高等学校の新学習指導要領対応について相談
私立の中学校高等学校で各教科主任の先生方と新学習指導要領の対応についてお話をしてきました。高等学校の来年度に向けてのシラバス等をどのようにしていくかということについてしたが、教科によってフェーズはかなり異なっていました。
国語科は、これまでの個別最適学習と個別最適な学びについての違いが意識されていないように感じました。解答の内容や正誤によって解説や出題が変わるドリル学習のイメージが強いように思います。個別最適な学習は、子ども自身が問題の解決方法や学び方を選択するような学習形態であることを意識してほしいことをお伝えしました。 国語科は非常勤講師の数も多いため、授業の進め方について担当者同士で話し合って指導内容をそろえることが難しいようです。そのため、教科書の選定も、扱っている作品の内容よりも、グループや発表活動などの授業の進め方についての説明が詳しいかどうかが基準となったようです。作品で選びたいという気持ちもあったようなので、教科書に載っている作品にとらわれず、単元の目標にふさわしいと思える作品を適宜教材として扱うことにすればよいと思います。一人一台のiPadがありますので、それほど難しいことではないでしょう。 評価については、個々の活動を点数化して合計してつけるという意見もあるようですが、恣意的につけた評価に合わせて点数化することになるのではないかと心配しておられました。私も同感です。点数にすると客観的に見えますが、個々の活動を点数化することにはあまり意味はありません。それよりも、評価と根拠となる資料を共有して、互いに見合えるようにすることが評価を公正なものにするのに役に立つと思います。当面の間は、教科内で気になる評価については資料をもとに評価の根拠を聞き合うといったことも必要だと思います。 社会科は、先生による授業スタイルの違いが大きいため、目指す子ども像が教科としてぶれるのではないかと心配していました。お話を聞くと授業スタイルは違うが、社会科として目指す子どもの姿に大きな違いはなかったということでした。以前からの講義主体の授業をする先生も、新学習指導要領の考え方を否定しているのではなく、目の前の子どもたちには資料をもとに考えたり議論したりする力がないと考えているので授業スタイルを変えることができていないようなのです。いろいろと工夫された個性ある授業をする先生がとても多い教科です。そういった授業での子どもたちの課題に取り組む姿を見ることで、彼らの持っている可能性に気づけると思います。 まずは互いの授業を見あうことを提案しました。授業を見合い、教科としてどのような授業を目指すか話し合うことで、新しい授業スタイルが広がっていくと思います。 数学は、教科書の演習問題を解くこと中心の活動から離れられないので、思考力・判断力・表現力をどういう活動を通してつけたらよいのか、それをどう評価するのかが具体的な形にできなくて困っているようでした。単純な演習問題だけでなく、身近な問題をどう数学的なモデルにあてはめるか、出てきた解や結果をどう判断するかといった活動も新たに取り入れることを意識してほしいと思います。また、表現の評価については、数学的な表現を式、図、グラフ、自然言語と整理することで、基準が明確になっていくことを伝えました。 理科はシラバスのサンプルをもとにお話をしました。各科目に落とす前に、理科としての大きな目標と教科としての規準の枠をつくることを提案しました。大きな枠があると、各科目の単元内容に応じたぶれの少ない規準がつくりやすくなります。ぶれの少ない規準ができることで、具体的な評価方法・基準も明確になっていくと思います。また、すべての項目をきちんと埋めることにこだわりすぎると、全体のバランスがおかしくなったり、教科間のずれが大きくなったりすることもよくあります。ある程度項目を埋めた段階で一度離れて見ることも大切です。中間段階で互いに見合って意見を聞くようなことも必要だと思います。次回訪問時にまた相談させていただきたいと思います。 英語科からは、主観性の高い評価の評価者による差をどうするかについて相談を受けました。一つの対応例として、客観性の高い評価(知識・技能など)と主観性の高い評価(表現、主体性など)を2つの軸として一人ひとりの評価をプロットして見ることを提案しました。