先生方の前向きなエネルギーを感じた授業公開

私立の中学校高等学校の授業公開に参加しました。午前中は授業参観をして、午後からは検討会に参加しました。

中学1年生の数学は、グループに問題を割り振って解かせた後、一人ずつ他のグループでその問題の説明の授業を行うというものでした。授業という言葉がいろいろな意味でこの活動を縛っていたように思います。子どもたちは小さなホワイトボードを使って説明しますが、解き方の手順を説明するだけで、問題を解くための方針や考え方は話題に上りません。問題を解く側の視点での、考えの糸口や思考の課程が言葉として聞かれませんでした。ふだんの授業者の授業を再現しているように感じました。
ある問題では、式の中に分数があると意味なく整数を分数に直していました。グループで解いたせいかみな同じおかしなやり方で説明します。質問タイムもあるのですが、質問はほとんど出てこず、おかしな説明は修正されないままで終わりました。あるグループでは質問してもいいですかと声が出たのですが、授業者はコメント欄に書くようにと指示し、話し合いの機会をつぶしてしまいました。
子どもたちのコメントを見ると、よくわかった、上手といった言葉が並びますが、具体的にどのような説明でよくわかったのか、何が上手なのかは書かれていません。形式的にほめ言葉を書いていますが、これでは考えが深まりません。
また、おとなしくしていてじゃまはしないが、真剣に参加していない子どもも目立ちます。聞く側に役割がないし、自分は簡単に解けるので参加する意味がないのです。
グループで問題を解く活動をする場合は、どのような力をつけたいかによって進め方は変わります。しかし、そもそも子どもたちにどのような力をつけようとしているのかが授業からは伝わってきませんでした。今回の形式の活動は、論理的に考え方を説明して伝える力を育てたいときによく使われる方法ですが、すぐに手がついて解けてしまう問題では、説明を必要とはしません。解法の糸口がなかなかみつからない、すぐには解けないような問題を与える必要があります。今回の課題は個人で問題に取り組んで、困ったことがあれば相談するという進め方で十分なレベルのものだったと思います。
子どもたちは考え方を説明することや他者への評価、コメントをする力がついていないと感じました。ただ説明したりコメントしたりする活動をすれば力がつくわけではありません。フィードバックをしたり、修正したりするといった育つための活動が必要です。コメントであれば、「具体的にどこでよくわかった?」「まねできそう?」などと考えを深めるための働きかけや、説明がよりよくなるためのアドバイスを書くといった条件を付け、「参考になったアドバイスを教えて?」と深まるしかけを組み込むことが必要です。形だけでなく、本質をしっかりと押さえて授業デザインをしてほしいと思います。
同じ授業を別の学級でも公開していましたが、子どもたちの様子はかなり異なっていました。グループ隊形のときに机がしっかりとくっついていません。子ども同士の関係が気になります。実際、子どもたちはバラバラで1対1でしか話す姿が見られません。また、男女でのかかわりが極端に少ないようです。また、授業者は気になる行動をとる子どもに対してかかわりすぎるため、教室全体の様子を見ることができません。この状態ならば、無理にグループで活動するよりも、まず子ども同士の関係をつくる活動から始める必要がありそうです。この授業者だけの問題でなく、学級経営の問題でもあります。子どもたち一人ひとりは悪くないので、先生方が子どもたちとの関係、子ども同士の関係を再構築することを意識すれば改善していくとおもいます。

高校2年生の世界史の授業はイスラム世界についての学習でした。この時間は最初にイスラム史に関する知識のクイズをタブレット使って取り組みます。グループ対抗で全問クリアの速さを競いますが、子どもたちは想像以上に楽しんでいました。続いて知識のごく簡単な整理を授業者がポイントを押さえて行った後、イスラム世界は大きく広がっていったが、戦争以外にどんな方法で広がったのかと課題を与え、グループで調べさせました。すぐに子どもたちが教科書をていねいに読み始めたのが印象的でした。いきなりネットで答を探すのではなく、コンパクトにまとまっている教科書を大切にしているのはとてもよいことです。発表も結論だけでなく、どこでわかったか、根拠となる資料の場所を確認します。指名する度に根拠を確認しますが、この時多くの子どもたちが教科書を開いて確認していました。資料をもとに根拠をもって考えることが定着しているのがわかります。2年かけて子どもたちを育ててきたのだと思います。
最終課題は、イスラム世界の転換点を、根拠をもって示すことです。子どもたちは教科書や資料をていねいにみることで、自然に基礎となる知識に触れています。この時間は、この課題を考えるための必要最低限な知識を直接教えることなく、効率的に学ばせる位置づけでした。
主体的に学ばせるためのステップを踏まえた単元構成がしっかりしています。1年時からこのような進め方を続けてきたことで、子どもたちがしっかり育ってきていると感じました。今後どのように伸びていくのかとても楽しみです。

