授業参観とアドバイス(2日目)
私立の中学校高等学校で授業参観とアドバイスを2日間行いました。その2日目です。
中学1年生の理科の授業は岩石の分類の場面でした。 与えられた岩石を子どもたちが観察し、その特徴をまとめます。授業者が子どものレポートを選んでスクリーンに映し、どの岩石を観察したものかを考えさせます。子どもたちは興味を持って取り組みますが、自分の結論が出ればそこで動きが止まります。答合わせになるとまたエネルギーが上がりますが、これではクイズと同じです。興味づけの活動としてはよいのですが、あまり時間をかける意味はありません。せめて、子どもたちに解答の根拠を明確にさせることが必要だと思います。 その後、子どもたちの発言から観察のポイントを先生がまとめようとします。「何で見分ける?」という発問に対して、「色」「形」といった言葉が返ってきましたが、それを他の子どもにつないで焦点化することができませんでした。続いて、再度同様の活動をしますが、視点が明確にならいままで、深まりませんでした。観察の発表の時に、「同じ岩石の観察結果を比べて、どの視点で見ているかを子どもたちに考えさせる」、「出てきた視点で他の岩石を観察してみる」といった活動をしながら視点を焦点化していくことで岩石の観察の視点を育て、視点が異なれば分類も異ってくることに気づかせるとよかったと思います。 高校2年生の生物はテントウムシの調査のプロジェクトで、子どもたちにデータを見て気づいたことは何かを発表させる場面でした。子どもたちが考えをまとめている時に、授業者は説明を追加します。様子を見て補足が必要だと感じたのでしょうが、作業中に説明してもなかなか伝わりません。一旦作業を止めてから補足するか、わかりやすく伝えるために、最初に指示を整理して板書しておくといったことが必要でしょう。 発表する子どもたちは、先生に向かってぼそぼそとしゃべり、授業者は自分の求める答に誘導しようと質問をします。子どもに対して、発言はみんなに伝えるのだということを徹底する必要があります。そして、発言者に対して授業者が質問をするのではなく、他の子どもに「どう思うか?」、「質問はないのか?」、「あなたとの考えとの違いはないか?」とつなぎながら全体で考えを深めていくことが大切です。 子どもたちの考えを互いに深めるためには、授業者が意識して子ども同士のかかわりをつくることがポイントです。 高校1年生の現代文は、井上ひさしの「ナイン」の導入の授業でした。ナインでは登場人物の野球部時代のポジションが人間関係にも影響しています。しかし、一部の生徒、特に女子は野球のことに詳しくないので、本文に入る前に守備(ポジション)と攻撃(打順)のそれぞれの役割とその関係性について理解を深めるための活動を仕組んだようです。守備位置と打順、それぞれどのような人が向いているのかを考えさせました。女子の動きが少し悪いのですが、まわりとかかわることで少しずつ考えを持ち始めます。中心人物がバッテリーなので、投手と捕手に時間をかけて考えを引き出します。授業者は子どもたちから出てくる「投手⇒メンタルが強い、スタミナがある、器用」「捕手⇒視野が広い、考える力ある」といった言葉をもとに考えを深めようと「どうして?」と聞き返しますが、子どもたちからはなかなか答が出てきません。野球について詳しくない女子がいることも考えると、「どういうことかわかる?」とつないで、子ども同士で説明させて考えを深めていくとよかったと思います。 とはいえ、本文に入る前に、作品を読むための知識や視点を持たせようというのは面白い発想の取り組みでした。子どもたちの本文の読み取りがどのようになってゆくのかとても楽しみです。 高校2年生の化学は、中和滴定の実験でした。 授業者は全員の視線が自分に集まってから子どもたちへの指示を始めていました。授業規律をつくる技術は以前と比べて格段に進歩しています。 滴定の指示薬に何を使うかを問いかけましたが、子どもたちはあまり反応しません。「指示薬とはどういうものか」、「どういう特性が求められるのか」を子どもたちが理解できていないように見えます。過去に学習したのであれば、そのことを復習しておくことが必要です。そうでなければ、まず、どういう特性を持ったものが指示薬として優れているのかを考えることから始めなければなりません。スモールステップを意識してほしいと思います。 「実験の手順」「実験器具の操作方法」「測定の読み取りの注意」の説明を一気に進めます。子どもたちが情報を整理する時間がありません。また実験の説明の前に、何のための実験なのか、何がわかればよいのかという、目的目標を明確に押さえておくことも必要です。一連の説明を構造化し、「目的」「目標」「手順」「操作」などとラベリングをして、ブロックごとに確認しながら整理して進めるとよいと思います。 中学3年の理科の授業は、地球の自転と公転に関してグループで調べたことの発表場面でした。 気になったのが、子どもたちが先生に向かって発表していたことです。発表は仲間に向かってすることが原則であることを押さえておく必要があります。