3年生の変化に驚く

中学校で授業アドバイスを行いました。前回訪問は新型コロナウイルス感染予防の休校が明けた直後でした。今回はその時と比べて子どもたちにどのような変化があるのか楽しみでした。

3年生は教室の前の廊下に立った瞬間に空気の違いを感じました。間違って他の学年のフロアに来てしまったのかと思うほどです。全員が真剣に授業に集中していて、程よい緊張感が漂います。これは程度の差こそあれ3年生のどの学級でも共通です。この数か月で何があったのかとても気になります。学年全体で進路意識を高める取り組みを積極的に行ったことがよい方向に作用したようです。例えば、今年はオープンスクールが開かれないため高校の情報が子どもたちに不足するので、学年の先生方が進路指導部と相談して「卒業生の話を聞く会」を8月に開催したそうです。身近な先輩の生の声は子どもたちの進路意識を高めるのによい影響を与えたようです。また。部活動の大会が自粛、縮小されたこともあり、例年よりも受験に向かって気持ちを切り替えるのが早まったようです。新型コロナウイルスが思わぬ形で影響しています。
この学年では授業を見ると学習についていくのが苦しい子どもがだれかよくわかったのですが、この日は気づけませんでした。どの子どもも前向きに学習に取り組もうとしているようです。受験に向かって気持ちが切り替わったのはよいのですが、だからといってすぐに学習の後れを取り戻せるわけではありません。彼らが授業についていけているのか少し不安です。先生の話を聞いて答や板書を写しているだけでは理解できずに、そのうち気持ちが折れてしまう心配があります。担任を中心にこういった子どもたちをよく観察し、必要に応じて個別に困りごとを聞く時間をとって精神的に支えることも必要だと思います。
例年以上にこのことを懸念する理由が、この日の授業の様子です。授業者の一方的な説明が多いのです。子どもたちが真剣に聞く姿勢をみせているので、授業者はついしゃべりすぎてしまいます。また、新型コロナウイルスの影響で、進度が遅れ気味な上に子ども同士をかかわらせることが難しくなっているので、答や解き方を教えることが中心になり、思考の過程や考えを共有する場面がほとんどありません。先生の説明を聞けば誰しもが内容を理解できるわけではありません。自分で考え、わからないことを友だちに聞き、友だちの言葉から理解する場面が必要です。この学年の子どもたちはそういった場面をつくればよい表情でかかわり合うことができます。先生との関係も良好です。今子どもたちが学習に対して前向きだからこそ、彼らを信じ、自分でできることは彼ら自身で学習するように仕向け、授業の中で考え、かかわり合い、出力する時間を確保し、子どもの言葉で授業を進めるようにしてほしいと思います。
今年度は行事が廃止、縮小されることが多かったようですが、このことも子どもたちの意識が学習に切り替わるのが早まった要因と言えそうです。その一方で、先生方は3年生が学校のリーダーとして活躍する場面がほとんどなく、そういった面での成長があまりないことを気にされていました。少ない機会をとらえて意識させるようにはしているようですが、なかなか難しいようです。私からは、「学校のリーダーとして後輩たちに何を残したいか?何をすべきか?」と問いかけて、子どもたちに自分たちがしたいこと、すべきことを考えさせる場面を作ることをお願いしました。受験勉強という個のことに追われて孤立し、孤独になる子どもも出てくるでしょう。他者とのかかわりで自己有用感を持てる場面が必要になります。子どもたちの残り半年の中学生生活が充実したものになるよう、先生方が力を合わせてくれることと信じています。

この日の2年生は授業に対するエネルギーが低いように感じました。たまたまこの日、生活指導面で学年全体が注意されたことが影響しているのかもしれません。先生方の授業スタイルは3年生と大きく異なりませんが、子どもたちの表情がほとんど動いていないのが気になりました。子どもたちに発言を求め、その発言について子どもたちの考えを問うような場面ではとてもよい表情を見せてくれますが、発言を受けてすぐに授業者が説明を始める時には表情は動きません。この学年でも子ども同士をかかわらせることを意識することが必要だと感じました。この状況は子どもたちの問題ではなく、先生側の問題だと思います。

