授業参観から子どもたちの現状と課題を考える

私立の中学校高等学校で、新しく赴任された先生、若手の先生と授業参観を行い、その後面談を行いました。

授業中の子どもたちの様子を同行の先生と確認しながら、現状と課題についてお話ししました。
高等1年生はとても落ち着いていました。先生の一方的な講義に対しても、ごそごそしたりする子どもはほとんど見当たりません。ただよく観察すると、同じ受け身でも子どもの姿がバラバラの教室と、そうでないが教室があることに気づきます。バラバラな教室では授業者が子どもたちとのコミュニケーションを意識していません。子どもたちと目を合わせず、ひどい時は誰もいないところを見て話し続けていました。たとえ一方的に話し続ける状況でも授業者が子どもと目を合わせようとしていれば、子どもたちの集中は続いていました。また、子どもたちが積極的にかかわりあう場面では、よい表情で授業に参加する姿を見ることができます。子どもたちが活動する場面、かかわり合う場面を意識してつくってほしいと思います。

キャリアを意識したコースの1年生では、授業中の子どもたちが分断されているように感じる場面が多くありました。どの子どもも授業に参加しようとはしているのですが、授業者が正解を求めるので、わかる子どもしか手が挙がりません。挙手した子どもとしかやり取りをしないので、そこに参加できない子どものエネルギーが下がっていくのです。その一方で、反応する子どもは先生とのやり取りでテンションが上がり、ますます参加できない子どもとの差が広がっていきます。参加できない子どもたちは、仕方がないので発言のやり取りを聞かずに、写す意味のない板書を写していました。先生のまとめの説明をしっかり聞くのですが、それを聞いても一部の子どもは理解できずに困っていました。こういった状態が続くと、参加できない子どもがしだいに授業から離れていってしまいます。子どもたちの困ったこと、わからないことを取り上げ、全体で解決するような授業が求められていると思います。

高校2、3年生の授業ではICTを活用する場面が増えています。しかし残念ながら、従来の講義型の授業の一部をICTに置き換えているものがまだ主流です。スクリーンにスライドを映して説明する授業や、タブレットに配信したワークシートでの個人作業をスクリーンに映し出して発表するといったものです。もちろん授業が効率化され、共有もしやすいので価値のある使い方なのですが、ここからさらに進んで、子どもたちが主体的に学ぶための道具としての活用が増えてほしいと思います。もちろん、タブレットが個人作業から共同作業の道具となっている授業もあります。クラウド上に先生が用意した資料や説明動画をアップして、困った時に子どもたちがすぐに見られる環境をつくっている先生もいらっしゃいます。今後こういった実践を学校全体で共有する場面をつくっていくことが課題です。
ちょっと気になる授業がありました。スクリーンに映した動画を一斉に見ながらワークシートの穴埋めをするというものです。子どもたちの視線は、スクリーンと自分の手元を行ったり来たりしています。一斉に見せるのは授業者にとって効率的かもしれませんが、子どもたちが見逃したり、気づけなかったりしたことは振り返って確認することができません。また、ワークシートを使うとどうしても穴を埋めるための、答探しになってしまいます。一斉に見せるのであれば、見落としたことや気づけなかったことに気づく手段を用意することが必要になります。たとえば、ワークシートの穴を埋めるのではなく、動画を見て気づいたことをメモさせて、リアルタイムに見合えるようにするのも一つの方法です。少し時間はかかりますが、動画を各自のタブレットでイヤホンを使って視聴させると、気になったところを見返すこともできますし、友だちのメモに書いてあることを確認することもできます。ワークシートの穴埋めは自分なりの整理できた後で使えばよいと思います。こうすることで、教材としての学び以外にも、情報を読み取り整理する力がつくと思います。
もう一つ気になったのが、ICTの活用が増えるにつれて、子どもたちがかかわる場面が減っていることです。ICTを活用して答や考えが共有できるからといって、互いに質問したり相談したりする必要がなくなるわけではありません。オンライン上でのやりとりも可能ですが、まだまだうまく機能しているようには見えません。新型コロナウイルス対策の問題もありますが、どのような形にせよ、子ども同士が聞き合う場面は確保してほしいと思います。