スライドを使って調べたことを説明していきますが、例えば、恒星日と太陽日の違いは4分だという結論だけを発表して、なぜそうなるのか、それがどういう意味があるのかといったことには触れません。この活動が単なる調べ学習になっていて、疑問を持ったり、より深く探求したりすることにつながっていませんでした。聞いている子どもたちも疑問を質問しようとしません。スライド等の発表準備の前に、中間発表を行い、納得できないことや疑問をぶつけあってブラッシュアップする活動を入れるとよいと思います。 高校の現代社会の授業では、中間発表を通じて探求の内容をブラッシュアップする場面でした。 グループ内で担当を分けて、各グループの同じ担当同士で集まって作業をします。途中で調べたことや自分の考えを発表するのですが、聞く側に「発表者をうならせる質問」をすることを課していました。「うならせる」というキーワードが聞く側の子どもたちの姿勢をとてもよいものにしているようでした。前傾姿勢で発表者を食い入るように見ています。子どもたちの考えを深めさせるためにはこういった工夫が大切であることを実感させられました。 先生方の授業のレベルや段階は様々ですが、どなたからも授業をよりよいものにしていこうという意欲が感じられました。こういった授業に対する前向きな姿勢が学校全体に広がりつつあるのを感じます。ただ、一部の先生を除いて、他の先生の授業を積極的に見ようとしないことが残念です。授業を見あってワイワイ楽しく語り合える雰囲気を醸成したいものです。 授業参観とアドバイス(1日目)
私立の中学校高等学校で授業参観とアドバイスを2日間行いました。その1日目です。
社会科の先生からは、アパルトヘイトと中東問題の共通点を考えさせる課題を与えたところ、考える手がかりがなくて子どもたちが苦しんだことについて相談されました。考えるためのヒントとして、観点を具体的に与えて整理することを指示したそうですが、子どもたちを誘導しているように感じ、苦しい展開になったそうです。まずは、子どもたちが苦しんでいるのは考えている証拠だとポジティブにとらえることをアドバイスしました。その上で解決策を与えようとするのではなく、どういうことに苦しんでいるか、何に困っているのかを全員で共有することをするとよいでしょう。困っていることを明確にすることで、次に何をすべきかに気づいていくはずです。ねらっているゴールとのギャップが大きいのであれば、子どもたちの実態に応じて課題をいくつかの段階に分けることも必要だと思います。今回であれば、最初にアパルトヘイトと中東問題についてこれまでに学習したことを自分たちの言葉で整理し、考えるための土台をつくる時間を取ると、整理する視点が明確になったと思います。 観点別評価ついても相談を受けました。「これまでのテスト形式では、『知識・技能』以外は評価しづらいので、レポートを中心にしようと考えているが、頻繁に提出させることは子どもも教師も負担が大きいので日常的な評価をどうしようか」という悩みです。レポートに頼りすぎると、提出できない子どもの評価ができなくなることも問題です。レポートにこだわらず、毎回の授業での活動をそのまま提出させることを提案しました。タブレット上で作業したのであればそのまま、紙のノートを使っているのであればその日に書いたことを写真に撮り、振り返りといっしょにデジタルで提出させるのです。自分の考えをなかなか外化できない子どもには、活動で調べたもの、参考にしたものをそのままペーストして、「役に立った」、「立たなかった」、「よくわからなかった」、「ここが参考になった」といったコメントを付け加えて提出させるとよいでしょう。クラウドを上手く活用することで、日常の活動を無理なく記録していくことができます。教師がすべてに目を通すことは難しいので、記録したものをもとにポートフォリオを作らせて、それを評価するようにするとよいと思います。 英語の先生からは、新型コロナウイルス対策の影響で、ペアを次々変えて練習することが難しくなったりして、これまでのやり方ができなくて困っているとの相談がありました。できないことではなく、できることを探す発想をお願いしました。ペアを変えることができないのであれば、固定のペアでより深い対話をさせることを考える。ICTの活用などの代替手段を考える。他教科の授業実践などを参考にして、授業を工夫する。こういったことをお話させていただきました。 高校1年生の現代社会では、教科書や資料を読んで生まれた疑問から問いをつくり、探求した結果をプレゼンテーションする授業に取り組んでいました。子どもたちはとりあえず思いついた浅い問いから資料をまとめているだけで、探求までには至っていません。こういった課題では、子どもたちは○○について「調べたことをまとめる」だけで、自分で考えたり判断したりはしないものです。「YesかNoか?」「AかBかどっち?」といった「判断が求められるような問い」をつくるという条件を付けるとよいでしょう。また、グループで途中経過を話し合っているのですが、互いに聞き流しているという感が否めません。考えを深めるためには、グループの中間発表で積極的に質問し合うことが必要です。