することです。

友だちの意見をしっかり聞いていても、発表の後「いいですか?」「いいです」では、聞いたことが活かされとは感じません。
頑張って問題を解いたあと、挙手をしたが指名されない、指名された子が答えて、「いいですか?」「いいです」「はい、○をつけて」で終わってばかりでは、だんだんやる気をなくします。
グループの話し合いが終わった後、各グループで一人ずつ発表して終わる。発表しなかった子は自分の考えや意見を評価されたと感じるでしょうか。

子どもが活発に活動しても、ただ活動して終わりでは、子どもの学習意欲は高まっていきません。子どもが「活動する」ことから、「活躍する」に視点を変えていくことが求められます。活躍するとは、他者に認められると言い換えてもいいでしょう。

友だちの意見を聞く場面なら、「今の意見を聞いてどう思った」「なるほどと思った人いる」など聞いたことが活かされる場面や評価される場面をつくることが大切です。時間がなければ、同じ考えの人に挙手させるだけでもよいでしょう。
問題を解いたり、作業したのであれば発表者をできるだけ増やすとよいでしょう。正解が出ても「正解」と言わなければ何人でも指名できます。言葉が足されたり、考えがつけ加えられればそのことを大いに評価するようにすることで、発言意欲も増します。また、机間指導の際に、声をかけながら全員に○をつけることも効果的です。
グループ活動であれば、友だちの意見を互いにポジティブに評価するように指導しておくことが大切です。また、発表の時には、結論を聞くだけでなく、「どんなこと話した」「誰の意見が参考になった」など発表者以外も評価できるような問いかけも必要です。

子どもの活動量を増やすことはとても大切です。その上で、全員が活躍する授業、活躍したと感じられる授業を目指してほしいと思います。

中学校の入学者説明会で講演

先日、中学校の入学者説明会で、保護者の方に子どもの中学期をどう支えるかについてお話をさせていただきました。

今回は、中1ギャップについて多くの時間を割きました。
小学校から中学校への変化は、概ね次のようなものがあります。

学習
・トピック的な学習から体系的な学習へ
→求められる学習量の増大、家庭学習の比重が増す
・定期試験の存在
→大きなプレッシャー、はっきりと評価される

部活動
・部活動が新たに加わる
→体力的に負荷がかかる
・先輩後輩の関係が加わる
→精神的に負荷がかかる

コミュニケーション
・複数の学校から人が集まる
・学級担任中心から教科担任中心
・横の関係中心から縦の関係が加わる

この変化にうまく対応できないと

・学習、部活動についていけない
・支えていた人間関係がなくなる
・新しい人間関係がうまくつくれない
・周囲の仲間から認めてもらえない

といったことが起こり、結果、「自己有用感の喪失」につながります。

学校も小中連携などでこのギャップを埋めようとしていますが、家庭では、子どもの居場所をつくることを大切にしてほしいと伝えました。

・ここにいていい
→存在を無条件に認めてあげる
・自己有用感
→自分の行動が他者にとって良い結果を与えたことが生きがいにつながる
→自分の役割がある

いい子だから愛しているのではなく、何があっても大切な子どもであることを伝える。「あなたの仕事は勉強よ」などと言わずに、家庭内での自分の役割を持たせて、家族の一員としての存在を認める。おこずかいなどの報酬でつったり、「えらいね」と上から目線でほめるたりするのではなく、「○○してくれてありがとう」の一言を大切にする。このようなことを特にお願いしました。

また、保護者と学校が互いに聞き合い、わかってもらう努力をすることで、信頼関係を築き連携することも大切です。お互いの共通の願いは「子どもの幸せ」です。行き違いがあっても、このことを忘れなければ、必ず理解し合えます。このことを強くお願いしました。

限られた時間でどれほどのことを伝えられたかわかりませんが、家庭での子どもの居場所をつくるのに少しでもお役にたてば幸いです。

模範授業から大いに学ぶ

先週末の算数・数学の授業力アップの研修講座でのT先生とW先生の模範授業から多くのことを学びました。

T先生はICT活用でも有名な方です。今後の授業の方向性を考えるということで、デジタル教科書の活用を見せてくださいました。T先生は小学校の経験は少ないのですが、教材の都合で小学校3年生のグラフの授業に挑戦されました。小学校であろうが中学校であろうが、授業の本質は大きく変わりないことがよくわかる授業でした。
デジタル教科書でも教材研究の大切さは変わりません。この教材は風邪を引いた子どもの体温の変化を題材に、グラフの一部分を省略、拡大して変化を見やすくするというものです。体温を題材にしているのは、どの子どもも熱を出した経験があり、何度なら体温が高いという感覚があるからです。その経験から体温が上がっていると感じるのに、グラフからはそう読み取れないというズレを子どもから引き出し、グラフの一部を拡大する必然性を持たそうという展開です。
用意したワークシートにグラフを書かせます。一人ひとり全員に○つけをし、その上で隣同士確認をさせます。
「どう思った」というあいまいな聞き方で、いろいろな言葉を引き出します。子ども役の言葉をしっかり受容しながら、広げる言葉と捨てていく言葉を選んでいます。子どもから、値に対して目盛りの間隔が大きすぎる、グラフの変化がわかりにくいことにつながる言葉を意図的につないでいきます。「あまり違わない」というような発言であれば「何の違い」と問い返します。教師が子どもの言葉をまとめるのではなく、子どもたちに整理させながら、何人にも発言させることで全員に理解させます。

ここで、発問です。教科書は「変わり方がもっとよくわかるようなグラフのかき方を考えてみましょう。」となってグラフが準備されています。これを完成させてから違いを考えさせることになります。これに対して、デジタル教科書はグラフを動的に拡大していく機能があります。T先生はそれを活かして、「変化がわかりにくいから工夫をした」とグラフを動的に拡大して、工夫した人のアイデアを言わせます。子どもの言葉を引き出しながら、何度も見せます。動きを活かして興味を持たせ、出てきた言葉をつなげます。一人が気づいたことをもう一度動かして見せることで確認させます。こうして、全員にどのような工夫がされて、どのようなよさがあるかを共有化させました。

わずか10分余りの授業場面でしたが、デジタル教科書のよさを活かしながら、子どもの言葉を活かす授業とはどういうものかを見事に教えてくださいました。
私の解説で、この素晴らしさを伝えきれたかはわかりません。しかし、解説などなくてもその場で見ていた受講者の方はきっとその素晴らしさを感じ取っていただけたと思います。

W先生の授業は3年生の1より大きい分数でした。自身の経験から子どものつまずくところを意識した、教科書とは少し違う導入を見せくださいました。
子どもは数直線を意識しすぎて、1の長さを等分した最初の部分だけを単位分数として認識しがちです。3等分した最初だけが1/3と考えるのです。そこで黄色のテープとそのテープと同じ長さで3等分の線を引いておいた白いテープを3本用意します。1/3がどこにあるかを問いかけ、左端だけでなく、真中も、右端も1/3であることを押さえます。印をつけたそれぞれを切り離し、黄色のテープに続けて重ねて1となることを確認します。こうすることで、どの部分も同じ1/3という量を表すことを押さえました。
続いて、もう一度黄色のテープを用意し、続いて、今度は1より長いテープ3つを並べたもの(5/4、4/3で4等分の線を引いたもの、5/4で5等分した線を引いたもの)を貼ります。ここで、このテープは1のところで折ってあり、それを広げて見せながら貼りました。1を意識させた動きです。
子ども役から「1より大きい」を引き出しました。この後、何を何等分するということにこだわり、子どもから5等分だけど、単位量である1は5等分でなく4等分されているから、1つは1/4、それが5つだから5/4を丁寧に引き出しました。
子どもの言葉で、ねらいにつながる言葉を復唱し、他の子どもにつなげる。特に大切な言葉は何人にも言わせる。教師のねらっているものが何かがとてもよくわかるものでした。どの子も全員受容はするが、広げる、深める、つなげるものとそうでないものは明確です。また、言葉を引き出すための仕掛けはいたるところにちりばめられています。子どもの言葉で進めているため、一見すると子ども任せにも見えますが、完全に授業をコントロールしています。いつ見せていただいても、くやしいくらい計算されています。

解説のO先生は、その部分を柔らかい口調でわかりやすく、見事に浮き彫りにしてくださいます。一つひとつの場面の意図がとても明確になりました。

お二人の授業を見て、共通点がたくさんあります。子どもの発言の価値づけや、拾う拾わないの判断が実に的確なのです。どうつなげるかの切り返しの言葉もとてもシャープです。T先生はデジタル教科書、W先生はテープ。デジタルとアナログの違いはありますが、その利用の意図も明確です。個性は違ってもよいと思える授業には実に多くの共通点があるのです。今回、研修会10年目の特別企画ということで、とても贅沢な時間を持つことができました。受講者だけでなくスタッフの私たちにとっても学びの多いとても有意義なものでした。T先生、W先生、解説のO先生、そして見事な子ども役を演じてくれたスタッフの皆さんありがとうございました。

