学校再開後の授業アドバイス

中学校の授業アドバイスを行ってきました。学校が再開してちょうど2週間たった週明けでした。

全体的に気になったのが、速く進めたいという気持ちが先生方の授業に表れていることでした。意識はしていないのかもしれませんが、一方的な説明が多く以前と比べて早口であったり、指示の確認がなかったり、子どもが聞く姿勢を取れていないのにしゃべったりしています。説明が中心で進んでいる授業が多く見られました。どこの時間を削って、何に時間をかけるべきなのかを工夫することが大切です。
一部の先生を除いて、プロジェクターをあまり活用していません。先生が手で板書したことを子どもたちが写している場面を多く見ました。速く進めようという焦りか、子どもたちがまだ書き終っていないのに授業を進めていることもあります。子どもたちの発言や考えを書き留める板書ならよいのですが、あらかじめ決められた内容であればスライドで順番に示すだけで時間は大幅に節約できます。板書を写すのも、リアルタイムに手で写すことに意味がないのであれば、スライドを印刷したものを後から配ればよいのです。この授業で大切なことは何か、どんな力をつけたいのかを今まで以上にしっかりと押さえ、そのために必要な活動は何かを考え、ムダな時間を省く工夫が必要です。
また、教科書の内容を全部授業で扱わなければいけないという思い込みもなくすことが必要です。岐阜聖徳学園大学の玉置崇教授もおっしゃっていましたが、教科書は自学自習できるように配慮されています。子どもたちを信じて、思い切って委ねるという発想もあるのです。大切なのは、子どもたちに教科書を使って学ぶ方法を教えることと、その意欲を持たせることです。それは理想論で、家庭環境も含めて自学自習が困難子どももいるという声もあるでしょう。そういう方に私は声を大にして言いたいことがあります。「あなたの授業ではそういう子どもたちをちゃんと拾い上げて、学習内容を習得させているのか?」「教室にいて単に履修していることで良しとしているのではないか?」ということです。新型コロナウイルス出現以前でも、100%の習得は不可能です。100%でなくても今やれる工夫をし、自学自習が困難な子どもには、彼らに応じた工夫をすることが大切なのではないでしょうか。個別最適化という言葉が言われていますが、これもその一つだと思います。
教科によっては、単元そのものをカットするという発想もあると思います。教科を通じて子どもたちにつけたい力は、その単元でなくても他の単元でもつけることが可能なこともあります。例えば国語であれば、小説でつけたい力はすべての小説の教材を扱わなくても身につけることは可能だと思います。いずれにしても、今まで以上に教材研究が大切になっているということです。

先生方が手を抜いて工夫していないと非難しているのではありません。空き時間に教室の消毒をするといった、余分な仕事が増え余裕がないのです。そのことは、授業中の様子からもうかがえます。以前と比べて笑顔や子どもたちをほめる言葉が少なくなっているのです。子どもたちを受容する言葉も減っているように思いました。先生方の負担を減らすために消毒等のお手伝いをしてくれる方を手配していると聞くこともありますが、すべての地域というわけではありません。こんな時期だからこそ、先生方に少しでも授業に専念できる環境を整えてほしいと願うのは贅沢なことなのでしょうか?

プロジェクターを上手く活用し、スライドを学年担当の先生と共有している教科もありました。教材研究の時間を相対的に減らし、指導内容を共有するよい工夫です。この日の授業では、最後に子どもたちにまとめを書かせたのですが、それを上手く全体で共有する時間がありませんでした。このことについて授業者から相談がありました。子どもたちが板書を写すのに時間が取られていたので、先ほど述べたような板書のスライド化と配布の話をしました。まとめの共有については、先生用のタブレットを使って子どもたちの書いたものを撮ってスクリーンで共有する方法をお伝えしました。手軽さや解像度に問題があれば、先生方が持っているスマホの方が高機能で使い易いかもしれません。個人の物を使うのは本来お勧めできないのですが、ルールを変更しても使えるものは使うという発想も大切だと思います。
今まで比べて子どもたちに発言させる機会が減っています。書くことが相対的に増えていると思います。書いたものを共有する方法を工夫してほしいと思います。一人一台のPC環境が学校にやってくればこういった問題もかなり解決されると思いますが、その時を待つのではなく、今できることを工夫することで大切です。整備されてない環境でも挑戦することで何が大切か、また何があればよいのかを知ることができ、一人一台のPC時代の授業づくりに直結していきます。次のステップへとつながっていくのです。