「発表者に『えー、困った』と言わせるようなツッコミをしよう」といった条件を付けると、活性化すると思います。 中学校では、全体で言語技術(Language Art)の授業を行っていました。ペアワークの場面では、ほとんどの子どもがすぐにかかわり合うことができていました。こういった活動に慣れていることがよくわかります。だからこそ、うまくかかわれない子ども、かかわろうとしない子どもが気になります。授業者以外にも中学校の先生が何人も参観しています。こういった子どもたちをしっかり観察して、その場で対応できなくても、今後どのようなかかわり方をすべきかを全体で検討する場をつくってほしいと思います。 途中で授業者が若手の先生に交代しました。指名した子どもの発言をしっかり聞くことができますが、反応している他の子どもを上手くつなげられずに、1対1のやり取りが続きました。全体を見て子ども同士をつなぐことが課題です。 授業者はすぐに、前回の研究授業の報告とこの日の授業についてのアドバイスを求めに来ました。授業を上手くなりたいという前向きな気持ちが感じられます。 先ほどの授業で、子どもに発言させた場面で全体の様子はどうだったかをたずねたところ、状況をきちんと把握していました。以前から子どもたちを見ることをアドバイスしていたのですが、そのことをきちんと意識してできるようになっていました。となれば、次の課題は、その状況にどう対応して子ども同士をつなげるかです。素直にアドバイスを受け入れて実行しようとしてくれる先生です。あせらず一つひとつ課題をクリアしていくことで、今後大きく成長してくれることと思います。 高校2年生の英語の授業では、子どもたちがタブレットを自分の道具として使っている姿に感心しました。授業者が解説している場面で、子どもたちは、フリック入力、ペンで手書き、指で手書きと自分に合った入力方法でタブレット上のワークシートに素早くメモを書き込んでいます。必要に応じてリアルタイムで辞書を引きながら、説明を聞き、自分の言葉でまとめていきます。タブレットを日標的に使うことで、道具として完璧に使いこなせるようになっていました。 授業者は一問につき一人の記述をスクリーンに映しながら、その子どもと簡単なやり取りをして、あとは自分で解説します。子どもたちがタブレットに書いたものは互いに見合うことができるのですから、ダイナミックに子ども同士をつなげるとよいと思います。直接かかわらせることが難しい今だからこそ、オンライン上でかかわらせる工夫をしてほしいと思います。 中堅・ベテランが動き出す(長文)
年明けに、私立の中学校高等学校で、研究授業を控えた先生方と懇談しました。今回は中堅・ベテラン中心です。
生物の担当の先生は、大学と連携したプロジェクト型の授業に挑戦されていました。校内でテントウムシの種類と数を調査し、他の機関の調査データと合わせて生物の多様性について考えるというものです。実際に調査した結果を比較すると同じ市内の他の場所と比べてテントウムシの種類が少ないことがわかります。先生の結論としては、学内に多様なテントウムシがいないのではなく、子どもたちがテントウムシを見つけることができていないため、種類が少なかったということです。このことに子どもたちに気づかせることが今回の授業のねらいです。 プロジェクトを主催する大学の先生に全体の報告を聞いたあと、学内のテントウムシの種類が少ないことについて考えさせる予定ですが、自分の考えを持って当日の授業に臨んでもらうために、事前にオンラインでアンケートをとることにします。こちらであまり誘導せずに授業者が求めるような答に気づかせるには、問いかけや活動の工夫が必要になります。結論よりも、結論に至る過程を子どもたちと共有して明確にしていくことが重要です。「何を知りたい?」「どんな情報が欲しい?」といった問いかけをもとに、推論の過程を全体で共有できるとよいと思います。 学級によって学習に向かうメンタリティが違うことについて相談を受けました。「努力すれば何とかなる」と思う子が多い学級と、「先が見えなくて不安」という子どもが多い学級があるようです。多くの場合、先が見えないことが不安につながっています。進学のことが不安なのであれば、学級で分担して大学を調べ、「どんな人に向いている、勧める?」という視点でまとめて共有するとよいでしょう。偏差値による大学のランキングをもとに進学や進路を考えるのではなく、自分が何をやりたいか、自分の性格にあうかといった視点で考えさせるのです。その上で、そこに向かって何をすればよいのかをできるだけ具体的に計画させます。単に勉強する、偏差値をいくつあげるというようなものではなく、何をどうする、毎日をどう過ごすといった細かいレベルに落としていくのです。このようなことをお話させていただきました。 中堅の理科の先生からは、子どもたちに考えさせる時間がなかなか持てないことについて相談を受けました。実験などでは説明や準備に時間がかかり、考察などの考える時間が取れないようです。ICTを上手く使うことで時間が短縮できるのではないかと提案しました。予備実験をする時に同時にその様子を撮影し、実験のポイントや方法がわかるような動画を作成してクラウド上にアップしておくのです。