相関性が低い個人をピックアップして、その子どもの評価の根拠を英語科全体で確認し合うことで客観性が保障できるようになっていくと思います。 情報科は新学習指導要領のキーワードをしっかりと整理し、授業の具体的なイメージがかなり固まっていました。情報IIのデータサイエンスに関しては単に表計算ソフトなどを使って情報の分析作業を行うのではなく、身近な問題解決のためにどのようなデータを「集めて」、「分析し」、「活用する」のかといったトータルのデザインを意識した授業設計を行うことをお願いしました。 評価についてはペーパー試験ではなく、授業での活動を重視することをアドバイスしました。プログラミングなどの活動も、完成した結果ではなく、未完成なものを完成にしていく過程をきちんと記録することが大切です。未完成の物を動かしてみたのであれば、その時点のプログラムを保存し、どのように考えて修正したかを記録して、Before Afterを比較できるようにするとよいでしょう。記録をもとに振り返ることでメタ認知が働きますので、そういった振返りを評価に活用するとよいと思います。 商業科は1年生で履修するビジネス基礎について相談しました。広く浅く学習する科目なので、ともすると知識を教えるだけになりやすいように思います。新学習指導要領のねらいを意識した、例えばテーマにもとづいた課題(○○のお店を経営しようといったもの)を解決する過程でいろいろな知識を得ていくような、授業構成を考えるようにお願いしました。 子どもたちがこの後に学ぶ商業科目に興味を持ったり必要性に気づいたりするようなものになるとよいと思います。 体育は選択制をとっていて、履修する種目が子どもによってまちまちです。評価者が多いので評価の根拠となる資料をきちんと共有することが大切になります。主体的に学びに取り組む態度の評価を単純に点数化するという意見もあるようですが国語科の所で述べたように、これには反対です。また、体育の場合には種目によって得意不得意があるのでそのことが主体的に取り組む態度に影響するのではないかという心配もあり、一年を通じてばらつきが出るので評価、評定をつけるのが難しいという悩みもありました。ただ、希望選択制をとっているので、その影響は選択制でない場合と比べて少ないと思われます。大変な作業になりますが、根拠資料をもとに共通の項目や視点にそって評価を調整することをしてほしいと思います。 調整力に関しては、苦手な種目だからこそ働きやすいという見方もできます。粘り強い取り組みについても、苦手だからこそ見られやすい可能性もあります。この点については、実際に1年間運用して修正するしかないかもしれません。 芸術については、子ども同士のかかわり合いを大切にしたいと考えているが、自分の作品作りに没頭したい子どももいるので、どうしていくとよいか悩んでいるようでした。子どもたちに自分の取り組みや工夫を振り返り、文章や写真などで記録させることが大切です。口頭でかかわることだけにこだわらず、こういった振り返りを共有することでもかかわらせることはできることをお伝えしました。 家庭科は課題を工夫して、子どもたちが考える授業を目指しています。子どもたちは、互いの個性や多様性を認め合う雰囲気ができていて、男女関係なく課題に積極的に取り組む姿が見られます。先生からは新学習指導要領の表現力に関連して、自分の考えを上手く表現できない子どもをどうしていくとよいのか相談を受けました。理由を問いかけて言葉を引き出し、考えを深めようとするのですが最後には詰まってしまうことが多いようです。「理由は?」と聞くと答えにくいので、「どういうこと?」と答えやすい聞き方をすることや、「○○さんの考え説明してくれる?」と本人の代わりに友だちに説明させるといった方法もあることをお話ししました。また、先生に向かって話すのではなく、友だちの方を向かせ、聞いている子どもにはうなずくといった反応を求めることで、聞いてもらっているという安心感をつくることも、子どもの言葉を引き出すのに有効です。子どもたちのよさを上手く引き出すことで、表現活動を豊かにしてほしいと思います。 学校全体の課題として、評価の透明性・アカウンタビリティを意識した、評価のもととなる資料が自然に溜まっていく仕組みを構築することがあげられます。共通の仕組みとすることで、教科担当者が意識しなくても、子どもたちが無理なく自然に資料を貯めていけるはずです。