各学年の様子はそれぞれに異なる課題を感じるものでした。
3年生は子どもたちの落ち着きがないように感じました。休校中に学習への取り組みに差ができていたのでしょうか、授業が情報過多になっていることもあり、先生の話を聞いているうちに集中力をなくす子どもが目立ちます。その一方で、個人作業になると友だちとかかわろうとする姿が目立ちました。グループ活動が難しく受け身の時間が多いことが子どもたちのエネルギーを下げることになっているように感じました。授業についていくのが苦しくなっている子どもだけでなく、部活動の大会がなくなり目標を失くしている子どももいます。こういう子どもたちをケアするためにも、先生が個々の子どもたちとかかわる時間をつくることが必要に思いました。
また、今回の新型コロナウイルスの影響で経済的な不安を感じている子どもも増えていると思います。進路指導面では、各高等学校独自の経済支援の情報などが子どもたちにわかりやすい形で提供できることをお願いしました。

2年生は、指示されたことややるべきと思っていることはきちんとやることができていました。逆に言えば、指示や作業の意味が不明確だったりすると、集中せずに授業に参加しません。先生の話を聞かずに、板書を写すだけといった学級も目にしました。学校が再開して2週間でこの状態というのは少し心配です。この学年の子どもたちは、消費者的な態度をとることがあります。先生によって態度を変えるようになる危険性があります。子どもたちに何が大事かを伝え、子どもたちのよい行動を価値付けすることをもう一度学年全体で取り組んでほしいと伝えました。

1年生は一見すると落ち着いて見えますが、学習規律がかなり危ない状態に見えました。もちろん席を立ったりすることはないのですが、先生や友だちの発言をきちんと聞いていないように見えます。顔をあげない子どもが目立ちますし、顔を上げていても先生や発言者を見ていない子どもがほとんどでした。先生方がこのことに気づいていないのか、気づいていても授業を進めることを優先してしまっているのかはわかりませんが、子どもが集中していないのに話し続けます。この状態を続けると学級のコントロールが効かなくなり、早晩荒れてくることが心配されます。子どもたちとの関係をきちんと構築し、中学校の学習規律を定着させることが必要です。まずは、どういったことが大切かを伝え、それができたことをきちんとほめることから始めてほしいと思います。叱ってできない子どもを減らすのではなく、ほめることでできる子どもを増やす発想で、学習規律を定着させてほしいと思います。

次回は9月に訪問しますが、子どもたちのよい姿をたくさん見られることを期待しています。

オンラインで学校と打ち合わせ

オンライン会議システムを使って、私立の中学校高等学校と打ち合わせを行いました。

自宅から遠距離にある学校(片道4時間以上かかる)なので、打ち合わせのためだけに出向くのは時間のムダが多いのですが、オンラインだと移動時間もなく、出席者の時間調整もやりやいので助かりました。打ち合わせは、主に新型コロナウイルス対応の休校から現在に至るまでの学校の様子を共有し、今後の研修をどのようにするかを中心に行いました。オンライン会議システムを使うことで、対面での打ち合わせとほとんど変わらないコミュニケーションがとれました。学校の研修についても、今後オンラインという選択肢が増えたことを実感しました。

この学校では、今年度から生徒一人一台のICT環境を中1と高1に導入します。校内のWiFi環境が整えば、他の学年もBYODを視野に入れた活用を考えるようです。現在のICT機器の活用は、教師の提示が中心ですが、今後クラウドサービスの活用が進むことが期待されます。とはいえ、具体的にどのように活用すればよいのかはまだよく見えていません。中高等学校では、教科色が強いため教科会にお任せになる部分も多いようです。この取り組みをどう学校全体で共有し深めていくかが課題です。
ICT環境の整備に関して事務職員の方が積極的に関わり、先生方の負担を軽減しようとしていることが印象的でした。私立ということもあるのでしょうが、組織としてうまく機能していると感じました。
公立の学校では、機器導入や活用サポート等も先生の仕事になっていることが多いようです。今後ICT環境が急速に整備されますが、先生方の仕事増、負担増につながることを危惧しています。教師が行うべき仕事とそうでないものとをきちんと仕訳して、必要な人員の予算をつけることが必要です。導入しても稼働しないという事態に多くの学校がなるのではないかと心配です。