事前に見ておくように指示し、授業では説明をできるだけ省略します。見ていない子どもは困りますが、その場で見ることもできますし、グループの友だちに教わることもできるので、大きな混乱はないでしょう。そういう経験をすれば、次回からはちゃんと見るようになると思います。また、実験の動画を途中で止めて、結果を予想させるという展開も考えられます。こうすることで無駄な時間を減らして考えるための時間を確保することができます。 この他にも、子どもたちから疑問を引き出すためにどうするかにも悩まれていました。先生から指示された通りに実験をして、予定調和の結果を共有しても疑問を持ってはくれません。例えば電球を使う実験であれば、抵抗の異なる電球を混ぜて実験結果が異なるようにして、「おかしい!」「失敗?」「どういうこと?」と子どもたちが疑問を持つような仕掛けをするとよいでしょう。 子どもたちは、活動中にいろいろと言葉を発してくれるのですが、指名するとなかなかうまく話せないということも話題になりました。「○○さんが何を考えたかわかる?」と近くにいる子どもやグループの仲間につなげるとよいでしょう。 一つの学年を複数の先生で担当している理科の先生からは、自分が主となって考えたカリキュラムの意図が他の先生に上手く伝わらないことを悩んでおられました。こうしてくださいと活動内容を細かく指示して伝えれば形をなぞることはできますが、ねらいが伝わっていないと子どもたちの反応にうまく対応できず、本来のねらいが達成できなくて困っているのです。 まずは、単元や内容を地学分野、観察といった大きな塊でとらえ、そこで理科として目指すもの、子どもたちつけたい力は何かを共有することに時間をかける必要があると思います。それらを達成するためのステップを意識して、活動の内容をより具体的にしていきます。目先の授業をどうするかではなく、子どもたちを育てていく大きな流れをしっかりと共有し、その上で細かいところは、それぞれの先生に任せるようにするとよいと思います。 また、小テストの位置づけをどうするかでも悩んでおられました。知識を個別に教えることから、課題解決を通じて知識を獲得していく形に授業を変えていこうとしています。そうなると今までの小テストでの知識の確認は、意味がなくなるのではないかということです。小テストを、課題解決の過程で身につけてほしい知識が実際に身についているのかを知るためのものという位置づけとすればよいと思います。形成的評価を意識し、達成度が低ければ、次の課題解決の活動は知識を獲得する要素を増すといった判断材料にするのです。 どの悩みも、より高いレベルの学びを目指しているからこそだと思いました。 美術の先生は、フィギアをつくる授業に挑戦されるそうです。子どもたちに少しでも楽しく授業に参加してほしいと考えられている方です。一連の活動について、できるだけ子ども同士で小刻みに評価しあう場面をつくることをお願いしました。個を大切にして、互いにポジティブに評価しあうことが、作品づくりに向かうエネルギーを高めてくれると思います。 中堅の数学の先生は、問題演習をタブレット上で行うことにより、子どもたちの考えやつまずきがリアルタイムで見られるので、それを板書や解説に活かしているとのことでした。子どもが問題に取り組んでいる様子をリアルタイムに見ることができるのは、ICTのよさです。今までの授業を一歩進化させています。次は、教師がコントロールする授業から、子ども同士で考えや疑問を共有するようなものに、もう一歩進めることができるとよいと思います。 答を発表させるのではなく解く過程を大切にするようアドバイスをされるが、簡単な計算問題などはどうすればよいのかと質問されました。簡単なものであれば、計算の過程や解説をするのではなく、子ども同士で答を確認させるか、解答を用意しておいて答え合わせをさせればよいと思います。間違えたら、自分でやり直させればよいのです。それでもわからなければ友だち聞くようにすれば、教師が説明しなくても修正することができると思います。自分で間違いを直せるようにすることを意識してほしいと思います。 別の数学の先生からは、文系の数学について相談されました。微積分の授業は、文系では学習範囲が狭いので、公式を使った簡単な計算をして終わりになってしまうので、なかなかその意味や面白さんを伝えることができないというのです。今回の授業は積分の導入の場面でしたが、その前の単元の微分では時間と速さの関係を導入に使ったそうです。ならば、それを活かして、時間、速さ、進んだ距離の関係のグラフを通じて、微分と積分の関係に気づけるような展開を考えてはどうかとお話ししました。どのような導入になるのか楽しみです。 英語のベテランからは、来年度から実施される高校の新課程について相談を受けました。新課程で求められるスキルを授業に組み込んでいくと、従来からの内容を学習する時間が無くなってしまうというのです。 子どもたちのトータルの学習時間をどう増やすかが解決策のように思います。学校だけでなく、家庭でも学習するのは当たり前のはずですが、いつの間にか、学校外ではせいぜい塾での受け身の学習だけで、自ら考え工夫して主体的に学習する姿は見られなくなってしまいました。