中学校は全体的に落ち着いていました。1年生は例年と比べても学習意欲が高い子どもが多いように思います。子どもたちが話を聞いてくれるので、わかる子ども、反応する子どもとのやり取りだけで進んで行く授業が多いようです。また、学力差もあるようなので、反応できない、参加できない子どもたちをどうやって授業に引き込むかが課題です。答ではなく、困っていること、わからないことを発言させ、全体で共有し、子ども同士で学び合うような場面を増やすことが求められます。困っている子どもと他の子どもをつなぐことをこれまで以上に意識してほしいと思います。
3年生は以前と比べて授業規律が格段によくなっていました。子どもたちが3年生であることを意識して変わろうとしたことと、新しく来た先生が担任として加わったことがよいきっかけになったようです。ただ気になったのが、先生がやや上から目線で指示を出し子どもたちをコントロールしていることでした。新学年当初はこれでもよいのですが、子どもたちがきちんと指示に従えるようになっているので、ここからはできるだけ指示がなくても自分たちで判断して行動できるようにしてほしいと思います。この点を伝えたところ先生方もそのことは次のステップとして意識しているようでした。次回の訪問で子どもたちがどう変化しているか楽しみにしたいと思います。

高校の一般のコースの先生から進路指導について相談を受けました。初めての3年生の担任ということで、どのように指導すればよいか悩んでいるようでした。まわりの担任の先生は子どもたちを引っぱっていこうとするタイプが多いようですが、この先生のスタイルとは合わないようです。短期的に見れば、「こうやって勉強しよう」「成績を上げよう」「頑張ってよい大学へ行こう」といった言葉で子どもたちに勉強をやらせようとするのは効果があるように見えます。しかし、このコースでは評定を上げて推薦で進学しようという子どもが多数です。絶対評価とはいえ、推薦に関しては相対評価の面もあります。学校の仲間がライバルとなり、同じように頑張っても相対的な位置は簡単には変わらないため、結果が出ずに苦しんだりします。担任として自分の学級の成績を上げることは相対的に他の学級の成績を下げることにつながったりします。コース全体から見れば苦しい子どもや孤立する子どもを増やすことにつながりかねません。また、大学へ行くことが目的化して、推薦が決まればそれで学習意欲を失くしてしまうこともよくあります。そうではなく、自分の将来を意識して何を学びたいのか、そのためにどのような進学先を選ぶのか、だから今何を頑張るのかといったことを意識させることが先決です。本来であれば1、2年生で考えておくべきことですが、まだまだそこには至っていないようです。
子ども同士で互いに将来のことをどう考えているのか聞き合う機会をつくることを提案しました。自分の言葉で自分の将来や、進学の理由を語ることは自分の意志を明確にすることにもなります。進路意識がしっかりすれば学習意欲も高まります。深く考えている子どももそうでない子どももいるでしょう。だからこそ聞き合うことで刺激し合え、仲間として支え合える関係がつくられていきます。上から子どもを引っぱるのではなく、子どもたちが孤立しないような関係をつくることに注力してほしいと思います。苦しんでいる子どもを他の子どもにつなぐことや、子どもの苦しさに寄り添って下から支えることを大切にする。このようなスタイルがこの先生には合うのではないかとお話ししました。

授業後、新しく赴任した先生方を集めてお話ししました。この学校で今目指しているのは、主体的に学びに向かう子どもたちを育てることです。子どもたちが疑問を持ったり、もっと知りたいと思ったりするようなテーマや課題が主体性を引き出すためには大切です。教えること中心の授業から、子どもたちが自ら動き出すきっかけをつくる授業へとパラダイムシフトすることが求められます。口で言うのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいことです。このことを歴史の課題を例にしてお話させていただきました。どの先生もとても前向きで、この学校に新しい風が吹くことが期待できそうです。これからこの先生方がどのような授業をされていくのかとても楽しみです。
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