今後の研修について、学校で方針をまとめていただいて、再度打ち合わせをする予定です。オンライン会議であれば、こまめに打ち合わせを行うことができるのも魅力です。
緊急事態宣言が解除された途端に会議や連絡のための出張が復活したと嘆いている方がたくさんいらっしゃいます。ほとんどの会議はオンラインで十分対応可能ですが、なぜか学校は対面へのこだわりが強いようです。対面のよさもありますが、トータルコストを意識すべきです。学校は時間がコストだという感覚が薄すぎるようです。これからは授業も対面とオンライン、オフラインの役割を考え最適化することが求められます。新型コロナウイルスへの対応が先生方の仕事のやり方を見直す機会になることを願っています。(なかなか学校の壁は厚く高いようですが…)

私学には公立と比べて新型コロナウイルスによる変化に素早く対応をしているところが多いようです。地方でも選ばれる私学となるためには、この対応力の差が大きな影響を与えることになります。これからの数年が正念場です。わたしもできるだけこの学校のお役に立てるよう頑張りたいと思います。

授業と学びコラムに投稿しました

授業と学び研究所」の「授業と学びコラム」に「学校を進化させましょう(大西)」を投稿しました。

学校が再開される中、先生方はこの事態に対応すべくいろいろな工夫して授業を行っています。早く以前のような授業ができるようになってほしいと願うのではなく、こういった工夫を共有して学校全体の進化へとつなげてほしいと思います。

是非お目通しください。

新学習指導要領の評価について研修

先日、休校中の私立の中学校高等学校でオンラインの研修を行ってきました。
テーマは「新学習指導要領の評価について」です。観点別評価、特に「主体的に学習に取り組む態度」について詳しくお話をしました。出入りがありましたが参加人数は延べ50名を越していました。自主参加にもかかわらず、多くの方に参加いただけました。

緊急事態宣言がまだ解除される前で、オンライン授業やクラウドを利用した課題のやり取りを先生方が学校や自宅から行って対応している時でした。研修をお願いされた時は、テーマはICTのオンライン活用や休校再開後の授業についてだと想像していましたが、お願いされたのは新学習指導要領の評価についてです。最初は意外に思ったのですが、休校への対応がある程度落ち着き余裕ができた今だからこそ、先を見て必要なことを研修しようという担当者の思いを聞き、なるほどと納得しました。学校再開後WITHコロナの学校運営を軌道に乗せるために忙しい日々を送ることになりますが、一歩先を見て次に備えることを忘れないでほしいと思います。

研修は、まず、新学習指導要領の目指すところ、「育成すべき資質・能力の3つの柱」と評価の観点についてお話し、3つの評価の観点で何が大切かについて考えていただきました。
「学びに向かう力人間性等」が大切だという意見がほとんどでしたが、いざそれをどう評価するのかというと皆さん困っている様子でした。
「学びに向かう力人間性等」は、観点別学習状況評価になじまない「感性、思いやり等」と観点別学習状況評価として見取れる「主体的に学習に取り組む態度」とに分かれること、前者は個人内評価として所見等を通じて伝えることを説明しました。今回は「主体的に学習に取り組む態度」の評価に的を絞り、中教審答申のキーワードを使って解説しました。特に、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」を身につけるための「学習に取り組む態度」「自らの学習を調整しようとする態度」の2軸で見ることと、そのため「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」が身についていなければ調整力を働かせているとみなされないことをポイントとしてお伝えしました。
日常的に指導や支援を行わずに評価することのないようにと中教審の資料等に示されていますが、実際に行うとなるとそれほど簡単ではありません。子ども自身が調整力を働かせるような仕組みとそれを教師が効率的に支援する仕組みが必要となります。そこで注目されるのが、ポートフォリオです。単に振り返りを記録するだけでは調整力は働きません。節目ごとにその記録をもう一度振り返り、自己評価し次のステップへと向かうようにすることが大切です。教師は日常の振り返りは特に気なる子どもを中心に、節目ごとの振り返りで全員を見るようにすることで効率的に指導支援を行うことができます。紙でもできないことはありませんが、デジタルであれば記録の集約と再構成がしやすいため、より効果的に活用できると思います。来年度に向けて準備するようお願いしました。

学校現場は新型コロナウイルス対応で手一杯と思いますが、新学習指導要領への対応も待ったなしです。酷なことを申し上げるようですが、新学習指導要領への対応もおろそかにならないようにお願いしたいと思います。