研修講座のスタッフを務めることから学ぶ

先週末の2日間、算数・数学の授業力アップの研修講座にスタッフとして中学校の部会に参加しました。

受講生同士で模擬授業をおこない、それに対してコメントをもらい翌日再挑戦して進歩を見るというものです。
今回の課題は3年生の平方根(無理数)同士の掛け算でした。初日の模擬授業は計算の過程、やり方にスポットを当てているものばかりでした。計算の1行1行のやり方を丁寧に子どもの言葉を活かしながら追おうとするのですが、なぜそのような変形をするのか、この計算はどこに向かっているのか意識されていませんでした。一つひとつの問いかけが点でつながっていかないのです。
同席したW先生とのお話の中で、「どうしたいかという意思が見えない」という言葉がでてきました。「この計算はどうなるといいの」「どうして、こうしようとしたの」という言葉に置き換えるとわかりやすいかもしれません。数学的な方向性と言ってもいいかもしれません。

半数の方が模擬授業を終えたあとのコメントで、「みなさんの授業は数学の授業ではない」とかなり厳しいコメントをしました。学校でのふだんのアドバイスではまずこのような言い方はしません。自ら休日に自腹を切って参加される方だからこそ、あえてこのような言い方をしました。急にこのようなことを言われたので、後半の方は戸惑いながらの模擬授業でした。

1日目の最後に、K先生が模範授業をしてくれました。
まず、結果だけを確認して安心させたうえで、計算のやり方を聞いていきます。「こんな風にやっていいの」揺さぶりながら根拠を確認、共有化します。√の中を簡単な数にしてから掛けるやり方と√の中同士を掛けるやり方を並行して見せ、素因数分解を印象付けます。答のルート10に対して、「これ以上簡単にならないの」と聞き、「分数の約分と同じだね」と既習の考え方につなげ、数学ではできるだけ簡単にな答えにするという基本的な考え方を押さえます。
この授業を見ることで、受講生の方は再度自分の授業をつくり直すことができたようです。

翌日の模擬授業は、扱う場面も課題の前後で好きに選ぶようにしたこともあり、前日とは打って変わったものでした。借り物ではない、皆さんの普段の授業スタイルが伝わってくる、いきいきとしたものでした。この日の私の役割は、受講者、コメンテイターによるコメントの後、模擬授業のビデオを見ながら個別に一人ずつアドバイスするというものでした。ビデオをなかなかうまく活用できなかったのですが、受講者は私の指摘する場面をきちんと覚えていて、その場面を再生しなくてもきちんと理解していただけました。

全体的な傾向として、計算のやり方をパターンとして分ける傾向が強いと感じました。

・ルートの中を簡単にしてから計算する(最後に必要な場合はもう一度ルートの中を簡単にする)。
・ルートの中は簡単にならないが、ルートの中を素因数分解してから計算する。
・ルートの中を掛け算してから、素因数分解をして簡単にする。

このような場合に分けて考えている方が多いのです。
しかし、どのやり方でも、

・式を計算するということはできるだけ簡単にすること。
・ルートは2乗があれば、有理数(簡単)にできる。

この2点を押さえて、

・2乗を見つけるには素因数分解をすればよい。

と整理すれば、要はいつ素因数分解をするかだけの問題になるのです。細分化するのではなく、できるだけ整理統合してシンプルなものにすることが大切です。

=で結ばれるということは、同じということです。計算をしていくということは、ある方向性をもって等号関係を進めていくことです。その方向性の基本は自分にとって都合のよい形にするということです。これを、数学的な意思と言ってよいと思います。今回で言えば、できるだけ簡単にすることです。
因数分解や展開はこの方向性が明確に表れる例です。2次方程式を解くために因数分解をする、解の公式を使うために展開して整理する。こういう考えです。

このような考え方をベースに皆さんのスタイルを活かすことを意識してアドバイスさせていただきました。一人ひとりに特化することができるので、私としてもとても手ごたえを感じることができました。翌日からの授業に少しでもお役に立てば幸いです。

今回とてもうれしく思ったのが、東京から参加されているある先生の進歩でした。今回で3回目の参加ですが、わずか2年余りでとても雰囲気が変わっていました。子どもを受容しようとする姿勢。間違いでも明るく受け止める。子どもたちは授業が楽しくなるに違いありません。子どもとの人間関係が間違いなくよいと感じる模擬授業でした。自らいろいろな研究会や勉強会に参加して積極的に勉強されています。伸びようとする教師は、確実に伸びるのです。
また、2日目にコメンテイターを務めてくれたY先生のコメントも素晴らしいものでした。古いつきあいですが、この何年かの伸びは本当に素晴らしいものがあります。柔らかい雰囲気で、ユーモアも交えながら、よいところをうまく見つけ、課題の指摘もネガティブにならないように上手に伝えています。もちろん、授業を見る視点も確かです。私に欠けている部分をたくさん持っておられて、とても参考になりました。

今回はスペシャルプログラムとして、1日目の最後に、T先生、W先生2人の授業名人の模範授業があり、T先生の授業解説をさせていただきました。このお話は明日にでも書きたいと思います。
多くの方の模擬授業を見てそのコメントを聞く、アドバイスをする。また、教材についても深く考えることで、スタッフである私にとっても、とても有意義な2日間でした。

小学校での授業アドバイス(長文)

小学校で若手の授業と中堅の学級活動についてアドバイスさせていただきました。

3年生の国語の授業は「こそあど言葉」の学習場面でした。
授業の最初に練習帳を使って漢字の書き取りをしていました。授業者は子どもたちの間を回って一人ひとり丁寧に○つけをしています。子どもたちは○をもらうととてもうれしそうにしています。最後に「まだ○をもらっていない人」と確認をして全員確実に○をつけるようにしていました。中には○をもらったあとに友だちと自分の○を比較している子がいました。どういうことだろうかと疑問を持っていたのですが、授業者から丁寧に書いている子には2重丸や花丸にするといった区別をしていることを聞きました。だから友だちの評価が気になったのです。2重丸や花丸をつけることは悪いことではないのですが、絶対評価よりも個人内相対評価を意識することをお願いしました。せっかく○をもらっても友だちと比べるよりも、自分の進歩という視点の方がよりよいと思います。また、具体的によかったところを声に出してほめながら○をつけることでまわりの子どももそのこと意識すること、子どもたちがだれないようにできるだけ速くまわることもアドバイスしました。
「こそあど言葉」については、子どもたちに具体物を指し示させることで、これ、あれ、それの区別を意識させ、子どもの言葉から違いを明確にさせようとしていました。いいこと言ったとよい発言をとりあげて、「今○○さんが言ってくれたことを言ってくれる」と他の子どもにつなげていました。とてもよいのですが、1人に聞いて終わっている傾向がありました。大切なことであれば、もっとたくさんに聞いてもいいと思いました。
最後にグループで1人ずつ順番に「こそあど言葉」を使って、これは、あれは、それは○○ですと言う活動をおこないました。教師が問題を指示した後、グループごとに1人が発表しての他の子どもがいいかどうか判断します。進行に手間取るグループもいるので、なかなか教師が次の問題を出すことができません。だれるグループも出てきます。教師が問題を出すのであれば、「はい、何番目の人立って」「問題は・・・だよ」「はい言って」「みんなどうだったか教えてあげて」と一つひとつのフェイズを明確にするのも一つの方法です。隣の子の持っている物を指示する問題で、いくつかのグループが「これ」か「それ」でもめていました。後で聞いたところ、授業者はその原因が伝える相手か誰か明確にしなかったことにあることをちゃんとわかっていました。伝える相手が不明確だと「これ」と「それ」の使い方が混乱するのです。ちゃんと子どもたちのようすから気づいています。子どものから学ぶことができる先生です。
もめているグループがあっても、先ほど説明したようにフェイズを明確にすると、どのグループ同じフェイズなのでスムーズにとりあげて話し合いに入ることができます。この場合、教師の指示の足りなかった部分を子どもに気づかせることで、「こそあど言葉」のポイントをしっかり意識させるといった展開も見えてきます。

3年生の算数の授業は5人の差額を1人分の差額を考えてから計算する場面でした。
子どもへの指示が明確で、できている子をほめていることもあり、子どもたちは素早く行動していました。授業の流れは自力解決、グループで相談、グループの意見を発表というものでした。自力解決のところでは、わからないに挙手させて授業者が教えにいきます。1人にかかわっている間、わからない子は手を挙げ続けて待っているだけです。あとからグループで相談させるのであれば、「わからなければ聞いてもいいよ」と言って、最初からグループの状態にして解かせた方がよいでしょう。また、自力解決にこだわるのであれば、図でどこが1人分かを明確にするなど、見通しを持たせてから進める必要があります。
グループでの相談も、グループで答えを出して発表という形のため、一部の子どもが仕切っていたり、発表する子が1人で作業をしている姿が目につきました。相談しても、結論は個人で考えるようにした方がよいと思います。

