先生方が3つのグループに分かれた

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は全体の様子の確認と、先生方からの相談を受けました。

この日も高校1年生と他の学年との違いを感じました。1年生は板書を写したり、作業をしたりしていると、先生がしゃべっていても手は動き続けています。一方他の学年では、手を止めて先生の話を聞こうとする姿が見られます。授業に対する参加度が違います。今は先生がしゃべっている時間を多いのでこの違いが顕著です。一緒に参観している先生から、冗談半分で「教師が1時間の授業でしゃべる時間を20分ほどに制限なくちゃ」という声も聞こえてきました。今時、20分でも長いかもしれませんが…。

中学校の社会科の授業について報告と相談を受けました。
気候の学習で、今までは資料集の雨温図をもとに学習していましたが、今回は子どもたちに理科年表をもとに表計算ソフトを使って雨温図を作らせてみたそうです。すると、今まで以上に雨温図を理解し、特徴を捉えることができたそうです。資料を作るということはこれからの時代に必要な力です。これからの時代は、「どんな資料があればよい?」から、「どんな資料を作ろう?」へと一歩先に進んだ活動が必要になると思いました。
今回の課題は、旅行者に対していつどこへ行くとよいのか、レイアウトも工夫して立派な提案書を作ろうというものでした。資料を探してそれを元に何かを作るという課題は友だちとかかわれないと苦しくなる子どもが多いようです。3密対策で友だちとかかわりにくいので、互いの作業をネット上でリアルタイムに見えるようにすることや、どのような資料を使った、それはどうやって見つけたかといった過程を共有シートに書き込むことで、困った時に参考にできるようにするとよいでしょう。どの教科でもそうですが、結論を共有するのではなく、その過程を共有することを意識することが大切です。子どもたちに失敗や間違いを含めて、自分の活動の過程を残していくことを習慣づけてほしいと思います。
登校ができない子どもに対して、課題等の授業の内容をネットで伝えるようにしているそうです。友だちの学習の過程を、先ほど述べたように共有できるようにしておけば、家庭からでもそれを見ることで授業に参加するのと近い状況をつくることができると思います。ぜひ検討してほしいと思います。また、登校できない子どもに対して知識的なことを整理したプリントを配ろうとすると、他の子どもがそれを欲しがるがどうしたものかと相談されました。子どもたちは正解や結果に価値があると思っているのでそのように思うのです。ふだんの授業でも解答や結論はさっさと配って、その根拠を考えることに価値を置くようにするとよいと思います。根拠や過程を結論より大切にすることを学校全体で意識してほしいと思います。

この1週間の公開授業で感じたことに、子どもたちの笑顔が減っていることがありました。先生方の余裕がないため、子どもたちを認める場面やほめる量が減っていることがその原因のように感じました。どんな時でも笑顔を絶やさないように意識してほしいと思います。

新型コロナウイルスによる休校が明けて先生方は3つのグループに分かれているように思います。

・休校中はICTを活用したが、対面の授業が始まってまた以前と同じ授業に戻った。
・3密対策のため子ども同士がかかわる活動が制限され、今までやれていた授業ができずに困っている。
・以前からICTを活用していたので、3密になってもそれほど困らずに自分のやりたい授業ができている。

大切なのは、どの先生がよいと比べることではなく、情報を交換しあって互いの授業改善につなげていくことです。危機感を持った先生を中心にまずこの状況を共有することになりました。私から全体にお話しする時間は取れないので、気づいたことをレポートにまとめさせていただきました。学校全体で課題を共有する一助になればと思います。

WITHコロナの時代の授業のあり方について考えるよい機会になった1週間でした。

課題意識を持って授業に取り組む

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は前回気になった中学校の様子を中心に参観し、また希望の先生方からの相談にも答えました。

中学校は前回ある先生に子どもたちのかかわり方や授業規律について指摘しましたが、中学校全体でそのことを意識して授業に取り組んでいるようでした。中学校は規模が小さいこともあり、先生方のコミュニケーションがよいことがわかります。
授業規律がしっかりしていても、子どもたちに過度に守ることを意識させているように感じる学級がありました。子どもたちの笑顔が少ないように思います。やわらかい空気の中で授業規律が保たれることが理想です。子どもたちのよい行動をほめることで授業規律を保つことを意識してほしいと思います。
中学校では日ごろから子どもたちの発言を大切にし、考えをつなごうとしている先生が多いのですが、この日は発言を授業者が受けて、説明したりまとめたりしている場面に多く出会いました。無意識のうちに授業を先に進めること優先しているようです。一人一台のiPadがあるのですから、発言させることにこだわらず、iPadで考えを書かせオンライン上で共有するといった進め方も視野に入れるとよいでしょう。こうすることで授業者は子どもたちの考えを把握しやすいので「○○さんの意見と△△さんの意見が似ているように思うけど、どう?」「□□さんはちょっと違う意見のようだけど、どういうことか聞かせてくれる?」とすぐにつなぐことができます。意見を発表させなくても子ども同士が互いの考え知ることができるので、「納得した考えある?」「質問や疑問ある?」と問いかけることもできます。これが最善というわけではありませんが、3密対策や時間を効率的に使うことを考えると一つの方法になると思います。

