3年間の取り組みの成果に感激

私立の中学校高等学校で先生方と懇談してきました。

話題になったのは先日行われた大学入試共通テストでした。正式な平均点はまだわかりませんが、お話した先生方の評価は事前に言われていたよりも易しいというものでした。私もすべての教科の問題を解いたわけではありませんが、求められる知識の量が減って、その分論理的な思考力を求めていると感じました。プレテストと比べてずいぶん練られていたように思います。
生物の試験では私のようにその方面の知識が全くない者でも、問題文を読んで考えれば正解ができるものがかなりありました。また、数学の確率の問題では現実にどのように利用されるのかを問題を通じて受験生に語っているように感じられました。物理のダイヤモンドの輝きを屈折から考える問題も数学の問題と同様、日常の事象と物理の関連を伝えるものでした。英語では易しい文章で資料と関連づけたりするものや友人とのSNSを題材にして、日常で使える英語を意識しているようでした。ただ量が多く、英文を日本語に直すことなくそのまま読み進める力が必要だと思いました。一語一語ていねいに日本語に訳すような学習をしていた受験生は苦労したかもしれません。
懇談した先生方は、自分たちが今進めている、知識の伝達中心ではなく、言語活動や思考の過程を重視する授業は間違ってなかった、お墨付きを得たと感じていました。共通テストが、従来の知識中心の講義型の授業を続けたいと思っている先生方に変わってもらえるきっかけになると期待します。共通テストを各教科で分析し、教科を越えた小グループで聞き合い考える研修を提案させていただきました。かつて文部科学省の幹部が、高等学校の授業は大学入試を変えなければ変わらないと言っていたことを思い出します。今回のテストからは高等学校にこのようなテストに対応できる授業をして下さいというメッセージを感じます。ある先生の「このテストをどう評価するかでその先生の授業観がわかる」という言葉が印象的でした。次年度以降、共通テストがこの路線で進化していくことを期待したいと思います。

進路担当の先生から、この3年間の特別進学のコースでの新しい試みの結果を報告していただきました。
子どもたちの成長のエビデンスとして、1年生の時に書いた「学ぶとはどういうことか」をテーマにした短い文章を読んで「自分の考える学び」について書いた文章と、3年生の今、同じテーマで書いた文章を並べたものを見せていただきました。どの子どもも3年間の進歩が歴然です。結論を最初に書き、続いて具体例を書くといった文章の構成の型がしっかり身についているのがわかります。構成は基本の型に従っていても内容は多様で、一人ひとりの考え方や個性がしっかりと感じられるものです。先生方に同じテーマで書かせても、今の彼らを凌駕するようなものを書ける方は少ないのではないかと思えるほどです。文章の形式を身につけるだけでなく、しっかりと考える力を育てていると感じました。全員の先生に彼らの文章を読んでいただきたいと思いました。従来の学力観で評価される力では、高校生の時の先生方に及ばないかもしれませんが、彼らがこれだけの力を秘めていたことに気づいてほしいのです。先生方が彼らの可能性に気づいてどう育てるか考えてほしいと思います。
国語や英語の授業で書かせることを続けたのが、大いに役立ったようです。まずは文章の内容ではなく型を徹底させました。内容よりも構成の型を指導し、その上でどのようにして自分の考えを整理し文章にまとめていくのかという方法を教えたそうです。また、テーマを工夫し、いろいろな課題に取り組ませることで、子どもたちが多様な考え持ちしっかりと表現できる力を身につけることができたようです。「自分も高校時代にこのような授業を受けたかった」という先生の言葉が印象的でした。