1年生の算数の授業は100を超す数を数える場面でした。
子どもたちと授業者の関係がとてもよいので、最後まで子どもたちは集中して話を聞いて参加していました。1年生でこの状態は立派です。子どもの言葉を拾える余裕も出てきて、学級経営もうまくいっているようです。
106を160と間違えた子どもに対して「違ってる」とかなり攻撃的な調子で言う子どもが多いのが気になりました。間違いが悪いことではない、間違いはいいことだと、間違いを許容する雰囲気を教室につくることが大切です。
授業者は間違えた子どもに説明させるのですが、うまく説明できません。そこで、106になる説明を始めるのですが、間違えた子どもを参加させません。先生が説明して、「だから106が正解ですね」で、終わってしまいました。たとえば、「1は何が1、6は何が6」と間違えた子に聞いて、自分で気づかせ、「自分で気づいてえらいね」とほめるようにしてほしいと思いました。

5年生の算数は円周率の導入場面でした。
鉛筆を置くように指示をしても持ったままの子どもがいます。授業者は持っていない子を何人か注意するのですが、まだ持った子がいるのに先に進んでしまいます。注意された子はやってない子がいるのにと不満を持ち、注意されなかった子は聞かなくてもいいと思ってしまいます。結果として、指示を聞かない子どもが次々に入れ替わる、モグラたたき状態になります。この学級の現在の状態がこのような気がします。まず些細なことでも、一つひとつきちんと徹底できるまで待つ必要があります。ここを緩めると授業規律が失われてしまいます。
授業の進め方も疑問が残るものでした。教科書についている円の切り抜きをさせるのですが、指示が不明確なこともあり、必要以上にきりとる子、切り取った後それで遊び続ける子、学級の状態がばらばらです。しかも、教科書の図と同じように円を重ねただけで、この時間はもう使いませんでした。何のために切り抜いたのかわかりません。
デジタル教科書を使っていたのですが、デジタル教科書の空欄になっている部分の意味を理解していませんでした。空欄になっているのはその学級の子どもたちから考えさせて、引き出したいところです。それなのに、発問してすぐに「こうなっているね」とクリックして表示していました。授業者はこの教材をきちんと理解しないままただ作業をさせているだけで、子どもたちが考える場面がありませんでした。
授業者はいろいろと悩んでいることと思います。あれやこれやとやろうとせず、まず基本に立ち返って、一つひとつのことを丁寧にやっていくことが大切だと思います。

6年生の国語は、「海の命」の第1時で読みが中心の場面でした。
音声教材の朗読を聞きながら、わからない言葉をチェックしていました。どの子も集中して教科書を見ながら聞いています。聞き終わってもすぐに体が動かずに余韻を感じているようでした。他の学級で同じような場面を見たのですが、その学級では終わった瞬間に伸びをする子、椅子を動かす子ども、一気にざわつきました。集中して聞かずに手遊びをしていた子どもがそうやって動くのです。ごそごそ動いていても窮屈な思いをしていたのです。集中していないとはそういうことです。
これだけ集中できる子どもたちです、どの子も真剣に楽しそうに授業に参加しています。友だち同士相談するような場面でも、すぐに友だちの方を向いて笑顔で話しています。学級の人間関係がよいことがよくわかります。授業者は、昨年学級経営に苦労していたようですが、ほめることをうまく使って一つひとつの指示を徹底し、子どもたちを受容することで人間関係をつくり、このような学級をつくり上げたのです。余裕があるせいか、授業中の笑顔もたくさん見られます。
今回は次のステップへの課題が見つかる授業でした。わからない言葉を発表させて、授業者が説明するのですが、同じところがわからない子が他にいないか聞きません。わからないところを言うのはそれなりの勇気が必要です。他にもいることで発表者は安心できます。「代表で言ってくれたんだね。ありがとう」と評価してすることにもつなげられます。また、いつも教師が説明するのではなく、子ども同士で調べたり、説明させたりすることもあっていいでしょう。教師と子どもの関係に、子ども同士の関係をプラスするよう移行する時期だと思います。
全体で次々読んだり、ペアで読んだり目先を変えているのですが、それぞれの活動、読みの目標が子どもに明確になっていません。一生懸命読んでいるのですが、どのような力をつけようとしているのか子どもが無自覚では困りますし、自己評価もできません。ペアでは読みの間違いをやさしく指摘する子がいたりとてもよい雰囲気なのですが、受け手の役割が明確でないのも気になります。人間関係がよいので、何をやってもとりあえずうまく学習活動は進みます。そのことに甘えずどのような力をつけるのかしっかり意識することが大切です。

4年生の帰りの会を見せていただきました。
教室に入って感じたのは、子どもたちの表情です。とてもよい笑顔が教室に満ちています。その秘密はすぐにわかった気がしました。
子どもの司会で帰りの会が進むのですが、友だちのよいところ、友だちへの感謝を発表する場面がありました。「消しゴムを落としたら、○○さんが拾ってくれました。ありがとう」と発表して、みんなで拍手するというものです。これが、何人も何人も続くのです。「ありがとうが」たくさん生まれる教室であれば表情もよくなります。最後に担任も発表しました。担任も子どもたちと同じ目線で感謝することは、子どもたちの人間関係をよくする上でとても効果的です。担任の「ありがとう」は、休んだ当番の子どもの代わりに牛乳を運んでくれたというものです。おそらく、担任がそうするように上手に仕向けたのだと思います。子どもたちにこうなってほしいという担任の思いを感じました。
ただ、気になったのが、「ありがとう」を言われる子どもより「ありがとう」を言う側の子どもの表情の方がよいように感じることです。半ばイベント化されて、発表することの方が「ありがとう」を言うことより子どもにとって大切になっているのかもしれません。これでは本末転倒です。まず、その場で「ありがとう」をちゃんと言っているか学級担任が意識して見て、そのことを即時に評価してほしいと思います。発表できることよりもその場で「ありがとう」を言えることの方がもっと大切ですから。

私はふだんアドバイスを個別にすることが多いのですが、この日は授業者全員に集まってもらって一緒に話をしました。互いに見合ってはいませんが、それぞれへのアドバイスを聞くことで、学び合えることが多いと思ったからです。基本的な部分が全員できるようになったこと、相談できるような雰囲気が育ってきたということです。
同僚の課題に対しても自分のことにように考えてくれます。こんなやり方はどうだろう意見も言ってくれます。とてもよい雰囲気で進めることができました。この学校への訪問もあと1回です。私がいなくても若手を中心にこのような時間を持ち続けてほしいと思います。ベテラン、中堅も巻き込んで学校全体が学び合えるように管理職がうまく方向づけてくれることを祈っています。
この日もたくさんのことを学ぶことができました。ありがとうございました。

人間関係のよい学級での授業

昨日は中学校で2年目の先生の授業アドバイスをおこないました。

2年生の英語の比較級、最上級の場面でした。授業者が学級担任をしている学級であったからかもしれませんが、授業者と子ども、子ども同士の人間関係がとてもよいことが印象的でした。授業中最後まで子どもたちは集中を切らしませんでした。全員真剣なまなざしで先生を見ています。
机が男女別々に1列ずつだったのをくっつけてペア学習ができるようにしましたが、そのとき、真剣だった子どもたちの表情がとてもにこやかなものになりました。素早く机をくっつけます。子どもたちの人間関係、男女の関係がとてもよい証拠です。まわりと相談する場面では、笑顔ですぐに子どもたちの顔が近づきます。後で聞いたところ、学年の初めは関係があまりよくなかったのを、1年かけてこの状態にしたそうです。大したものです。

昨年にしたアドバイス、1問3答を忠実に守ってくれていました。たとえ正解が出ても正解と言わずに、3人を指名する。子どもたちは同じことでもそれぞれが自分の言葉で答えてくれました。前の子どもの発言につけ足してくれる子もいます。みんな集中していました。発言に対して、「同じ答えの人手を挙げて」と子どもをつなぐこともできていました。
次の課題は、手が挙がらない子どもにどう発言させるかです。しっかり聞いているのですが、自分からは発言しようとしない子どもが多いのです。正解を言わなければいけない、間違えたくないという気持ちが強いこと。挙手しなければ指名されないので、指名されて間違えるリスクを冒さずしっかり聞いておこうという姿勢です。
よくわかるのが復習の場面です。ノートを見て確認しているのに手が挙がらない。指名された生徒が答えた後、同じ答えの人と聞かれると今度は挙手する。友だちの発言を聞いて思い出したのではなさそうです。その場合は聞いたときの反応が違います。「あっそうか」というように表情が動きます。この学級ではほとんど表情に変化がありませんでした。最初から彼らもわかっていたのだと思います。であれば、1人目は挙手した子を、2人目以降は挙手していない子を指名するという方法が有効です。友だちの答えを聞いて安心すれば、答えやすくなります。こうすることで発言することへの抵抗を減らしていくことができるのです。
まわりと確認させることも有効です。人間関係がよければ、挙手していない子でもしっかりと友だちに確認します。確認し合えれば自信が持てます。その様子を見て、かかわれている子を指名すればいいのです。このとき「どう」とあいまい聞くことで、正解へのプレッシャーを減らす方法もあります。発言してくれなければ、「どんなことを話した」と聞き直すのも手です。

