新学習指導要領への対応が意識されている

私立の中学校高等学校で公開授業の参観を行いました。

この日は高校1年生と中学校を中心に参観しました。
高校1年生は4月と比べて子ども同士の関係がよくなっていました。この学年をメインで担当している先生方が、新学習指導要領を意識して子ども同士のかかわりを増やそうとしているようからでしょう。授業者が意図しない場面でも自然に相談し合う場面をたくさん見ることができました。しかし、授業者が説明していてもそれを無視して相談する姿も見られます。授業者はそれに気づいていて、子どもが主体的にかかわっているからとあえて無視しているのでしょうか?もし、そうであれば、その子どもたちの相談内容を教室全体に広げて全員の課題とすることが必要です。そうでなければ、自分たちで考えているのなら他者の話を聞かなくてもよいというヒドゥンカリキュラムになってしまいます。合わせて、こういった授業では、黙って座っていてもその多くが授業者の話を集中して聞いていない傾向がありました。厳しい言い方ですが、子どもたちが既に授業者を見限っているようにも見えます。この先生の話は聞く価値がない、そう判断しているのです。以前であれば、露骨に寝そべったり、そっぽを向いたりよそ事をしたりしているところですが、子どもたちがわきまえておとなしくしてくれているので授業は成り立っているように見えてしまうのです。講師の方や経験が少ない方の授業に見られる傾向ですが、それ以前に子どもと視線を合わせない、コミュニケーションを取らないといったことも気になります。目線が教科書に向いたままだったり宙に泳いだままだったりして、子どもと目を合わせないのです。子どもたちの状況に応じて授業をつくっていくという姿勢が感じられません。教師としての基本的な部分なので、このことをどう伝えて改善するかが大きな課題です。
また、子どもたちがグループ活動などでかかわれるようになったのはよいのですが、全体での発表の場面の様子が気になります。常に授業者に向かって発表し、聞いている子どもたちも発表者を見ようとしません。もっと言えば、発表を受けて授業者がすぐに説明したり、板書して整理したりするので仲間の発表を聞く必要がないと思っているように見えます。こういう状況が続くと、グループでの話し合いの結果が授業に反映されないので、グループ活動と全体での追究場面の連続性がなくなってしまいます。グループ活動は取り敢えず考えを発表するだけの場になってしまい、楽しく雑談する息抜きの時間になってしまいます。その傾向は既に現れ始めていて、グループ活動の後半に子どもたちのテンションが上がる場面に何度か遭遇しました。発表に対して、その考えに対してどう思うかを聞いたり、同じ考えの子どもにも発表させたりして子ども同士をつなぎ、考えを整理し深めることが必要です。
この日相談した1年生の学年主任も子どもをつなぐことを課題として感じていました。意見ならつなぎやすいのですが、正解がはっきりある問題の時が難しいと感じられていました。単に正解の確認をするのであれば、「正解!」「他の答は?」と授業者が正誤を判断するのではなく、「あなたは?」「あなたは?」と何人もテンポよく指名して「他の答ない?これでいい?」と子どもたちに判断を委ねるとよいでしょう。グループで相談して答を考えたような場合は、答そのものではなくどのようにして考えたか、どんなことが困ったかといった過程を聞いてつないでいくとよいと思います。
また、新学習指導要領になって、主要な教科で単位数が減ったため、授業が進まないことにも頭を悩ませていました。基本的に授業時間内では教室でなければできない活動に絞り、それ以外は個別に学習するという方向で考えています。個別学習のための学習課題や資料等をクラウド上に準備し、自由に使えるようにしていますが、それを使って主体的に学習できる子どもと、できない子どもに分かれてしまっているのです。子どもたちはタブレットを使いこなすことができます。そこで、家庭での学習をクラウド上で行うようにすることを提案しました。リアルタイムで互いの学習状況を共有するツールもこの学校では導入されています。こういった機能を上手く使って、子どもたちがクラウド上に集まって、課題に取り組んだり、相談したりできる時間と場所を設定するのです。決められた時間にクラウドにつなげば友だちと一緒に学習できるようにすることで、家庭学習を孤独なものから協働的なものに変えるのです。技術的問題も多少はあると思いますが、是非実現してほしいと思います。