国語の先生から「子どもたちに文章を読み取る力をつけたいが一人ではなかなかできない。ワークシートに沿って穴埋めさせているが、これで力がつくのか自信がない」と相談されました。文章の構成にそって筆者の主張を読み取ることは簡単なことではありません。力をつけていくためのステップを意識することをアドバイスしました。最初はワークシートの項目に従って穴埋めすることでよいと思います。大切なのは、項目を指示ではなく文章の読み取りのポイントとして意識させることです。「接続詞に注目することで段落の関係がわかる」「結論、根拠、例示・・・のどれか意識する」「何度も出てくる言葉、言い換えている言葉はキーワード」といったワークシート上の作業をメタなものとして意識させるのです。このようなワークシートでの作業を経験させてから、今度は記入枠の項目や指示を省いたものに変えていきます。何を書けばよいのかを自分たちで考えさせ、どんな項目を書こうとしたか、何に注目したかといったことを互いに聞き合い、自分たちでゼロから読み取れるようにしていくのです。
また、子どもたちの力に差があるので、課題への取り掛かりが見つからずになかなか手がつかない子どもがいることも悩んでおられました。子どもたちに課題に取り組ませるとある程度区切りがつくまで時間を与えることが多いのですが、そうすると手のつかない、途中で止まったままで時間が過ぎていく子どもがどうしても増えます。個別対応も一つの方法ですが、限界があります。早い段階で、どこで困っているか、何がわからないかを全体で確認し、同じように困った子どもをつなぎながら、動けている子どもに「なにをやった?」「どこに注目した?」と解決に向かってどのようにしているかの過程を共有するのです。ある程度見通しが持てそうな状態になったら、また作業に戻ります。結論ではなく困ったこと、過程を共有することを大切にするようアドバイスしました。

数学担当の先生からは、「今までは子ども同士で教え合うことで、中位の子どもがわかるようになる場面が多かった。しかし、教え合うことがやりづらくなったので、iPadで解答を共有するようにしたのだが、直接教えてもらえないのでわからない子どもが増えてしまった」と相談を受けました。そこで上位の子どもを鍛えることをアドバイスしました。子どもたちは、式を順番に書いてその結果が正しければそれで満足します。そこで、「どういう方針で問題を解いたのか?」「式の変形は何をしているのか?」「なぜそうしたか?」といった、行間を埋めることを書くように求めるのです。それを見合い、よかったところをマーカーで塗り、「どこでわかった」「どこがわからない」「どの説明がよかった」といったコメントを書いたり、「いいね」スタンプを押したりして子ども同士で評価させるのです。こうすることで、オンライン上でコミュニケーションが生まれ、子ども同士で問題解決ができるようになりますし、上位の子どもも説明を書くことでより力がつき、友だちに評価されることで自己有用感も増します。授業をいろいろ工夫している先生ですので、これをヒントに自分なりの解決方法を見つけてくれると思います。

今回、課題意識を持って授業に取り組んでいる先生とたくさんお話しすることができました。先生方の今後の成長が楽しみです。

子どもたちのかかわりたい気持ちをどうする

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は前回見ることができなかった中学校を見ることと、先生方からの相談に答えることが中心でした。

中学校は、「友だちとかかわれることがうれしい」という休校明けの子どもたちの気持ちを強く感じました。高校生はそれなりに抑制が効いていたのですが、中学生はうれしい気持ちの方が強いようです。授業中にマスクを外して友だちとしゃべっている姿も目にします。マスクをしていても、前のめりで距離が近すぎる子どももいます。その一方で友だちとかかわることに不安を感じている子どもも一定数いるように思います。必要以上にかかわることを避けているように見えました。3密に関しては、適切な状態になるように授業者がもう少し意識してコントロールする必要があるように感じました。まずは安心安全な学級であることが基本です。
中学1年生は授業規律がまだ安定せず、小学校のままという感じがしました。出身小学校ごとに授業規律は異なりますので、中学校ではこうだよと、きちんと伝える必要があります。休校が続いたため授業を進めることをどうしても優先してしまうので、一度立ち止まって、まずは授業や学級の規律を身につけさせることを優先してほしいと思います。
中学校担当の先生にこの状況についてお話ししたところ、すぐに打ち合わせで検討したいと言っていただけました。素早い対応に感心しました。