授業者は子どもたち全員にしっかりと声を出させることを大切にしていました。そのために、黒板に文を示してから練習をする場面が多くありました。確かに板書を見ることで発声しやすくなります。しかし、子どもたちは板書を頼っているので負荷がかかっていません。定着させるためにはある程度の負荷も必要です。このことを感じたのが次の場面でした。
大切な文を覚えさせるのに、何度も読んでから、板書を見ずに声に出しながらノートに書くということをさせていました。わからなければ黒板を見ていい。どのくらい顔があがるかで定着度もわかるとてもよいやり方です。ところが、スペルミスではなく、the とか of とか、単語が落ちてしまう子がいるのです。これは何度も発声しているのに文が頭に入っていないということです。板書に頼らない発声練習を工夫する必要があると思います。

また、子どもたちが集中して聞いてくれるので、教師の日本語での説明が増えているようにも感じました。教師がわからせようとするのではなく、子どもたちが自分で気づく、わかるような活動を工夫するとよいことを今回の教材をもとに具体的にアドバイスしました。

とはいえ、2年目の教師に対するアドバイスとしてはかなり高度なものです。基礎となる人間関係をしっかり作れているからこそ、このようなアドバイスができるのです。この1年でとても進歩しているということです。素直で前向きな授業者ですので、また1年後には大きく成長した姿を見せてくれることと思います。私のちょっとしたアドバイスを自分のものにしてうまく活用してくれるのを見ると、とてもうれしいものです。私も授業者からたくさんの元気をもらいました。ありがとうございました。

自力で授業技術を磨く

昨日は中学校の音楽の授業アドバイスをおこないました。講師経験が3年ある初任者です。言語活動を意識した合唱の授業でした。

笑顔の素敵な明るいキャラクターで、子どもとの人間関係もとても良好です。終始高めのテンションでしたが、子どもたちはよく集中していました。子どもたちの発言をよく受容し、同じ考えの子どもに挙手させる、話し合いの後の問いかけは「どんな話をした」と子どもが発言しやすいように気を使う。子どものあいまいな発言を聞き返すことで明確にしていくこともできます。また、教師の問いとずれた発言もしっかり受け止めた上で、上手に本来の発問に戻します。子どものつぶやきもうまく拾います。若手とは思えないほど、いろいろな授業技術を持っています。
聞けば、ふだんからよく子どもをほめ、子どもの振り返りに対しても、必ずポジティブなコメントを全員に書くなど子どもとの関係づくりを意識しています。授業がよい雰囲気なのもうなずけます。

しかし、授業の流れとこの授業技術の間に何か違和感があるのです。これだけ子どもを活かそうとしているのに、最初の数分間は先生の説明ばかりで、子どもの発言はありません。問いかけをしてもほとんど間をとらずに次に進んでいきます。
録音した自分たちの合唱を聞いて自己評価する場面では、子どもの発言をきちんと評価しほめているのですが、復習の場面では評価が薄いと感じることもあります。これだけ人間関係ができていれば、言葉ではなく表情やうなずくだけでもよいのですが、どうもそうではなさそうです。
子どもに「相談して」と言って子どもが動きだすと、すぐにピアノでヒントをだす。ヒントが終わるとすぐに指名して答えさせる。時間がなかったのかもしれませんが、かなり無理があります。
また、子どもからいろいろ意見を引き出すのですが、具体的にどう表現して歌うかについては授業者が説明します。子どもの発言への切り返しも、やや誘導的です。子どもたちはこの先生のことが好きなので、先生の意図するところを汲み取って答えようとしています。
最後に子どもたちが話し合ったことを意識して歌ったのですが、明らかによくなっていました。しかし、それは子どもたちが話し合ったことが生きたのか、授業者が最初のときと違って、指揮をしながらたくさん指示をしたからなのか、私にはよくわかりませんでした。話し合いをしなくてもこれだけ教師のかかわり方に差があれば大きく変わると思えるからです。

いろいろな疑問を持ったまま、授業者へのアドバイスが始まりました。
最初に、彼女のキャラについて素ですかと聞きました。答は「作っています」でした。大したものです。本人いわくもっと暗いそうですが、授業中は意図的に子どもたちに好かれるようなキャラクターを演じていたのです。であれば、間をとるなり、テンションを意図的に下げることは意識してできるはずです。要は何が大切かを意識すればいいのです。
次に一番気になった疑問を聞きました。受容の仕方、切り返し、つなぎ方などの授業技術をどうやって身につけたかということです。これもびっくりしました。彼女は講師時代からこの学校にいるのですが、私が先生方に以前全体で話したこととまわりの教師からの情報だけで身につけていったのです。この学校では、個別のアドバイスが中心で、全体への話はこの2年ほどは全くしていません。また、彼女にアドバイスをするのはこれが初めてです。これで多くの疑問が解けました。授業技術を一人で磨くことで、場面場面で使う技術は身についているのですが、授業構想や流れについては学びきれていなかったのです。全体構想の中でこの場面は何を大切にする。だから、こういう活動をする。その活動をうまく進めるためにこの技術を使う。こうではなく、場面ごとに使える技術を使っていたというわけです。だからといって彼女を責めるわけではありません。それどころ、よく自力でここまでの力をつけたと感心しました。ただ、バランスが悪かっただけなのです。今回を機に、きっと授業全体の流れやポイントと授業技術の関係を意識してくれることと思います。

管理職の先生から、私が個別にアドバイスしていることも、情報として先生方に伝わるよにしていることをうかがいました。先生同士でも学び合っているようです。アドバイスを学校としてどう活かすかをしっかりと考えていただけていることをとてもうれしく思うと同時に、その責任の重さをあらためて感じました。また、今回の授業者のように間接的な情報でもしっかりと力をつけてくれる方がいることはとても新鮮な驚きでした。学ぶ気持ちがあればどのような環境でも人は進歩するということを教えていただけました。今回もよい勉強をさせていただきました。

校長会の評議員会で講演

昨日は校長会の評議員会で「学校を変えるのは校長!?」という題で講演をさせていただきました。

顔見知りの校長がたくさんいる中での講演でしたので、やりにくいと感じていたのですが、その方たちがとてもよく反応してくださったので、気持ちよく進めさせていただきました。

伝えたかったのは、

「学校を変えるのは校長の仕事であること」
で、

「変えるためには、校長が具体的なビジョンを示すこと」
「その目指す姿を実現するための方策を具体化すること」

が求められ、そのためには、

「校長が学校の実態をよく知ること」
「それをもとに、課題と目指す姿を考えること」
「そのゴールに向かうアプローチを考えること」

が必要であり、

「それを教職員に共有化し、動かすかための仕組みをつくること」
「動いた結果を評価し、教職員のやる気を持続させること」

が実現の条件であり、校長には、

「アドバイス力、コメント力を磨くこと」

が求められるということです。

新しいこと始めればどうしても仕事が増え教職員の多忙感につながります。おまけとして、他の会で話した(多忙感の解消について講演参照)多忙感の解消について駈け足でお話しました。

ついいろいろなエピソードを話しすぎたため時間を延長してしまい、ご迷惑をかけてしまいました。話も散漫になって伝えたいことがちゃんと伝わったか自信がもてません。反省です。にもかかわらず、最後まで熱心に話を聞いていただきとてもうれしく思いました。
何人かの校長と久しぶりお会いすることができました。少ししかお話はできませんでしたが、昔と変わらぬやる気いっぱいの姿に私も元気をいただきました。とても楽しい時間を過ごすことができました。このような機会をいただけたことに感謝です。

前へ向かう気持ち

昨日は中学校の数学の授業研究に参加しました。

先週末におこなった先行授業へのアドバイス(授業を大切にしているというメッセージ参照)でどのように変わったか楽しみにしていました。
しかし、どうやらたくさんのアドバイスをしすぎたようです。ポイントを伝えたつもりでしたが、消化しきれていなかったようです。大きく変わることのない授業でした。あらためてアドバイスの難しさを知らされました。先行授業を見た先輩方もいろいろアドバイスされたのですが、同じ感想を持たれたようです。

授業検討会での授業者の反省は、子どもから言葉を引き出そうとしたが、うまくできなくて自分で説明してしまったというものでした。子どもの言葉を引き出そうと意識していたことはうれしく思いました。検討会で先生方からでた意見は、子どもたちが興味を持った教材であることを評価し、その上で子どもたちの数学的な気づきや思考がどうであったかという点を指摘するものでした。授業者の工夫を認めた上での指摘で、受け入れやすいものでした。先生同士の関係がよいことがわかります。
とても素晴らしいと思ったのが、感想という言葉で語られたベテランの言葉でした。指導案の添削をはじめとし、先行授業にも参加し、たくさんのアドバイスをされた先生です。アドバイスを活かすことができなかった授業者に厳しい言葉がかけられるのかと思いました。ところが、若いころ授業研究で厳しく指導され、その悔しさをばねにして成長した自分の体験をもとに、この授業をきっかけにして目標を定めて前へ進んでほしいという励ましでした。授業後、アドバイスが伝わらなかったのは、自分たちが反省すべきことだと言っておられたことが思い出されます。次にすべきアドバイスは何かを考えての発言だったのでしょう。若手を育てることを自分の仕事としてとらえられていることがよくわかります。彼の発言を受けて、もう一人のベテランも次へのステップへのアドバイスと励ましの言葉をかけました。阿吽の呼吸だと思います。こういうベテランがいることがこの学校の強みだとよくわかります。