高校1年生の歴史総合はジグソーを使った日本の戦後を考える時間でした。
グループ毎に4つのテーマの担当を決めて、まずテーマごとに集まって考えをまとめます。その際、参考となる資料をクラウドに用意して、必要であれば自由に見られるようにしていました。子ども自身に必要性を判断させるのはとてもよいと思いました。テーマごとの人数が多いため、集まっても直接の話し合いがほとんど起こりません。クラウド上にある友だちのまとめを互いに参考にしながらまとめています。そうであれば、ジャムボードのようなクラウドのツールを使い、グループで整理しながら各自の考えをまとめていってもよかったと思います。
その後、自分のグループに戻ってテーマごとに報告をしますが、まとめを読むだけの発表で質問もあまりでないので、あえて発表をせず、まとめをグループのメンバーで共有して、疑問や質問を聞くことを中心にしてもよいかもしれません。 必ず質問する、まとめの中で自分のテーマとかかわりそうなところを指摘する、 一番大事だと思うところを言い合うといった条件を付けるとよいでしょう。
全体での考えの発表の場面では、授業者が子どもたちの考えを深めたいという気持ちが強く出て、もう一息、いい意見と評価をしていました。時間がなかったため進行を早めたいという気持ちもあったとは思いますが、ここは子どもをつなげながら、子ども同士で評価させたいところでした。
テーマを与えて子ども同士で考えさせるスタイルの授業は、授業者の個性が出やすいので、テーマや細かい進め方を統一しないことが多いように思います。しかし、新カリキュラムを期に教科で話し合って、授業デザインや課題を統一することになりました。自分の個性が出せないことを気にされる方もいたと思いますが、英断だったと思います。授業デザインを共通にしても、子どもとのやり取りなどで授業者の個性や工夫を発揮することができると思います。同じ授業デザインだからこそ、細かい要素がどう授業に影響するのかがよくわかり、互いの授業を見あってよりよいものにしやすいはずです。教科全体の授業の底上げが期待できると思います。

検討会は全員参加の三部構成でした。授業を見た感想をグループで聞き合い、その後教科ごとに集まって教科の授業に対して出てきた意見を共有します。最後に全体で私から講評をさせていただきました。
多くの方が積極的に授業を公開し、参観されました。授業公開に対して前向きな空気を感じます。新学習指導要領が高等学校で今年度から実施ということもあり、新しい授業スタイルに挑戦される方が多かったのが印象的でした。そのためか、授業の進め方が話題となることが多く、どのような子どもを育てたいか、どんな力をつけたいかがあまり話されていなかったように思います。授業の進め方が適切であったかどうかの評価はねらいによって変わります。前提として、個々の授業場面で授業者が目指しているものが共有されている必要があります。
先生方が目指す子どもの姿が完全に一致する必要はありません。多様な考えを認めあうことが大切です。だからこそ、互いの考えを共有し意見を交換することで、目指す子どもの姿を掘り下げていくことが必要です。授業スタイルの進化はその上にあるはずです。私からはこのことをお伝えしました。

授業公開が先生方にとっての学びの場として定着してきているのを感じます。ただ、授業者を批判しているととられることを恐れてか、こうした方がよいのではという、改善につながる意見を遠慮して言わない方が多いような気がしました。忌憚なく意見を言い合える空気をつくることが次の課題だと思います。互いに授業をよくしたいという思いを共有する機会を増やすことが必要でしょう。そのためにも、日ごろから授業を見あって気軽に話し合うような雰囲気ができることを願います。