授業と学びコラムに投稿しました

授業と学び研究所」の「授業と学びコラム」に「保護者の声に耳を傾ける姿勢を見せましょう(大西)」を投稿しました。

学校が再開されると、学校の安全対策への疑問や不安・不満が起こってきます。それをキチンと受け止め、解消していくためには受け身ではなく、学校自らが保護者の声を聴こうとする必要があります。学校が信頼を得るためにも、学校が聞く耳を持っていることを伝える努力をしてほしいと思います。

是非お目通しください。

授業と学びコラムに投稿しました

授業と学び研究所」の「授業と学びコラム」に「子どもの姿で伝えよう(大西)」を投稿しました。

学校が再開に向かって動き始め、先生方は感染対策に追われていることと思います。子どもたちだけでなく、保護者にも学校の安全対策をしっかりと理解してもらうことを意識してほしいと思います。

是非お目通しください。

署名協力のお願い

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9月入学の動きが出ています。
9月入学の是非はともかく、拙速に移行することには強く反対します。

今大切なのは、日々の子どもたちの学びを支えることに全力を注ぐことです。
目の前にいる子どもたちの今をどうするかを第一に考えるべき時だと思います。

「9月入学、本当にいまですか?」にアクセスいただいて、この主張に賛同できる方にはぜひ署名をお願いしたいと思います。

授業と学びコラムに投稿しました

授業と学び研究所」の「授業と学びコラム」に「ピンチをチャンスに変えよう(大西)」を投稿しました。

新型コロナウイルスはとても苦しい状況を学校にもたらしました。この状況を少しでも良い方向に活かすことを考えてほしいと思います。

是非お目通しください。

すこし未来の学校を考えよう

学校に出かけて子どもたちの姿を見ることができなくなって、2か月以上経ちます。2か月前は、このような事態になるとは全く予想もしていませんでした。日常のありがたさは失くしたからこそ分かるものだと実感しました。学校が再開されても子ども同士が楽しそうにかかわる姿を見ることは当分できないかもしれません。当面は学校で見聞きしたことではなく、今私が考えていることをこのホームページと「授業と学びコラム」で発信していきたいと思います。

緊急事態宣言が延長されると同時に、この状態からの出口を意識した動きも目立ってきました。「新生活様式」といった言葉も生まれてきましたが、学校も以前に戻ろうとするのではなく、「新学校生活様式」に変わっていくことが必要だと思います。目先の新型コロナウイルスに対応した学校生活のみを考えるのではなく、その先を見通したものになることが大切です。新型コロナウイルス騒動の収束後は、元の学校生活に戻るだろう、戻そうではなく、さらに前に進んだ学校に変わっていることが求められるのだと思います。

国はGIGAスクール構想を前倒しにて今年度中に一人一台を実現しようといます。だからといって、その環境がない今オンライン授業などはすぐに実現できません。下手をすれば、環境整備が実現した時には新型コロナウイルス騒動は落ち着いて、オンライン授業の必要性はなくなっているかもしれません。だからこそ、目先の対応だけにとらわれず、これから起こる環境の変化を活かした真の「新学校生活様式」を考えることが大切です。

そのための第一歩は、ICTに関する研修の時間を取ることです。多くの先生が自宅待機をしている今だからこそ、あえてオンラインで研修を行うことに挑戦するのです。休校になってすぐにICT研修をオンラインで行った学校では、今までこの種の研修に前向きでなかった先生の多くが積極的に参加したそうです。変わらなければいけないという気持ちに先生方がなっている今がチャンスなのです。子どもたちが学校にいないので予定した授業研究の現職教育を延期や中止する学校も多くあります。子どもたちと違って先生一人に一台のPC環境はほぼ整備されています。自宅でのネットワーク接続を許可すればすぐにでもオンラインでの研修は可能になります。この非常時です。ネットワーク接続のルールを一時的に変更することは決して無理なことではないはずです。先生方がオンライン研修を受けてみることで、子どものたちと同じ視点で気づけることはたくさんあります。研修を通じて、子ども一人に一台のPC・タブレット環境での新しい授業の姿が見えてくると思います。