教科指導員の方の助言も素晴らしいものでした。この授業に関して指摘したいことは山ほどあるはずです。しかし、そんなことより、この授業、この教材をきっかけに授業のポイントはどこにあるか、また、どのような進め方が大切であるかを自分の言葉で語られました。数学におけるグループ活動を中学校で実践されているようです。自身の体験に裏付けされた言葉は受け入れやすいものでした。数学を通じて、どの教科にもつながることを話していただけました。

検討会後、授業者が反省した、子どもの言葉引き出せなかった場面に絞って少しアドバイスをしました。
子どもが話し合っていたのになぜ答えようとしてくれなかったのかという私の問いかけに、正しいことを言わないといけないと思ったからと答えてくれました。自分でもわかっているのです。しかし、わかってはいても、すぐに変わるものではありません。子どもが何も言っても許される、正解でなくても認められる。日ごろからそういう授業にしなければなりません。このことを意識することが第1歩です。
今回の場面で有効なスキルとして、「どんなことを話したか聞かせてくれる」という問いかけを教えました。こんな些細なスキルでも、子どもが発言してくれるようになります。あとは、その発言をどうポジティブに評価するかです。まだまだ、時間がかかるとは思いますが、少しずつ前に進んでくれることを期待します。

最後に彼が「また、授業を見てください」と笑顔で前向きに言ってくれました。私自身この言葉に救われました。彼に対してうまくアドバイスをできなかったことにちょっと沈んでいたのですが、チャンスをもらった気持になりました。うまくいくときばかりではありません。失敗にこだわるのではなく、前へ向かう気持ちが大切です。このことを実感した1日でした。

授業を大切にしているというメッセージ

先週末は中学校で3つの授業アドバイスをおこないました。

そのうちの1つは本日おこなわれる初任者の授業研究の先行授業です。以前からアドバイスをしている数学の確率の授業です。
指導案をみると流れが明確です。前時の復習、課題の把握、試行、探求・・・。流れはとても自然でした。ここまでにするために、教科の先輩や主任の方の指導がたくさんあったことと思います。まわりが支えることができる学校であることがよくわかります。先行授業にもかかわらず、校長をはじめ先輩が何人も見に来てくれました。
興味を持ちやすい課題で、実際に道具を使って試行をするので、子どもたちは興味関心を持ってくれます。ポイントはいかに子どもたちに数学的な思考をさせるかです。残念ながら、各場面で何が数学的に大切なのかを授業者はしっかりと意識できていませんでした。結局、解き方を教師が教えるだけで、なぜそうなるかを子どもたちが考える場面はありませんでした。
この授業での数学的な本質である言葉、復習の場面と本時の課題でつなぐべき言葉である「同様に確からしい」をどう子どもに伝え、意識させるかがポイントであることを具体的に伝えました。この言葉をもとに、子どもたちの考えを深めるためには、子どもの言葉を問い返す、つなぐという、1問1答でないやりとりが必要です。これは一朝一夕でできるものではありません。本番の授業でうまくできると私も期待している訳ではありません。今回の授業がそのことを意識するきっかけになってくれればいいのです。たどたどしくてもいいので、子どもに問い返すこと、つなぐことにチャレンジしてくれることを願っています。

美術の講師の授業は、授業者の美術に対する思いが伝わる授業でした。子どもたちに互いのよいところを学び合わせようとする場面と、ゴッホの2枚の自画像から技術と表現、個性について考える場面を見ました。
授業者にこの授業を振り返ってもらったところ、非常によいことを言ってくれました。
ゴッホの写実的な自画像と、誰もが知っている個性的な自画像の感想を言わせた後、どちらが若い時の作品かという発問の場面でのことです。

若いころの自画像を「うまく描こうとしている」「写実的」といいった言葉を使って解説したが、子どもたちから出てきた言葉ではなかった。子どもたちから出てきた言葉で説明をするべきだった。うまい言葉が出てこなければ、もっと引きだすようにするべきだった。

子どもの言葉を活かそうと意識していることがよくわかります。この姿勢をとてもうれしく思いました。うまくできなかったかもしれませんが、このことを意識できていれば必ずできるようになります。きっとよい教師に育っていくことでしょう。

最後は英語の講師の授業でした。前回と比べて、コーラスリーディングで子どもたち全員の口が開いていたことに気づきました。声も確かに大きくなっています。子どもたちの声が出るまで繰り返す。大きな声で発音している子をほめる。アドバイスを素直に受け入れてくれたようです。また、子どもたちへの指示も、きちんと通るまで待って、全員ができてから次に進むようにしています。これも立派な進歩です。
わずかな進歩と思うかもしれませんが、この1歩が大切なのです。この進歩をとてもうれしく思っていることを伝えました。授業についていろいろと悩んでいましたが、若い教師であれば当然のことです。その中で確かな1歩踏み出せたことが、大きな進歩につながるのです。次はどのような1歩踏み出してくれるのか期待しています。

初任者を先輩が育てようとしている。たとえ講師でも、私のようなものをつけて育てようとする。この姿勢から、授業を大切にしているという強いメッセージを感じます。教師集団がこのメッセージをしっかりと受けとめてくれることが、この学校のさらなる進歩につながっていくと思います。この学校の変化を見ることが私の学びにもつながっています。この学校の今後がとても楽しみです。

東京出張

昨日は東京で打合せを2つおこなってきました。

一つはIT系の出版社からのヒアリングでした。学校・教育関係者向けのICT本の企画を立てるにあたって、学校現場のICTの活用の状況を知りたいということでした。
お話していて、外部からは学校の中は見えにくいということをあらためて感じました。学校の実情を少しはわかっていただけたのならうれしいです。学校や先生にとって役に立つ本が生まれることを期待します。

もう一つは、「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」の現場スタッフとの運営・進行の打合せです。多くの方にスタッフとしてお手伝いいただいています。用意された資料からも、細かいところまで気を使っていただいていることがよくわかります。スタッフの方の尽力に報いるためにもよいフォーラムにしたいと思いました。

帰りの新幹線では研究会の会長のT先生と名古屋までご一緒しました。精力的に活動されている先生の話に私ももっと頑張れねばとたくさんの元気をいただきました。

若手の成長を感じる

昨日は、中学校の社会科の授業アドバイスをおこないました。昨年も1度アドバイスしている先生です。地理の気候の最初の時間でした。

担任をしている学級ではないのですが、子どもとの人間関係が実によいことに気づきます。理由はすぐにわかりました。子どもの発言を否定しない、ポジティブに評価することを徹底しているのです。指名して発言させたあとも、同じ考えの人がいるか確認をして子どもをつなげるようにしています。つぶやきも拾っています。以前と比べて先生がしゃべる時間も格段に少なくなっています。子どもたちの集中力は最後まで途切れませんでした。基本となる部分がしっかりとできてきたので、課題も明確になります。

子どもの挙手の仕方が気になりました。授業者は子どもの発言を否定しないのに、子どもたちは自信なさそうに挙げるのです。ちゃんとワークシートに答を書いているのに手を挙げない子どももいます。
こんな場面がありました。赤道地方が暖かい理由を聞いたところ、「太陽に近いから」と指名された子どもが元気よく答えてくれました。授業者は、否定せずにどういうことか聞いてあげます。手で太陽光線の傾きを示したりすることから、理由は正しく理解しているがうまく言葉にして説明できないようです。結局、授業者は肯定も否定もせずにあいまいなまま次時への課題としました。着席した子どもは「違ったな」とつぶやき、ちょっと元気をなくしました。棚上げになったことでそう感じたのでしょう。
このことと子どもの自信なさそうな挙手とは関係がありそうです。子どもたちは正解を言わなければならない、正解を求められていると思っているのです。授業者はどんな発言も受容しようとしていますが、正解を言わなければいけないと子どもは感じているのです。
子どものノートに○をつけて自信を持たせる。発言をつなぐことで、間違えていた子どもが自分で気づいて最後には正解を言える。間違えても最後はほめられる経験を積むことで、自信がなくても発言できるようにする。このようなことを意識するとよいでしょう。

また、以前に学習したことの復習で子どもたちの手があまり挙がらない場面がありました。このとき、手の挙がらない子どもはじっとしていました。これも気になるところです。子どもたちは復習を試験のように感じて、教科書やノートを見てはいけないと思っているのかもしれません。挙手しなければ指名されないので、指名されて間違えるよりはじっとしている方がいいと思っているのかもしれません。
教科書やノート見るように促す。ときには挙手に頼らず指名する。このようにすることで子どもたちの姿勢も変わっていくはずです。

子どもたちの活動を増やす事を意識して授業を組み立てていますが、どの活動も同じように扱っていました。この授業でいえば、日本地図を見て愛知県より暖かい県はどこか考える。世界地図を見て日本より暖かい国はどこか考える。2つの活動がありました。最初の活動で子どもたちから南が暖かいという言葉を引き出す、2つ目で、南ではなく緯度に注目することを気づかせるという流れです。この2つに同じくらいの時間を割いていました。メインは明らかに2つ目の活動です。南が暖かいという言葉を引き出すのは全体で素早くおこない、世界地図を中心に活動をさせることで、もっと深めることができたはずです。日本より暖かい国としてオーストラリアと答えた子どももいましたが、この時間の中で気温を調べたりして確認する時間を取ることができませんでした。