英語の授業でのプレゼンテーションの動画をいくつか見せていただきました。しゃべることはスライドに書かない、引用元は必ず書くといった基本的な型は、書くことと同様にしっかり押さえられています。どのスライドも図や写真を上手く使ってとてもわかりやすいものです。基本の型はあってもどれも個性的なものでした。しかし、何よりどの子どもも楽しそうにプレゼンテーションしていることが印象的でした。いきなり本番ではなく、何度も中間発表をして、タブレットでアルタイムに友だちからの意見を聞きブラッシュアップをすることを繰り返したそうです。友だちの意見を取り入れることで発表の質が上がる、自分の意見が友だちに取り入れられ素晴らしいものになる、こういった経験をすることで互いに自己有用感が増します。その結果、発表することも、発表を見ることも、どちらも楽しくなっていたのです。
先生は型を教えて、できていないところをダメ出しすることに徹し続けたそうです。ダメ出しは子どもがネガティブになりやすいため、あまりよい方法には思えないかもしれません。しかし、どうすればよいのかが改善の方向が明確で、友だちの助けもあればブラッシュアップできます。そして、進歩したことが評価されるのであれば、子どもたちはやる気を出します。子どもがくじけなければ適度なストレスはプラスになることもあるのです。実際子どもたちは粘り強く取り組む力が育っているようです。「どうせダメでしょうけど」と言いながらもダメ出しをしてもらいに来るそうです。こういった3年間の経験が子どもたちの自信になっているようです。試験の点が取れるといったものではなく、今その課題の答を持っていなくても、その課題に向かって取り組めばきっと解決できるという自信なのです。これは素晴らしい成果だと思います。

進路指導の取り組みで1、2年生に進路の決まった3年生のビデオメッセージを届けているそうです。映像関係の仕事をアメリカでしたいという夢を実現するためにアメリカの田舎の大学へ進学を決めた話をする子どもや授業以外での活動からたくさんのことを学んだ経験を話す子ども、どの子どもからも伝えたいことが体からあふれているように感じました。この学校で学んで本当によかったと思っていることが伝わります。取り組んだ先生方は、一部の先生からの批判も受けながら3年間試行錯誤を続けたようですが、この子どもたちの姿をみれば、そんな苦労も吹き飛んだのではないでしょうか。
先生にも子どもにも一人一台のタブレットがあることで、こういった子どもたちの発表や作品が手軽に共有できる環境が実現できています。他のコースの先生方にもこの子どもたちの姿を見ていただく機会を作ることをお願いしました。
このコースでの取り組みをもとに新しいコースをつくる計画もあります。実現することを願っています。

英語の若手の先生と懇談しました。今回の共通テストを見て自分たちの方向性は間違っていなかったと自信を持つと同時に、先輩方のように新しいことになかなか挑戦できないことを悩んでいました。子どもたちにどう育ってほしいかをしっかりと持っている先生です。そのため、いつも子どもたちをしっかりと見ています。目指す姿がはっきりして子どもたちを見ていれば、上手くいっていないことやその原因に気づけます。思いついたことを気軽に試してみて、上手くいかないと思えばやり方を変えていけばよいのです。子どもたちと一緒に成長すればよいと伝えました。
この先生に限らず、若手で意欲的な先生が増えているように思います。彼らの意欲とやる気、そして若手らしい悩みをまわりがしっかりと受け止めて成長を助けてほしいと思います。

中学校の選考の適性試験について意見交換しました。言語能力と論理的思考力を見ようとするものです。やや難しい問題もありましたが、今回の共通テストに通じる、読解力や思考力を問う良問が多かったように思います。子どもたちにとって興味が湧きそうなダーツや身近な自動販売機などを題材にしていることから、課題に積極的に取り組んでもらいたいという思いを感じました。入学して来る子どもたちに、「学校が君たちにつけたい力はこのようなものだよ」というメッセージを送っているようでした。
出題者の先生方はこの作問にかなりの時間を割いているようです。これ以外にも多くの仕事を抱えている方たちなので、こういったオリジナルの新傾向の問題をつくる負担はかなりのものだと思います。意欲のある若手も育っていますので、思い切って彼らに出題の一部を担当させてはどうかと提案しました。出題の方針や目指すものを事前にしっかりと打ち合わせをして任せることで、これまで出題を担当していた先生方の負担はかなり減るのではないかと思います。もちろん問題の検討や修正に時間は取られるでしょうが、その作業を通じて若手にこれからの学校が目指すべきところは何かを伝えることにもつながると思います。学校力の底上げにつながっていくはずです。第一線で学校を回している先生方が、次世代に仕事をつなげていくことを考えるフェイズに入ってきています。来年度以降の人事は、このことを意識したものにする必要あると思います。
私がかかわらせていただいているこの7年間で学校が大きく変わっています。変化を恐れず新しいことに挑戦し続ける姿勢は公立の学校でも学んでほしいことです。これからの変化がますます楽しみです。
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