新しく赴任した方の授業

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。今年度赴任した方の授業を中心に参観しました。

高校1年生体育のテニスの授業では、子どもたちは積極的に授業に参加していました。選択制を取り入れた結果、子どもたちの参加意欲が高まっていると感じます。ここで意識したいのがコートでプレーをしていない子どもたちの活動です。サーブ・レシーブの練習を行っている時、コート外の子どもは単にボールの行方を目で追っているだけです。サーバーのトスやインパクトの位置などは意識して見ていません。また、ナイスサーブ、ナイスレシーブといった声もあまり聞くことがありません。プレーの様子を見ていない子どもも目立ちます。個人競技の場合は仲間のプレーが他人事になりやすいので、プレーしていない時にも役割を持たせ、意識してプレーを見守るようにすることが大切です。タブレットでフォームを撮り合って、互いにフォームを修正するといった活動が必要だと思います。単に練習すればうまくなるわけではありません。上手くなる仕組みを授業に組み込むことが大切です。
全員を集合させて、授業者がポイントの説明を行う場面がありました。子どもたちは最初のうちは顔を上げてよく聞いていましたが、一方的な説明が続くので次第に顔が下がっていきます。ちょっとしたやり取りでよいので、意識的に子どもたちとの対話を組み込むとよいでしょう。
後半はゲームを行いました。プレーしていない子どもも勝負の様子をよく見ています。ボールがインかアウトかといった、勝敗に関係することはよく声が出ていましたが、プレーの質に関する声はなかなか聴くことができませんでした。勝敗ではなく、プレーの内容を意識させることが課題だと思います。授業者が意識してプレーをほめることで子どもたちの視点を育てるようにするとよいでしょう。

高校2年生の数学の授業はΣ記号を使って数列の和を記述する練習でした。
授業者はスクリーンに教科書の内容を映して説明しますが、子どもたちと目が合いません。以前から指摘をしているのですが、なかなか改善されません。一方的に説明するばかりで、どうしても対話をしながら授業を進めることができないようです。他の先生の授業を積極的に観るなど、子どもとのかかわり方を学ぶことを意識してほしいと思います。
数列の和をΣ記号で表現することとその逆の練習をしますが、なぜこのような記号を使う意味があるのかを子どもたちが理解する場面がありません。機械的な練習ばかりで、単にやり方をなぞっているだけです。あまり意味のある時間ではありません。この学習内容が数学的にどのような意味がある、どのような考えや応用につながるといったことをきちんと意識して授業をする必要があります。教材研究とは何をすることなのかからもう一度しっかり考えてほしいと思います。

高校3年生の家庭科の授業は、金銭教育の一環で税金の学習でした。YouTubeなどのネット上の動画を積極的に活用して授業を組み立てていました。所得税や住民税、ふるさと納税など、今後生徒にとって身近になると思われる税について、具体例をもとに扱っていました。ただ、子どもたちが自分で考える活動がなく、わかりやすいとはいえ動画やネットの情報からの一方的な説明を聞いていることが中心です。実際の給与の情報を与え、アルバイトの時と、就職1年目、2年目の手取り金額を計算させて比較させるといった活動をするとよいでしょう。また、教科横断を意識して、ふるさと納税の制度がなぜできたのか、誰にとってメリットがあることなのかを考えさせることも意味があると思います。税を多面的・多角的にとらえることも大切でしょう。

高校1年生の家庭科の授業は調理実習でした。子どもたちは楽しそうに取り組んでいるのですが、全体的にテンションが高めなのが気になります。作業している子どものテンションが高いと刃物で手を切ったりしやすいのですがその心配はあまりなさそうです。どちらかと言えば作業していない子どものテンションが高いようでした。全員が一度に作業できないため、手持ちぶさたな子どもが調理と直接関係ないことをしゃべっているのかもしれません。仲間の作業を見守ったりアドバイスしたりできるとよいでしょう。そのためには、工程ごとに意識することや目標を明確にすることが必要です。最終的な目標ではなく、工程ごとに時間や質の目標を設定させるとよいかもしれません。