高等学校では、前回同様に子どもたちが友だちとかかわりたいがかかわれないというストレスを感じている場面に出合いました。自分の考えを伝えたり、わからないことを聞いたりしたいのでしょう。まわりの子どもに視線を送るのですが声は出せません。iPadを使って意見や考えを共有することを積極的に行うことで、ストレスを減らすことができるのではないかと思います。

裁縫の授業で、子どもが個別にやり方の説明を授業者に求めている場面がありました。3密を意識して友だちに聞くことが憚られるので、直接授業者に教えてもらおうとしたのでしょうが、濃厚接触が気になります。実技では3密に関係なく、やり方の説明を細かく分けた動画を準備し、手元でいつでも見られるようにするとよいでしょう。自分のペースでわからないところを確認しながら進めることができます。一人一台の端末があたりまえになった時には、こういった環境を準備しておくことで自学ができるようになります。その代わりに、どのようにしてかかわりながら学ぶかが教室では重視されます。これからの授業のあり方を今から考え続けてほしいと思います。

英語のリスニング力をつけるためにどうすればよいのかという相談を受けました。ただ問題文を聞いて、質問の答えを選択し、正解を教えられても聞く力はつきません。聞けたことをまわりと確認してから聞き直し、少しずつでもよいので聞けたという実感を持たせるとよいでしょう。しかし、まわりと聞き合うことも現状では難しい状態です。話す代わりに聞けたことをオンライン上で共有する方法もありますが、リアルタイム性にはやや欠けます。相談者はいろいろと考え悩んでいるようでした。そこで、前回この学校の別の先生から教えていただいた、動画や音声のファイルをiPadに配布して家庭で繰り返して聞いておくというやり方を紹介しました。聞き取れたところ、よく聞き取れなかったところを事前にオンライン上で共有して授業に臨むことで、教室で再度聞く時にかなり聞き取れるようになると思います。よい実践を教科内で共有できていないことがもったいないと思いました。新型コロナウイルスの対策等で先生方の余裕がなくなっていることもその要因だと思います。今回の公開授業の参観者が例年と比べて少ないのも気になりました。先生方の余裕をつくるためにもICTをいろいろな場面で活かすことを考える必要があると思います。

公開授業でいろいろなことに気づく

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は新しく赴任した先生方を中心に同行していただき、子どもたちの様子を共有しました。

休校中はオンライン授業を中心に一人一台のiPadを学校全体で活用していました。学校再開後、どのように活用されているか楽しみにしていました。
衝撃的だったのが高校1年生の授業でした。iPadどころか、プロジェクターもほとんど利用されず、一方的に先生がしゃべって板書している授業がほとんどでした。子どもたちの机の上にはiPadが置かれることすらされておらず、ノートに板書を写す作業が続きます。子どもたちが考える場面はほとんどなく、授業規律も怪しい状態でした。授業者は早く授業を進めることを意識していたのか、「どうなる?」「どう思う?」と子どもに反応を求めても反応が返ってくるのを待たずにすぐに自分でしゃべり続けます。たとえ子どもから反応があっても、「そうだね」と言って自分で解説を始めます。反応するまで待ったり、他の子どもにつなげて考えを共有したりする姿勢がみられませんでした。
一方高校2、3年生ではiPadは多くの教室で普通に使われていました。ただその使い方にはかなりばらつきがありました。資料の提示や配布のツール、調べるツール、課題の結果を共有するツールと様々な活用が見られます。しかし、iPadを使いながらも教師が板書して手書きで写させる場面も多く見ました。