1年生の社会科で授業研究が行われました。中国の経済発展の理由を考える授業でした。
ワークシートの地域ごとの農業の地図資料から特色を読み取ることをさせます。特色といった言葉は基本的に先生の言葉です。子どもたちの言葉になっていればよいのですが、まだ1年生です。特色とは何か、どのようなことを調べたり考えたりすればよいのかといったことを確認する必要があります。過去に特色を調べたり考えたりしたことがあればそれを思い出させたり、その時のまとめを振り返らせるとよいでしょう。見通しを持たせることが必要です。スクリーンには教科書のどのページの内容であるかも示されているので、子どもによっては資料を読み取るのではなく、教科書に書かれていることを抜き出したりしています。自分で読み取り、考えることを大切にするのであれば、教科書の該当箇所を指摘する必要はありません。
個人で考えることにかなりの時間を割きますが、子どもたちはとりあえず自分の答を書けばそこで手を止めてしまいます。多くの子どもにとって時間がムダになっています。考えを深める場面を意識する必要があります。授業者は、全体での発表で指名した子どもが「農業が盛ん」と答えると、そこから地域によって違うという視点を誘導しました。どう違うかを問いかけて挙手した子どもをすぐに指名します。地域という視点を持てなかった子どもは、そのことを自分で考える機会はありません。ここで一度考える時間を与えたいところです。個人で活動をする前に特色とはどういうことかを押さえたり、途中で止めてどんなことに目をつけたかを全体で共有して再度個人で考えさせたりすれば、時間のムダなくより多くの子どもが自分で資料を読み取ることができるはずです。
また、子どもの考えや答を聞く場面で、授業者の意図にそぐわないものや誤答を無視する場面が目につきました。授業者に聞いたところ他の学級でそれらを拾ったところ授業のテンポが悪くなったので無視したようです。しかし、このようなことが続くと子どもの発言意欲が落ちたり、自分で考えた答ではなく先生の求める答探しをしたりするようになります。テンポが悪くなると感じるのは、授業者が自分の考えた流れに誘導しようとしているのでそれと関係ない答はじゃまだからです。子どもの発言から授業をつくる発想を持ってほしいと思います。
授業の課題は、必要な知識を与える活動をして、それをもとに授業者が提示します。これでは子どもの課題にはなりません。必然的に授業者が求める答探しになります。また、子どもの発言は授業者の求めるものだけが取り上げられてまとめられていくので、自分で考えなくても困りません。子どもたちが受け身になることが心配です。
授業者は課題に対して必要な知識は与えなければいけないと意識しすぎているようです。この視点はもちろん大切ですが、むだなく知識を与えると授業者が考える答に誘導するだけになってしまいます。大切なのは課題を解決するのにどのような知識や資料が必要かを考えさせることです。子どもたちが疑問を持てば、解決したくなります。解決するためにどうすればよいかを考えることから活動を始めるのです。一人一台のPC環境が来年度より実現されます。この環境を活かすためにもこういった発想がこれからはより重要になってきます。
授業者は素直に他者の話を聞くことができる方です。今回の授業をきっかけに、授業はどうあるべきかを考えてくれると期待します。

生活指導担当の先生から、校則について相談されました。時代の変化に合わせて校則を変えることを考えているようです。よい姿勢だと思います。子どもと教師、保護者の調整をどうするかを悩んでいるようです。ICT環境が整備されアンケートの作成集計が容易になってきました。これからはICT環境を活かした活動をプロデュースする視点も大切になってきます。子どもたち自身の手で、保護者や先生も対象にした意識調査を行い、原案を考えさせるとよいのではないかとアドバイスしました。データをもとに考えるという、これからの時代に必要な課題解決力にもつながっていきます。

いろいろな学校を訪問するたびに、新しい時代に向けて学校が変わらざる得なくなっていることを実感します。先生方と一緒にこれからの学校のあり方について考える機会を得ていることに感謝します。次回の訪問も楽しみです。

夏休み明けの子どもたちの様子から考える

私立の中学校高等学校で授業を参観しました。新型コロナウイルス対策で休校していた間もオンラインで授業時間を確保できていたので、夏休みは例年通りでした。長い夏休み明けで子どもたちの様子の変化が気になりましたが、よくも悪くも大きな変化は見られませんでした。