また、これからは今まで以上に、責任を持って評価の根拠を説明できることが求められることを、先生方全員が意識できるように働きかけることが必要であることもお伝えしました。 空き時間に学校全体の授業の様子を見てきました。 先生方の授業は、「ICTを積極的に活用し子どもに考えを出力させ、それを共有するようなもの」、「ICTを活用しているが、授業者も子どももiPadの画面を見続けている、従来型の授業を対面でオンライン化しているもの」、「黒板に板書をしながら説明し、子どもたちはひたすら板書を写す従来型の授業(講師に多い)」の大きく3つのパターンに分かれていました。新型コロナウイルス対応もあり、ICT活用の比率は高くなっていますが、活用の仕方はかなり差があります。ICT活用に慣れてくることで、新しい使い方にも挑戦できると思います。先生方の授業スタイルについては、現状を過渡期ととらえ、どのような授業が可能か、目指せるのかを学校全体で共有することを通じて、底上げを図っていければと思っています。 印象的だったのが、1年生の特別進学の学級でした。どの学級も、子どもたちが積極的にかかわりながら、しっかりと学習に取り組んでいました。ソーシャルディスタンスを守りながらも、額を寄せ合っている姿をたくさん見ることができました。高校進学を期に新しい授業スタイルを定着させることができてきているようです。 今後の新型コロナウイルスの感染状況によってはオンライン授業へ移行しなければならない可能性があるため、2学期早々にICT活用の研修が行われました。多くの講師の先生が積極的に参加されたそうです。機会があれば学びたいという先生がたくさんいることは心強いことです。こういった研修を続けることで、先生方の授業スタイルも変化していくことが期待できます。必要があれば、こういった研修のお手伝いをすることもお約束してきました。 うれしい報告をたくさん聞く
私立の中学校高等学校で先生方の報告・相談を受けてきました。
英語の若手は自分の学級や授業で子どもたちの雰囲気が硬いことについての相談でした。私も前回訪問時に学習規律はとてもよい反面、同様のことを感じ、今回そのことについてお話しようと思っていたのですが、自分でちゃんと気づいていました。学習規律がしっかりとできていると、多くの先生はそれで満足してしまいます。しかし、そこに留まらずに、課題に気づいて解決しようとする姿勢は立派です。子どもたちをしっかりと見ているからこそ気づけるのだと思います。この先生が短い期間に急激に成長をしている理由がわかります。 子どもたちに判断させる、委ねる場面をつくることを意識することをアドバイスしました。具体的には今までスモールステップで指示して活動させていたことを、活動のゴールだけを示して、そこに到達する方法は自分たちで考えさせるといったやり方です。ポイントは、全く白紙の状態で活動させるのではなく、これまでの活動を思い出して参考にさせることで、どのようにすればよいか考えやすくすることです。これまでの経験をもとに、少しずつ子どもたちが主体的に判断する領域を増やしてあげるのです。 また、子どもたちの雰囲気を柔らかくするためには、自信を持たせることも大切です。小さな進歩を見つけて認めることが重要になりますが、そのためには、子どもたちをしっかりと観察するだけでなく、進歩を見つける、認めるための活動を組み込むことが大切になります。例えば、英語の音読であれば、練習をiPadに録音しておいて、最初と最後を比べてみることで、自分でも進歩がはっきりと認識できるはずです。 前向きな先生ですので、私のちょっとしたヒントで自分なりのやり方を見つけてくれると思います。次回どのような進化をしているかとても楽しみです。 進路担当の先生からは、OBからのうれしい報告がたくさんあったことを聞かせていただきました。高校時代に学んだレポートの書き方など、この学校で新たに取り入れた学習内容が、大学でとても役に立っているという報告です。大学の先生からとてもほめられて、自信をつけているようです。在学中は意識していなかったこの学校での学びのよさを、大学に入ってから気づいたようでした。従来の大学受験対策のような授業を求める子どもたちが少なからずいたことに悩んでいた先生も、こういった子どもたちの声を聞くにつれ手ごたえを感じ自信をつけてきているようです。