このようなことを中心にアドバイスしましたが、とても素直に受け止めてくれました。この姿勢が成長につながっています。忘れ物の多い学級だそうですが、地図帳を忘れた子どもはほとんどいませんでした。授業者から、私から受けた忘れ物を減らすアドバイス、「いつも使っていれば忘れない。たまにしか使わないから忘れる」を意識して、地図帳を使った個別の活動をたくさんさせていると聞きました。私が忘れていたようなアドバイスをちゃんと実行していてくれたのです。とてもうれしく思いました。だからこそ、次のステップが見えてくるのです。今後ますます力をつけてくれることと確信しました。

校長、教頭と少しお話をする時間がありました。この学校は、以前は生徒指導上の問題をたくさん抱えていましたが、今は本当に落ち着いた学校になっています。学力もずいぶん伸びてきたそうです。生徒指導の基本を授業において、子どもたちを認める、活かす授業で子どもたちを育てようという方針で立て直されました。うまくいった理由の一つに、管理職や主任の方が目指す子どもの姿、授業のイメージをよく共有されていたことがあげられると思います。きちんと共有化されているからこそ、校長から指示されて動くのではなく、自分のなすべきことをそれぞれが考えて動いていたのです。管理職や主任が、言葉では同じ事を言っていても実はぶれている学校もよくあります。お二人と話していて、言葉は違っていても同じところを目指し、思いを共有していることがよくわかります。この学校がよい方向に向かっている秘密はここにあると思いました。

この学校とかかわらせていただくことで、私も学校経営のあり方、教師が育つ要素など本当にたくさんのことを学んでいます。この日も充実した1日でした。

愛される学校づくり研究会に参加

先週末は愛される学校づくり研究会に参加しました。

前半は、2月25日(土)の「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」に関する報告。参加申し込みは順調で、残り90名ほどで定員です。2月早々には締め切りになりそうなので、参加をお考えの方は早めに申込みください。(申込みはこちらから)

後半は「4月末までに何を見える化するか」をテーマーに3グループで話し合い、その後全体で討議しました。
この会のメンバーと話をしていていつも感じるのは、実によい実践をしていることです。私が、「学校ではこういうことを意識していなのが問題」とつっこんでも、「私は、このようにしている」と、なるほどと納得させられる実践で答えてくれます。
今回も、4月になってから新学年にやるべきことを見える化しても遅いという私の発言に対して、3月からおこなっている手立てを具体的に教えていただけました。

全体の話し合いの場では、久しぶりの参加のN先生の元気な発言で、とても楽しい議論になりました。校長の力量の問題か仕組みづくりの問題かが話題になりましたが、校長がしっかりしていれば学校はうまくいくことは、私が訪問する学校での経験からいっても間違いありません。この会に参加している方たちであれば、まず問題ないでしょう。しかし、すべての校長がそれだけの力量を持っているとは限りません。また経験が浅ければ、わからないこともたくさんあるでしょう。そこを個人の問題にしない仕組みも必要だと思います。
訪問すると、いつも他の学校の校長から質問や相談の電話がかかってくる学校があります。この学校の校長に聞けば教えてもらえるということなのでしょう。丁寧に対応している姿をみると相談がたくさんくるのも納得できますが、これだけ頻繁だと業務に支障が出るのではと気の毒になります。これも本来何らかの仕組みがあるべきことを個人が対応している例でしょう。
いつものことですが、たくさんのことを考え、学ぶことができました。

研究会終了後、新しい企画について仕掛け人の先生と関係者で打合せをおこないました。今後どうなるのかとても楽しみです。うまくテイク・オフできるように、私もお手伝いしたいと思います。

研修担当者の目に見えない努力を感じる

昨日は小学校で算数の授業アドバイスと模擬授業に参加しました。2回目の訪問で、前回からどのような変化があったか楽しみでした。

特別支援学級の算数の授業は異学年の4人の一斉授業でした。年齢も支援の必要度合いも異なる子どもたちです。子ども一人ひとりに何が起こっているかを中心に観察しました。
授業開始前から2人の先生は、受容的な態度で子どもたちと接しています。笑顔がとても素敵でした。授業が始まっても落ち着かない子どもがいます。いつもと違う知らない人が授業を見ているので、興奮したのかもしれません。4人の中で一番しっかりしている児童が注意をしてくれます。その時気になったのが注意の仕方です。「・・・してはだめ」「・・・して」と否定的な表現や命令調なのです。たまたまなのかもしれませんが、先生の注意の仕方と何か似たものを感じました。「・・・しよう」という表現を意識して使っていただくことをお願いしました。
授業は輪投げとさいころゲームを使って得点を計算するという課題でした。全員に○をつけて自身を持って発表するように工夫しています。しかし、一生懸命に発表してくれた友だちの言葉ではなく、そのあとの先生の確認の言葉に反応します。ここにも少し工夫が必要かもしれません。

アドバイスとしては大きく2点です。
1つは、子どもたちへのポジティブな評価を今以上に増やすことです。困難を持っている子どもたちですのでちょっとしたことでも、できたことはできるだけほめて自己有用感を高めることが大切です。
もう1つは、コミュニケーション力を高めることを意識していただくことです。学力も大切ですが、彼らが将来自立していくためには自己有用感を持って他者とかかわれることがより大切です。発表の場面などでは、聞いたことを復唱などで確認し、聞いていたことをほめる。聞いてもらってよかったねと発表者とつなぐ。このようなことを授業の中に組み込むこと意識するようにお願いしました。

4年生の2学級の算数は、学年主任と講師の方の資料の整理の授業でした。
学年主任の先生は学級規律をしっかりつくり、子どもたちを笑顔できちんと評価できる方でした。細かな授業技術もしっかりして、とてもわかりやすい授業です。ほめるところ参考になることがたくさんありました。だからこそ、課題も明確になりました。的確な指示でどの子も作業がきちんとできます。しかし、なぜ資料を整理するのか、整理することで何がわかるようになるのかといった、考える部分が弱いのです。このことをお話ししたところ、本人も自分の課題として認識されていました。自己評価ができる素晴らしい先生です。この教材を具体例に、課題の設定、発問についてお話しました。今後の教材研究にきっと活かしてくれると思います。

講師の方は、笑顔と受容的な雰囲気で子どもたちが落ち着いて授業を受けていました。しかし、板書がされると子どもがノートを写すことに意識がいってしまい話を聞かなくなっています。積極的に子どもに問いかけ参加を促すことが大切です。
気になったのが、数人しか手が挙がらないのに指名して、「あってますか」「あってます」で進めてしまったことです。本人もどうしても待ちきれないとどうすればいいか困っていました。まわりと相談させる、ヒントを子どもに言わせるなどの方法をアドバイスしました。
また、資料の項目を問う場面で指名された子どもが「人間」とよくわからない発言をしました。先生が即座に否定することなく聞き直すことで「東町の人、西町の人」と言葉が足されました。とてもよい対応です。ただ、残念なのが、「人間ではわかりにくいから他の言葉で言って」と他の発言をすぐに求めたことです。発言者をほめたり、しっかり評価する場面がありませんでした。結局、「町」という言葉が出たところでこれを評価し、答としました。このようなことが続くと、子どもたちは教師の求める正解を見つけようとします。自分の答えを考えることしなくなってしまいます。一人ひとりの考えを認め、子どもたちの判断させることも時に必要なことを伝えました。

5年生のきまりの授業と6年生の資料の整理の授業は前回アドバイスした先生でした。
2人とも前回は表情が硬かったのですが、笑顔も増えてこのことを意識していることがよくわかりました。

5年生の授業は、マッチ棒でつくった階段のきまりを見つける問題です。なかなかむずかしい問題なので、前時の復習と問題把握に多くの時間を割きました。しかし、先生が一方的にしゃべるので子どもはだんだん集中力をなくしていきます。子どもに問いかけて発言させることで同じ内容を伝えられるところがたくさんあります。子どもの発言で進めることができないかと常に自分に問いかけることをお願いしました。
この問題は、マッチ棒を数える、表をつくったりして整理する、整理したことをもとに決まりを見つけるといったスモールステップがあります。これらを明確にしないで個人追究をさせようとしましたが、子どもの状況に大きな差ができました。スモールステップを意識して、ある程度足場をそろえることも必要です。問題把握の段階で、マッチ棒を数える作業をいれるなどの工夫をすることをアドバイスしました。

6年生の資料の整理の授業は、資料から度数分布表をつくる作業が1時間のメインでした。教師が一人ひとりの表を確認して○をつけていますが、非常に時間がかかります。○をもらった子どもはすることがなくて集中力をなくしています。こういった作業的な課題は、互いにまわりと確認し合い、もし違っていればやり直すようにすることで、スムーズに進むことをアドバイスしました。
また、この授業では度数分布表をつくることが目的となってしまって、そこから何がわかる考えることがありませんでした。つくったものを活用する、何のためにつくっているのかといったことを考えることを大切にするようお願いしました。