最初は宿題でもよいので、ほんの少しでも家庭学習を習慣にすることが必要だと思います。教書を音読してタブレットで録音して提出する。タブレットを使って聞き取りの練習を行うといったそれほど時間のかからないものから始めればよいと思います。ポイントは、読むのであれば、手本を聞きながら練習させる、聞き取りであれば、スピードを変えたりしながら繰り返して聞き取る、それでも聞き取れないところがあれば、どこが聞き取れないかを明確にするといった、学び方が身につくようなものにすることです。タブレットを使うことで今までできなかった学び方ができるようになります。学び方が身についてくれば、家庭でも学習するようになっていくはずです。英語だけでなく、各教科でこうした家庭での学び方を意識した課題に取り組ませることで、学習習慣はついていくと思います。 この日は社会科の先生のいろいろな実践について話を聞く機会が多くありました。 中堅の先生からは世界史の授業についての相談を受けました。 子どもたちがタブレットを答探しに使って、なかなか考えようとしないことに悩んでおられました。事実(史実)を出発点にして考え、見方によっていろいろな答が出るような課題を設定することが必要だと思います。 歴史を学習することが今の社会について考えることにつながってほしいとも考えられています。このことは歴史を学ぶ上で大切な視点です。中世の商業の発展が絶対王政への移行を促したことを現在の経済と政治の関係に置き換えて考えたり、ペストの流行のビフォア・アフターから新型コロナウィルスの流行が今後もたらすことは何かを考えたりといった授業も考えられます。歴史から学ぶとはどういうことかを子どもたちが実感できるような授業を目指してほしいと思います。 別の社会科の先生からは、高校での実験的な授業についていろいろとお話をうかがいました。 基礎力をつけるために、あらかじめ準備しておいた解説動画を見ながら、課題のワークシートに取り組むといった個人活動を取り入れています。単に資料を読むのではなく、資料を活用するスキルをつけることも意識されています。基礎データをもとに新たな指標をつくるといった活動などを取り入れてみると面白そうです。例えば幸せ度を測る指標を所得や物価、労働時間、余暇といったデータをもとに自分たちでつくって、色々な国と比較して見るといったものです。 個の活動を集団の活動へと広げていくことも考えています。例えばシンクタンクのような取り組みです。中・韓・日の将来の関係を予測し、日本のとるべき戦略を考えるといったものです。 現代史では、イスラエルの建国から中東戦争、現在のパレスチナ問題までを、米・露・アラブといった国も含めて、それぞれの視点で年表をつくり、それをもとに中東問題の構造化を図ることをさせようとしています。冷戦の年表をもとに構造化した経験を活かすことで自分たちについたスキル実感させたいという思いもあります。 東欧の紛争を要因ごとに整理し地図上で色分けすることで、多極化を実感させることにも取り組んでみようとされています。 子どもたちは社会科が知識を覚える教科でないことを実感していることでしょう。 新型コロナウィルス対策の関連で、グループでの活動がしづらくなったため個別にまとめる活動が増えているという報告が他の社会科の先生からありました。 その結果、まとめる力がつくと同時に、友だちの評価や質問を通じて修正することで、結果ではなく、結果に至る過程を意識するようになってきたそうです。 その一方、グループでの活動に挑戦しても、なかなか話し合えない学級があって、どうしようかと悩んでいるようです。新型コロナウィルスが子ども同士の関係づくりに影を落としているように思います。発表の場面で、答ではなく、グループ活動の過程を聞いたり、発表に対しての意見を他の子どもにつなぐなどしたりして、教師がかかわり方を具体的に示すことも必要だと思います。焦らず、色々な場面でかかわり方を教えていくことを意識してほしいと思います。 今の社会と歴史を結びつけるために、毎日のニュースに関して過去の歴史とどのようなかかわりがあるのかを発表させている先生もいらっしゃいます。現代の視点から史実や知識の整理、再構成することが意識されています。今後、歴史が現在にどのように影響しているという視点もつけくわえていきたいとのことでした。 これまで知識主体の授業をしているように見えていた先生からは、その底にある思いを聞くことができました。「歴史から今の社会を考えることにつなげたいが、その前に最低限の知識がないと考えられない。知識を与えるだけで時間が足りなくなってしまう」ということでした。 基礎的な知識を一方的に教えるのではなく、作業を通じて身に付けさせるという方法もあります。例えば、あらかじめ用意した用語や史実などを白紙の年表に埋め、それをもとに歴史の流れを説明することで知識の整理をするといったものです。グループ内で分担して作業をし、互いに解説をすることで時間を短縮することもできるでしょう。 また、子どもたちに疑問を持たせたいとも思っていらっしゃいました。「戦国時代は人口が増えている。