子どもとの関係の次のステップ

小学校の授業研究でアドバイスをしてきました。6年目の先生による2年生の算数の授業でした。

最初に感じたのは子どもたちの表情と授業規律のよさでした。子どもたちは指示に従って嬉しそうな表情ですばやく動きます。この状態をつくり出しているのは授業者と子どもたちの関係のよさでした。授業者は子どもたちに顔を上げるように指示した後、笑顔で「みんなと目があうとうれしいね」と一人ひとりと視線を合わせます。Iメッセージを使いながら、全員が指示に従うのを待っていました。こういった積み重ねが子どもたちとのよい関係につながっています。

この日の課題は連続した足し算を順番に足すか、増える数をまとめてから足すかというものでした。「10人の子どもが遊んでいるところに、2人来て、その後6人来て、全部で何人になったか」という問題文をディスプレイに映しながら子どもたちに読ませます。ディスプレイが天吊りなので、指示棒で画面を指すのに上を見る必要があります。とはいえ、授業者はディスプレイをずっと見ているのではなく、子どもたちの方を振り返っては様子を確認していました。子どもを見ようと意識しているのは立派でした。指示棒ではなくタブレットのマーカー機能を利用して手元で操作すると子どもたちの様子を無理なく見ることができると思います。

問題文を一度読んだ後、再度要素ごとに区切りながら読ませ、内容をていねいに確認しました。子どもたちはとても集中していました。
いろいろな考え方で解くように指示をして、ワークシートを配ります。ワークシートには考え方を書く1行と式を書く数行を1組にした枠がいくつか書かれています。授業者は、考え方は書けたら書くようにと指示しましたが、子どもたちは何を書けばよいのかよくわからないようでした。「考え方」というのは教師の言葉です。これまでに考え方を記述する経験を積んでいなければ、手がつかないと思います。考え方の行は空欄で、「10+2+6」「10+6+2」「2+6+10」と足す順番を「いろいろ」変えた式を書いているだけの子どもがほとんどでした。授業者のねらっている、順番に足すのか、まとめて足すのかを意識しているのか、3つを足せばよいと考えて、単に足す順番を入れ替えているのかはよくわかりません。
個人での活動に続いて隣同士で自分の考えを「数図ブロックを使って」説明するように指示します。子どもたちはここまでの活動で数図ブロックを使っていません。突然指示されてもすぐに対応できません。友だちの説明を聞くどころではなく、どうやって説明しようかと数図ブロックを前にあれこれ考えている子どもがほとんどでした。これまで数図ブロックを繰り上がりや繰り下がりの説明に使ったことを思い出したのか、式の説明ではなく、式の計算の方法を説明しようとしている子どもが目に付きました。

全体で考えを発表させる場面で、授業者は「自分の考えでも友だちの考えでもよいから」と自分の考えを持てなかった子どもも発表できるように意識していました。このことはとてもよいのですが、説明がしっかり聞き合えていないので、子どもたちの手はなかなか挙がりませんでした。
指名された子どもは、式は発表できるのですが、説明はうまく言葉にできません。授業者は式に出てくる数は何かと確認して、説明の言葉を引き出そうとするのですが、ねらっている「順番に」とか「まとめて」といった言葉にはつながりません。数図ブロックを活かすのであれば、足し算ごとに数図ブロックを操作させ、足した結果が何かを言葉にさせるとよかったと思いまが、授業者は使おうとはしませんでした。指名した子どもが使おうとしななかったのであえて使わなかったのかもしれませんし、隣同士での説明でうまく使えていなかったのでやめたのかもしれません。しかし、子どもたちは数図ブロックを使ってどう説明すればよいのかわからなかったのですから、どう使うとよかったのかを知る場面を作ってあげないと、スッキリしないと思います。

「10+2+6」のように3つの数を一度に足す式を書く子どもが多かったのですが、足す順番が異なる式についてその違いを子どもたちはうまく説明できません。「10+2+6」が10+2に6を足しているのだという感覚は子どもたちにありません。3つを足したという意識しかないのです。そのため、授業者は「10+2+6」「2+6+10」の違いをうまく子どもから引き出すことができませんでした。「最初に『2+6』を計算したんだね」と押さえて、「これってどういうこと?」「何を計算したんだろう?」と子どもたちに問いかけ、全体で共有するとよかったと思います。友だちや先生の説明がよくわからなかったのでしょう。発言や説明を聞いているうちに子どもたちは集中力を失くしてしまいました。
最後は授業者が無理やり「じゅんばに」「まとめて」という言葉でまとめていきましたが、子どもたちは自分の考え方がどちらになるのかをちゃんと理解できていないようにみえました。2年生のこの時期ですから、考え方を言葉で上手く説明するのはまだ難しいものがあると思います。

教科書の絵はよくできています。もとから遊んでいる子どもの集団へ駆け寄ってくる2人と6人を上手く書き分け、増えた子どもは何人かわかりやすく表現しています。それに対して、最初の集団は10人全員をかき込んでいないので、全体では何人かの答はわからないようにしています。無理に数図ブロックを使うのではなく、この絵を使って説明させるとよかったと思います。
問題文の要素と絵の子どもをきちんと対応させてから考えさせ、式が絵の何を計算しているのかを説明させるようにします。「3つ数があるけど、どこから計算したの?」」と問い返して子どもから「最初に」「まず」といった言葉を引き出したり、「ここを『先に』計算したの?」と順番を意識する言葉を強調したりして子どもの考えを整理していくとよいでしょう。「2人来て、6人来た」と「来た」という言葉を意識させ、「2人と6人来た」と整理し、「8人来た」という言葉引き出してもよいでしょう。子どもと言葉をやりとりしながら、他の子どもにつなぎ、子どもたちの考えを整理していくのです。「10人が12人なって、18人になった」「8人増えて(来て)、10人が18人になった」といった言葉を引き出して「順番に人数を計算した」「何人増えたかを計算してから足した」と、少しずつ抽象化していくとよいでしょう。最後は、順番に「考える」、何人増えたかを「考える」とまとめていき、「考え方」とはどういうことを言うのかを子どもの感覚で理解させていくことが必要だと思います。

授業者は子どもとの関係や授業規律のつくり方といった学級経営や授業の基礎はしっかりとできています。その上で必要となる教材研究がまだ浅かったことが上手くいかなった原因です。教材研究の力は一気につくものではありません。毎日の授業で教材研究と修正を積み重ねることで、少しずつ身に付いてくるものです。この学級の子どもたちはわからなかったり困ったりすれば、素直に態度に現してくれます。前向きに授業を受けようとしているので、子どもたちの様子から授業のどこで上手くいかなくなったのかがよくわかります。あせらずに、子どもたちの姿を通じて学んでいってほしいと思います。

この学校の先生方は、「新学習指導要領の評価」や「ソーシャルディスタンスを意識した子ども同士のかかわらせ方」に困っているようでした。全体会では、この授業についての解説のほかに、「主体的に学習に取り組む態度」の評価におけるポートフォリオの活用や、発言以外の出力(書くこと、描くこと、体での表現等)で子ども同士をつなぐことをお話ししました。
次回の訪問時に先生方がどのような工夫をされるか楽しみです。
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