全体研修では、この学校では初めての試みとなる模擬授業をおこないました。1年生の算数の授業に若手がチャレンジしてくれました。
模擬授業を企画した先生が手順やポイントをまとめたものを配り、丁寧に説明をします。特に子ども役が学ぶことが多いこと、みんなで考えることを強調されました。模擬授業をよく理解されています。
初めての試みということで最初は私が意図的に介入しましたが、そんなことは必要ないことがすぐにわかりました。企画した先生が司会者となったのですが、実に的確に授業を止め課題を明らかにしていきます。
わかったかどうかの確認で、ほぼ全員が手を挙げたのに、3人の子ども役の手が挙がらない場面がありました。そのまま授業者が進めようとしたところを止めて、挙げなかった理由を聞き、どうするかまわりの人と相談するように指示されました。先生方はとてもよい雰囲気で意見を出し合っています。全体で発表される意見も素晴らしいものでした。これをきっかけに雰囲気も柔らかくなり、子ども役の先生方も子どもになりきって実に細かく演じてくれました。授業者も意見を受けて何度も進め方を変えてくれ、教師の対応が子どもたちの活動にどう影響するかとてもよくわかる模擬授業となりました。先生方に模擬授業のよさが伝わったことと思います。企画した先生の準備と素晴らしい取り回しのおかげです。授業をみる力があることと模擬授業をきちんと研究していたことがとてもよくわかります。この学校にきっとよい形で模擬授業が定着していくことと思います。

私も学ぶことが多い1日でしたが、研修担当の先生が模擬授業だけでなくアドバイスを受ける先生に事前に働きかけるなど、一つひとつしっかり準備していたおかげだと思います。充実した研修の裏にはこういった担当者の目に見えない努力があるものです。この学校がこれからどのように進歩していくのか、とても楽しみです。

教師が育つ学校づくりについて講演

先週末は校長会の研修会で「教師が育つ学校づくり」と題して講演をおこないました。

どの学校でも、ベテランからは「自分たちは先輩から盗んだ」、若手からは「なかなか教えてもらえない」という声が聞こえてきます。このギャップは放っておいても埋まりません。いかに学校として組織的に対応するかが課題です。

教師が育つためには、一人ひとりが課題意識を持って毎日の仕事に取り組むことが大切です。そのためには、学校として、どんな課題があるかをまず管理職が把握することから始める必要があります。学校を回り授業の様子を見て、全員に共通する課題、個人の課題をそれぞれ明確にするのです。その上で、課題をどう共有化しどう解決していくかを考えます。
全体での研修を工夫するのか、個別に対応するのか、グループをつくるのか、状況によってそのアプローチは変わってきます。いずれのアプローチを取るにしても、課題解決のための手段が具体的になるようにする必要があります。「子どもたちをよく見よう」といったスローガン的なものではなく、「挙手しなかった子どもを必ず確認する」というようにできるだけ具体的なものに落としていくのです。具体的になればなるほど、実効性は上がっていきます。

若手について言えば、目指す授業像が確立していない傾向があります。手本となるよい授業を見せること、そしてその授業のどこがよいのかを解説することから始める必要があります。その上で、具体的な指導に移るのです。
また、指導役になる方には、しっかりと相手の話を聞くことをお願いする必要があります。一方的に指摘するのではなく、一緒に考える姿勢が大切です。指摘されたからといってすぐにできるようになるとは限りません。うまくいかないことが続くと追い詰められていきます。まずは自分が認められていると感じてもらうことが大切です。以前と比べて最近の教師は同僚との関係が希薄な傾向があります。悩み事を相談できずに孤独になっていることもよくあります。まわりの先生と気軽に授業や仕事のことを相談し合えるような関係づくりが大切です。そのために管理職は意図的に動く必要があるのです。

結論を言えば、管理職が学校の課題を把握して、そのための具体的な対策をとる・・・という、PDSCのサイクルを回せばいいという当り前のことに帰着するのですが、ポイントはその具体的な対策を考えるときに何を意識するか、どういう方法があるのかを知っておくことです。今回はその具体的に意識すべきこと、方法を中心にお話しました。

大変熱心に聞いていただける方が多かったため、つい具体例を話しすぎてしまいました。最後は駈け足になってしまい、申し訳ないことをしました。講演はどうしても一般論になりがちです。参加者一人ひとりの課題解決にとって少しでも参考となる話ができたのであれば幸いです。
各学校の状況に応じたシャープな話をするには、子どもたちの様子を見せていただく必要があります。今回の参加者から一度学校に来てほしいと声をかけていただけたらとてもうれしく思います。

有田和正先生から元気をいただく

教師力アップセミナーで授業名人有田和正先生からたくさんのことを学ばせていただきました。

今回は、防災を意識した社会科のお話を聞かせていただきました。元の襲来に備えた防塁、防人などの歴史から備えるということを考える模擬授業でした。そのこととつなげて、東日本大震災での釜石の奇跡とその奇跡を起こした釜石市の防災教育について語られました。教育の持つ力と素晴らしさを「奇跡を起こせるのは教育だけだ」という言葉に込め、何度も口にされました。いつも以上に熱いメッセージから、私だけでなく会場の多くの方が元気をいただいたことと思います。

教師が何でも教えるのではなく子どもが調べることが大切だと強調され、自身もそのことを裏付けるように、必ず現地まで出向いて調べたことをもとに授業をつくられます。今年も新しいお話をたくさん聞くことができました。いくつになっても、追究し続ける有田先生の姿勢に、このような年の重ね方が自分にできるだろうかと問いかけた一日でした。

講演前に時間をいただいて、愛される学校づくり研究会の代表が、「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」について、当日の諸連絡をおこないました。有田先生の「バスのうんてんしゅ」の展開をとりいれたコンビニの授業を見ていただくことをお話すると、「それはおもしろそうだ」とおっしゃっていただけました。当日有田先生のセッションを担当する私も、どんなお話が聞けるかとても楽しみです。少しでも多くおもしろい話を引き出せるように、精一杯頑張りたいと思います。

昨年末は一時体調を崩されていたようですが、例年以上に熱の入った講演でした。有田先生から多くの元気をいただきました。本当にありがとうございました。

充実した1日

昨日は、教材開発、書籍、「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」の打合せを東京でおこなってきました。

教材作成のために教科書を何度も読み込んでいますが、本当によく考えて作られています。教科書の内容をもとに掘り下げることで、いろいろな授業展開が考えられるはずです。現実には教師の力量や授業時間の問題もありなかなか難しいでしょうが、こんな授業をやっていただけたらなとアイデアが広がります。教材にはそんな思いも込めています。
教材の多くは単に問題を解くために必要な情報だけでなく、関連したちょっとした情報を付加することで、もっと知りたい、調べてみたいと思うきっかけになるように考えています。また、情報同士がつながることでより深いことが見えてくることも強く意識しています。
この日は、社会科の教材を検討しました。社会科は地理、歴史、政治・経済を切り離して考えることはできません。地理であれば、その事柄に関連する歴史や政治・経済の情報も付加するようにしています。情報をつなぎ合わせていくことで最終的に現代の日本が見えてくることを目指しています。
知識を記憶して効率的に出力できるようにすることではなく、問題を解くことを通じて知識を得る、知識を活用することで身につく。そんな教材にしたいと思っています。

「学校を応援する人のための学校がよく分かる本(3部作)」の編集の打ち合わせをおこないました。この本は、保護者、学校にかかわる地域の人、先生と先生を目指す人を対象として、学校をよりよく理解していただくために、学校の「組織・しくみ」「学習内容」「授業」について書かれたものです。「組織・しくみ編」「学習内容編」を玉置崇先生、「授業編」を私が執筆しました。このような視点で学校のことを書いた本は初めてではないかと思います。関係者の私が言うのもなんですが、素敵な編集も相まってとてもよいものになったと思います。2月上旬の発刊が今からとても待ち遠しいです。

「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」まで1月余りになりました。会場下見前の打ち合わせをおこないましたが、当日の会場運営については事務局が段取りよく進めてくれています。授業紹介の進め方について変更しなければならないことがでてきましたが、それに対してもすぐに対応案をいくつか提示していただけました。安心して当日を迎えられそうです。申込みも順調で、すでに定員の半分ほどに達したそうです。この調子でいけばスタッフ・関係者の一部は立見になるかもしれません。参加を予定されている方は、早めに申込みをお願いします。(申込みはここ

久しぶりの東京でしたが、とても充実した1日になりました。関係者の皆さんに感謝です。

成長の原動力と向上の条件

昨日は、中学校で数学の指導案へのアドバイスと英語の授業アドバイスをおこなってきました。

数学の初任者は、前回の教材研究をもとに(個別のアドバイスの場で管理職の役割を考える参照)指導案を作成してきました。確率に興味をもたせよう、確率は面白いと感じさせたい、そういう思いのあるものでした。前回の宿題を自分で考え直して、確率のおもしろさを感じてくれたようです。一番確率が高そうにみえる事象が実はそうではない。子どもたちの予想を裏切るような課題を考えてきてくれました。しかし、そのような課題は何故そうなるのかを考えるにはハードルが高いものです。だからといって先生が説明したのでは、せっかく子どもたちが興味を持ってくれても、学びにはつながっていきません。また単純におもしろそうだと試行するだけでは、数学的にも深まりません。