これからの子どもたちにつけたい力は何かを意識して授業を変えてきたことが、よい結果を生み出し始めているように思います。OBからの報告をビデオレターなどで、在校生に伝えてほしいと思います。 指定校推薦の選抜方法も新しいやり方に変えようとしています。従来の学習の評定や部活動の成績だけでなく、大学が志願者に求めている要件を明確にし、それにふさわしい子どもを選考しようというのです。具体的には、志望理由や希望校のアドミッションポリシーに自分が相応しいというアピール文章、プレゼン動画といった、AO入試に求められるものと同様のレベルものを提出させ、それらをもとに総合判断するというものです。こういった改革に抵抗を示す先生もいると思いますが、大学と志望者のマッチングが上手くいくことで、今後指定校推薦の枠も広がっていくことが期待できます。推薦の選考方法を変えることで、子どもたちの新たな能力や側面が見えてくると思います。子どもたちの姿で先生方の意識を変えていけると思います。 次年度以降、新たなプロジェクト型の外部プログラムの導入も検討されているようです。外部プログラムの導入時に注意すべきは、外部に任せっきりにしてしまわないことです。自分たちも積極的にかかわり、学校の実情に合わせて内容や進め方を調整することが必要です。外部を使うからといって楽になるわけではありません。このことをお伝えしました。 中学校担当の新人の先生から、以前のアドバイス後の報告を受けました。 前回、漫然と机間指導するのではなく、子どもをよく見て必要な支援をすることをアドバイスしました。それからは、机間指導をやめ、全体を見て、困っている子どもを見つけるようにしているそうです、困っている子どもに対し、自分が教えるのではなくまわりの友だちに聞くように働きかけた結果、子どもたちが自然にまわりと相談するようになったようです。 また、以前は教師主導のため、どの学級でも同じ授業展開だったのが、子どもの意見が出やすくなり、それを活かすことで学級ごとに異なる展開が見られるようになったそうです。子どもを見る、子どもの意見を大切にすることで先生も子どもも授業が楽しくなってきたようです。 今回、試験問題をどうつくればよいかに悩んでいるという相談を受けました。授業の内容と試験問題がうまく連動しないようです。着けたい力と問題の関係を意識することが大切です。この単元でどんな力をつけたいか、その力が着いたかどうかを評価するにはどんな問題であればよいのかをしっかりと考える必要があります。単元に入る前に、どんな試験をするのかを先に考えるのも一つの方法です。また、試験を意識しすぎると一問一答形式の授業や板書になりやすくなります。これが正解だと先生が示さずに、自分たちで納得する答を見つけるような授業にすることもアドバイスしました。子どもの発言はできるだけそのまま板書し、発言の共通な部分や根拠をつないで、子どもたちがブラッシュアップしていくように進めることで、考えが深まっていくと思います。 素直にアドバイスを受け止める先生で、先輩からもしっかり学ぼうとしています。これからも着実に進歩していくと思います。 何人かの先生とは評価についての話になりました。来年度より高等学校でも観点別評価が取り入れられます。中学校では今年度より、全教科共通の3観点の評価になり、特に「主体的に学習に取り組む態度」についての評価に関しては、いろいろとご苦労されているようでした。毎時間の振り返りを大切にすると共に、単元ごとの区切りなどで、これまでの振り返りを振り返ってみることで、 自身の変化や成長に気づかせる場面をつくるとよいでしょう。子どものメタ認知を働かせるためにも、振り返りを整理して見られるようにすることが大切です。一人一台のiPadを活かす方法を工夫してほしいと思います。 学校全体として新しい学習観、学力観をもとにしたカリキュラムの作成が意識されています。これまでの試みの成果も見え始めています。その一方で、前向きに変化に対応しようとする先生と、これまでの学習観、学力観に固執している先生との意識の差が広がりつつあるようにも見えます。よい方向に変わりつつある子どもの姿を共有することで、このギャップは埋まっていくのではないかと思います。子どもたちの姿から、これからの時代を生きるために必要な力は何かを、先生方感じ取ってくれることを願っています。 |
|