高校1年担当の先生方は、新学習指導要領に対応するために様々な工夫をされています。例えば国語では、定期試験の問題を授業で扱っていない文章を題材にしています。私は読解力をつけるためには読んだことのない文章で試験をすることを提案していますが、実際に実行するとなると、とてもたいへんであることもよくわかっています。この変革を決断した先生方に素直に敬意を表します。高校1年を中心に学校内に新しい波が広がって行くことが期待されます。

中学校では、学校に慣れてきたのか、1年生がとても楽しそうに友だちとかかわる姿が見られました。休み時間によくしゃべったり、遊んだりしていますが、授業が始まってもしばらくごそごそと落ち着かない場面もありました。たまたま見た英語の授業で、開始の挨拶が終わっても子どもたちの声が収まらず、どうなるかと心配になりました。ところが授業者がこの日使う教材の入った袋を手にした途端に、子どもたちが一気に授業者の手元に集中しました。この切り替えができるのは素晴らしいと思いました。授業者の一挙手一投足に集中しないと授業についていけないことを子どもたちはよくわかっているのです。子どもたちの持つポテンシャルの高さを感じるとともに、それを引き出す教師の力量の大切さを改めて感じました。
中学校では、よく反応してくれる子どもが一定数います。授業者としては、その子どもたちをうまく活躍させることで、授業を進めやすくなるのですが、その子どもたちとだけでやり取りをしてしまう傾向があります。よく反応する子どもは教師に相手をしてもらうとテンションが上がる傾向があります。授業者もそれにつられてテンションが上がり、しゃべる量も増えていきます。その一方でそのテンションについていけなくなって、授業に参加できなくなる子どもが増えていきます。これはとても危険な状態です。子どもの発言を全体で共有し、全員が参加することを意識した授業づくりが大切です。
子どもたちが落ち着いて授業に参加しているのですが、その一方でこの授業内容でよいのかと思う場面も多くありました。
例えば、穴埋め式のワークシートを配って、その穴埋めを授業者が解説しているような授業がありました。先生が一方的に大きな声で話しているのですが、その説明についていけない子どもの姿が見られました。説明がよくわからなくても、穴埋めの答が得られればとりあえず困らないので、その答をワークシートに書き込むことに専念してしまいます。子ども自身で考え判断するような場面がないのであれば、質のよい学習動画を見せる方がよほど効果的です。
中学1年生の数学では、自然数、整数、(実)数が四則演算について閉じているかどうか考える問題を扱っていましたが、これをきちんと考えて整理するのは中学校の範囲ではとても難しいことです。授業者は、反例を使って閉じていないことを説明しますが、閉じていることの説明は難しいので、感覚的に「なりそう」で済ませます。中学校の学習範囲で子どもたちが納得できるような説明は、何を根拠にすればよいのかといったことを考えていません。また、それ以前に説明を考えるための根拠となる、自然数や、整数、数の定義の難しさと、それを中学生レベルでどう説明するかも意識できていませんでした。そもそも、これらの正確な定義を知らなかったのです。厳しい言い方ですが、授業者が定義をきちんと理解していなければそれを子どもたちに納得できる説明ができるはずもありません。中学校では数を数直線と対応させて教えます。その意味を授業者が理解していれば、子どもたちの感覚を少しでも数学的なモデルに落とし込むことが可能になったはずです。その方法でなければならないというのではありませんが、そういった選択肢が増えることで、子どもの状況に応じた授業の進め方の幅が広がるのです。
中学2年生の家庭科の授業では、幼児の心と体を成長させるための遊びを考えさせようとしていました、授業者は子どもたちに考えさせることを大切にしていますが、ただ考えなさいでは考えることはできません。考えるための手掛かりになるものが必要です。家庭科では子どもたちの過去の経験が活用できることがよくあります。自分が小さい時にどんな遊びをしてきたかをたくさん出させ、それがどのような成長につながったかを考え整理するというステップを先に踏むとよかったと思います。