学校全体で授業の進め方と合わせてiPadの活用を整理する必要を感じました。
一つは板書とノートの関係をiPadの活用を意識して変えていくことです。
事前に予定している板書はスクリーンに映すかiPadで配信すれば十分です。手書きで写すことに時間をとるのではなく、集中して先生の話を聞くことに時間を割くべきです。板書は子どもたちの意見や考えをアクティブに整理するのに活用するとよいと思いますが、それも手書きで写すことにはあまり意味はありません。写真に撮らせれば十分でしょう。
一方手で写すことが意味のある場面は当然手を使わせるべきです。ただそれも、紙のノートにこだわる必要はないと思います。
漢文で返り点の練習のための例を板書している場面がありました。先生は黒板に○を縦に書いて返り点をつけたものをいくつも書いていきます。子どもたちは、上から順番に○を書きながら返り点が出てくるたびに○の横に写していきます。二が出てくればそれを書き、後から一を書いています。これならばそのまま配信すれば十分です。本来ならば、先に〇だけ写し、まずレ点、次に一二点を一から順番に、続いて上下点を上から順番にと、返り点の意味を意識しながら写させなければ手を使う意味がありません。先生は指示をしたのかもしれませんが、板書で黒板に向かっているので子どもたちの様子は見ていません。これでは時間の無駄です。子どもたちには〇だけ書いたものを配信してスクリーンに例を映し、それから写し方を指示して手で作業させれば、自然に返り点の規則が見えてくるはずです。先生は子どもの写す様子を観察していればよいのです。
この教材で子どもたちに何を活動させればよいかを考えることが大切です。ICT機器を活用するにしても、やはり教材研究が大切なのです。

もう一つは、子どもたちの考えを深めるためにどうするかです。
子どもたちがそれぞれの課題の結果をiPad上で見合うことだけでは考えは深まりません。それを元にグループや全体でその課程や根拠を聞き合う場面が必要です。今回の訪問ではその場面をほとんど見ることができませんでした。3密対策のため、子ども同士で話をさせたり、全体で意見を交流したりすることが憚られることもその要因でしょう。実際、以前から子どもたちをグループや全体の場面でかかわらせること重視していた先生からは、今回の3密対策で授業がとてもやりにくくなった、子どもたちはしゃべりたいのにしゃべれないフラストレーションがたまっているといった言葉が聞かれました。
考えを共有したり深めたりする方法は聞き合うだけではありません、ICTはそこにも活かせるはずです。ネット会議システムでグループを作り、子どもたちにイヤホンを使わせればグループで話すことも可能ですが、さすがにそこまでは難しいのなら、ネット上で考えを共有させる方法を工夫すればよいのです。課題の答や結果しか書かせていないのなら、それを共有して、そこに質問を書かせればよいのです。線を引いて「よくわからない」「どうして?」といったことを書かせて、それに答えさせるのです。課題の結果ではなく、その過程や根拠をiPad上に残させるようにすれば、やり取りはより活発になると思います。過程や根拠に「いいね」をつけあうことで自己有用感も高めることもできます。子どもたちに小グループや全体で自由に見合うことをさせ、先生はそのやり取りや書き込まれたものを全体で価値付けすればよいのです。

また、今回の休校をきっかけに、ICT機器をうまく使うことで、子どもたちが自分で学習できることがまだまだあることに気づいた方もいらっしゃいます。
英語を聞き質問の正解を選んで解答を教えられることを繰り返しても、リスニング力はつきません。何度も聞くことで聞く力がつくのですが、一斉授業の枠組みではそれも容易ではありません。CDを焼いて配り家庭で聞いてくるようにと指示しても、手間なためなかなか聞いてはくれません。今やCDプレイヤーがない家庭もけっこうあるということです。そこで、音声ファイルをiPad上で配信して聞いてくるようにと指示したところ、多くの子どもたちが積極的に取り組み事前に何度も聞いて授業に臨んだそうです。これならば手間がないので、やる気になるようです。ちょっとした手間が障害になっていたのです。やる気と手間のバランスが変わるだけで、子どもたちは学習に積極的に取り組むのです。

発表のスライドをネット上で共同作業させている先生もいらっしゃいました。しゃべることが制限されても、オンラインツールでそれに近い共同作業はできるのです。学校でも活用できるインフラが整ってきています。それを活用するだけでも障害は乗り越えることができるのです。

私がまだ気づいてないだけで、この学校でも多くの先生がいろいろな工夫をしていることと思います。そういった工夫を学校全体で共有する仕組みを作ることを担当の先生にはお願いしました。

新しく赴任された先生方には、子どもたちとのよい関係づくりと、認めることでつくる授業規律のつくり方を中心にお話ししました。子どもたちをしっかり見ることと子どもたちの状況に合わせて授業をつくることを意識してもらえればと思います。次の機会があれば、子どもたちに考えさせるためにどうするのかについて、詳しく話をしたいと思っています。

子どもたちの様子や先生方からの質問から、いろいろなことに気づけた有意義な1日でした。
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