そこで、次のようなアドバイスをしました。

「直感でいいから予想して」という問いかけは単純に「予想して」に変える。
直感といっても子どもなりの根拠があるはずです。直感でいいと言ってしまうと、予想の根拠を聞いても答えない可能性があります。予想の理由を聞くことで、より試行の結果に対してその理由を考えようとします。

「一番確率が高いのはどの組み合わせ」という発問を活かして、確率の意味に迫る。
「一番確率が高いということは、どういうこと」「どうすると確かめられる」と子どもに問いかける。「でやすい」といった反応には、1、2回の試行をして「これがでやすいね」といって揺さぶる。「もっとやる」といったときに、「どのくらいやればいいの」と問い返す。こういったやり取りをすることで、みんなで何度も確かめることの意味、確率とは何を表すのかを考えさせます。最終的には大数の法則につながるやりとりです。

子どもが大切なことに気づく仕組みをつくる。
この課題は、立方体の3面に○、2面に△、1面に×をつけたものを2個使います。組み合わせの表を使って場合の数を調べることで確率を考えさせようとしていますが、この場合、○△×の出方は同様に確からしくないので、どの立方体の○か、どの面の○かを意識させる必要があります。たとえば、サイコロに○△×のシールを貼る。シールの色を2種類用意する。このような仕掛けをしておくことで、シールの色でどちらのサイコロか、シールをはがしてみることで1の面の○、2の面の○とどの面の○か意識することができます。何が同様に確からしいかを子どもたちが気づきやすくなります。

このほかにもいろいろアドバイスしましたが、授業者はこのような問いかけや仕掛けをすると子どもたちがどんな反応をしてくれるだろうかと、次第にワクワクしてきたようです。彼自身が授業を楽しみになってきたようです。教材研究をすることで、子どもの反応が楽しみになることは、授業力を高めるための大きな原動力です。この授業がきっかけとなって大きく成長してくれることと思います。彼がこのあとどのように授業を作り上げるかとても楽しみです。参加する先生方にとってもよい授業研究になってくれることと思います。

英語の授業はALTとのTTでした。一斉の発声場面で子どもたちの声が出ないことが気になりました。ALTの言葉やジェスチャーは真剣に聞いています。しかし、声はでないのです。正解の○をもらっても声が出ない。黒板に答が書かれるとやっと声が出る。このような場面もありました。
間違えてもいい、自信がなくても話せる。そんな雰囲気をつくることが大切です。たとえ小さくても声がでれば、笑顔で大きくうなずき、何度も繰り返す。それにつられて次第に声が出る生徒が増えれば、声が出た子と目を合わせてうなずく。全員がしっかり声が出るまで繰り返す。最初は大変かもしれませんが、根気よく育てていくことが大切です。
声を出さなくても、答を写しておけば困らない。こういう子どもたちに、しっかり声を出すとほめられる。声を出すと自信を持って使えるようになる。そういう経験をさせるようにお願いしました。

アドバイスが終わった後、教頭と現職教育の担当者の3人で来年度の研修のあり方について話し合いました。子どもたちの状態がよいために、先生方の授業力向上の意欲が薄れているのではないかと危機感を持っておられました。どうすればよいかすぐに方策が見つかるわけではありません。しかし、先生方をリードする立場の方がしっかりと問題意識を持っていれば、必ずよい方向に進んでいくものです。何も考えずに前年通りではなく、うまくいかないと悩みながらでも次の課題に立ち向かう姿勢はとても立派だと思います。私もできる限りのお手伝いをさせていただきたいと思います。きっとよい結果が出るものと信じています。

フォーラム提案授業の編集

先週末に「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」での提案授業の編集をおこないました。国語、算数(2時間)、社会それぞれの授業を10分間に縮めました。
プロにお願いしての編集ですので、こちらの要望に素早く対応して、ワイプやオーバーラップなどの効果も瞬時に入ります。また各チームの事前の準備もよかったため当初の予定よりかなり早く仕上がりました。

再度授業を見直しながら、当日の感動をあらためて思い出しました。どの授業もカットするのが惜しい場面の連続です。逆にどこを見ても皆さんお見せしたい場面ばかりです。しかし、当日の提案をシャープにするために、ICTの活用場面を中心に大胆に編集しました。
当初は何をやっている場面か文字で入れて説明する必要があるかと思っていましたが、繰り返し行われる場面をカットすることで流れがすっきりとし、説明がなくてもかえってわかりやすいものになりました。

今回の作業を通じて、授業は子どもたちが理解し考えるための時間を本当にたくさん取っていることにあらためて気づきました。ポイントの説明やまとめだけなら10分程度で十分です。その他の時間はすべてその内容を子どものものにするための活動に当てられているのです。時としてくどいぐらいに繰り返して発言させたり、いろいろな視点から何度も説明させたりします。教師が一方的に説明する授業であれば、進むのが早いのは当然です。
授業にとって大切な要素が自分の中でより明確になった気がします。

久しぶりに会う授業者は、以前より自信に満ちた表情になっているような気がしました。今回の授業づくりを通じて自分の成長を実感できたのでしょう。大変だったが楽しかったと感想を言ってくれた先生もいました。どの先生もフォーラム当日をとても楽しみにしてくれています。今回の提案授業は彼らにとって大きな壁だったかもしれませんが、それを乗り越えたことで大きなものを得たようです。ぜひ彼らの素敵な表情を見に来てほしいと思います。

教師の人間関係をよくする

教師の人間関係がよい、悪いという言葉を聞くことがよくあります。授業研究を通じて互いに学び合おうとするときに問題となることが多いようです。人間関係が悪いので、活発な議論にならない、学び合おうとしない。こういう形で耳にします。人間関係が悪いのでこの学校はよくならない、指導はしたくないとおっしゃるアドバイザーもいらっしゃいます。私も、先生方が互いに学び合うためには、人間関係が大きな要素であることは否定しません。そこに問題があるのなら、何とかしたいとも思います。私なりに先生方の人間関係をよくするために気をつけていることをまとめてみます。

人間関係が問題点として語られる学校にはいくつかの特徴があるように思います。

学級経営や授業がうまくいかないときに、担任の問題として指摘する。
特定の人同士、小グループでは話をするが、全体としてはあまり会話しない。
授業を見られることに抵抗感が強い。
授業検討会などで、あまり意見が出ない。
一部のベテランが意見を言うと、他の先生の意見が出にくくなる。

人間関係が悪いからこうなるのか、こういう傾向があるから人間関係が悪くなるかはわかりませんが、ここにヒントがあるような気がします。

・困っている先生を助ける雰囲気をつくる
たしかにこの先生のやり方ではうまくいかないと思うことがあります。しかし、多くの場合本人も気づいて苦しんでいます。あまり責めても追い詰めるだけです。もちろん個別にアドバイスも必要ですが、まわりの方に助けてもらえるようにします。同じ学年の先生や、その学級とかかわる先生方に「大変でしょうが、先生ならできると思うので」と子どもへの指導を通じて助けてくれるように頼みます。助けてもらった先生がまわりの助けに気づくのを待って、「みんなが助けてくれてよかったですね」とコメントし、「ありがとう」を伝えるようにアドバイスします。もちろん私も助けてくれた先生方に、「感謝されていましたよ。ありがとうございました」と個別に伝えます。
また。研究授業の担当になったときなどは、有志による模擬授業や検討会への参加をまわりの先生にお願いします。事前のアドバイスを受けて授業がよくなると、かかわった先生がその先生の進歩認めるとともに自己有用感を持ちます。
助けあうことで自己有用感を持ち、互いにかかわることに前向きになっていきます。

・ネガティブな言葉を封印する
授業検討会などでは、よかったこと、参考になったことを中心に話すルールにすることで、話し合いの雰囲気がよくなります。批判的なことばかり言われると他者とかかわるのが嫌になります。逆にほめられると相手に対してポジティブな気持ちになります。授業を見られるとほめられるということが常態化すると、見られることへの抵抗感も薄れます。

・小グループで活動をさせる
検討会では、ベテランと若手を組み合わせるなどふだんあまり交流がない先生同士を小グループにして話し合わせることで、きっかけをつくります。ポジティブなことを中心に話し合うようにすることで、楽しいものになります。また、授業アドバイスを小グループでおこなうことも有効です。よい意見を大いにほめたうえで、感想を他の先生に聞くことで仲間からもほめられるようにします。自分がこの先生方に認められた感じることでよい関係になっていきます。

・意図的につなげる
ベテランや力のある先生のよいところを大いにほめ、「他の先生に教えてもらうように伝えますので、そのときはよろしくお願いします」と伝えます。若手に対しては、「○○先生はとても上手だから教えてもらったら。頼んでおいたからだいじょうぶだよ」と声をかけます。力のない先生に批判的な方でも自分に教えを乞う人に対しては寛容になります。助けてあげようという気持ちになっていきます。

これをやれば人間関係が必ずよくなるというわけではありません。しかし、昔のようにノミ(飲み)ニケーションに頼るわけにもいきませんし、ほっておいても人間関係はよくなりません。管理職やリーダーの方が、教師の人間関係をよくするために必要なことを意識してほしいと思います。
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