中学1年生の数学は問題演習の場面でした。既に問題を解き終わった子どものテンションが高いことが気になりました。時間を多く与えれば、進度の差が広がります。その差をどうするかを考えておくことが大切です。わからない子どもに教える役目を与えるのも一つの方法ですが、自分から教えに行かせると上から目線になりやすく、テンションがどうしても上がってしまいます。わからない子どもが自分から聞きに行くことが原則です。聞かれれば教えることを優先しますが、時間が余った子どもに取り組ませる問題を事前に用意しておくとよいでしょう。個別に演習するのではなく、グループで難しめの問題を解く(背伸びとジャンプ)のも一つの方法です。一人ではできない問題を考えることで互いにかかわり合う必然性につなげていきます。
授業者は一部の反応する子どもにかかわりすぎる傾向がありました。先生に声をかけたり、質問したりする子どもを好ましく思い、相手をしたくなる気持ちはわかりますが、子ども同士のかかわりが薄れていきます。また、先生の注意を引こうとテンションを上げることにもつながります。個別に対応するのではなく、子ども同士をつなげることを第一に考えてほしいと思います。

中学2年生の国語はプレーゼンテーションの時間でした。新課程になって発表形式の活動が増えましたが、目的が何かが明確になっていないことがよくあります。発表の目的がはっきりしなければ、目標も定まりません。結果、評価も具体性がなくなります。
授業者はずっと発表者を見ていました。その理由は、発表を評価するためですが、発表場面では発表者一人を除いては、全員が聞き手です。大多数である聞き手の活動を意識することがとても大切です。発表にコメントをすることが聞き手の課題として与えられていますが、上手、うまいといった感覚的なものになっていました。ただ聞いて書くだけでは、力はついていきません。発表ごとに評価を共有して、それをもとに自分が発表する時に意識すべきことを考えさせることが必要です。この場面で威力を発揮するのがタブレットです。リアルタイムにコメントを共有し、必要に応じて授業者が整理することでコメントの質を上げることができます。また、1回発表して終わりでは、評価を次に生かすことができません。グループで事前発表して修正するといった活動が必要でしょう。
もう一度発表の目的、目標からきちんと整理して授業を組み立ててほしいと思います。

中学3年生の理科の授業は実験でした。
グループでの実験は、一部の子どもが仕切って他の子どもが見ているだけになりがちです。全員を主体的に参加させるための仕掛けが必要になります。モデル化する前の実験であれば、結果を取り敢えず予想させるとよいでしょう。自分の立場ができると、結果が気になるので、主体的に取り組むようになります。モデル化ができているのであれば、モデルをもとに論理的に結果を予測させるとよいでしょう。また、いくつかの仮説を持たせることができていれば、仮説に基づいて結果はどうなるかを考えさせてから実験に取り組むとよいでしょう。いずれにしても、実験を行う前に何らかの予測をすることが大切になります。
授業者が過去の実験と比較することを指示していましたが、3年生であれば、子ども自身で比較することに気づかせたいところです。仮説が正しいかどうか知るためにどのような実験が必要かを常に問いかけることが大切です。

中学3年生の家庭科はフェアトレードの授業でした。
フェアトレードの活動を紹介した上で、消費者にとっては値段が高くなるといったデメリットがあることも教えています。その上で子どもたちに、フェアトレードの商品を選ぶか選ばないかを問います。授業者は素直な気持ちで選ぶようにと指示しますが、ここで気をつけなければいけないのは道徳と同じで、授業者が子どもの考えをよい悪いと評価をしないことです。子どもの意見を授業者がよいと判断すれば授業者がそういう意見を言ってほしかった、そういう考えをしてほしいと思っていると子どもは感じ取ります。この授業でも、授業者はある子どもの意見を、無意識に「いい意見」と評価してしまいました。他の子どもにその意見についてどう思ったか、納得したかを問いかけて、子どもたち自身で評価判断させたいところでした。クラウド環境があるので、クラウド上でみんなの意見を見てどう思ったか、自分の考えが変わった、変わらなかったかを振り返るような活動を組み込むとよいでしょう。

この先生方が赴任されてから半年余りが過ぎました。どの先生方も着実によい方向へと変化しています。授業改善に前向きに取り組んでいただけているのがわかります。それぞれの課題を明確にして、一つずつクリアしていってほしいと思います。
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