学校全体でICTの活用は進んでいますが、ただ使うのではなく何をねらっているのかを明確に意識する必要があります。例えば、アナライザーソフトの使い方です。このソフトはこちらが準備した質問や問題を提示して、子どもが端末から選択肢を選ぶと、どの回答がどれだけあったかをその場で確認できるというものです。国語の歴史的仮名遣いの読みで使っている授業がありました。前回の授業で子どもたちが思いのほか歴史的仮名遣いを読めなかったので、確認のために歴史的仮名遣いを表示して、その正しい読みを選ばせるというものでした。問題を表示してから回答まで、かなりの時間(10秒以上)待つように設定されていましたが、これは知識の問題で、時間を与えて考えさせてもあまり意味はありません。覚えていればすぐに答えられますし、覚えていなければ感で選ぶしかありません。時間をかける意味はありません。また、選択肢を見て答を見つけることができても読めるかどうかはわかりません。文字による選択肢はちゃんと読めるかどうかの確認には向いていないのです。フラッシュカードでテンポよく声を出させる方が定着を含めて効果的です。ねらいと効果の関係を意識してICTを活用してほしいと思います。

新学習指導要領への対応について、想像以上に真摯に取り組んでいることを感じました。この1年で多くの実践とノウハウが溜まることが期待されます。次回の訪問も楽しみです。

授業観や意識の差が課題として浮かんでくる

私立の中学校高等学校で、前回お会いできなかった方新人と高校一年の学年主任と懇談を行いました。

この日懇談した新人の方の多くも、自分の母校や以前の勤務校での教育観、授業観から抜け出すことができていませんでした。また、教職経験はあっても、新学習指導要領やこれからの教育の方向性に関する知識が乏しいことと、それにもまして、そういった知識がなくて教壇に立っていることに対して疑問を感じていないことがとても気になりました。当たり前のことですが、常に学び続けることが教師と呼ばれるための最低条件だと思います。学ぶ姿勢を持っていただくことを強く願いました。

技能教科の先生とは、子どもに考えることをさせたいという思いとその実践についてお話をしました。子どもに疑問を持たせようとしているのですが、子どもから疑問が出たところで先生が説明してしまうようです。疑問を持ってもすぐに先生が説明するのでは考えることにつながりません。疑問の答を子どもが見つけるための活動を工夫することが大切です。実技教科ですので、疑問に関連した体験を子どもがしているかもしれません。そういう体験を聞き合うような場面をつくるとよいでしょう。

主体的な探究活動を重視するコースの主任との懇談では、新しいコースであるが故の子どもや保護者の不安が話題になりました。
スポーツで全国トップレベルの子どもがいたりして、得意な分野を持っている子どもが一定数います。少人数集団であることと相まって、互いにけん制し合う空気が漂っているとのことです。教室の緊張感がプレッシャーとなり、一部の子どもがこれからの学校生活に不安を感じているようです。新しい環境に慣れてくれば変わると思いますが、不安を言い合える関係づくりや、上手くいかないこと、苦手なことを共有できる場づくりを意識してほしいと思います。
保護者の不安に関しては、学校や先生を信頼してもらうことが解決の第一歩になると思います。保護者が不安を口にした時に、「大丈夫ですよ」と、まずはどっしりと構えて接することが大切です。その上で、「子どもたちや授業の様子を見に来てください。いつでも大歓迎です」と情報をオープンにする姿勢を見せるだけでも安心してもらえると思います。不安の原因のひとつには新しいコースのため情報が乏しいことがあげられます。子どもたちや授業の様子、先生方の考えを積極的に発信することが大切です。期待が大きいからこそ不安も大きいのです。不安を訴えられる前に、こちらから情報を発信していくことで、信頼を得られると思います。

この日は、たまたま講師の先生の授業が見る機会が多かったのですが、驚くほど古い授業観のものでした。
拡声器を使って大きな音で一方的にしゃべっていたり、子どもを見ずに下を向いて教科書を読んでいたりと、子どもとコミュニケーションをとろうとしない先生が多く見られました。ワークシートで子どもの手が止まっていると個別に教えに行く先生もいます。どうしても先生主体の一方的に教える授業観から抜け出ることができないようです。
グループ活動を取り入れても、子どもたちにかかわる必然性がない課題のため、手遊びして他とかかわらなかったり、雑談したりする子どもが目立ちました。同じ子どもたちでも、授業者が変わればしっかりとかかわる姿が見られます。子どもたちの問題ではなく、グループにする意味がよくわっておらず、グループ活動を活かすための技術がない先生の問題なのです。
こういった先生の意識を変えることが必要です。この学校が目指している方向を何とかして共有することが、喫緊の課題として浮かび上がってきました。