LMS(Learning Management System)を活用して課題提示、提出、チェック、返却を行うようになった学校の先生が、「学校が再開したらこれを活用しない手はない。事前に課題を与えた授業展開を含めどのように授業を変えていこうか」と考え始めたそうです。その一方でこんな話も聞きました。ある学校で休校中の非常勤講師の給与保障するための業務として、学校再開後ICTをどう授業に活用するかのレポートを書いていただくことをお願いしたそうです。すると、ICTの活用に対応はできないので退職させてくださいと申し出られて困ったというのです。極端な例ですが、新しい学校環境に前向きに対応するというのは、思った以上に敷居の高いことなのかもしれません。機器を扱える先生がいないことを理由にICTの活用に否定的な学校の話も聞きます。最初から扱える先生はいません。まずはやってみることです。やってみると意外と使えたという言葉もよく聞きます。やってみて課題に気づき、それを何とかしようとみんなで相談することで、よりよいものとなっていくのです。

難しく考える必要はないと思います。最初から上手くいくはずはありません。失敗して当然です。失敗の先にある、少し未来の学校を創造することを楽しんでほしいと思います。

「授業と学びコラム」のご紹介

「授業と学び研究所」「授業と学びコラム」では、この事態だからこその「学校経営」「ICT活用」「子どもとのつながり方」「地域との連携」などについて、私を含め6名のフェローが発信しています。
是非一度訪問して見てください。

オンラインの活用を考える

私立の中学校高等学校の教科主任会に参加してきました。新型コロナウイルスの関係で学校が休校になっているため、他の学校の様子や今後の方向性について話し合いました。

この学校では生徒1人1台のiPadが既に導入されているので、生徒との連絡や課題のやり取りについては大きな混乱もなく行えています。新1年生に対しても年度当初の出校日にiPadを配布して基本的な使い方を教えることができたので、問題なく使えているようです。今回のことを機に多くの先生がICTの研修に参加し、先生方のリテラシーも向上しているようです。
課題を印刷して郵送している学校は論外としても、多くの学校でホームページやこの時期無料で使えるアプリを使って課題のやり取りが始まっています。YouTubeなどを活用して動画を配信したり、無料の教育動画のサイトを紹介したりといった取り組みも珍しくありません。これを機にBYODが一気に進む可能性もありますし、GIGAスクール構想も前倒しで実施されそうです。この学校の環境に優位性はそれほど長く続かないと思います。この機会に、1人1台の環境を活かした活用のノウハウをどれだけ貯めることができたかが問われると思います。双方向のやり取りが環境的に難しい学校がほとんどですが、この学校ではかなりのことができるはずです。双方向を意識した取り組みをお願いしました。

双方向と言うとオンラインの会議システムを使った授業を思い浮かべると思いますが、今までの授業をそのままオンラインで行おうとしても上手くはいきません。パソコンの画面越しに子どもの反応をつかむのは難しいので、先生方が大切にしている子どもの反応をもとに進める授業はそのままではできないのです。だからといって一方的に話をしても、聞く方の集中力は通常の授業以上に長くはもちません。オンライン授業は子どもも授業者も思った以上に疲れます。画面を常に注視しなければいけないので集中力を保つのが大変なのです。小刻みに休憩を入れたり、1単位の授業時間を短くしたりするなどが必要です。説明とグループ活動、個人作業を上手く組み合わせなければなりません。予めタイムスケジュールをきちんと組み立てて授業に臨むことが求められます。
通常の授業では共有の手段として全体やグループで話し合うことが多いですが、声ではなく会議システムやSNSなどのチャットを利用するのも効果的です。オンライン授業だけでなく通常の授業でも1人1台の端末を活かせる使い方です。

実際にオンライン授業をするのであれば、(先生が出校することが前提ですが)簡易スタジオをつくるとやりやすいこともお伝えしました。具体的には、黒板かホワイトボート、大型モニターかプロジェクターを準備します。このモニターは授業者が教材や生徒の意見などを提示するのに使います。会議システムのパソコンにはできるだけ高解像度のデジタルカメラをつなぎ、黒板の前に立った授業者を写します。授業者以外にカメラの操作をする人と会議システムを操作する人、都合3人1チームとなります。パソコンの前に座って授業するのはなかなかストレスが溜まるものですが、このやり方ですと授業者は通常と同じように黒板の前で授業に専念できるので、かなりやりやすくなります。
大画面で参加者全員の顔を映す(ギャラリーモード)と参加者一人ひとりの表情をかなり把握することができます。そこで、大型モニターかプロジェクターをもう1組用意して会議システムの画面を授業者の正面に映すと参加者の反応をもとに指名して進行することも可能になります。また、分配器を使うか別のパソコンを会議に参加させて、撮影している画面を授業者に見えるようにしておくと、より話しやすくなるでしょう。
指名する時に注意してほしいのは通常の授業と違って指名された子どもはマイクをオンにするなどの準備ですぐに発言することはできないことです。このタイムラグが授業のテンポを崩してしまうことがあります。内容によっては予め指名する順番を決めて伝えておくことも有効です。場面によっては、自由に意見を言えるように全員のマイクをオンにすることで、通常の授業のような雰囲気を作れます。
この程度のシステムであれば、学校にある機材を組み合わせることでそれほど苦労しなくても構築することができるはずです。とはいえ、双方向意識した授業にしようと思うと、どうしても参加人数は20人ほどが限界だと思います。逆に言えば少人数であればかなりのことができるということです。