戦争は人が死ぬはずなのにどういうことか?」といったことを考えさせ、戦争は文明が進化する要因にもなるといった多面的な見方を持たせたいというのです。こういう発想はとても大切だと思います。私からは、教師が「戦国時代に人口は増えているのはなぜか?」と問いかけるのではなく、子ども自身が疑問を持つような授業展開を工夫してほしいと伝えました。例えば、年代が入っていない日本の人口の変化のグラフを見せて、どこが戦国時代かを予想させるといったものです。戦さで人が死ぬので人口が減っているところだと思った子どもは、戦国時代に人口が増えていることを知って嫌でも疑問を持つと思います。この人口のグラフ一つとっても、いろいろな疑問を生みだしてくれると思います。例えば、日本の人口はある時期から増加が止まります。徳川吉宗の時代です。この事実に気づくだけでも、なぜ名君と言われた吉宗の時代なのか、人口が増えるか増えないかは何が原因となるのかといった疑問が生まれてくるはずです。子どもが疑問を持つきっかけをどうつくるかがポイントだと思います。 この先生の思いがどのような形で授業に反映されていくか、今後が楽しみです。 国語の先生からは、子どもたちに問題をつくらせ互いに解き合う授業について相談を受けました。 子どもたちは作問に関しては熱心なのですが、できあがった問題が多すぎて問題を解くエネルギーが上がらないようです。そこで、○○アウォードといった、部門別の賞をつくってみんなで投票して決めるといった取り組みを提案しました。家からでもタブレットで投票できるようにすれば、その気があれば問題数が多くても取り組むことができます。事前にどんな部門をつくるか、よい問題は何かを考えさせ、投票の視点や理由も発表させると多様な考えを引き出すことができると思います。 文学作品と違って、評論は問題がつくりにくいことにも悩まれていました。子どもたちはどのような問題をつくればよいか、見通しを持てないようです。私からは、問題の形式を指定することを提案しました。例えば、こちらで用意した問いに対して、選択肢の文章を考えさせる。自分で文章の内容をまとめて、それをもとに穴埋めの形の問題をつくるといったものです。文章全体から問題をつくろうとする大変なので、段落ごとに問題をつくってもよいでしょう。各段落の内容が整理されていくので、最後に全体を通した問題をつくりやすくなると思います。 古典はこういった作問の授業はやりにくいので、作品の内容を絵に描かせたりしているようです。そうであれば、絵を構成するものは何を根拠にして描いたのか、その要素と本文の記述の関連を示すようにするとよいと思います。本文に線を引き、それを絵のこの要素で表現したと結びつけるのです。最初の内は、直接記述されていることしか絵にできないかもしれませんが、その内、本文の内容から推論して描くことができるようになると思います。読みを深めることにつながっていくと思います。 また、ICTが授業で上手く使えていなことにも悩まれていました。無理やり使おうとする必要はないと思います。まずは、子どもたちが考えたり、問題解決したりする時に使えるような材料や資料をクラウド上に用意しておくことから始めればよいと思います。古典では助動詞の識別方法のカードや当時の生活に関する資料、現代文であれば用語や言葉の解説といったものを用意して、必要に応じて自分の意志で見られるようにするのです。 いろいろなことに挑戦しているからこその悩みでした。 来年度から始まる高校の新しいコースの特色入試をどのようにしたらよいかのヒントを求められました。時間は1時間程度で、グループで課題を解決することを通じて適性を見ようというのですが、その具体的なものを描けないということでした。 子どもたちの課題解決に向かう姿を見ることをねらいとするのであれば、目的を明確にした活動にするとよいと思いました。 例として私があげたのが、「自分たちと同じ年代の日本に来た留学生を感動させるようなパフォーマンスをしてください」という課題です。映像を見せてもよいし、何かをやって見せてもいでしょう。使用可能なもののリスト与え、それらは自由に使ってよいという条件です。「感動させる」というゴールから、それぞれの価値観が問われますが、共同作業なので価値観のすり合わせも必要になります。限られた時間でパフォーマンスに至るためにはそれぞれが自分の役割を果たすことが必要です。最終的にどのようなものになるにしても、ゴールに向かう姿で、受験者のいろいろな特性を見ることができると思います。参考になれば幸いです。 中堅・ベテランの先生が変化しようと動き出しているのを感じます。ベースとなる経験があるので、挑戦し始めれば早いサイクルで進化していくと思います。このエネルギーが個ではなく、教科や学年、学校全体の物としてベクトルが揃って行くことを期待します。この学校が大きく進化するかどうかの分岐点にさしかかっているように感じました。 研究授業前の若手と懇談
長らく更新が止まって申し訳ありませんでした。今後、過去の仕事から順次アップしていきたいと思います。