最後に1時間ほど新人の先生全体で話し合う機会がありました。
この学校に赴任してきて感じていることを2グループで話し合ってもらいました。いろいろと疑問や困りごとが出てきたのですが、それを以前からいる先生方に聞いたり相談したりしていないことに驚きました。自分のこれまでの経験と比べて、この学校の服装指導について疑問を持っている方も複数いました。しかし、その疑問をこの学校の他の先生にぶつけようとはしていないのです。生徒の実態に応じて、学校ごとにいろいろな考え方や対応の仕方があります。これまでの少ない経験を絶対視し、似たような学校での勤務経験がある新人同士で共感し、不満を言い合っているだけでは何の解決にもなりません。積極的に他の先生方とかかわり、自分の感じている疑問を素直に伝えることから始めることをお願いしました。

先生の授業観や意識の差が課題として見えてきました。この差をどうやって埋めていくかが今年前半の大きな課題となりそうです。

新人、学年主任と懇談する

4月に私立の中学校高等学校で新人と新高校一年の学年主任と懇談を行いました。

新人の先生方の多くは教職経験のある方でしたが、それ故か今までの授業観に縛られていて、新しい学習指導要領の考えがまだ自身の中に落ちていないようでした。
「主体的で対話的で深い学び」や「個別最適な学び」について質問やお話を少しさせていただきましたが、具体的な授業イメージを持てていないようでした。学習指導要領や中教審の答申などについてもう一度目を通すことをお願いしました。

何人かとは授業を見ながら、どのような点がポイントとなるかをお話ししました。子どもに発言させて受容してもその後授業者が一方的に説明してしまう授業では、子どもたちが発言者を見なくなっていることに気づいていただけました。子どもたちは授業者の説明を聞いて板書を写せば困らないので仲間の発言を聞かず、せっかくの発言も対話につながらず、深い学びになっていかないのです。発言を他の子どもにつなぐことで、他者とかかわりながら考えを深める経験を子どもたちに積ませてほしいと思います。

学校全体で振り返りを大切にしていますが、その質をどう高めるのかを課題と感じられている方もいらっしゃいました。一人ひとりの振り返りに細かくコメントをすることは先生にとって負担がどうしても大きくなります。よい気づき、意識してほしい部分に線を引いて簡単な記号(〇や?)を書く程度にして、あとは子どもたち自身にその意味を考えさせるとよいと思います。

実技教科で、参加意欲のない子どもへの対応に困っているという相談もありました。グループでの活動などで、その子どもの協力がなければ困る場面を意図的につくり、活躍する場面。仲間から認められる場面をつくることを意識してはどうかとアドバイスしました。

高校1年の学年主任との懇談では、子どもたちのかかわり合いが話題になりました。中学校時代の受け身の感覚を引きずっているのか、「相談して」と指示されたり、「話してもいいよ」と許可されたりすれば仲間とかかわることができるのですが、自分から主体的にかかわることができないようです。高校ではどんなことが求められるのかを、オリエンテーションでしっかりと伝えて、学びに対する姿勢を変えるよう働きかけることが必要です。特に、わからないことを人に聞けることがとても大切で素晴らしいことだとどの子どもも思えるようになってほしいと思います。
子どもをつなぐことや、子ども同士をかかわらせることが苦手な先生も一定数存在します。しかし、子どもが育ってくれば、どんな先生の授業でも、自分たちで主体的に仲間とかかわれるようになります。無理に一部の先生を変えようとするよりも、子どもを育てることを優先することをアドバイスしました。

子どもたちの進路に関して、従来の価値観による偏差値指向の進学意識をどう変えるかが話題になりました。頭からその考えを否定しても、子どもたちや保護者の意識は簡単には変わりません。一年生の内にこれからの社会の変化を見据えた進路指導をすることが大切です。将来の社会がどうなっているかを想像させたり、この10年ほどで大学のカリキュラムやその周辺で起こっている変化を調べさせて理由を考えさせたりすることで、どう自己実現していくかを考えるきっかけにするとよいと思います。進学もその延長線上で考えることで、目先の消費者的利益を求めるものではなく、自己実現のために何をどう学んでいくのかを意識して選択することができると思います。

この日お話したどの先生からも前向きな意欲が感じられました。先生方の目指すベクトルが揃ってくれば、学校が前に進むための大きな推進力となっていくと思います。

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