実際に会議システムを使ってみて有効に感じたのはブレイクアウト(参加者をグループに分けてそのグループ内だけで会議をする)の機能です。実際の授業のように4人ずつのグループに分けて意見を聞き合うことをさせると活性度が上がります。会議に参加できる端末を別に用意することができれば、その端末を各グループに割り当てることで、グループごとの様子を見ることもできます。タブレット端末をグループ数並べることで、思った以上に効率的にグループの状況を把握できました。

オンラインの授業では振り返りが通常の授業以上に大切になります。子どもたちの困り感や達成感は画面からはなかなかつかめません。一行の振り返りでも、○△×といった記号でもよいので、毎回必ず振り返り行うようにしてほしいと思います。
自己管理が苦手な子どもも多いので、学習以外にも、どうやって過ごしたか、どんなことを考えたかといった毎日の振り返りを書き溜めて、一定の期間ごとに再度振り返ることも大切です。

子どもたちにとって友だちとかかわれないのは想像以上にストレスフルのようです。授業にこだわらずに、子どもたちがかかわりあえるような活動の時間をつくることも大切だと思います。オンライン会議システムを使って毎日同じ時間に互いの顔を見る時間をつくるだけでも、子どもたちを孤立させないためには有効だと思います。画面越しに一言ずつ近況を聞き合うことでもつながりを意識することができます。互いの振り返りを共有することも、子ども同士をつなぐのに有効です。友だちの振り返りから自分の生活を見直すこともできるでしょう。こういう時だからこそ、子どもを孤立させないためにできることは何かを考えることをお願いしました。

子どもがネット提出した課題に対して先生がコメントをつけているようでしたが、この作業をやり続けることは子どもも先生もかなりのエネルギーを必要とするようです。この状況が続くようであれば、課題を与えて提出するといったやり方に頼るのは限界がくることに先生方も気づき始めたようです。先生と子どもの1対1の関係で学習を進めるのではなく、子ども同士をかかわらせながら学習を進める方法を考えることをお願いしました。

そんな中、体育の課題のための動画を同じコースの先生方で制作している現場に出合いました。ダンスの課題を先生が踊りながら伝えるのですが、校長にも特別主演させるなど、子どもたちを楽しませて課題を伝えると同時に、「学校が君たちの居場所だよ」「先生は君たちのそばにいるよ」というメッセージになっているように思いました。何より先生方の楽しそうな姿が印象的でした。先生方の子どもたちとつながりたいという思いを感じました。

この学校では、先生方を3つの班に分けて出校するようにしています。そのため、学年や教科の先生が顔を合わせて相談する時間を取ることができません。GWまでに一度はオンライン会議で教科会を行うようにお願いしました。自分たちがまず経験することで、その可能性や課題に気づくことができると思います。その上で、教科、学年で一度はオンライン授業に挑戦してほしいと思います。実施にあたっては必ずチームで行うことをお願いしました。ノウハウを個人ではなく、学校全体で共有することが大切だからです。既にオンライン授業に取り組んでいる方も何人もいらっしゃいます。ふだんの授業では発言できない子どもが、オンラインでは自分の意見を書きこむことができたといった、オンライン授業のよさも見えてきたようです。課題も含めて校内に発信し共有することをお願いしました。

未曽有の事態が続きますが、だからこそ失敗を恐れず、今やれることに明るく取り組んでほしいと思います。この先には、きっと、今まで見たことがない新しい教育と子どもの姿が待っているはずです。それを見るのを楽しみにこの事態を乗り切ってほしいと思います。

新年度になりました

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