先生方の課題の相談

私立の中学校高等学校を訪問しました。この日は、今年度赴任された先生との面談が中心でした。

高校数学の担当者は、授業進度について困っていました。新しいカリキュラムで従来と比べて配当時数が減っているため、授業がなかなか進まないというのです。気持ちはわかるのですが、今までと同じ授業構成の延長では上手くいくはずがありません。まずは、単元内容を精査し、絶対に外せない事項が何かをしっかりと押さえる必要があります。また、授業者がすべて説明するという発想も捨てる必要があると思います。子どもたちにその気があれば、家庭でYouTubeを視聴して学ぶことも選択肢に入ります。学習をどう組み立ててればよいかを、子どもたち自身で考えられるようにすることを目指すとよいと思います。そうすることで、限られた授業時間でも、子どもたちはしっかりと学んでくれるはずです。一人ひとりの特性を活かし、主体性を引き出すことを意識してほしいと思います。

中学校の理科の担当者は、天体の学習などで空間認識が苦手な子どもたちにどう対応するのかで悩んでいました。実物を使って体験的に取り組む、CGを使った動画を視聴する、子ども同士で説明し合うなどいろいろな取り組みが考えられます。教師がどのように学習させるかを選ぶのではなく、多様な活動ができる環境を準備し、子どもたちに選択させるというのも一つの方法です。教師一人ですべての子どもに対応しようとするのではなく、子ども自身で自分にあった学習方法を選択できるようにすることが大切です。子どもの学びの環境をつくることがこれからの教師の大切な役割になっていくと思います。

体育科の先生からは、保険の授業が難しいということが課題として挙げられました。与えたい知識が一定量あるため、どうしても教師の説明中心となり、子どもの主体性を引き出すことが難しいようです。高校の体育では選択制を取り入れていることもあり、子どもたちのやる気を上手く引き出せているので、保健の授業とのギャップを強く感じているようでした。子どもたちの主体性を引き出すためには、まず授業の中で子どもたちを認める、ほめる場面が必要だと思います。知識を教えるのではなく、自分たちで必要な知識を獲得してその内容を発表し合うことで、互いに認め合う場面をつくることをアドバイスしました。

中学の国語の担当者からは、グループ活動に関しての課題を相談されました。グループで子どもがかかわることが上手くできない。特定の子どもの意見でまとまり、考えが深まらない。このようなことで困られていました。まずはグループで一つの答にまとめないことを原則にしてほしいと思います。大切なのは一人ひとりが自分で納得する答を見つけることです。そのために、友だちの考えを聞き、そして自分の考えを深めるのです。とはいえ、いきなりグループにしてもそのような活動になるわけではありません。まず他者とどのようにしてかかわればよいかを、教師が全体の場でやって見せる必要があります。教師主導で考えを深める過程に気づかせ、実際にグループで実践することを繰り返して少しずつできるようになっていくものだと思います。

情報の担当者は、教科としての情報の重要性がこれから増していくことを肌で感じているようでした。データサイエンスという言葉を耳にする機会も増えています。入試科目に取り入れる大学も増えてくることも予想されます。よい意味でプレッシャーを感じられているようです。
プログラミングの実習時間を確保することが難しいことに悩まれていました。情報の内容は多岐にわたっており、限られた時間の中では実践的なプログラミングをする時間がなかなか取れないようです。対応の一つの方法として、教科横断という発想があります。教科の中でプログラミングを自然に使う場面をつくるのです。例えば、物理で学習した内容をシミュレーションの形でプログラミングをするといったものです。アプリケーションを利用するのではなく、ソースコードからプログラミングするのです。もちろん一から作る必要はなく、テンプレートのソースコードをもとにつくっていけばよいのです。単純な問題演習よりも、物理の法則の意味もよく理解できると思います。数学の関数や化学反応の平衡状態のシミュレーションなど、可能性はたくさんあると思います。社会科などの統計資料をプログラミングして分析したり、グラフ化したりするといったことも面白いと思います。教科を越えてアイデアを出し合えると非常に面白い活動ができるのではないかと思います。こういった活動を探求の時間に選択させても面白いと思います。是非前向きに検討してほしいところです。