中学校では、子どもたちは元気に授業に参加していました。ICT機器も積極的に使っている授業が多く見られます。気になるのは授業での子どもたちの活動の様子が学級や授業者によってかなり差があるということです。コロナの影響を意識して、座席を動かしたりせずに進めている方もいれば、自由に席を立って話をするのを容認している方もいます。前者ではどうしても子ども同士のかかわりが減る傾向にありますし、後者では新型コロナウイルスが気になる子どもが孤立したり、仲のよい子同士の小グループに学級が分断されたりします。前回訪問時に子どもたちが小集団化しているのではないかと気になっていた学級ではその傾向が強くなっているように感じました。
授業の進め方や活動のやり方を規定したり限定したりするのは勧めませんが、何を目指して子ども同士をかかわらせるのか、そしてそれにふさわしい活動はどうあるべきかを学校や学年全体で話し合い共有することが必要だと思います。

高校ではコースごとに様子は少し異なっていました。
一般のコースの1年生は、夏休み前と大きく変わっていません。落ち着いてはいるのですが学習に対するエネルギーが乏しいように感じます。先生の指示には素直に従い作業しますが、基本的に受け身です。授業中に表情が動く場面がとても少ないように思いました。授業アンケートの回答を見ても、テストで点を取れるのをよい授業と評価している子どもが多く、消費者的な意識が強いようです。ワークシートの穴を埋めることがよい点につながると考え、先生の話を聞くよりもワークシートを完成させることを優先している子どもが多いように見えます。中学校時代の学習観がそのまま授業態度に反映しているようです。子どもたちの主体性を引き出すためには、出力を求め、その出力を肯定的に評価することが必要です。iPadを使い調べ活動をさせても、どうやって調べたか、その結果どう考えたかといったことを問いかけることをせず、そのまま授業者が説明をして進めていることが多いようです。活動しても評価される場面がなく、活動しなくても困りません。これでは主体的に活動する意欲をどんどん失くしていきます。子どもたちが活動し、考えたことが授業に反映されることが大切です。このことを学年の先生方で共通理解すると同時に、子どもたちにも学ぶことの意味や意義を繰り返し伝えるようにしてほしいと思います。
2年生も昨年と比べて学習意欲が低下しているように感じます。友だちとかかわり合う場面ではよい表情を見せてくれますが、そういった場面が新型コロナウイルスの影響で少なくなっていることが問題です。直接話し合うことにこだわらずに、iPadを活用した文字や絵によるコミュニケーションも積極的に取り入れてほしいと思います。
3年生は入試の推薦の基礎資料になる最後の試験が終わったためか、授業に集中していない子どもが目立ちました。入試という目先のことではなく、将来のことを見据えて学び続けてほしいのですが、それは簡単なことではありません。学校全体で学ぶことの意味を伝え続けることが大切ですし、それを体感できる授業設計も必要です。大きな課題として先生方に意識してほしいと思います。

幅広いキャリアを志向するコースの2、3年生では、新型コロナウイルスの影響で子ども同士のかかわりが制限されていることで、昨年と比べていろいろな場面でエネルギーが下がっているように思いました。グループでの活動ができる環境では、今まで同様の姿を見ることもできるのですが、それでも新型コロナウイルスに対しての不安からか一部の子どもは積極的に参加できていないように感じます。参加できている子どもとそうでない子どもが分断されているように感じました。先生方はこういったことを考慮しながら、かかわる場面を作ろうと苦労されていますが、ソーシャルディスタンスのこともありなかなかよい方法が見つからないのが現状です。iPad上で使える共有ツールで子ども同士をかかわらせることを提案しましが、子どもたちにとって書くことへのハードルが高いことを心配されていました。問題は何を書く、出力するかということです。「書く」のは「答」「正解」「きちんとした文章」という思い込みが子どもたちにあります。それが、書くことへの抵抗になっているように思います。まずは、この考えに「○」か「×」といった判断を書かせる。「○○がわからん」といった疑問や困ったことを書かせる。単純に「?」といった記号だけでもよいので、出力させることが大切です。「△△さんがわからないって言っている。いいねえ」と出力を肯定的に評価することを繰り返していくことで書くことに前向きになっていくと思います。書くようになれば、友だちの書いたことに下線や印をつけて、「参考になった」「ありがとう」「いいね」とコメントすることでかかわりをもたせ、そのやり取りを肯定的に評価するとよいでしょう。こうすることで、書くことでもコミュニケーションがとれるようになっていきます。こういう時代だからこそ、新たなコミュニケーションの方法を模索することが必要だと思います。
1年生では、たまたま学級編成の関係でそうなったのかもしれませんが、3つの学級の状況がかなり異なっていました。ある学級は子どもたちのよい表情がよく見られ、例年ほどではありませんが、子どもたちの前向きなエネルギーを感じました。別の学級は、落ち着いてはいますが、受け身で授業を受けている子どもが目立ちました。もう一つの学級は、集中して話を聞いている子ども、顔が上がらない子ども、授業と関係なくまわりとかかわっている子どもと子どもたちの姿がばらばらでした。先生と子どもたちの関係ができる前に一部の子ども同士の関係が強くなっているように思いました。まずは先生と子どもたちの関係をしっかりつくり、その上で子ども同士のかかわりを学級全体に広げていくことをしないと、今後の学級経営が困難になるような気がします。