昨年末に、私立の中学校高等学校で、研究授業を控えた若手と懇談しました。 体育の若手は、前回授業を見せていただいた時に、授業規律について指摘した先生です。その後、規律をきちんとさせる場面と楽しく活動できる場面を意識してメリハリつけるようにしているそうです。当初は、指導規律をうるさく言うと、子どもたちが嫌な雰囲気になるのではと心配していたようですが、2、3時間目になれば慣れてくれると話してくれました。授業が楽しいことは大切ですが、それ以上に安心安全が大切であることを再度お伝えしました。嫌な雰囲気になるかどうかについては、指導の仕方一つだと思います。「この列、整列が遅い」ではなく「この列、整列が速い」と、できていないことを叱るのではなくできていることをほめるとよいでしょう。用具の片づけが終わったら、「ありがとう」と声をかけるようにします。子どもを認め、ほめて伸ばす姿勢で接することをお願いしました。 次の日に行う研究授業は保健で、ストレスの多様性と対応を考える内容です。日ごろから子どもに自分の考えを持たせてからグループ活動をしようとしているのですが、なかなか考えを持てないため、グループの時間を多くとらなければならないことを悩んでいました。子どもに考えを持たせてからグループ活動をせるのではなく、自分の考えを持たせるためにグループ活動をすると発想を変えるとよいことを伝えました。友だちの話を聞いた後で、自分の考えをまとめる時間をつくればよいのです。グループの活動を早めに一旦止めて、どんな意見が出たかを全体で聞き合い、考えを共有した上で焦点化し、再度グループに戻すか、個人で考える時間を取ることで考えが深まります。 授業の最後に、リフレーミングすることでストレッサーをポジティブにとらえる場面をつくることが計画されていました。ポジティブにとらえることを結論とするのではなく、多様な捉え方ができることに気づかせることをねらいにしてほしいと伝えました。自分にとってストレスにならないことでも他の人にとっては大きなストレスになることがあります。自分が意識していなくても他者にストレスを与えることがあることに子どもたちが気づいてくれることを願います。 急に指導案の内容を変えることは難しいと思いますが、このこと意識して授業を組み立ててくれればと思いました。 高等学校の数学担当の若手からは、ファシリテーションの研修を受けて自分の発問が子どもたちとって答えにくいものになっていたという言葉が聞かれました。とてもよい気づきだと思います。私からは、せっかくスキルを身につけても、教科の本質をしっかり踏まえ、授業で目指すものを明確にしなければ、それを活かすことが難しいことを伝えました。 研究授業は、統計の仮説検定を扱う場面ですが、その必然性を感じられるシチュエーションをつくることをお願いしました。単に天下りで理論を学び計算するのではなく、その考え方が必要な背景がわかるようにすることが数学を学ぶリアリティにつながります。子どもたちが必要性に気づけるような課題を考えることが教材研究です。日ごろからこのことを意識することをお願いしました。 中学校の社会科担当の若手からは、研究授業の相談の前に、生徒指導、学級経営にかかわる相談を受けました。 担任をしている3年生の生徒のことです。過去に友人がいじめの被害者になったことがあったようです。その事件はすでに解決しているのですが、そのことが引っかかっていて、このまま一貫の高等学校に進学したものかどうか悩んでいるのです。この生徒とは関係がつくれているようなので、人間関係や環境がどうであるか以前に、まず自分がどうありたいのか、どのような高校生活(人生?)を送りたいのかを軸にして、会話をすることをアドバイスしました。「あなたがなりたい自分になるのを応援する」というスタンスで接するようにお願いしました。また、保護者とも信頼関係は築けているようで、一部の先生に対する不満が話されたようです。ただ、それに対して学校側にどうしてほしいかという要望めいたものはおっしゃらないので、どう返したらよいのか対応に困っているようでした。相手の要求に対してどう答えるかという発想ではなく、「お子さんのために一番よい方法を一緒に考えさせてください」と、保護者と同じ側に立とうとしていること伝えるようにアドバイスしました。 これに関連して、安心安全な学級をつくるということについてお話させていただきました。この先生は規律ある学級づくりを大切にしています。安全な学級という意味でも、とてもよいのですが、これだけでは足りません。自分が認められている、この学級に居場所があるという、安心な学級にすることも必要です。これは授業を例にするとわかりやすいのですが、「間違えても馬鹿にされたり、笑われたりせず、安心して失敗できる」「わかっている子どもではなく、困っている子どもが活躍できる」、そういう学級にするということです。このことを意識するようにお願いしました。 研究授業では、実際の政党の政策を知って、それをもとに考える授業を構想しているそうです。私からは、まず政党の定義と、その発生の理由をきちんと押さえておくことをアドバイスしました。議会制と政党の関連を意識することで、政党と政策の関係、その意味がわかってくると思います。