中学校の家庭科の担当者とはこの日見た、この先生の授業について話をしました。
冷蔵庫にどのように食品を保管するのかをグループで考える授業でしたが、子どもたちがあまり根拠なく話している印象を持ちました。子どもたちが考えるための仕掛けが必要だと思います。「ライフスタイルに合わせて1週間分の買い物を考え、冷蔵庫をどう活用するとよいかを考える」というように、少し工夫した課題にしてみるとよいでしょう。ネットで取扱説明書を調べて、必要となる冷蔵庫の大きさを考えたり、食品の保管方法を考えたりするといった活動も面白いでしょう。
また、朝の学活で最初の挨拶のあと子どもたちがiPadを見続けていることに困っているという相談もありました。あまり叱りたくないし、注意をしてもすぐに視線がiPadに向かってしまうのでどうすればよいかわからないようです。大切なのは、子どもたちに先生の顔を見たい、話を聞きたいと思ってもらえることです。挨拶の時に全員と目を合わせて、元気な顔を見られてうれしいことを言葉にして伝えるとよいでしょう。顔を上げない子どもには、「〇〇さん、元気?顔を見せて」と声をかけ、「〇〇さんの元気な顔が見られてうれしい。ありがとう」といった声をかけるとよいでしょう。注意をして従わせることよりも、子どもたちとよい関係を築くことを優先することが基本です。

中学校の数学の担当者には、前回参加した授業のフィードバックをさせていただきました。
グループ毎に振り分けられた問題を解き、それぞれが他のグループに出向いて教師として説明するという活動でした。授業者は一つひとつの活動を何のためにするのかを意識できていませんでした。子どもが他の子どもを教えるというアイデアが優先されて、活動することが目的化していました。グループで一つの問題を解く場面では、すぐに解けて説明のやり方を共有していましたが、すぐに解ける問題では、そもそも友だちの説明を聞く必然性がありません。わからないことがわかるようになる場面があってこそ、その問題の本質が見えてきますし、互いに額を寄せて考える意味がでてきます。子どもたちにどのような力をつけたいのかをしっかりと考えて授業設計することをお願いしました。

高校の家庭科の担当者は、動画やインターネットなどを使って説明することに積極的に取り組んでいます。わかりやすい授業にはなっているのですが、教師主導になりがちで、子どもたちが受け身の時間が多いように感じます。自分で調べて理解したり、考えたりするような授業構造をつくるとよいでしょう。例えば、金銭教育などで小中学生向けに啓発動画をつくるといった活動をするといったものです。グループごとにテーマを変えて、互いの動画を見合うことで必要な知識を網羅することも可能だと思います。

中学校の社会科の授業を参観しました。
子どもたちに資料やインターネットを活用して調べたことをもとに考えさせる場面でした。課題を提示し作業を指示した後グループにします。この時子どもたちのテンションがすぐに上がります。この場面ではまず個人で調べるので、子ども同士ですぐに話す必然性はあまりないはずです。どのようにして調べるとか、分担について話をするのならわかりますが、そのような会話は聞かれません。テンションを上げている子どもは、課題に向かうのではなく友だちとおしゃべりを楽しんでいるのです。しばらくすると落ち着いてくるのですが、子どもたちは個人で作業を続け、友だちとかかわることがほとんどありません。中には、友だちの手元を覗いたり声をかけたりする場面もあるのですが、グループの他の子どもがそこに加わることはありません。授業時間のほとんどが個人作業で終わりました。ただ調べるだけでは、考えはなかなか深まりません。中には行き詰まって手が止まっている子どももいます。授業者は子どもたちの様子をよく見ていて、状況も把握していたようですが、作業が終わるまで活動させようとしていたようです。グループとして活動が成立していれば時間をかけてもよいのですが、今回のように個人作業にとどまっている場合は、一旦作業を止めて、かかわりを生み出すための刺激を与える必要があります。困っていることや疑問に思ったことなどを全体で共有し、考えるためのきっかけや他者と話す必然性をつくることが求められます。グループ活動をするときには、子どもたちの状況に応じた対応のオプションをいくつか考えておく必要があります。このことを意識するようお願いしました。

今年度赴任した先生方も学校に慣れてきていることを感じました。自分の課題を意識して少しずつ変化してきている方、課題は意識できているが次どうすべきかが見えずに苦しんでいる方といろいろです。その一方で、毎日の授業の中で目先の課題にとらわれすぎているようにも感じます。中には、課題意識の薄い方もいらっしゃいます。いずれにしても、この学校が子どもたちにどのような力をつけることを目指しているのを意識して、自分の教科で目指すべきことは何かを再度確認してほしいと思います。
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