特別進学のコースでは子どもたちは前向きに授業に取り組んでいました。ただ、教科によっては昨年度までの考える時間が多い授業から、講義型に変わったために一部の子どもたちが戸惑っている姿をみる場面がありました。
その一方で、3年生の難民問題について深く調べて、自分の考えを書かせる授業では、子どもたちの素敵な姿を見ることができました。特定の地域の難民問題だけでなく、各地で起こっているもの、過去のこと、すべてをきちんと理解してから取り組むようにという条件を与えられて活動を始めたところでした。どこから手をつけてよいか困っているのか、子どもたちは厳しい表情で真剣にiPadに向かって取り組んでいます。途中で集中力が切れて投げ出すのではないかと心配になりましたが、最後まで集中力は切れませんでした。1年生からこういった負荷のある課題に取り組み続けているので、ストレス耐性が高くなっているようです。鍛えることで子どもたちが育つというよい例を見せていただきました。最終的にどのようなものが出力されるのか楽しみです。
このコースでは、考える授業に肯定的な層と、受験的な問題の解き方や知識を求める層に子どもたちが分かれているようです。後者の中には、友だちにバカにされたくないといった理由で偏差値の高い大学に入ることが目的となっている子どももいるようです。そのことを全面的に否定はできませんが、学ぶことや進学することの意味を問い直すことが必要だと思います。入学時から進路やキャリアについて考える機会を多く持つことが求められると思います。

進路に関しては、受験に必要な自己推薦文を書く力が育っていないことが課題となっていました。コースによっては各教科で意識して書かせることをしているので、それなりに書くことができるようになっているようです。外部での論文発表を経験している子どもなどはかなりレベルの高い文章を書くことができます。他の子どももそういった子どもに教わったり、書いたもの見せてもらったりして学んでいます。学級数が少なくかかわる先生がまとまりやすいので、協力し合いながら教科横断的に書く指導がされているようです。
一方、学級数の多いコースでは、学年全体でまとまることが難しく、計画的に指導されていないので受験が近づいてからの付け焼刃の対応になります。何度も指導する時間がないので、先生が大幅に手を入れることで何とか完成させることもあるようです。自己推薦文であれば、自分自身の経験や身に付けた物をきちんと意識することや文章力が必要です。1年時からポートフォリオを作り、書く経験を繰り返すことが求められます。このことは、単なる受験対策ではなく将来にわたって成長し続けるために必要になってくることです。学校全体で計画的に取り組んでほしいと思います。

先生方は新型コロナウイルス対策でどうしても一方的に教える授業になりがちです。そのせいで子どもたちも依然と比べて受け身になっているようです。しかし、新型コロナウイルスの対策が必要な今だからこそ挑戦できること、すべきことがあると思います。「新型コロナウイルスのおかげで、ICT機器など必要ないという先生がいなくなった。大きな一歩を踏み出せた」という発言もありました。負の側面ばかり見るのではなく、新たな授業スキームを作る機会だと思って、前向きに授業改善に取り組んでほしいと思います。
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