また、一般的に子どもたちに課題を与えて考えさせる場面では、とりあえずの考えを持つとそこからなかなか深まらないので、時間を多く与えてもあまり意味はありません。早めに活動を止めて、その時点での考えを全体で共有し焦点化した後で、再度取り組ませると考えが深まります。このことも頭の片隅に置いて授業するようにお願いしました。 中学校の国語担当の先生からは、漢字学習について相談を受けました。漢字を覚えて、読み書きをするという従来のやり方でよいのか悩んでいるということです。惰性で続けるのではなく、立ち止まって疑問を持つことはとてもよいことです。お話をしているうちに、子どもたちに学習すべきだと思う漢字や熟語を集めさせてそこから小テストの問題をつくる、その作業をグループで行い解き合うといったアイデアが出てきました。一人一台のタブレット環境を活かした子どもたちの学びのあり方を見つけていってほしいと思います。 研究授業では、百人一首の世界を小学生に伝える動画を制作する構想を考えていました。なかなか意欲的な取り組みですが、この活動が国語として何をねらっていくのかが問われると思います。小学生が、「歌の意味や情景がわかる」「言葉の意味がわかる」といった条件を課題に付けるといったやり方もあります。もう一歩進んで、「何を大切にする」「小学生に伝えるためには何が条件になる」といったことを子どもたちと一緒になって考えるといった取り組み方もあると思います。この先生がどのような取り組みしていくかが楽しみです。 高校の社会科の授業では意欲的な取り組みがなされています。 衆議院総選挙に合わせ、「学級内総選挙」と銘打って、政党ごとに担当者を決め、選挙活動をさせるというものです。この活動のために、実際の候補者からビラをもらってきた生徒もいたそうです。教室内だけの活動でなく、実際の社会と子どもたちをつなぐ面白い試みでした。 また、冷戦をマクロでとらえるという授業に続いて、ミクロにとらえるという授業が行われていました。冷静時代の東ドイツの住民の手記をもとに当時の様子を伝える作品をつくるというものです。伝える手段としては、文字、絵、音楽と子どもたちに自由に選ばせます。ただし作品には必ず自身で解説をつけることが条件です。「一人の男の人生を語ることで、時代の変化を表現した詩」「ドイツらしさを表す行進曲から始まり、ベルリンの壁ができた時代を象徴する暗い曲に変わり、最後には最初のメロディーが明るい曲調に変化し未来への希望を表わすという音楽」と私の想像をはるかに超える作品も見られました。作品を学校全体で見合うことで、互いの深い学びにつながっていくと思います。次は、ここから一歩進んで、教師が与えるのではなく子どもたち自身でテーマや課題を見つけるようになることを目指してほしいと思います。 3年生の主任からは、子どもたちの様子を報告していただきました。 これまでと違って、進路が決まっても一生懸命宿題や試験勉強に取り組む姿が見られるようです。学習を一生続く学びとして捉えられています。女子にこの傾向が強いようです。その一方で、ランクの高い大学に行くことを目的として、従来型の知識中心の学習観にとらわれ、入試で結果が出せていないために苦しんでいる子どもも一定数いるようです。結果が出ないことが焦りにつながり、悪循環に陥るのではないかと心配です。この傾向は男子に多いようです。不安や焦りは先が見通せないことが大きな原因です。子ども同士で、この先の人生でどのようなことが想定されるか、それにどう対応するのかを考えさせることをアドバイスしました。希望の大学に入れなくても、その先に新しい未来を描けることに気づけば、不安や焦りも軽減されるのではないかと思います。 次年度開設する高校の新しいコースの入学者オリエンテーションについて相談を受けました。 附属の大学の留学生と触れ合う企画を立てているのですが、具体的にどのような活動をすればよいかに悩んでいました。 教師が積極的に指導して何かを教えるのではなく、これから何を目指し、どのように学んでいくのかを彼ら自身で考えるきっかけをつくれればよいと思いました。具体的には、留学生が何を目的に日本やこの大学に来たのか、そして将来どうありたいのかを聞き合うことをアドバイスしました。相手はいろいろな国から来た留学生です。言葉や文化も違い、うまくコミュニケーションをとれないかもしれません。そうであっても、教師があまり介入せずに自分たちでどうしたらよいかを考えさせるようにしたいものです。最終的に留学生との対話を通じて、3年後自分たちがどうありたいかを考え、そのために何を学ぶべきかに気づけることを目指したいところです。 教師はできるだけ指導せず、子どもを見守り観察することに徹するとよいと思います。子どもたちのよいところ、足りないところを見つけることで、今後どのように育てていけばよいかを考える材料とするのです。このようなことを話させていただきました。 この日は先生方の前向きなエネルギーをたくさん感じることができました。このエネルギーが学校全体に広がっていくことを期待します。 |
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